オーケストラの指揮者とIT企業CTOの顔を持つ後藤正樹さん 二刀流で生みだすシンフォニー

2015年05月18日 00時05分 JST | 更新 2015年09月04日 16時56分 JST

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IT×金融の領域で注目されるZUU、そのCTOが後藤正樹さんだ。未踏スーパークリエータに認定されたエンジニアであり、同時にオーケストラのプロ指揮者でもある。二足のわらじを履くことで得られる好影響とは?マネジメントの共通項やポイントに迫った。

ITとオーケストラ、遠いものほど相互作用が大きくなる

― CTOとプロのオーケストラ指揮者...と、かなり異色の経歴ですよね。どのような道を歩まれてきたのか、改めて伺ってもよろしいでしょうか。

高校1年生の時から指揮の勉強をして、本当は指揮者になりたかったんですよ。ただ、勇気がなく、大学と大学院では物理学科に入りました。研究室の先輩だと今、スマートニュースで社長をやっている鈴木健さんがいたり、IT業界で活躍している方が多かったり。しかも、みんな未踏でスーパークリエータを取っているという研究室で。そこで僕自身もITに目覚めていったという感じですね。

― どのような経緯でオーケストラの指揮も並行するようになったのでしょうか?

じつは指揮者の道も諦めきれず、音大に通ったりもしていました。ベンチャーで働きながら指揮のレッスンは続けていましたし。「ピアノを相手に1人で指揮棒を振り続ける」という練習で、「これっていつ使えるんだろう」と思いつつ、30歳ぐらいまで約15年間やり続けました(笑)。

で、たまたま、アマチュアのオーケストラで指揮者が休むことになり、代わりに振らせてもらえることに。そこからですね、指揮の仕事が増えていったのは。同時に「未踏スーパークリエータでありながら指揮もできる」という変わった経歴、個性を気に入ってもらえて、プロオーケストラの指揮者になれました。そういう意味だと、もし指揮者一本でやっていたら僕は指揮者になれていなかったと思います。

ITと音楽、特にクラシックは分野としてすごく遠いじゃないですか。その遠い物が両方とも得意だから、認められたし、相互作用が生まれたと思っています。ジャンルとして遠ければ遠いほどいい。

だから僕自身、最終的にはITとクラシックで新しいことがやりたいですし、ZUUも「金融」と「IT」という遠かったものを近くするところが面白いんですよ。遠くにあるものを近くすることに僕は価値を見い出しているのかもしれません。

「オーケストラ」と「会社」は、ほとんど同じ

― 一見すると「オーケストラの指揮者」「企業のCTO」はまるで違う仕事のようにも感じるのですが、共通項はあるのでしょうか?

そうですね。オーケストラって、たとえば、楽器が80人で、合唱が40人いたとして、約120人を1人でマネジメントするわけなんですよね。その考え方は会社と全く同じだと思います。

特にプロのオーケストラの場合だと、我が強い人がいたりもします。音楽って自由で正解も不正解もないですよね。いろんなベクトルがある。それを放っておくとバラバラになって音楽になりません。そこで指揮者は「みんなが納得できる最大公約数的なもの」を見つけて、引っ張っていく。

初めてのプロオケで「こいつダメだ」と思われたら、もう二度と相手にされないんですよ。それは技術だけを見られるわけじゃない。「この人なら付いていってもいいかな」とパッと初対面から思われるような人間にならなきゃダメで。指揮者になって、こういうところはすごく訓練されました。もちろん技術で惹きつける人もいるし、最低限の技術はないとダメなんですけどね。

― そう言われると、「エンジニア」と「演奏者」の方って気質も似ている気がします。技術を突き詰める人たちを相手にするといいますか。

すごく似てますね。わかりやすくいうと音楽のオタクか、ITのオタクかという違いだけ。僕自身、音楽のオタクであり、ITのオタクだから、琴線がわかるのは強みだと思います。よく「クセのある人たちのマネジメントするのは大変そう」と言われたりもしますが、そんなに困ったり、コミュニケーションを大変だと思ったりしたことは無いです。それより、どうすれば素晴らしい音楽が生み出せるか、サービスが生み出せるか。ここと向き合っていくことのほうがよっぽど大事なのかな、と思いますね。

理想的な組織は、演奏者が「音楽そのもの」になること

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― 後藤さんが理想とするマネジメントのスタイルなどはあるのでしょうか?

全て指揮に置き換えた説明になってしまって恐縮ですが、いい音楽をつくるために、さまざまな指揮のタイプ、パターンを意識的に使い分けられることだと思っています。

指揮者のなかには、支配的で怒鳴りつける人もいれば、顔色を伺って調和を取るタイプがいたり。わざと場を混乱させる人、とにかくわかりやすく...みたいな人がいたり。

一見すると「わかりやすい指揮」って優れた指揮だと思われがちですが、そうでもないんですよ。たとえば、初めてのオケでも、何をしたいかわかるから、団員としては疲れなくてうれしいわけです。でも、「いい音楽をつくる」という意味では必ずしもいいやり方じゃない。むしろ、わかりやすいから、みんな指揮者の方向ばかり見てしまう弊害もある。

わざと何を振っているかわからないようにし、指揮者の方を見るのではなく、演奏者同士がお互いの音を聞き合うようにする指揮もある。たとえ嫌われ者になることで皆が団結するならそれはそれでいいわけです。

すごく抽象的な話ですけど、師匠からずっと言われ続けている言葉があって、「音楽を作るのではなく、コントロールするのでもなく、指揮者は音楽そのものにならなければいけない」と。

「この人を見てると、こうしたくなる」「体が勝手に動く」という感覚を生み出せるかどうか。「自発的に動け」と命令するのでもなく、当人たちも気がつかないまま、自発的な雰囲気が勝手にできていく。それって素晴らしい組織ですよね。たとえ、指揮者自身がその役割を担えなかったとしても、まわりに好影響を及ぼせる人に頼ってもいい。

圧倒的な演奏でみんなを引っ張るケースもあれば、演奏のレベルは高くなかったとしても、「音楽的な人」として雰囲気をつくり、みんなを引っ張るケースもある。僕の場合は完全に後者のタイプですね。

― 優れたものを生み出す組織は、ジャンルを超えて共通項が多いのだと感じることができました。また、マネジメントのスタイルも大きく影響していく。今回のインタビューは、指揮者を「CTO」に、音楽を「サービス」に、演奏者を「エンジニア」に、演奏を「プログラミング」に置き換えてみると"後藤さんが考える組織論"としても解釈できました。本日はありがとうございました!

[取材・文]白石 勝也

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