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『ウルトラセブン』第12話は、封印すべき作品だったのか? “アンヌ隊員”に聞いた

ひし美ゆり子さん「私の目の黒いうちに絶対復活を」

2017年10月01日 08時54分 JST | 更新 2017年10月02日 07時29分 JST
小学館
「アンヌ今昔物語」(小学館)より

特撮番組『ウルトラセブン』は、10月1日で初放送から50周年を迎えた。

頭に装着した「アイスラッガー」というブーメランを敵に投げつける戦い方が特徴的で、1967〜1968年に放送。ウルトラマンシリーズの中で、もっとも人気があるキャラクターの一つだ。

正義の宇宙人が巨大化して外敵と戦うという点では、ほかのウルトラマンシリーズと変わらないが、「地球は狙われている」として、宇宙人の地球侵略にテーマを絞った。暴力や退廃的な文化を描いたり、差別問題を扱ったり、子供向けとは思えないほど「社会派のストーリー」が際立っていた。

そんな『ウルトラセブン』には、放送から3年後に欠番となり、世の中の表舞台から「封印」されたエピソードがある。第12話「遊星より愛をこめて」。「スペル星人の回」としても有名だ。

再放送では扱われず、ファンの間では「幻の作品」とされている。なぜこの回は「封印」されたのか。当時の時代状況を振り返るとともに、「復活して欲しい」と願う、当時アンヌ隊員を演じた俳優ひし美ゆり子さんを訪ねた。

■真っ白な体の宇宙人

ウルトラセブンの第12話は、スペリウム爆弾の実験で被曝して健康被害に悩んだ宇宙人「スペル星人」が、腕時計に似せた道具を使って、地球人の血液を集めるというストーリーだ。スペル星人は、真っ白な体にケロイド状の火傷の跡がついた、核爆弾で被爆したような痛々しい姿だった。

当時はアメリカとソ連の間の冷戦のまっさかり。軍事的な緊張が高まっていた。脚本家・佐々木守さんは12話に込めた思いを「核実験反対ということだった」。実相寺昭雄監督も「被爆のない国へ、がテーマ」と生前に私のインタビューに答えていた。

Kenji Ando
実相寺昭雄監督(2003年11月撮影)

■被爆者団体から抗議

第12話は、実相寺監督の前衛的な映像表現もあり、放送時は問題にはならなかった。

しかし3年後、小学館の学年誌『小学2年生』の付録についた怪獣カードで「ひばく星人」というニックネームで紹介されたことが大きな騒動となった。

小学館
『小学二年生』付録の「かいじゅうけっせんカード」に掲載されたスペル星人。裏面(右)の「ひばくせい人」の記載が問題視された

東京都内の女子中学生がこのカードを見つけ、原爆被害者団体の関係者だった父親に相談。父親が出版社に抗議の手紙を送ったことが、1970年10月10日付の朝日新聞が報じたことで全国に知られることになった。

朝日新聞社
朝日新聞1970年10月10日朝刊の記事

実際の番組では「被爆星人」という字幕やセリフは使われていない。このニックネームは、放送後にフリー編集者の大伴昌司が発案したものだった。

彼が1968年に出版した『カラー版 怪獣ウルトラ図鑑』で使ったのが初出と見られており、円谷プロが出版社などに配布した設定資料にも書かれていた。

1970年10月21日、円谷プロの円谷一社長(当時)は被爆者団体からの抗議に以下のように回答。『ウルトラセブン』第12話の封印を約束した。

出版物に於けるスペル星人の取り扱い方につきまして、弊社と致しましても、監修、管理の不行届きのありました点及び別名を被爆者星人(※)と称した点、又形状の人間に近いプロポーションであった点等を十分反省し、今後一切、スペル星人に関する資料の提供を差し控える所存でおります。

( ※正確には「被爆星人」)

■50周年を機に復活を望む声

封印から実に47年。特撮ファンの間では、『ウルトラセブン』の放送から50周年を期に「今こそ解禁を」という望む声が盛り上がっている。

ウルトラマンシリーズでは「平和」がテーマになることも多く、「スペル星人」制作陣も差別意識があったことを否定している。 円谷プロに「12話を解禁する予定はありませんか?」と取材を申しんだところ、以下の答えが返ってきた。

ご質問の件でございますが、1970年当時の当社発表内容から方針の変更はございません。つきましては、本件に関するコメントは控えさせていただきます。

円谷プロは、円谷一族の同族経営が2009年に終わり、現在はパチンコ企業「フィールズ」の子会社となっている。3月にはウォルト・ディズニー・ジャパン出身の塚越隆行氏が新社長に就任するなど経営環境が変わっているが、スペル星人を取り巻く状況は変わっていないようだ。

