サイボウズ式:「仕事デキない人を採用しちゃったな」と思われる恐怖、ひとりぼっちの中途社員が自信を取り戻すまで

憧れの会社に入社できましたが、本来の自分をうまく出すことができず、孤独を感じる日々。 なんとか現状を打破したい――。
足立さん

転職に興味があっても、漠然とした不安があって踏み出せない――。「新しい会社のコミュニティに入っていけるか」「周りに馴染めるか」「仕事で認めてもらえるか」といった、人間関係にまつわる心配や懸念が大半なのではないでしょうか。

パートナー営業部の足立宜親は、新卒で商社に入社し、31歳のときにサイボウズに仲間入りしました。1回目の採用試験で落ちたものの、どうしてもサイボウズで働きたいとの熱意から、約1年後に挑戦した2回目(!)の採用試験で見事採用に。

憧れの会社に入社できましたが、本来の自分をうまく出すことができず、孤独を感じる日々。 なんとか現状を打破したい――。ある日、思いきって「寂しいんです」と、一見カッコ悪い自分をさらけ出したのが、ひとつのきっかけとなります。それから彼が始めたのが、中途入社組のコミュニティ作り。

その活動により見事、社員が投票する「サイボウズ・オブ・ザ・イヤー」において、MVPに選出されるまでに。そんな足立にサイボウズ式編集部の小原が取材し、入社前後からこれまでの軌跡を詳しく振り返ってもらいました。

2度挑戦してまで、サイボウズで働きたかった理由

小原:足立さんはサイボウズの採用試験を2回受けたんですよね。どうして2回も(笑)?

足立:20代のときから、「30歳の節目で転職して、2社目の会社で新しい経験を積もう」と、漠然としたキャリアプランを描いていたんです。

サイボウズが掲げるビジョン「チームワークあふれる社会を創る」に心から共感し、採用試験を受けました。

1回目は一次面接で落ちて、他の会社をいろいろ調べたものの、ぴんとこなくて、やっぱりどうしてもサイボウズに入りたい、という思いが捨てられなかったんです。

小原:ビジョンの他に、サイボウズのどういう点が、当時の足立さんに響いたんでしょう?

足立:家族がいる人も働きやすそうだな、と思ったんです。

小原:どういうことですか?

足立:それまで結婚や自分の転勤で、奥さんの人生を振り回してきたのを、なんとなく負い目に感じていました。

彼女は結婚と同時に東京から名古屋に引っ越し、同時に仕事を辞めて専業主婦になりました。それから派遣社員として働いていましたが、子供が3ヶ月のとき、僕が松山に転勤になって......。

小原:また仕事を辞めることになった、と。

足立:当時、奥さんは会社から、「派遣社員から準社員にならないか?」と声をかけてもらっていたみたいなんです。

でも、僕の転勤のせいで、その話は消えたわけです。彼女はやりたいことや夢を犠牲にして、僕についてきてくれているんじゃないか、だとしたら果たしてそれでいいのか、とモヤモヤするようになりました。

小原:奥さんは本音では、どう感じていたんでしょう。

足立:彼女に、「今なにか、夢とか目標ってある?」と聞いたら、「外国の人に日本語を教える先生になりたい。でも、それを叶えるのは60歳くらいになったときでいい」と言うんです。

小原:なんと...。

足立:だけど、僕は自分も好きな仕事に就きたいし、奥さんにも同じように、自分が好きな仕事をしてほしかった。お互いにやりたいことがあるなら、諦めずにやろうよというスタンスだったんです。

小原:そこで、サイボウズに入ればそれが叶うかも、と思ったんですね。

足立:「100人いたら100通りの働き方」を掲げるサイボウズなら、より柔軟な働き方ができそうだから、転勤で奥さんを振り回すこともなくなるかな、と考えました。

小原:そうだったんですね。今、奥さんはどうされてますか?

