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北京、天安門でのウイグル系中国人自爆テロの衝撃

2013年11月01日 00時31分 JST | 更新 2013年12月31日 19時12分 JST

近代中国の歴史の舞台となる事の多い北京、天安門で遂にウイグル系中国人による自爆テロが起こってしまった。中国は何分華夷秩序の国である。北京から西に遠く離れた新疆ウイグル自治区でかなり大きな動乱が起こったとしても、「辺境の地で例によって蛮族が騒いでいる」程度の受け止め方かも知れない。しかしながら、政治の中心北京で、しかも天安門での自爆テロとなると話は全く別のものになってしまう。事実、中国政府への不満表明を目的にしたと推測される今回のテロは、あっという間に全世界に広まってしまった。勿論、それと同時に世界中でありとあらゆる憶測が語られているのも事実である。

BBCが伝えるところでは、自爆した3名のほかに、事件への関与の疑いで容疑者5名が逮捕されたとの事である。死亡した3名と逮捕された5名の合計8名が新疆ウイグル自治区から北京まで何台かの自動車に分乗して移動している様だ。テロに必要な物資は北京で買い揃えたと推測される。宿泊、食事の手配、必要物資の調達など支援する組織の存在を疑わざるを得ない。従って、3名が死亡し、残りの5名を逮捕したからといって事件の解決には程遠い。支援組織を一網打尽にしない限りテロは何度でも繰り返されるからである。しかしながら、テロ組織は地下に潜り複数存在するのかも知れない。仮にそうであれば、中国当局に取ってテロの根絶など夢のまた夢という事になってしまう。

■今回の自爆テロは想定の範囲内

今年になり、高まる中国のリスクが取りざたされるケースが急増した。皮切りは、新年早々発表されたEurasia GroupのTop Risks 2013であった。何と、リスクの一番手は新興産業国で、中国はその代表的な国として紹介されている。次いで、ハイリスクの二番手として中国そのものが紹介されている。正に、折り紙つきの「危ない国」という訳である。

私は丁度1か月前に、深化する日米同盟と崩壊に向けてのカウントダウンを始めた中国、共産党王朝を発表し、高まる中国のリスクを予測した。今回の自爆テロを予言するものであったかも知れない。私の記事の読者に取っては、今回の自爆テロは想定の範囲内ではなかったのか?

少し冷静に考えれば中国は良く「中国四千年の歴史」といわれる様に長い歴史を有する国である。そして、歴史の中身はといえば同じ事の繰り返しである。(1)統一王朝の誕生。(2)官僚腐敗の蔓延。(3)民衆の蜂起と地方の反乱。(4)分裂。

将来に期待の持てない国民の眼前にあるのは、途方もない経済格差やPM2.5に象徴される環境汚染のみとなり、鬱積するばかりの国民の不満が更に高まるばかりで、反政府運動を引き起こす寸前となってしまった様に見受けられる。そして、地方の反乱の可能性についても「強制移住」に象徴されるチベット人弾圧や、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒弾圧は何れ手痛いしっぺ返しを予想させるに充分である。

■新疆ウイグル自治区の位置

北京から見れば、成程新疆ウイグル自治区は西の辺境に位置する。従って、中国共産党はこの地域を征服し、中国文化を押し付け、民族の同化を闇雲に推し進めて来た訳である。私は、30代の前半の3年半を駐在員として中東に過ごした経験がある。従って、これがイスラム教徒にとってどれ程辛い事か良く理解出来る。例えば、中華料理で一番良く食べられる肉は「豚」であろう。しかしながら、イスラム教徒にとって豚は「不浄のもの」であり、「食べもの」ではない。宗教を否定する共産主義と中国の文化が、神と共に生きる事を説くイスラムの教えとうまくやって行けるとは思えない。早晩、何処かで破綻せざるを得ないと思うのである。

一方、イスラム人口比率を示す地図が極めて興味深い事実を示唆している。イスラム教徒の目でこの地図を眺めれば、イスラム国家は西アフリカ、サヘル地域から始まり、北アフリカ、中東、ペルシャ(イラン、アフガニスタン、パキスタンを経由して中央アジア、新疆ウイグル自治区まで続く東西大回廊を形成しているという事になる。新疆ウイグル自治区はパキスタン、アフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンと国境を接するが何れもイスラム国家である。仮に、今回の自爆テロを切掛けに中国政府がウイグル系中国人の弾圧を強化すれば、世界に点在する16億人のイスラム教徒は同胞の苦難に同情するだろうし、隣国のイスラム国家は難民の受け入れは当然として、それ以上の支援にも乗り出す事になるはずである。

