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ラグジュアリーに学ぶ「安売りせずにどうやってモノを売るか」

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知る人ぞ知る電通PR発(非公式)・メディア向けトレンド新聞「ブームの予感の『予感』」。その特別号である不定期刊『あなたに会いたくて!』は、孤高の発行人・ニシザワが独断と偏見と尋常じゃない好奇心で、"未来のキーパーソンたち"へ突撃取材するというもの。今回は、カルチャー誌はじめ数々の雑誌・ウェブと、幅広いジャンルで活躍中のフリーライター・編集者である小山田裕哉さんに"ラグジュアリー業界"についてお話を伺いました。

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フリーライター・企画・編集者小山田 裕哉さん

■ラグジュアリーは、金持ちの話ではない。

―今日は、小山田さんが「ハーバード・ビジネス・レビュー」に書かれていた人気連載、「ラグジュアリーは変われるか?」(全17回)について、いろいろお聞きできればと思います。「ラグジュアリー」って、好きな人はすごい好きな世界でも、どうでもいい人はまったく関心を持たない世界ですよね。でも実際は、すべてのマーケティングやPRに参考になる要素が詰まった世界だということを、再認識させてくれる内容でした。

「ラグジュアリーは変われるか?」って、ファッションとか、お金持ちの話じゃないんですよ。要は「安売りせずにどうやってモノを売るか」っていう話なんです。今の高級品市場を調べていて、はっきりデータでも出ているのは、人々が消費に求める意識が「ひょうたん型」になっているんです。

■今、消費は「ひょうたん型」

人々が欲しいと思うブランドのイメージを「ハイエンド」から「エントリー」までに階層化したときの形が「ひょうたん型」になっているんですね。例えば「エントリー」は手に届きやすい財布などのアイテム類が中心。階層の上に位置する「ハイエンド」はジュエリーやオーダーメードのスーツなど。高級品市場では今、この両極が伸びている。一番弱いのが中間なんです。つまり、モノ自体の良さではなく、いわゆる「ロゴ」でアピールするものが売れなくなっている。

―それはラグジュアリーだけ?

すべてです。「中間層向けに売っている"はず"だった普及品」というのが、売れなくなってるんです。というのも、今の消費者って「理由」がないと買わないんですよ。反対に、もはや「見栄」や「ステータス」を訴求するやり方は響かなくなっている。というのが今の、割と世界的に起こっていることだと思います。

■「理由」がないと買わない時代

―「自分基準消費の時代」ということでしょうか?

これはよくある勘違いなんですけど、モノを売る、PRするときに、「安さ」や「お得感」をアピールすることがいまだに強い条件だと思っている人は多いですよね。でも、いろいろ調べていくと「お得感」て、現在の市場で優位なものではないんですよ。実はそれよりも「楽しさ」とか「伝統」とか「信頼性」とか、そういうものに人はお金を払っている。お得なものにお金を払うっていうのは、どちらも機能的には違いがほとんどないAとBが並んだときに頭をよぎるくらいです。それよりも、商品の背景をよく知っているとか、その世界観が好きっていうほうがはるかに強い。つまり「値引きをする」ってことよりも、そのブランドをもっと好きになってもらえるようなものを提供しないといけない。

■「物語」と「世界観」

― それって具体的にどのようなものなのでしょうか?

「物語」とか「世界観」、そういうものが重要になってくる。その例として、そうした動きの走りだったのが「無印良品」。無印良品の無地のTシャツって、機能的にはほかのブランドでもいいはず。何も書いてないわけだし。それでもあえて無印良品を選ぶのは、無印を買うことが、無印的な世界観に対する「支持の表明」になっているんです。それをはっきりと意識している人もいれば、無意識に、「正直」とか「丁寧」とか、「日本的なモノづくり」っていう世界観に共感しているっていう表明になっている。だから、無印良品が売れているのは安くていいからだけではなくて、高級ブランドとある種一緒で、ちゃんと世界観とか、メッセージみたいなものを積極的に打ち出すことで、作り上げたブランドであるというのが大きいです。

― ほかの例で、そういうスタンスで早くからやっていたブランドってありますか?