足立:僕がサイボウズで働くことが決まってから、試験勉強を始めて合格し、今は日本語学校で教師として働いています。

僕がサイボウズに入社したことで、夫婦ふたりとも夢を叶えたんです。

小原:すごい! ここまで聞くと、順風満帆でいい話のように見えますね。

足立:本題はここからです(笑)。

足立さん

足立 宜親(あだちなりちか)。パートナー営業部 第2グループ。2015年に前職のIT系商社からサイボウズに転職。入社以来、新規パートナー開拓やkintoneでのSIビジネス伸長といったエコシステムを広げる活動に従事。ディストリビューターも担当し、kintoneソリューションの流通にも挑戦。前職より一貫してパートナー営業を極める

憧れの会社に入れたのに、口数と自信が減り続けた

小原:2回目の採用試験を2015年10月に受けて、翌11月に内定が出ましたね。

入社したての頃はどんな気持ちで過ごしていたんですか?

足立:もちろん嬉しかったんですが、すごく憧れだっただけに自分には手が届かない会社だ、みたいな意識があって、はじめから「自分はここにいて良い存在なのかな」と自己否定に似た気持ちがありました。

東京で働くのも初めてだったこともあり、自信もなかったです。

小原:周りの人がすごく見えた、とか?

足立:すごい人が多いな、とは感じてましたね。そう思うに至ったきっかけは、全社に読まれるのが当たり前の日報文化です。

小原:確かにサイボウズでは、やったことよりも、何を考えていて、どんなことに悩んでいるのかを書いて、みんなに読んでもらったり、アドバイスをもらうことを前提とした日報を書いてますね。

足立:前職ではその日にしたことを淡々と残す日報で、人に見られることを前提に書くわけではなかったので。

小原:他の人の日報を読んで衝撃を受けた、と。

足立:新卒で入社したての若い子たちが、日に日に成長しているのを日報から感じ取って、けっこう焦りました。

当たり前ですが、社会経験のない新卒は、イチから丁寧に育ててもらえる。でも、中途は「即戦力」とみなされ、「入社したら力を発揮してね」の世界。

小原:冷たかったと...(笑)。

足立:もちろんわからないことは聞けば教えてもらえますし、先輩に同行して学ぶ機会もありますが、基本はOJTですよね。新入社員が先に製品を受注しているのを見て、ヤバい......と危機感を覚えました(笑)。

小原:最初から心が不安定な状態だったんですね。

足立:毎日モヤモヤしていました。見て学びながら、初めて行う業務も多く、何が正解なのかわからなくて、常に「これで合ってるのかな?」と不安に感じることばかり。

でも、それを誰にも打ち明けられなかったんです。

小原:どうしてですか?

足立さん:当時31歳、社会人9年目くらいの人間が、弱音を吐くのはどうかなと思いました。「こういうことで困っている」なんて、何が何でも言えない、と。

あれだけ憧れていた会社に入れたのに、周りから「使えない人間だな」「仕事デキない中途を採用しちゃったな」と思われるのが恐怖だったんです。

小原:周りからどう見られるかを気にしてしまったんですね。だから萎縮してしまって......。

足立:どんどん言葉が出なくなっていきました。今振り返ると、入社から一年、僕、何しゃべってたか、思い出せませんもん(笑)。

「早く家に帰って、奥さんとしゃべりたい」と切望してたのは記憶にあります(笑)。

小原:(笑)。でも、チームメンバーや自分の業務と密に関わる人たちとは、普通にコミュニケーションをとれていたんですよね?

足立:はい。そういう"自分と近い人たち"とは普通に話していましたが、少し離れた関係の人たちがいる場だと、「悪く思われたらどうしよう」「ダメなヤツだと思われたら困る」とか、とにかく人の目が気になってたまらなかったんです。

大勢が集まる会議でも、自分の素を全然出せなくて......。極端に言うと、皆が話している姿を、自分は枠の外側から見ているような感覚でした。

小原:あまり発言できなかった、ということですか?

足立:自信がなくなるのに比例するように、口数も減っていたので。前職だと会議中はおしゃべりなタイプだったんです。疑問や提案を思いついたら、すぐ口に出す人いるじゃないですか。まさにそういう、会議で発言が多く、わりと目立つ方だった。

でも、サイボウズに入ってからは、言葉が出てこなくなるわ、そもそも何も思いつかなくなるわで......。

小原:そんなに変わってしまったんですね。突然何か振られたときはどうしてました?

