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リクルート IPO / バリュエーションは妥当。創業者の思いを胸に第二の創業へ

2014年09月16日 00時54分 JST | 更新 2014年11月15日 19時12分 JST
Bloomberg via Getty Images
A man holding an umbrella walks past signage for Recruit Holdings Co. outside the building housing the company's head office in Tokyo, Japan, on Wednesday, Sept. 10, 2014. Recruit, a Japanese provider of staffing services, plans to raise about 178 billion yen ($1.7 billion) in an initial public offering next month to expand through acquisitions and investments. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images

先日の報道の通り、リクルートホールディングス(以下、リクルートHD)が上場承認されました。上場日は10月16日です。 上場時に、366万5000株の新株発行と、既存株主に3407万株の売り出し、自社株2584万1200株の公募売り出しを実施します。(オーバーアロットメント(以下、OA)は除く)

想定発行価格は2,800円で、時価総額1兆6,000億円となり、任天堂、富士フィルムホールディングス、アサヒグループホールディングス、マツダと同程度の時価総額の発行体となります。

 

【リクルートとしての文脈】

リクルート事件

最近の若い方は、もうリクルート事件をほとんど知らないかもしれません。1988年。時はバブル真っ盛りで、私が新卒で社会人になった年でした。リクルートの関連会社であり、当時未上場だった不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が賄賂として譲渡された贈収賄事件ですが、贈賄側のリクルート社関係者と、収賄側の政治家や官僚らが逮捕され、政界・官界・マスコミを揺るがす、大スキャンダルとなりました。これがきっかけで当時の竹下内閣は総辞職し、自殺者まで出ました。戦後最大の贈収賄事件と言われています。

 

1984年から1985年かけて、創業者の江副浩正元会長等から、大物政治家、経営者に対して未上場のコスモス社株が譲渡されましたが、1986年にコスモス社が上場した際、株式を譲受して売却した株主が総額約6億円の売却益を得たことで、未上場株の譲渡の賄賂性が問われ、江副氏、元社長室長、元秘書室長は贈賄罪、藤波孝生元官房長官は受託収賄罪、真藤恒元NTT会長はNTT法違反(収賄罪)の他、多数の譲渡関係者が罪に問われました。

 

これを受けて当時の東京証券取引所、大阪証券取引所、日本証券業協会は1989年から、新規上場株の短期取得・売却を制限する目的として、「公開前規制」を行うことになります。

第三者割当増資は、上場直前期を「制限期間」とし、その期間内に行われた第三者割当増資により取得した新株は、上場後6ヶ月間継続保有する義務が必要となりました。(当時のCB・ワラントの権利行使含む)また、上場6ヶ月後が、当該新株発行後1年経過前である場合は発行後1年まで継続保有が義務となります。そして、上場申請期から上場日の前日までを「禁止期間」とし、この間での第三者割当増資は一切禁止となりました。以上の規定に抵触する場合は、条件が成就するまで上場申請を延期となったのです。

ただし、現在の公開前規制は条件が緩和されています。

 

・ダイエー傘下に。そして買戻しへ

リクルート事件後も本体の業績は順調でしたが、バブル崩壊による地価の下落で、コスモス社とファーストファイナンスの資金繰りが困窮し、江副氏の持ち株、全体の約35.2%をダイエーに売却し、ダイエーの傘下となりました。ダイエーグループ入りの際、ダイエーは「もの言わぬ株主」に徹する代わりに、負債の肩代わりはしない立場をとった(但し、ダイエーから中内功を含む数名が役員就任)ため、リクルートはダイエーより派遣された高木邦夫氏の下、バブル期の不動産やノンバンク事業の失敗で94年3月期に約1兆4,000億円あった有利子負債を自力で完済したとのことです。 Wikipedia

その後2000年に、今度はダイエーの経営難でリストラが喫緊の課題の中、リクルート株35.2%の保有株式のうち、25%を約1,000億円で、リクルートが買い戻すことになります。おそらく今回の有価証券届出書の株主欄に記載されている、自己株の7%は、この時の取得の一部だと思われます。

そして、2005年にダイエーの残りの10%のうち、9%をあおぞら銀行と農林中央金庫、アドバンテッジ・パートナーズに約550億円で売却することにより、リクルートは再び独立経営を出来る発行体となりました。

 

【事業構造】

・全社分析

リクルートHD連結の業績は前期は売上1兆1,915億円、経常利益が1,220億円でした。そして過去5年の業績推移と、今期予想のグラフが以下の様になります。

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売上自体は順調に伸長していますが、売上高経常利益率は12/3期の14.6%をピークに下がりつつあります。

これは、前期、前々期と積極的に投資や海外の人材会社を買収した結果、13/3期の減価償却費が199億円、のれん償却が251億円、14/3期の減価償却費は271億円、のれん償却が360億円と大幅に増加しているのが大きく影響しているものと思われます。

 

