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「ひとりで聴くのに、ゆるくつながる」静かに音楽を楽しむサイレントフェスとは

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SILENT FES
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音楽イベントなのに、会場に静けさが漂う。みんなといるのに、ひとりで音楽に聴き入る。そんな一風変わった、新しい音楽の楽しみ方を追求するのが「サイレントフェス」だ。

そこに集った人たちは、ワイヤレスヘッドフォンを通じてDJブースから流れる音楽を「ひとり」で楽しむ。通常の音楽イベントでは味わえない体験が、参加者を静かに魅了している。

「音楽体験をもっと自由にしたい」。サイレントフェスの主催者として、イベントへの想いをそう語る「Ozone」の代表雨宮優さん(25)に、話を聞いた。

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インタビューに答える雨宮さん

■ヘッドフォン外せばすぐ日常に

「サイレントディスコ」は、来場客がそれぞれワイヤレスヘッドフォンを身に付け、そこに流れてくるDJが奏でる音楽を楽しむ。他の人と同じ音を聴きながら、自分で音量を調節し、ヘッドフォンを外せば音のない「サイレント」な空間が広がる。その魅力について、雨宮さんは次のように語る。

「普通のクラブやライブハウスは半強制的に音が聞こえてきたり、ロックフェスであれば、みんなで手を上げて同じ動きをしたりします。

もちろんそれはすごく楽しいし、全然否定するつもりはないのですが、サイレントフェスはヘッドフォンを外せば日常に戻れます。

音量も調節できるので、ひとつの音楽ライブという空間の中でも自分の自由が利く。感性にあった楽しみ方を選んでいけるというのがポイントかなと思います」

スピーカーを使わないため、野外開催で問題となる騒音トラブルも起きず、普段音楽を楽しめない場所でイベントを開くことができるのも特徴だ。

ヨーロッパ発祥と言われており、日本では、国内最大級の音楽イベント「サマーソニック」が2000年代から不定期に開催している。

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海外で開催されたサイレントディスコ

■「どんな空間でも自由を」

雨宮さんは日本で唯一のサイレントフェス専門のプロデュース事業を立ち上げた。始めたのは2015年2月ごろ。もともとは、学生のころから教育に関わっていたことから、感性を引き出すアフタースクールのような学校をつくりたいと考えていた。

ところが、「学校は固定化された概念がありすぎる。それより自由で豊かな感性でいられるのはフェスやライブハウスのような場所ではないか」。そう考えた雨宮さんは、次の教育の在り方を求めて、音楽とエンターテイメントの世界に飛び込んだ。

DJを始めたはいいが、会場のレンタル代が高く、パフォーマンスする場所がない。そんな時、ヨーロッパのメディアを見て、サイレントフェスのことを知った。場所を選ばないため、「自分のようにパフォーマンスがする場所がなくて困っている人にとって、より自由を保証する空間を作れそうだ」。

専用のヘッドフォンを購入し、会場代の要らない都内の公園で、初めてのサイレントフェスを開いた。当時を次のように振り返る。

「DJの目の前で音量を上げてみんなで踊る、いわゆるロックフェス的な楽しみ方をしている人、木の陰に隠れてこっそり踊っている人、BGMぐらいに音量を下げて友達と話しながら楽しんでいる人、外して適当に遊んでいる人もいました。

そういう自由はどんな空間でも保証されるべきで、感受と表現の距離が限りなく近いその空間に強い納得感を得ました」

■ひとりで来ても、ゆるいつながりがある

公園でのフェスが注目を集めたことから、屋外や飲食店さらには銭湯など、開催場所は広がった。機材レンタルを含めると、これまでに手掛けたイベントは50回を超える。

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海辺を会場に開催したサイレントフェス

参加者は主に25〜35歳ぐらいの女性。音楽やダンスミュージックは好きでも、クラブが怖かったりパーティーのノリは苦手だったりする人たちが、「他の普通のイベントだと踊れないけど、サイレントなら踊れると来てくれます」。

