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GUGEN2014大賞受賞、赤ちゃん研究から生まれたおしゃぶりセンサのこれから

2015年06月17日 15時15分 JST | 更新 2016年06月16日 18時12分 JST

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距離や赤外線センサをもとに、赤ちゃんのさまざまな行動を知らせてくれる「おしゃぶりセンサ」。GUGEN2014に出展されたこの製品は、子育てをしている人の課題を解決した製品として、満場一致で大賞を受賞した。おしゃぶりセンサを開発した「なんでもセンサ開発チーム」の石井健太郎氏と尾形正泰氏に、開発の経緯や製品の今後についてお話を伺った。(撮影:加藤甫)

「正直言えば、いい展示の機会になるのでは、くらいの軽い気持ちの出展だった。受賞するとは思っておらず、まさか一次審査を通過してさらに大賞をいただけるとは思ってもいなかった。最終プレゼンの資料を準備していなかったので、その場で作ったことが一番印象に残っている」

そう語るのは、ピーバンドットコムが主催する、「未来のふつうを実現する」をコンセプトにしたものづくりコンテスト「GUGEN2014」で優勝した、東京大学大学院総合文化研究科開研究室特任研究員の石井健太郎氏と慶応義塾大学大学院理工学研究科の尾形正泰氏の2人だ。GUGEN2014は課題解決と実用性や商品性の高いアイデアを表彰するコンテストで、126作品もの応募のなかから優勝したのが、2人が開発した「おしゃぶりセンサ」だ。

赤ちゃんの行動を測定するおしゃぶりセンサ

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おしゃぶりセンサは、乳児が使用するおしゃぶりに距離センサと赤外線センサを内蔵し、吸っているかどうかや、吸い方、強さのデータを収集しパターン化したものをデータベースとして分析する。センサから得たデータをもとに、赤ちゃんが寝ているかどうかや、もうすぐお腹がすきそう、もうすぐ泣きそう、といった乳児の状態を推定して、それをメッセージとしてスマートフォンに知らせることができる。

開発の経緯について伺ったところ、「赤ちゃんが自分で考えてものをコントロールできるのは何歳からかという研究の一環で、それを計測するためのデバイスとして開発したものがきっかけ」(石井氏)という。

東大内にある、赤ちゃん研究の最先端の「赤ちゃんラボ」

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おしゃぶりセンサを開発した、東京大学大学院総合文化研究科開研究室特任研究員の石井健太郎氏。

石井氏は、東京大学駒場キャンパス内にある「赤ちゃんラボ」で赤ちゃんに関する研究を行っている。赤ちゃんラボは、2000年に東京大学大学院総合文化研究科の開一夫氏が開設したラボで、0歳から2歳までの赤ちゃんの認知発達をテーマにした研究室だ。赤ちゃんを育てている方々と協力しながら、赤ちゃんの感情やコミュニケーション能力、テレビやロボットに対する理解、自分と他人についての理解などがどのように獲得され、発達していくのかを科学的に調査している。

その研究のなかで、生後数カ月の赤ちゃんが自身でものをコントロールできるかどうか、という運動主体感をテーマにした研究として、吸い方や強さの測定ができるおしゃぶりを開発したという。

「生後4、5カ月程度の赤ちゃんは、腕はまだ思ったように動かせないが口で何かをコントロールすることができるのではないか、という考えをもとに、能力を測るのに必要なデバイスだった」(石井氏)

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東京大学駒場キャンパス内にある、赤ちゃんラボの様子。

2013年の春ごろから開発に取り組んだ石井氏。以前同じ研究室で学んでいて、ハードウェアやインターフェースの設計を行っている尾形氏を誘い、開発を進めてきた。尾形氏は、おしゃぶりで吸ったりかんだりといったさまざまなデータを得るために、いくつもの試行錯誤があったという。

「吸ったときの圧力が分かるように、距離センサと赤外線センサを使っている。内部に入れた綿が縮まると密度が変わって赤外線の反射率も変わるため、圧力が測定できるのでは、と考えた。また、複数のセンサを内蔵し、どこをかんだのかなどが分かるようにしている」(尾形氏)