足立:とりあえず無難な発言をしていました。ただ、あのときは、自分の言葉でしゃべっている感じがしませんでした。

自信を取り戻して、「普通」に過ごしたい。なんとなく蚊帳の外にいる感覚があるけど、本当は内側に行きたい。サイボウズの一員になりたい――そんな風に理想と現実の埋まらないギャップに苦しんでました。

小原:前職では地域のトップセールスとして実績を出していた足立さんでも、転職して新しい世界に入って自信をなくされてしまったんですね。

「一年間、寂しかった」弱音をさらけ出したら、共感が集まった

小原:そんな状態が一年近く続いて。ターニングポイントはなんだったんですか。

足立:2016年2月、中途向けの研修が開かれて、2015年入社組が15人くらい集まったんです。

サイボウズの共通言語でもある「問題解決メソッド」を知ることが目的の研修だったので、こんなこと話してもいいのかなと躊躇いはありながらも、思いきって「僕、入社してから1年くらい、めちゃくちゃ寂しかったんです。これ、僕だけなんでしょうか。皆さんどうですか」と打ち明けました。

小原:皆の反応は?

足立:すごく共感されたことに、自分がびっくりしました。

まず、僕以外の中途メンバーも、会社に慣れたとしても、中途ならではの寂しさや、周りから「中途なのにデキないと思われたくない」みたいなプレッシャーを感じていて、皆自分と同じようなことで悩んでいたんだ、と知れたのは大きかったです。

小原:本音をぶつけてみないとわからなかったことですね。

足立:そこで皆と解決策を話していて、「1回お酒を飲んだ相手とは、自分が勝手に作っちゃってる"壁"を取っ払っていいんじゃないか」というアイデアを自分で出してみたんです。

自分で決めて、言葉に出したらなんだか気が楽になりました。

小原:その後、どういう活動を始めたんですか?

足立:最初は中途メンバー約10人でランチに行きました。でも、10人もいると全員とはなかなか話せない。

ただ、同じ中途という意味で気を許せることもあって、仕事の話以外もできたのは収穫でしたね。

小原:それを機にイベントをやるようになったんですか?

足立:はい。もう少しゆっくり話したかったですし、社内でイベントを開けば、お子さんがいるメンバーも参加しやすくなるかなと思ったんです。

そこで、人事が立ち上げてくれていた、中途入社した人が集められたkintoneのスペースである「中途入社ポータル」を活用して、コミュニケーションをとるようになりました。

中途入社ポータル

kintoneの中途入社ポータル

小原:中途だとスペースの使い方や作法に慣れていない人もいるから、コミュニティが活性化するまで時間がかかりそうですね。

足立:まさにその通りで、最初はスペースに何を書いていいか、僕もわからなかったです(笑)。

業務連絡くらいでしか使っていませんでしたが、誰かがそこに「ランチ行きましょう」みたいなことを書き込むようになってから、賑わい始めました。

小原:誰かが口火を切ると、そこからは早い。じわじわと盛り上がりを見せる空間になりますよね。

足立:全社員に公開されているので、徐々に中途メンバー以外の人もコメントするようになりました。

僕も積極的に使うようになり、社内の制度を使ってイベントを開催するようになったんです。

中途入社ポータル

中途入社ポータルでの中途会、開催報告の書き込み(1)

中途入社ポータル

中途入社ポータルでの中途会、開催報告の書き込み(2)

業務外でのプロジェクト成功が、仕事人生を好転させる結果に

小原:足立さんのサイボウズ人生を変えることになった、創業記念パーティーでの「中途芸(*1)」の話もお聞きしたいのですが。

*1 中途芸とは、サイボウズの創業記念日である8月8日付近で毎年開催される創業記念パーティーでの、有志による出し物。中途入社のメンバーが集まって芸をしたため、中途芸と呼ばれる。

足立:創業記念パーティーの出し物に立候補できると知り、スペースに、「中途芸、どうしましょう? 皆でやりたいんですが、案がある人は出してください」と思い切って書き込みました。

皆で取り組むことで全員が目立って、一人ひとりが各部署で存在感を出せると、仕事もやりやすくなるかな、という考えがありました。スペースでの会話とリアルのミーティングを積み重ねて、中途芸を作り込んでいきましたね。

中途芸発表

小原:多くの社員の前で中途芸を披露してみて、どんな変化がありましたか?

