インド州議会選で与党BJP勝利~ねじれ解消に向けて勝利を積み重ねられるか:基礎研レター

インド国民はインフレに敏感だ。
Hindustan Times via Getty Images

(州議会選挙でインド人民党が2勝)

11月から12月にかけてインド北部ヒマーチャル・プラデシュ(HP)州と西部グジャラート(GJ)州で議会選挙の投票(HP州が11月9日、GJ州が12月9日と14日)が行われ、12月18日に一斉開票された。

今回の州議会選は、7月の物品サービス税(GST)導入に伴う混乱によって国内経済が低調に推移するなかで迎えた選挙であるだけに、モディ首相の信認に陰りがみえるか注目された。

結果は、HP州ではモディ首相率いるインド人民党(BJP)が前回(2012年)から18議席増となる44議席(全68議席)を獲得し、州与党の座をインド国民会議派(INC)から奪い返した(図表1)。

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他方のGJ州は2001年~2014年にかけて州首相を務めたモディ首相のお膝元・出身州であり、BJPの大勝が見込まれていた。議席数は99議席(全182議席)獲得して6期連続となる州与党の座を維持したが、議席数は前回の2012年選挙の115議席から16議席失う結果となった。

一方のラフル・ガンジー率いるINCは前回から16議席増の計77議席を獲得した。GST導入という痛みを伴う改革に対する国民の不満やINCがカースト問題をとり上げることにより州人口の1割強を占める有力コミュニティ「パティダール(*1)」や「その他後進階級(OBC)」、「ダリット(不可触民)」からの一定の支持を得たことがINCの追い風となった。

BJPが今春行なわれた5つの州議会選挙において国内最大の人口(約2億人)を有するウッタルプラデシュ(UP)州で圧勝するなど4勝1敗で躍進(*2)した上、今回2勝を積み上げたことからもモディ政権に対する国民の高い支持が続いていることは明らかだ(図表2)。

しかし、当初BJPの圧勝が見込まれたGJ州でのINCの健闘は、来年以降の選挙でモディ政権が苦戦する可能性を浮き彫りにしたとも言えるだろう。

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(*1) パティダールのカーストはバラモン(司祭)、クシャトリヤ(王族、武士)に次ぐ第三の階級であるバイシャ(平民)に属する。2015年8月、グジャラート州で(パテル姓を名乗る)「パティダール」が、自らを公務員ポストや大学の入学枠を優先的に割り当てられる「その他後進階級(OBC)」への認定(もしくは同優遇措置の撤廃)を求める50万人規模の抗議デモを行なった。州政府が要求を受け入れなかったため、デモ指導者のハーディク・パテルはBJP不支持を表明していた。

(*2) 2017年2~3月にウッタルプラデシュ州、パンジャブ州、ウッタカランド州、マニプル州、ゴア州の5州で州議会議員選挙が実施された。政府は昨年11月、流通通貨の86%を占める高額紙幣を突如廃止する大胆な政策を実施したことにより、国内経済・社会が現金不足で大混乱に陥っていたが、モディ首相の汚職対策に取り組む姿勢が前向きに評価された。

(ねじれ議会と州議会選

なぜインドの州議会選挙が世界から注目されるのか。BJPは2014年総選挙の圧勝により下院では単独過半数を占めているものの、州議会議員による間接選挙で選ばれる上院では連立政党を加えても3割程度に止まっているためだ(図表3)。

インフラ整備や工場建設の加速を促すための土地収用法の改正はGSTに次ぐ大改革と期待されるが、上院における審議の停滞で成立できないままとなっている。つまり、「ねじれ」を解消して構造改革を進めるためには、与党連合が州議会選挙で勝利を積み重ねていく必要がある。

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現在、与党連合・国民民主同盟(NDA)が州与党である州は全体の6割を超えている(図表4)。しかし、州議会議員による上院議員選挙は2年毎に1/3ずつ改選されるため、州議会選直後に上院の議席割合が変わる訳ではない。

少なくとも2019年4~5月に予定される総選挙のタイミングでは議会の「ねじれ」が解消されない見通しだ。(なお、連邦制を採用するインドでは土地政策や農業政策の権限は州政府にあるため、NDAの州与党が広がるとモディ政権が掲げる政策を各州で推進できるメリットはある。)

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(2018年の州議会選と注目ポイント)

2018年は8州で議会選挙が行われる。3月に北東部のメガラヤ州とナガランド州、トリプラ州、5月に南部カナルタカ州、年後半には中部のチャッティスガル州、マディヤ・プラデシュ州、北東部ミゾラム州、西部ラジャスタン州で予定される。2017年の州議会選挙は3年前に誕生したモディ政権の中間評価という位置づけだったが、今年は2019年の総選挙を控えた前哨戦となる。

特に上院枠の多いカナルタカ州、マディヤ・プラデシュ州、ラジャスタン州の結果は重要だ。

国内経済が回復に向かうなかで物価の安定を維持できるかが、選挙結果を左右する重要なポイントとなりそうだ。2018年のインド経済は徐々に加速し、7%台半ばの成長ペースに戻る可能性が高い。

現在インド経済は高額紙幣の廃止とGST導入期の混乱による低迷から回復に向かっており、更に今後はGST導入によるサプライチェーンの効率化や地下経済対策、破産法施行、国営銀行への資本注入策なども経済の追い風となる。こうした国内需要の増加と足元の資源価格の上昇は今後のインフレ圧力となるだろう。

また2017年の物価の押下げ要因となっていた食品価格の動向も引き続き注意が必要だ。耕地面積の約5割が天水農業であるインドにおいては、年間降雨量の7割強を占める雨季(6~9月)に雨不足となれば穀物生産量が落ち込み、食品インフレが強まる傾向がある(図表5,6)。

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インド国民はインフレに敏感だ。前回の総選挙で政権交代が起きた背景にも自国が抱える高インフレ体質があっただけに、過度なインフレは総選挙への致命的なダメージとなりかねない。BJPにとって景気回復は今後の州議会選挙での好材料となるものの、物価動向には細心の注意を払う必要がある。

また今後インフレ圧力が高まる局面でインド準備銀行(RBI)が現行の緩和的な政策スタンスを3年ぶりに引き締め方向へと舵を切ることができるかもポイントだ。

幸いにもラグラム・ラジャン前RBI総裁は2015年2月に「インフレターゲット」を導入、2016年10月には「金融政策委員会」を発足させるなど金融制度改革を進めてきた。

金融政策の透明性向上が表面的なものではないことを示すことができれば、国際金融市場におけるRBI、ひいてはインドルピーに対する信頼が一段と高まり、金融市場を通じた物価の安定にも寄与するだろう。

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(2017年12月28日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 研究員

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