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「広告ブロック」時代に、メディアは何ができるのか?

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ネット広告の表示を遮断するソフト「広告ブロック」の影響についての調査結果が、波紋を呼んでいる。

アイルランドの調査会社「ページフェア」とアドビが10日に公開した調査結果によると、「広告ブロック」の世界的な利用者は、この1年で4割増の約2億人になり、それによって失われている広告収入は約220億ドル(約2.7兆円)にのぼるという。

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ユーザー側の需要の高まりはよくわかるデータだが、メディアや広告主にとっては、あまり幸せなニュースではない。

「広告ブロック」の広がりによって、ネットがどう変わっていくのかも気になるところだ。

しかも、この「広告ブロック」を提供する企業自体が、「広告ブロック」回避のサービスを請け負っている点が、話をさらに複雑にしている。

●220億ドルの損失


この「広告ブロックレポート」によると、今年6月段階の「広告ブロック」ソフトのユーザーは世界で1億98300万人。

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その伸び率も前年比で40%だ。2012年には4100万人程度だったが、2013年(116%増)、2014年(57%増)と急速にユーザー数を伸ばしている。

地域ごとの利用率を見ると、ギリシャ(37%)、ポーランド(35%)、スゥエーデン・ドイツ(25%)など欧州や、北米でもカナダ(20%)、米国(15%)とよく使われている。

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日本の利用率は2%とまだ低い。

インターネットユーザー約30億人のうち、「広告ブロック」のユーザーは6%程度ということになる。

「広告ブロック」によって広告が表示されないことの損失額は、2015年の推定額で218億ドル。ネット広告全体の14%が「広告ブロック」で失われている、と見る。

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この損失額は前年比86%の増加だが、2016年にはさらに90%増の414億ドル(約5兆円)に達すると見積もっている。

「広告ブロック」はブラウザーの拡張機能としてインストールするものだが、最も広く使われているのはグーグルのクローム用で1億2600万人。前年比51%の伸びだ。さらにファイアフォックス用4800万人(同17%増)、サファリ用900万人(同17%増)と続く。

さらに、レポートではサイトの分野別のユーザーの「広告ブロック」の利用率もまとめている。

最も高いのはゲームサイトで26.5%。次いでソーシャルメディアの19.1%、テック/ネット系の17%。

モバイルの「広告ブロック」利用はまだ全体の1.6%。だが、今秋公開されるアップルのiOS9が「広告ブロック」に対応することから、その影響は大きいと見ている。

●ブロックの仕組み


「広告ブロック」の仕組みは、基本的にはブラックリストによる排除だ。

例えば、広く使われている「アドブロック・プラス」の場合は、「イージーリスト」と呼ばれるブラックリストの中に、ウェブページ内の広告表示のための記述や、広告配信サーバーのドメイン名などがまとめてあり、これをもとに広告を排除している。

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さらに補足的なブラックリストも用意されており、ユーザーが追加することもできる。

「イージーリスト」の説明によると、排除対象は「うっとうしい広告、わずらわしいバナー広告、そして厄介なトラッキング(閲覧行動追跡)」としている。

広告表示や、そのためのユーザーのトラッキングがなくなれば、その分ウェブサイトのデータ量は軽くなり、表示も速くなる。

ユーザーが「広告ブロック」を使う大きな理由だ。

●ブロックを回避する方法


「広告ブロック」を回避する方法もある。

「広告ブロック」はホワイトリストも持っており、ここに記載されれば表示を排除されることはない。ただ、それは有料になっているようだ。

フィナンシャル・タイムズによると、すでに3億ダウンロード以上という「アドブロック・プラス」を提供するドイツのベンチャー「アイオー」は、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどの企業に、有償でホワイトリストへの掲載を認めているという。

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ホワイトリスト化には条件がある。同社は他の関係企業とともに「アクセプタブル・アド」という団体をつくっており、そこで定めた〝受け入れられる広告〟の基準をクリアすることだ。

その基準は5項目にわたっており、(1)うっとうしくない(2)コンテンツを邪魔したりゆがめたりしない(3)広告であることの明確な表示(4)突然、効果音を出したりしない(5)サイトにとって適切な広告であること、とある。

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また、課金は大企業のみで、中小はブログのホワイトリスト化は無料のようだ。ニューヨーク・タイムズの記事によると、課金はホワイトリスト化する企業の1割程度だという。

この「アクセプタブル・アド」には、「広告ブロック」レポートを公表した「ページフェア」も加盟している。

そして、「ページフェア」自身が、各サイトのユーザーの「広告ブロック」利用状況調査や、「広告ブロック」に排除されない広告配信サービスを提供している。

●批判と裁判


著名投資家のクリス・ディクソンさんは、「ページフェア」の調査そのものに疑問を投げかけている。

「広告ブロック」が伸びているという証拠を発表している「ページフェア」は、「広告ブロック」回避サービスで稼いでいる会社じゃないか。

また、ドイツではメディア各社が、競争制限にあたるとして「アドブロック・プラス」の「アイオー」を相手取った訴訟を起こしている。

だが、今年4月には「アイオー」を訴えていた「ツァイト・オンライン」と「ハンデルスブラット」の新聞2社が敗訴

5月にもドイツのテレビグループ大手の「RTL」と「プロジーベンSAT1」がやはり敗訴した

ユーザーが自由意思でインストールしているソフトは、競争制限禁止法違反には当たらない、という判断のようだ。

大手新聞グループ「アクセル・シュプリンガー」による裁判がなお係争中だが、今回もメディアにとっては分が悪そうだ。

●新たな方向


これに対して、暗号化技術などで「広告ブロック」に広告と認識させないという、「ブロックのブロック」サービスを掲げる「シークレット・メディア」などの企業も登場している。

ただ、別のアプローチをとるメディアも出てきている

ワイアードは、バナー広告で「ホワイトリストに加えてください」と直接読者に訴えかけ、サイト上でその手順も説明している

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ガーディアンもバナーで、「広告ブロック」のユーザーに対して、「広告ブロックのスイッチをオンにしていますね。ガーディアンを別の方法でサポートしたいとは思いませんか」と、「有料サポーター」のページに誘導するという対応をとっているようだ。

困ったときに、率直に読者に訴えかけるというのは、スマートな方法かもしれない。

ただ、正攻法で行くのなら、なぜ広告がブロックされているのかに目を向け、ユーザーに邪魔にされない広告を考えるのが一番なのだろう。

少なくとも「ノンクレジットのネイティブ広告」が解決策でないことは、共通理解になっていてほしいとは思う。

(2015年8月23日「新聞紙学的」より転載)

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