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AKB48に労災は適用されるか? (社会保険労務士 榊裕葵)

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昨日5月25日、岩手県で行われたAKB48の握手会会場で、メンバーの川栄李奈さん、入山杏奈さんが凶器で攻撃されて負傷をするというショッキングな事件が発生した。

■芸能人は労働者か
不幸中の幸いなのは、両名とも命に別状がなかったということであるが、今回の事件を受けて、私は芸能人にも労災保険が適用される可能性はあるのか、ということが改めて気になった。

これを考えるとき、労災保険は原則として「労働者」に適用される保険であるから、「芸能人は労働者なのか?」ということが重要なポイントとなる。

この点、芸能人の労働者性については、厚生労働省から通達が出ていて、下記1~4の要件を全て満たす場合には労働者ではないが(個人事業主扱い)、いずれかを満たさない場合は労働者であるとしている。

1.当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸能性、人気など、当人の個性が重要な要素となっていること
2.当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと
3.リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクションとの関係では時間的に拘束されることはないこと
4.契約形態が雇用契約ではないこと
(S63.7.30 基収第355号)

■AKB48にあてはめた場合の結論
ここで、上記の基準を、AKB48に当てはめた場合、どのような結論になるであろうか。

まずは1の要件であるが、AKB48では、「そのメンバーが何らかの事情で公演やイベントを休んだ場合、ピンチヒッターではカバーしきれない」ということが労働者性を否定する判断基準になろう。

大島優子さん、指原莉乃さん、渡辺麻友さんといったような全国区で名前を知られた中心メンバーであれば、労働者性が否定されることは間違いないであろう。

この点、今回被害にあった川栄さん、入山さんについては、総選挙で選抜入りまではしていないが、いわゆる「圏内」にランクインしているし、バラエティなどのテレビ番組にも出演して個が認められつつある中堅メンバーである。したがって、完全に、とまでは言わずとも、労働者性は否定される方向に働くと考えられる。

2の要素については、インターネット上の情報であるが、劇場公演のギャラは回につき5,000円程度とのことである。劇場公演が中心のメンバーであれば、報酬は公演回数に比例するから労働者性が強くなるが、川栄さんや入山さんの場合は、劇場公演だけでなく、1の要件で述べたよう、テレビ出演などもこなしているので、報酬は稼働時間に比例しているとは言い切れない。したがって、2の要件についても労働者性は否定される方向に働くと考えられる。

一方、3の要件については、川栄さん、入山さんに限らず、AKB48のメンバーは秋元プロデューサーや劇場支配人らの指揮命令のもと公演活動を行い、各メンバーには自由裁量がなく、時間的・場所的拘束もあろうと思われる。したって、労働者性を肯定する方向になるのではないかと私は考えている。

4の要件についても、外部からはどのような契約書が交わされているのかは分からないが、実態として見るならば、雇用契約に近い内容なのではないだろうか。

3の要件で述べたよう、メンバーは時間的、場所的拘束を受けているし、劇場公演や握手会も、体調不良以外では参加を拒否することはできない。また、チーム異動を伴う組閣や、キャプテンへの任命なども、原則として運営の方針に従わなければならないというのは、一般企業でいえは人事権に基づく異動そのものである。

AKB48のドキュメンタリー番組を見ていても、秋元プロデューサーがメンバーに訓示をしている場面などは、一般企業において社長が従業員に訓示をしている姿と全く同じだ。

以上を総合的に考えると、AKB48のメンバーは、知名度や報酬の支払われ方によっては労働者性を薄める要素にはなるものの、運営側の拘束を強く受けているので、法的には労働者と認められる可能性が相当程度あるのではないかと私は考えている。

■労災保険が適用される場合のメリット
今回の事件による負傷に関しては、運営側が傷害保険をかけているであろうから、そこから治療費などはカバーされるはずなので、労災保険が適用されなくとも、少なくとも金銭的な意味では、被害にあったメンバーが不利益を受けるということはないであろう。民事上は加害者への損害賠償も可能だ。

しかし、もし今回の事件が不幸にも重大な結果になっていて、長期入院や障害が残ってしまったような場合には、労災保険が適用されれば一生涯にわたって公的な補償が受けられるし、今回に限らず、劇場公演や写真撮影などの際に、何らかの事故で怪我をしてしまった場合なども労災保険が適用されるならば心強いであろう。

また、労災保険は通勤災害もカバーしているので、メンバーが自宅から劇場やテレビ局などへ向かう途中に事故にあった場合にも保険給付が受けられるというメリットは大きい。

したがって、AKB48のメンバーが、活動中の事件・事故により、怪我をしたり病気になったりした場合、運営側や加害者から納得のいく補償が得られないときには、損害賠償の訴訟と並行して、労災保険の適用を申請してみる価値はあるのではないだろうか。

働き方については以下の記事も参考にされたい。
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最後に、今回の事件で負傷したメンバーやスタッフの方が、元気に復帰できることを祈りたい。

特定社会保険労務士・CFP 榊裕葵