アップルがそうですよね。完全にみんな「世界観」を買ってますよね。もちろん機能もいいんですけど。ほかのPCやスマホより高いじゃないですか。でも並んじゃうわけですよ。みんな今アップル買うのにすごい行列ができる光景を普通だと思っているけど、あれってほんとはとんでもないことですよ。パソコンが新発売されるからってみんな並んでるんですから(笑)。

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■「IT」が、かつてのラグジュアリーブランドのポジションに

―連載の中で小山田さんが書いていた「昔ラグジュアリーブランドに対して人々が抱いていた憧れが、今アップルやグーグルに変わってる」っていう、そういうことですよね。

そうです。「持ってるとカッコイイって言いたくなるもの」ってあるわけじゃないですか。そのポジションが最先端のITのものとかなんですよ。最新のiPhoneを誰よりも早く手に入れていたら、誰でも「見せて見せて!」ってなるじゃないですか。でもそれって、昔は、高級ブランドのバッグとかが占めていたものだったんですよ。だけど今はアップルとかにポジションを奪われたという。もちろん性能はいいですけど、基本的にはジョブズから続く、と言うより「ジョブズ」というアイコンですよね。彼はもはやココ・シャネルと同じポジションなんです。

■ココ・シャネルとスティーブ・ジョブズ

ココ・シャネルがいなくなった後、シャネルにはカール・ラガーフェルドが来るわけですよ。それでシャネルというブランドはより伸びていくという。でもアップルがよく言われる問題はそこ。ジョブズがいなくなった後に、アップルのカール・ラガーフェルドはまだいないわけです。面白いのは、アップルにはバーバリーのCEOアンジェラ・アレンツが行くんですが、アンジェラの前にイブ・サンローランの人を引き抜いているんですよ。二人とも小売りとか海外戦略の担当です。それが何かと言うと、アップルはちゃんとわかってるんです。世界中の人々がアップルを知っている状態で、これからはいかにブランドの価値を効果的に伝えていくかということが重要になる。それもジョブズがいないままに。それってラグジュアリーブランドがずっとやってきたことじゃないですか。ブランドの世界観を維持し、そのイメージで売ることの大切さをわかってるっていうことが、この二人を引き抜いてきたところによく表れていると思います。

― でもなんでそこまで急速にITブランドがラグジュアリーブランド的な側面を強化しているのでしょう?

アップルについて言えば、身に付けるデジタル製品、「アイウォッチ」をやろうとしているからだと言われています。アイウォッチでいよいよ本当に、ラグジュアリーブランドとライバルになりますよね。「高級時計」と戦っていくわけですから。

― 確かに、高級時計と同じ効果が得られそうですよね。女の子たちから「見せて見せて!」って(笑)。

そうそう(笑)。ロレックスよりアイウォッチのほうがそれ以上の効果を得られるかもしれない(笑)。そういった場合にライバルはもはやITじゃないんですよ。ウェアラブルが世界に進出するってそういうことで、ライバルはIT企業じゃなくなるんですよ。まず『それを身に着けている態度がカッコイイかどうか』ってところが重要になってくるんで、文字通り「身に着けっぱなし」のものですから、ダサかったら終わりじゃないですか(笑)。

■機能はすぐに「陳腐化」する

デザインとか、世界観とか、機能以外の部分って、こういう高級ブランドを調べてみてすごくよくわかるのは、機能はすぐコモディティになっちゃうんです。「陳腐化」するというか。最新の技術とかってあっという間にコピーされるし、で、あっという間に安くなるし。パソコンなんてちょっと前まですごく高かったじゃないですか、ノートパソコンも然り。機能だけだと、「価格競争」っていうつらい戦いを強いられる。でもブランドの効果はコモディティにならないこと。家電量販店でパソコンを買うとき、店員に「もうちょっと安くなりませんか」って値切る人はたくさんいます。でもそれをアップルストアで言う人はいない。

―それが「ブランド力」だと。

そう。「iPhone安くなんないの?」ってね。おかしいでしょ? 家電量販店ではやるのにアップルストアでは恥ずかしいよねって、それってやっぱりブランドの持つ「力」ですよ。だから家電とかも本当は目指すべきはこういう方向だったと思うんです。「どんどん新機能!」じゃなくって、世界観とか物語とかそういうので売っていく。誰でも手に入るものを作っているのだからこそ、「職人技」とか「物語」を売るしかないんですよ。

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小山田 裕哉さん プロフィール
フリーライター・編集者。
カルチャー誌・男性週刊誌・ファッション誌・WEB等、「地下アイドルからラグジュアリーまで」幅広いジャンルで活躍。ハーバード・ビジネスレビューWEBで連載の「ラグジュアリーは変われるか?」(全17回で終了)が各方面で話題。

(2014年6月20日「ブームの予感の『予感』」より転載)