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競争と協調~企業の存在意義はどこにあるのか:エコノミストの眼

競争だけが経済の活力を生み出す源泉ではない。

2018年02月02日 11時50分 JST | 更新 2018年02月02日 11時51分 JST

1――競争の重要性

1991年12月にソ連が崩壊したことで、ロシア革命を経て1922年にソビエト連邦が成立して始まった社会主義(共産主義)と資本主義との対立は事実上終わった。

計画経済と社会主義、共産主義は同じものではないが、私有財産を認めるかどうかという点を通じて密接に関連しており、ほとんど同義語として使われることも多い。

社会主義諸国は、企業や個人が自由に取引する市場の役割を認めず、政府の計画に従って経済を運営しようとした。努力の結果に応じた報酬を得られないのであれば誰も努力しようとしないから、市場での競争を利用することと、私有財産の蓄積を認めることとは分かち難く結びついているからだ。

計画経済が市場経済に敗れたのには様々な原因があるが、競争がうまく働かなかったために経済が非効率だったことが大きな原因であることは誰もが認めるだろう。

社会主義や共産主義は性善説に依存して、人々が誘因がなくても努力すると考えていた。残念ながら、自分を省みても人は易きに流れるということは否定できず、努力の結果で差がないのであれば誰も努力しなくなってしまうというのは確かだ。

しかし私有財産制度を支える財産権は非常に重要なものだが絶対的なものではなく、社会全体の利益のためには当然様々な制限を受ける。社会を「万民の万民に対する戦争状態」というホッブスのような競争だけの世界と考えるのも行き過ぎだろう。

2――組織への貢献度

ある部門の成果を個々のメンバーの貢献に分解できるか、それとも個人の貢献の合計では説明できないものが残るのか。

会議の場で哲学の違う大物財界人二人がそれぞれの自説を主張し、丁々発止と渡り合うのを目の当たりにしたのはもう20年以上も前のことだが、互いに実際の経験に基づいて一歩も譲らない白熱した論戦は、今でも強く印象に残っている。

複雑な現象も単純な要素に分解できるという考え方は、科学の大きな進歩をもたらした要因で、西欧的思想の根幹を構成する要素だろう。

企業が生み出す成果も、同じように要素に分解できる。経済の教科書では、企業の収益はそれぞれの貢献に応じて労働と資本の寄与にきれいに配分できるように賃金と利益率が決まると教えている。

しかし、組織に属する人々が協力することで生まれる成果は、誰のものかははっきりせず、教科書に書いてあるようには簡単に分配できないものが残る。組織は単に個人が集まっているだけのものではない。

3――企業はなぜ存在するのか

市場経済では企業同士が激しい競争を繰り広げ、生産効率を高めて競争相手よりも安い価格で商品を供給したり、より品質の良い商品を提供したり、消費者の購買意欲をそそる新商品を開発しようと努力することによって経済が発展していく。市場経済の原動力は企業間の競争だ。

ところが、市場の競争があらゆる場面で効率性の改善をもたらすのであれば、企業という組織は存在する意味が無い。なぜなら企業内で行なわれている業務を分解してそれぞれの社員が請け負って、市場で競争するようにすれば今よりも効率良く業務が行なえるはずだからだ。

それにも関わらず企業という組織はなぜ存在するのか?それはひとりひとりが独立した会社のように生産活動を行い市場で取引を行なうよりも、組織として活動する方が効率的だからだということになる。組織を構成する人たちが協力しあっていくことで、企業間の取引よりもうまく活動できる。

つまり企業は競争ではうまくできないことを、組織を使うことで克服するために存在する。従業員を競争させるということだけでは、企業がうまく動かないのは当然なのだ。

4――サービス化への対応

経済活動は数えやすいモノの生産から、サービスという目に見えないものの生産にシフトしており、企業という組織の中でそれぞれの社員の成果はさらに見えにくくなっていく。

成果をより目に見える形にする努力は重要だが、必ずしもうまくいくとは限らない。ともすると目に見えやすい成果だけが評価されて、本当に重要な働きは評価されないということになる危険性がある。

労働経済学の教科書には、しばしば、最も生産性が低い従業員を解雇したところ、組織全体の生産性が大きく低下してしまったという話が登場する。生産性が最も低く見えた従業員は他の人々が効率良く働けるように潤滑油の役割を果たしていたということがあるという戒めとして紹介されることが多い。

競争だけが善で、それを阻害するものは全て悪であるという単純な議論が横行しがちだが、競争だけが経済の活力を生み出す源泉ではない。

企業組織は社員が互いに助け合い協力し合うことで効率を高めるために存在しており、互いの信頼や協調が効率を生み出す源泉だ。管理職の仕事は、組織の中で競争と協調の微妙なバランスをコントロールすることだろう。

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(2018年1月31日「エコノミストの眼」より転載)
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