足立:今まで、変に気を使われているのか、イジってもらえないことでも、寂しさを感じていました。でも、皆の前に出ることで、盛り上げてもらえた

し、認めてもらえている実感を得ました。

小原:実は中途芸を準備している裏で、足立さんに対するドッキリ企画が進行中だったんですよね(笑)。

足立:僕の1年前くらいに入社したメンバーが仕掛けてくれました(笑)。「(ひとり)ぼっち撲滅運動を推進している足立くんという存在を全社に知ってもらおう」という企画を。

中途芸を披露した後、ドッキリ企画が展開されたのも、「自分はここ(サイボウズ)にいていいんだ」と思えましたし、サイボウズの一員になれたと感じる出来事になりました。

小原:ちょっとキツい質問かもしれませんが、許してください(笑)。社内で目立つことにためらいはなかったですか?

仕事では本領を発揮できてない......と葛藤があったなか、業務外で目立つことは気にならなかったのかな、と純粋に気になったので。

足立:攻撃力高い質問ですね(笑)。おこがましい言い方かもしれないですが、自分が「仕事ができる普通の精神状態」に戻れば、何かしらここで結果は出せる、と信じていました。

そのための土台作りとして、社内に居場所を作るのが先決だな、と考えたんです。しかも、誰かの企画に乗っかるんじゃなくて、自分主導で動いてやらないと、僕は変われないだろう、と。

小原:なるほど。

足立:そもそも、会議でろくに発言できないこと自体、自分でも意味がわからなかったんです。普通の状態、普通の自分を取り戻したら、前職で当たり前のようにしていたことができるようになるし、本来の自分をサイボウズでも出せる、と思っていました。

社内でひとつのことに懸命に取り組んで、成功体験を作って失われた自信を取り戻す――それが僕にとっての中途芸だったんです。

中途芸発表

盛り上がる中途芸の様子

小原:その結果の「サイボウズ・オブザイヤー」(*2)のMVP受賞ですね。

*2 サイボウズ社内の年間MVPを決めるイベント。社員が「ありがとう」を伝えたい人にコメント付きで投票し、一番多かった人が選ばれる仕組み。

足立:まさか自分が選ばれるとは、という感じでした。

ただ、表彰されたときは、「自分はサイボウズにいていいんだな」「僕に『ありがとう』と思ってくれた人がたくさんいるのか」という喜びがこみ上げてきました。

小原:自信を取り戻す大きなきっかけだったんじゃないでしょうか。

足立:入社からずっと、「どうしてこの人を採用しちゃったんだろう、と思われたくない」と萎縮して過ごしてきたのですが、表彰されたのを機にそのモヤモヤが完全に吹き飛びました。

小原:「居場所がない」「ひとりぼっち感があってつらい」から始まって、ついにはMVPをとって。

現在はどんな感じですか?

ピープル

MVP受賞の喜びとこれまでの思い出を書いた、足立さんのkintoneのピープル

足立:会議でも普通に発言できるようになって、自分からやりたい施策も提案できるようになり、だいぶ変わりました。

本来の自分でいられている、という思いがあります。居場所があって自信がつけば、仕事もうまく回っていくなぁと実感しています。

小原:仕事もかなりやりやすくなったんですね。

足立:自ら心を開いて、中途のコミュニティを作ったことで、相談しやすい人が増えて、わからないことを聞ける人ができたり、徐々に人脈が広がっていきました。

他部署の人ともつながって、そのおかげで仕事が広がったり、新しい企画を実行しやすくなったりと、得たものは大きいです。

小原:生き生きとコミュニティを盛り上げている足立さんの姿しか知らなかったので、当時そんなに悩んでいたとは知りませんでした。

足立:一年前は悩むばかりでしたが、今振り返って言えるのは、「この人、中途なのに使えない」「採用しなければよかった」と思われるのに対し、恐怖を感じている中途社員にとって「居場所」は絶対に必要だということ。

小原:能力を発揮するのは、その土台であり発揮できる場所が大事なんですね。

足立:居場所があり、横のつながりができれば、とても心強くなります。いい意味で気が許せる人、一緒に切磋琢磨できる人と出会えたら、仕事そのものも好転していくはず。

転職や転勤など、新しい環境にチャレンジされる方は、チーム作りやコミュニティ作りで自ら居場所を作る事をオススメします。

これからサイボウズに転職する人にも人間関係の面で、不安を感じないでほしいし、「ぼっちにはさせません!」とお伝えしたいですね。

文・池田園子/企画編集・小原弓佳

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年8月30日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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