「投票するってどんな気持ちですか?」 ツイッターでの出会いと「ヘイト」「偽ニュース」

嘘の情報と、人種差別的な書き込みがセットになって投稿、拡散されていた。

■ツイッターで若者と出会う

「投票するって、どんな気持ちですか?」

福岡県福岡市の姪浜駅の喫茶店で向き合った女性(24)は、少し恥ずかしそうに微笑みながら、私にたずねた。ストレートの髪、黒縁めがねの女性は、祖父母以前の世代が朝鮮から日本に移住し、国籍は韓国。生まれも育ちも日本だが、選挙で投票する権利はない。

約1カ月前の自民党が勝利した衆議院選挙で、私や同僚はツイッターを使った選挙取材を進めた。ハッシュダグ「#選挙行きま 」を付けて政治への意見をつぶやいてもらう取り組みで、「#選挙行きま す」「#選挙行きま せん」など数百の声が集まった。選挙戦の終盤、ネット上で意見をくれた人々に記者が直接会いにいくことになり、出会ったのがその女性だった。

女性はツイッターで、

「選挙に行かない若者は、政治に興味がない!」という意見をよく目にするけど、単純にどこを選べばいいか、考えても考えてもわかんないだけじゃないかと思う。#選挙行きま

とつぶやいていた。自分にはない選挙権を持つにもかかわらず、同級生や友人たちが投票に行かないことを以前から疑問に思っていたという。「投票はしなくても、政治を真剣に考えていくことが大切だと思う」と語っていた。

■フェイクニュースとヘイトスピーチ

同時期、私はインターネット上の「フェイクニュース」を判定するプロジェクトに参加していた。法政大社会学部・藤代裕之研究室と日本ジャーナリスト教育センターの取り組み。約20社から参画した記者たちには、衆院選に関する真偽不明のニュースや書き込みが連日メールで送られてきた。 真偽不明情報の中で、ツイッターのこんなつぶやきに手が止まった。

「在日外国人に政治活動を行う権利なし!選挙運動(ビラ配りやポスター貼り演説など)も違法!」

これは偽情報だ。総務省と法務省などを取材したが「外国人の選挙運動を制限する規定はない」との回答だった。これらの投稿は複数の記者が事実確認して「フェイク(偽)」だと発表された。 選挙や政治に関してだけでなく、嘘の情報と、人種差別的な書き込みがセットになって投稿、拡散されていた。

喫茶店で会った女性も「嫌な書き込みはツイッターでたくさん見ている」と話した。中学生のころに兄が「国に帰れ」と言われ、初めて「私は社会にいちゃいけない存在なのか」と悩んだという。

■民族は「虚構」

小坂井敏晶氏の「増補 民族という虚構」(ちくま学芸文庫)には「民族とは血縁連続性や文化固有性に支えられた実体ではなく、人間が歴史的に作ってきた虚構の物語だ」とある。在日「朝鮮人」への差別も念頭に、こう記している。

「現実には言語を始めとする文化の面においても、また身体的にも朝鮮人ほど日本人に近い人々はない。<中略>境界が曖昧になればなるほど、境界を保つための差異化ベクトルがより強く働く。人種差別は異質性の問題ではない。その反対に同質性の問題である」

虚構としてつくられた民族という分類、差別の上に、さらに事実をねじ曲げたフェイク情報も積み重なり、偏見を広げたり、人を断絶したりする情報が拡散してしまっている。

国内では人工知能などテクノロジー活用も含め、国内のフェイクニュース対策が動き出している。偽情報とヘイトスピーチの先にいる個人の姿を忘れず、記者として対策へ向けて行動していきたい。

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