2013年の夏ごろにはプロトタイプが完成し、そこから実験を進めてきた。一般的なおしゃぶりとほぼ変わらない形状にし、重さもできるだけ近づけたという。センサを稼働させ、データを送信する基盤としてはArduinoを使っている。

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おしゃぶりセンサを分解しながら、製品の説明をする石井氏。

これまでに、30人以上もの赤ちゃんを対象に圧力を測定してきた。開発していくなかで、赤ちゃんによって吸い方の波形やリズムが違うことが見えてきた。また、吸う場合とかむ場合によっておしゃぶりにかかる圧力や強さの違いなども分かってきたという。

「行為のパターンが個人によってそれぞれ違うことや、吸うこととかむことの2種類の違いが分かったことも、研究的に新規性があると感じた。これらの研究の成果は、日本赤ちゃん学会で発表もしている」(石井氏)

こうして、2年ほどの期間をかけながら開発を行い、完成させたおしゃぶりセンサ。データ送信機能をもったデジタルおしゃぶりとして特許も出願している。

GUGENの出展と大賞受賞の驚き

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おしゃぶりセンサの設計やデザインを行った慶応義塾大学大学院理工学研究科の尾形正泰氏。

研究向けの製品だけでなく、一般の人が手に取れるような製品化への道があるのではと考えた石井氏と尾形氏。そう考えた一つのきっかけは、GUGENのコンテストへの出展を考えたことからだったという。

「以前からピーバンドットコムを利用していたので、2013年の時点でGUGENのことは知っていた。おしゃぶりセンサを出展しようと考えたが、そのときはまだプロダクト自体も開発途中だったことや、関連する特許の申請中だったこともあり、出展するための準備ができなかった。今回は、準備の時期も時間も確保できると考え、出展できるのではと考えた」(石井氏)

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「GUGENをきっかけに、いろいろな気づきや発見があった。まさか大賞をもらえるとは思わなかった」と語る石井氏。

GUGEN2014開催の2週間前に出展を決意した石井氏。優勝よりも、自分たちの製品がどのように評価されて、フィードバックをもらえるか、といったことだけを考えていたという。結果的に大賞を受賞したが、受賞よりも研究以外の視点から評価されたことがうれしかったと語る。

「もともと研究から始まった取り組みで、もしかしたら研究以外でも発展できるのではと思っていたら、研究以外の視点や発展の可能性があるというコメントを多くもらえた。研究発表では経験できない、一つのプロジェクトの製品として見てもらえたことがうれしかったし、期待以上の反応だった」(石井氏)

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センサの調整をしながら、いくつものプロトタイプを開発してきた。

尾形氏も、研究目的で作ったデバイスが研究以外の活用方法を見いだせたこと、来場した人たちからもいくつものうれしい言葉をかけてもらえたことが良かったと語る。

「子どもをもつ親御さんらから純粋に欲しい、と言ってもらえたことがうれしかった。お母さんだけでなくお父さんからも、子育てが楽になるし楽しくなるかもしれないというコメントをもらい、そういうメリットや需要があるのだということも分かった」(尾形氏)

製品化と新しい展開の可能性

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大賞を受賞したことで、投資家からの連絡や、各メディアから取材の申し込みが来たという。製品としての高い評価を受けたおしゃぶりセンサを、一研究としてだけでなく、世の中に届け多くの人に手にとってもらいたい、という考えが石井氏の頭の中で強くなってきた。

もちろん、製品化のためには製品自体のクオリティの向上は必要だ。軽量化や、電池交換を容易にするための設計などまだまだ課題も山積している。そうした課題を一つずつ解決しながら、開発を進めていきたいと考えている。

また、おしゃぶりセンサを赤ちゃん以外にも転用できるのでは、と考えるようになった。例えば、首から下がまひしている人にとって、ナースコールをするは困難だ。そこで、振り向く動作と吸ったりかんだりという動作によって、ナースコールができるデバイスとして活用できるのでは、と考えている。