筆者は2004年10月に出した単行本『封印作品の謎』で、ウルトラセブン第12話を取り上げたことがあり、ハフポスト日本版でこの欠番エピソードを取り上げることは悲願だった。

実相寺監督も脚本家の佐々木氏もすでに亡くなっている。第12話の関係者に取材を申し込んでも「そっとしておいて欲しい」と断られる日々が続いた。

■ひし美ゆり子さん「第12話こそ、絶対に風化させちゃいけませんよ」

時事通信社
ひし美ゆり子さん(2013年09月撮影)

そんな中、女優のひし美ゆり子さん(70)にインタビューすることができた。『ウルトラセブン』のヒロインに当たる友里アンヌ隊員を演じた、その人だ。

近年では執筆活動にも力を入れており、セブン撮影当時のことを振り返ったエッセイ集「アンヌ今昔物語」(小学館)を7月に出版したばかりだった。

——12話が封印されていると知ったのはいつですか?

私が知ったのは、だいぶ後ですね。ファンの間でダビングを重ねて画質が悪くなったビデオテープを貸し借りしていたんですが、「ひし美さんにも見せてあげる」と送ってくださった方がいたんです。私自身は、封印された経緯を全く知らなかった。作品に関わった当事者は知らないんですよ。キリヤマ隊長(中山昭二さん)も亡くなる数年前に、電話で「アンヌ12話ってなんだ?観たいのだけど」って!

——放送時に映像を見た記憶はありますか?

日曜夜7時にオンエアした時に見てなければ、見てないですね。そんな時代でした。再放送していたことすら知らなかったんです。

——もう50年近く前になりますが、撮影当時のことで印象に残っていることは?

監督の実相寺さんと会うのがそのとき、初めてでした。「鬼才」と噂されていたし、「すごいのが来るよ」ってマムシさん(毒蝮三太夫、当時の芸名は石井伊吉)に脅かされていました。ロコ(桜井浩子さんの愛称)は、すでにタメ口で「うらやましいな」って思いました。私はすごく人見知りで、特に上の人には全然、口がきけなかったんです。

——実相寺監督の演技指導は厳しかったんですか?

いえ、演技指導は一切しない人でした。どちらかというと勝手にしゃべらせておいて、遠くから望遠レンズ撮っていましたね。逆に緊張しなくて良かったです。

——実際に第12話を見返してみて、どんな感想を持ちましたか?

「みんなが騒ぐほど、何が悪いのかな?」とは思いますね。作品のメッセージとしては「原水爆は良くない」と風刺を込めた作品なのに、なぜ50年近くも封印されなきゃいけないのかな、と思いますね。

——ひし美さんにとって欠番になった12話は、どんな存在でしょう?

私だって、もう意地ですよ。12話は決して悪いものじゃないのに誤解されていると思います。私の目の黒いうちには絶対復活して欲しいと思っています。20年近く前、1997年にインターネットで個人のホームページを始めたばかりのころから、ずっと言っているんです。

——第12話が描いたテーマでいうと2011年にも福島第一原発事故が起きました。「放射能の恐ろしさ」が改めて広まっているように思います。

だから第12話こそ、絶対に風化させちゃいけませんよ。監督の実相寺さんや脚本の佐々木さんら、作品を作る人たちはそのつもりで作ったわけですから。それを逆の意味で捉えられちゃうと悔しいですね。

小学館

■作品を公開して議論する道はないか?

ひし美さんは「作品自体に罪はない」「風化させちゃいけない」と痛切に訴えた。その熱い視線は「ウルトラセブン」の放送当時と変わらなかった。

今回の件は、「ウルトラセブン」のキャラクターが、映像の枠を超えて、子供向けのカードとして流通していくうちに「被爆星人」という誤解をもたらすニックネームが使われてしまった。そのギャップが抗議を受け、封印に繋がった。

爆弾実験で被曝した宇宙人というスペル星人のシリアスな設定は、そもそも子供向けの商品としては不向きだったかもしれない。

ただ、円谷プロは「ウルトラセブン第12話」に込めた思いや当時の抗議の背景を説明した上で、映像資料として公開する手もあるのではないか。

そうすれば、作品を残しながら議論を深めることが可能になるはずだ。一部の海賊版を除いて映像が見られない現状では、スペル星人に本当に問題があったのか議論することができない。

関係者が多く、50年の時がたっているため難しい面もあるかもしれないが、「私の目の黒いうちには絶対復活して欲しい」と訴えたひし美さんの思いが、円谷プロに届くことを期待したい。