・セグメント分析

セグメントは大きく4つに分かれ、ライフイベント領域(住宅、結婚情報、教育等)、日常消費領域(旅行、飲食、美容等)を手掛ける販促メディア事業、国内人材募集領域(リクナビ、フロムエー等)、海外人材募集領域(Indeed.Inc.)を手掛ける人材メディア事業、国内人材派遣領域(リクルートスタッフィング、スタッフサービス等)、海外派遣領域を手掛ける人材派遣事業、そしてその他となります。

報告セグメントによる各セグメント(その他を除く)の売上高、EBITDA推移が以下のグラフになります。

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概ね、どのセグメントも堅調に推移しています。但し、人材派遣業は事業構造上、労働集約型にならざるを得ませんが、業界大手のテンプスタッフHDのEBITDAマージンが14/3期で6.9%なので、それに準ずる水準と言えるとは思います。一方で販促メディアは教育事業が中心となるベネッセホールディングスの国内教育セグメントのEBITDAマージン15.9%と比較しても、大きく上回っています。人材メディア事業のモデルで同じ規模感の発行体が見当たらないのですが、唯一あげるとすれば、自動車専門情報誌{Goo}を取り扱っているプロトコーポレーションのEBITDAマージン11.8%よりも大きく上回っています。

リクルートHDは各セグメントの売上、利益規模が、ほとんど業界トップ水準なので、なかなか他社との比較検討が難しいところですね。

 

【バリュエーション】

・バリュエーションは妥当な水準

さて、バリュエーションです。リクルートHDの今期業績予想は売上高1兆2,900億円、経常利益1,260億円、当期純利益は651億円、EPSは126円64銭(公募株数勘案済)なので、想定発行価格は2,800円ですから、予想PERは2,800円÷126.64円 = 22.1倍となります。

 

比較の同業他社ですが、そのものズバリという発行体はないので、各セグメントの最大手と比較してみました。販促メディアではベネッセHDですが、ベネッセの株式時価総額は3,801億円、予想PERは17.8倍でした。また人材メディアではプロトコーポレーションが株式時価総額337億円で、予想PER10.7倍です。人材派遣はテンプHDが株式時価総額2,404億円で予想PER20.0倍でした。

 

実質、ベネッセHDとテンプHDとの比較となると、リクルートHDの22.1倍はその収益性の高さを勘案すると、妥当な水準だと思います。なお、リクルートHDは従来から有価証券報告書を提出している継続開示会社なので、今回IPOディスカウントはなく、バリュエーションはフェアバリューとの認識です。

 

・株式流動性は低め。需給がタイトになる可能性も。

また、株式流動性ですが、今回発行済株式574,030千株(公募含む)のうち、公募売り出しで63,576千株ですから、 オファリングレシオは63,576千株 ÷ 574,030千株 = 11.1%

となり、この前の週に上場するすかいらーくは36.3%であったり、最近のIPOのこのレシオが30%近辺であることを考えると、規模の割にはかなり株数を絞った印象です。当面需給バランスがタイトかもしれません。逆に言うと株価も妥当な水準であり、かなり安心感のあるディールだと考えられます。

 

【江副浩正氏のリクルートから、世界のリクルートHDへ】

・相続税評価はかなり低かったはず

今回、「株主の状況」に故江副浩正氏の名前が記載されているのを見つけ、感慨深いものがありました。持株数は約500万株で持分比率は0.89%なので、想定発行価格で計算すると約142億円になります。江副氏は2013年2月8日に亡くなりましたが、まだ相続に伴う名義書き換えが終了していないので、そのまま記載との記述です。

 

相続税は遺産分割が終了していなくても、法定相続に則り一旦税額計算がなされ、被相続人が亡くなった翌日から10ヶ月以内の納税が義務付けられています。

既に昨年中に納税自体は終わっていると思われますが、リクルートHD株は当時未上場株(取引相場のない株式)だったので、相続税評価はこの2,800円よりはかなり安く評価出来たのではないかと思います。もちろん納税自体は大変だったかもしれませんが、今回ロックアップもかかっていないので、相続人は当時の相続税評価の資産よりはかなり高額の資産を引き継ぐことが出来るのではないかと思います。

 

・上場することで、江副氏からの脱却、そして真の第二の創業へ

今回、リクルートHDの有価証券届出書を見た率直な感想は、随分と綺麗な発行体になったなということでした。市場リスクや、法律規制のリスク、競合リスク等、業界的なリスクはともかく、少なくとも、リクルートに係る固有リスクはほとんどないのではないか、という印象です。あの事件以降、経営陣は常に自社の社会的存続の意義等を考えながら、経営を行ってきたのだろうなと思っていたら、やはり 経営理念にそのことがしっかりと書かれていました。ある意味、ここがリクルートの第二の創業であり、今あるリクルートHDの広義の企業価値はこの経営理念によって産み出されたものだと理解しています。峰岸社長以下、取締役はほとんどがプロパー出身であり、リクルート事件前後に新卒で入社された方ばかりです。当時の社会的な叩かれ方を真摯に受け止めて、必死になって、社会に価値ある事業を産み出して来たのだろうと思います。

 

これからのリクルートホールディングスに期待したいと思います。

(2014年9月15日「Hiroの「グローバルで負けないリスクテイク出来る日本へ」」より転載)