流石に、事ここに至っては習主席と距離を置く党内の改革派を中心に少数民族への高圧的な政策の転換を求める声が高まるとの予測も出て来た。当然であろう。私は、中国政府によるウイグル系中国人の弾圧強化は巨大なコンクリートの壁に向かい、壁打ちテニスを行う様なものだと考えている。弾圧を強めれば強める程、周辺のイスラム国家、更には全世界のイスラム教徒がウイグル系中国人の支援を強める事になる。中国は一国で全世界のイスラム教徒を相手に戦わねばならなくなってしまう。従って、今後はウイグル系中国人に職と高い給与を与え傀儡する方向に路線を転換するとみている。勿論、習近平氏の面目は潰れる訳で、この辺り、中国共産党内部での路線闘争、権力闘争を引き起こす可能性もある。

■あり得ない「中国の春」

一部の評論家は今回の自爆テロを切掛けに3年前の「アラブの春」の様な現象が中国でも生じ、シリアの如き内戦状態にまで発展すると予言している。しかしながら、少し冷静に考えれば現実的でない事が直ぐ分る。シリア問題の本質とは?で、北アフリカや中東の多くの国が「アラブの春」に至った経緯やシリア問題が何に起因するか? 詳しく説明しているので参照願いたい。要点のみ抜粋の上、下記参照する。

■「アラブの春」に共通するものとは?

エジプトの騒乱では小麦価格の高騰による貧困層の困窮や、若年失業率(多いところでは5割)の大きさが原因としてあげられている。これは、アラブの春が発生した北アフリカ・中東諸国では大なり小なり共通した社会問題ではないだろうか? 域内人口の爆発的な増加が慢性的な食糧不足を発生させている。日本や欧州の「少子高齢化」とは真逆の「多子若齢化」が加速し、結果深刻な若年層の失業問題を発生させている。

■シリアの状況とは?

先ず人口であるが、1980年の900万人から2010年の2,100万人まで綺麗な右肩上がりで急増している。一方、国民の主食となる小麦の生産は従来の生産平均の年産400万トンから240万トンまで落ち込んでいる。減少分は輸入で賄うしか手段はないが、問題は小麦の国際価格が2,000年以降暴騰を続けている事実である。小麦を輸入するためには決済通貨であるドルを稼がねばならない。シリアが頼りとして来た石油は2002年の日産55万バーレルをピークにその後は減少を続け、2011年には33万バーレルまで落ち込んでしまった

更には二年間の内戦の結果、国内の原油生産はピーク時の5%にまで落ち込んでいると聞いている。これでは石油を輸出して小麦を輸入するためのドルを稼ぐどころか国内で使用するガソリンを輸入せねばならない。結果、シリア国民が必要とする小麦価格が高騰し国民の間に飢餓が蔓延する。同様、ガソリン価格が上昇し貧困層の更なる困窮が重篤化する。

■シリア問題の本質とは?

人口増を管理しなかった「人口政策」の失敗。「農業政策」の失敗とこれに起因する「食糧不足」。油田の枯渇から原油生産量が落ち込んでいるにも拘わらず、外貨を獲得するための産業を育成しなかった「産業政策」の失敗。「多子若齢化」により労働人口が急増しているにも拘わらず雇用を創出しなかった「雇用政策」の失敗が列挙される。シリア問題の本質とは? 畢竟これらの失敗が複合し国の中核となる「経済」、「金融」、「社会」システムが機能不全に至ってしまった事と理解する。

これに対し、中国は産児制限を実行し人口はコントロールされている。産業政策は一定の成功を収め、その結果中国経済はここに来て鈍化の兆しが顕著なものの、奇跡的な成長を遂げるに至った。中国人民銀行(中央銀行)が10月14日に発表した9月末の外貨準備高は3兆6600億ドル(約360兆円)と過去最高を更新しており、外貨準備不足を原因に食糧が輸入出来ず、国民が飢餓に苦しむ様な展開は予測出来ない。従って、今回の様なウイグル系中国人による自爆テロは中国当局が現在の高圧的な政策を転換しない限り今後も続くであろうが、それは飽く迄、散発的なテロに限定されるはずである。

■日本への影響

中国政府は国内反政府運動を抑制する効果的な手段を左程持ち合わせているとは思えない。従って、何時もの事であるが、「困った時の反日頼み」になるのではないのか? 具体的には「尖閣」で日本政府を悪者に仕立て上げ、領海、領空侵犯を繰り返し、意図的に小競り合いを誘発し、中国国民の自国政府への不満や怒りを日本向けに誘導するというものである。今一つは、これもうんざりするが韓国と連携し「靖国」関連、ありもしない日本の「右傾化」、「軍国主義化」を捏造し、誹謗中傷するという展開である。日本にとっては迷惑な話であるが、きちんと対応し後顧の憂いを作る様な事は避けるべきである。私は習近平氏が中国共産党王朝の最後の皇帝になるであろうと予測している。しかしながら、現体制が一気に瓦解するとは決して思っていない。