みんなと一緒に楽しむ雰囲気の強い通常の野外フェスに比べ、サイレントフェスはひとりで楽しむ要素が大きいため、ひとりで来る人も多い。

ひとりでヘッドフォンで聞いているのと何が違うのか--。よく聞かれるというこの質問にはこう答える。

「繋がっている感みたいのはあるんですよ。個別でヘッドフォンをつけているのに、なぜライブの空間が起こるのかというと、一種の信頼感みたいなのがあるんですね。

横の人が同じ音楽を聞いているのか分からないのにライブが起こるのは、信頼感が前提となっているからです。誰も意識していないけど、そうした空間で音楽を共有するというのは、大事なことだなと」

その場で仲良くなり、コミュニティーが生まれることもあるという。

■自分の世界に入り込んでいく気分に

サイレントフェスはなんとなく面白そうだが、いまいちよく分からない。そのわだかまりを解消するため、実際にイベントに参加した。

5月、横浜市内の「Ozone」のオフィスを訪ねた。この日のイベントは、サイレントフェスを暗闇で行う「ブラック・サイレントフェス」。マンションの一室が会場で、リビングにDJブースを設置し、電気を消して真っ暗にした一部屋がダンスフロアに様変わりした。

「ヘッドフォンで耳がふさがれながら、目も見えない状況で音楽はどのように機能していくのか」。ブラック・サイレントフェスにはそんなコンセプトが込められている。

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ヘッドフォンをつけるブラック・サイレントフェスの参加者

ヘッドフォンから洋楽のポップスやダンスミュージックが流れ、恐る恐る暗闇のダンスフロアに入った。音量をあげると、自分の世界に入り込んでいく気分になった。暗闇に慣れてくれば、真っ暗で他人の視線も気にならず、自然と身体が動いた。

ひとたびヘッドフォンを外せば、何も音が流れていないシュールな空間が広がっていた。

リビングにはお酒やスナックが用意され、参加者は休憩・談笑し、踊りたくなったらヘッドフォンをつけてまた部屋に戻る。自分の気分やペースに合わせた楽しみ方が、気軽に選べる。

自分の世界に没頭できる一方で、同じ音を聞いているというつながりや、参加者同士の交流もイベントの重要な要素だ。

10人ほどの客は、半数以上がひとりで参加。過去にもイベントに来た成瀬遼太郎さん(26)は、サイレントフェスの魅力についてこう語ってくれた。

「クラブはどこにいても音が聞こえてきますが、サイレントフェスは音を消したり、ヘッドフォンを外したりできます。音楽を聞くか聞かないか、自分で選択できます。ひとりで聴いているようで、つながっているのが良い」

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リビングのDJブース

私自身、誰かがいると気になって、100%楽しめないことがある。サイレントフェスは、ヘッドフォンを通じて自分の世界に没頭することで、そうした「遠慮」を取り除いてくれる。ブラック・サイレントフェスはさらに、‘見られていない安心感’から好きなように踊りやすい。

音楽イベントなのに、自分のタイミングでいつでも音から離れて、他の参加者と交流する機会もある。

みんなといるのにひとりになれて、ゆるくつながることできる。その自由さが参加者を惹きつけているのだろう。

サイレントフェスを通じて、人が当たり前に自由でいられる空間づくりを実現したいと語る雨宮さん。イベントへの反響について「シンポジウムとかワークショップみたいなアプローチだと、ここまでの広がりはなかったと思います。エンターテイメントの力を感じています」と語った。

■プロフィール 雨宮優(あめみや・ゆう)さん。

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合同会社「Ozone」の代表(https://mobile.twitter.com/amemi_c5)。横浜生まれ横浜育ち。学生時代にファシリテーターの資格を所得、マネジメントに関する独自のプログラムを開発し企業や学生団体の研修を行う。新卒で人材大手に入社後”現代の駆け込み寺”「リバ邸」を横浜に設立し約半年で退職、その後日本初の「サイレントフェス」プロデュース事業Silent itを開業する。エンターテイメントと教育の領域を行き来して大学やシンポジウムなどでも多数講演を行う。


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ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。

学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。

企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。

読者との双方向コミュニケーションを通して「ひとりを肯定する社会」について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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