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権力の誘惑を防げるか? 成長するネットメディアの課題と対策

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インターネットの地域ニュースサイト「みんなの経済新聞ネットワーク」は、「ハッピーニュース」を扱うことを掲げており、事件・事故や政治・行政といった「権力」や「政治的利害」が絡んでくるような記事をあまり扱わない。だが、影響力が大きくなってもそのような立ち位置を続けることができるのだろうか。

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■再開発の反対運動は取り上げず、計画を粛々と紹介

「みんなの経済新聞」ネットワークから、編集プロダクションの有限会社ノオトが運営する「品川経済新聞」と「和歌山経済新聞」を例に考えてみたい。同社の宮脇淳代表が説明する。

「ハッピーニュース」というキーワードで、地域の変化を伝えることを中心にしています。トラブルにつながりかねないネタは扱いません。例えば、駅前再開発のニュースを取り上げるにしても、反対運動の動きは紹介していません。再開発の事業計画を粛々と書いて、あくまで街の変化を伝えるようにしています。

宮脇代表が編集長として立ち上げた「和歌山経済新聞」でも、政治や行政関連のニュースは基本的に扱わない。

先日、和歌山市長が任期満了で退庁式が行われたのですが、実は和歌山市では戦後、次の市長選に出馬せず、自ら勇退しての任期満了を迎えた市長が初だったんです。つまり、汚職で任期途中に退任したり、在職中に逮捕されたりした市長ばかり・・・。ある意味ハッピーなネタだったので、これをニュースにするかどうかで議論になったのですが、やめましょうという話になりました。

実際、「品川経済新聞」や「和歌山経済新聞」のサイトを見ても、行政や政治に関するネタはほとんど見当たらない。トラブルにつながりかねない政治的課題を扱わないことで、メディアとしての安定性を維持しているといえそうだ。

■メディアの本質的な一面は、権力との緊張関係

しかし、政治的な課題を扱わないことは、ジャーナリズムの観点から問題はないのだろうか。東京大学の生貝直人特任講師が指摘する。

メディアの本質的な一面は、やはり権力との緊張関係であり続けると考えています。歴史的に、メディアは常に権力によるコントロールの標的の最たるものでした。例えば、現代でも国家がメディアをコントロールしないと統治が保たない国は多くあるでしょうし、そうでない先進国でも、世界的に影響力のある、中立的な情報提示を旨とするネット・プラットフォームが、常に国家からの圧力に晒されていることは周知の通りです。やはり権力とメディアの関係に敏感であり続けることは、今後も必要なことだと考えています。


地域における権力との向き合い方についても、

地域メディアの場合も、統治の根幹に関わる外交や軍事の問題は避ける事ができますが、地方行政との関係はあります。例えば、新しい公共施設の来場者数を出すだけでも、施設建設に反対してきた人たちの批判材料に使われる可能性があります。逆に数字を出さなければ、「負の側面に触れないのはおかしい」と批判されてしまいます。

弁護士ドットコムニュースの亀松太郎編集長も、

最初は中立を掲げていても、メディアとして成長するとヤバげな話も耳に入ってきます。そのメディアに打撃を与えたい人から弱みを握られて、攻撃される可能性だってあります。

成長段階では、「権力」や「政治的利害」を巧みにかわすことができるのだろうが、メディアとしての存在が大きくなればなるほど、避けられない問題になりそうだ。

■長い時間をかけて作られてきた「メディアの倫理」

では、「ハッピーニュース」で中立的なポジションを維持することは難しいのだろうか。法政大学の藤代裕之准教授が指摘する。

最近は自治体がまちづくりに取り組むようになりました。街コンや空き店舗事業、イベントなど、地域をハッピーにするための行政の動きについて、扱うことを避けられない可能性があります。オープンガバメントやオープンデータの動きもあります。実は課題があったり、データが行政によって歪められていたりしたらどうでしょうか。ハッピーになるニュースを取り扱っているつもりが、結果的に地域や人をハッピーにしないかもしれません。

これに対して、宮脇氏が反論する。

だからこそ、メディアとしてのポリシーをきちんと決めておけばいいのではないでしょうか。最初から決めておいたポジションから、ニュースを発信すればいいのです。「品川経済新聞」では、行政の取り組みについては原則として扱わないスタンスを取っています。

駒沢大学の山口浩教授は

行政だけでなく、民間からお金が出ている事もあります。アメリカの非営利メディア「プロパブリカ」も財団がお金を出しています。そういった中で、中立といったものはないでしょう。自分たちの立ち位置をきちんと定めればいいのです。

と、行政以外との関係も重要と指摘する。さらに、財源だけでなく、情報源をどこに依存するのかもポイントになりそうだ。キャンペナーの工藤郁子氏は、

資金だけでなく、情報源も依存しすぎないことが大事です。例えば、特定の機関から重要な情報提供を継続的に受けているとき、情報がもらえなくなると発信ができなくなってしまうので、情報源に過剰に配慮した報道をするインセンティブが働きやすくなります。記者クラブや一部の企業発表などはその一例と言われています。独立性を担保するためには情報源の観点も重要ではないでしょうか。

結局、自分たちの立ち位置について考え、きちんと外に向けて発信することで、「権力」との向き合い方が明確になるのだろう。生貝氏が指摘する。

新しいネットメディアにとっても、これまで長い時間をかけて形作られてきた「メディアの倫理」が有用であり続ける部分は多いと思います。それを基底層として、ネットメディア独自に必要となる倫理をどう積み重ねていくかを、広義の「制度設計」の問題として考えていくことが、この研究会の結論につながっていくのではないかと思います。

「政治権力」や「政治的利害」に翻弄されないためにも、メディアとしての具体的な行動指針を考える必要があるということだろう。ネットメディアの中には、ポリシーが見えにくいものも多いが、存在感が高まる中で、自らの再定義が必要かもしれない。(編集・新志有裕)

※「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第13回討議(14年8月開催)を中心に、記事を構成しています。

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