「センサを複数付ければ、上下左右の距離を認識もできる。それが可能になればポインタとしても使え、ハンズフリーな入力デバイスとしての応用も可能だと考えている。いずれは、文字入力や言語入力もこれまでとは違ったものができるかもしれない」(尾形氏)

他にも、さまざまな領域への応用が可能だと考える石井氏と尾形氏。さまざまな利用価値がある製品だと語る。

今後は法人化も視野に

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製品のブラッシュアップや他分野への応用など、さまざまな可能性を追求していきたい、と語る2人。

おしゃぶりセンサの実用化や、さまざまな応用に向けて開発を進めるためにも、法人化が必要だという石井氏。しかし、ここで一つ問題点がある。それは、現在石井氏が大学の研究員という立場から、会社の代表として経営していくのが難しいということだ。尾形氏も、日本学術振興会のメンバーとして活動しており、企業経営に参加できる状況ではないという。2人は、研究員を辞め、独立して引き続きの開発と製品化に向けた展開も考えている。

「もちろん、会社化するのであればおしゃぶりセンサ以外の事業も考えないといけない。いまのおしゃぶりセンサも、改良を重ねるための時間と労力とお金が必要で、自分の手元の資金だけではどうすることもできない」と石井氏。尾形氏は「研究用途としておしゃぶりセンサを販売したり、おしゃぶりセンサ以外でもなにかを小型し、それを無線化することに意味があるものを製造したりすることで事業として成り立たせることができるかもしれない」と語る。

おしゃぶりセンサはすべての赤ちゃんに対して利用することができるため、日本国内だけでなく世界に向けて製品を展開することも可能だ。

「いまのところ、おしゃぶりでデータを取り、赤ちゃんの状態を計測するようなものは海外で見たことがない。GUGENに出たことでニーズがあることも証明できた。他分野への応用だけでなく、製品としておしゃぶりから体温を測ったり健康状態のモニタリングができるような機能を備えたりと、まだまだ改良する余地もある。いろいろな可能性を秘めているからこそ、これを形にすることは大きな意味がある。そのためのプランをちゃんと練っていきたい」(石井氏)

周囲の応援がチャレンジの励みに

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「何かに挑戦する人を、みんなもっと応援すると、挑戦する人は気持ちが楽になる」と自身の経験を語る石井氏。尾形氏は「困っている人と作れる人がつながることができる環境があると、いろいろな挑戦をする人が増えるのでは」という。

GUGENをきっかけにおしゃぶりセンサのさまざまな可能性に気づき、さらに製品化やさまざまな展開に向けて考えを巡らせるようになった石井氏。会社化に向けても、どうにかしたいと考えるようになった。こうした状況を、石井氏自身は楽しんでいるようにも思える。

「どうなるか分からないが、まずはやってみないと何も始まらない。何かを始めるときはネガティブな思考になりがちだが、GUGENに出したことで自信がついたように、周囲からの応援は大きな励みになる」(石井氏)

尾形氏は、これまでのものづくりは作りたい人が作れるものを作っていただけだが、これからは何か課題を抱えた人が欲しいと思ったものを作るようになったり、作る人と課題を抱えている人が出会えるようになったりすることに意味があるのでは、と指摘する。

「今は、技術の進歩によってちょっとしたものなら誰でもすぐに作ることができる。だからこそ、なにかが本当に必要だと思っている人が自らの手で作り出すことも出てくるかもしれないし、作る人と困っている人がつながることで新しいものが生まれてくるかもしれない。いろんな課題解決のものづくりが出てくるなかで大事なのは、コストがちゃんと抑えられ、さらに製品としてきちんとしたデザイン性があるものが求められるということ。個人としても、今以上にデザインでできることを追求していきたい」(尾形氏)

これまで、一人の研究者として過ごしてきた石井氏。これからは一人の研究者としてだけでなく、社会課題を解決する一人のプレイヤーとしても行動していきたいと語る。

「研究者として一生居続けることもできるが、やはり一つくらいは世の中に自分の研究で取り組んできたことが、社会に役立