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消える身近な農空間/生物多様性の宝庫として田んぼや里地を守るには

2017年04月18日 00時18分 JST

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を発信しています。4月号の「NEWS」欄では、身近な農空間を守るために新たな取り組みを進めている公益社団法人・大阪自然環境保全協会の岡秀郎理事・事務局長から報告を受けました。

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田んぼなどの身近な農空間が突然消えることがある。「にほんの里100選」の選定地のように、景観や生物多様性で評価を得てきた所も例外ではない。守るための手立てを考え始めた団体に、その取り組みを紹介してもらった。(編集部)

    

「にほんの里100選」の里地で生物多様性も豊かな大阪府枚方市「穂谷」のシンボルだった棚田が、畑作転換・土石採取とみられる工事で消滅し、早2年になろうとしている。穂谷は大阪の市街地近郊ながら貴重な自然環境と景観を保っており、環境省「モニタリングサイト1000」の里地生物調査で全国初のコアサイトに指定されたほどだっただけに、様々な関係者のダメージは大きい。

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●穂谷の棚田。工事前の様子(上)と工事中の様子(下)=大阪府枚方市、写真はいずれも大阪自然環境保全協会提供

「農地改良」で棚田が消滅

消えた棚田は、穂谷の農地を通る里道を挟んで、おおむね1万m2あった。所有者の男性が亡くなり、間もなく水耕も続けられなくなった。引き継いだ地権者の話では、業者に棚田の土砂を取って畑にしてもらう、いわゆる畑作転換の「農地改良」をするということだった。工事は2015年7月に本格化し、現場を通った市民調査員は工事を目の当たりにし、驚いて私に写真を送って状況を知らせてくれた。

その前年から「開発されるのでは......」という情報が入っていたため、大阪自然環境保全協会と地元のボランティア里山保全団体は共同で、枚方市長や同市議会議長、同市農業委員会、大阪府枚方土木事務所宛てに保護保全を求める要望書を提出した。

その要点は、①生物多様性基本法に基づく当該エリアの保護保全②当該エリアその周辺における動植物の生息状況の調査③種の保存法における種の保存および絶滅危惧種等の保護保存④畑作転換届および土砂採取に関する調査・監督・指導・命令⑤砂防、公道路管理に関する法制度に抵触する行為に関する調査・監督・指導・命令、を求めるものだった。

しかし、民有地の私権の壁や、地元行政も含めた保全法制度の不備もあり、地元枚方市も手をこまぬいているうちに工事に突入してしまった。

どんどん減る田んぼなどの農耕地

農林水産省の統計による全国の田んぼの耕地面積は、数字は古いが1970年と比較してみると、2014年は71%に減少した。大阪府内ではこの間、41%にまで激減している。また農空間が比較的まとまって広がる枚方市の農耕地は、1990年の878haから2012年の642haへと73%に減少しており、27%の減少率は、雑木林や草地など他の植生区分を抜いてトップである(枚方市自然環境調査報告書)。

全国を見渡してみると、エネルギーや産業構造の変化、住民の高齢化や世代交代などの複合的な要因から、耕作できなくなり放置された農耕地はおびただしい面積で広がっている。仕事がら山野に出ることも多いが、その荒廃ぶりはすさまじい。両親の実家のある滋賀県彦根市郊外の田園地帯も、昨秋久しぶりに通ったところ、1枚の田んぼすら見つからなかったほどだ。放置され荒廃した雑木林や人工林も千数百万haの規模で広がっている。

しかし、周知の通り、里地里山・田んぼなどの農空間は「生物多様性の宝庫」とも言われる。先述のモニ1000における穂谷の植物相調査で見つかった種は、草本のみでも約800種にのぼり、大阪府の絶滅危惧種20種近くを確認したほどで、全国的に見ても生物多様性はかなり高い。これは、棚田などの田んぼやため池、草地、雑木林など様々な環境がちりばめられた里地里山であり、なかでも田んぼは農作業に合わせて1年サイクルで水環境がさらに変化するため、多くの生物に利用されてきたことによる。

里地里山について、現在の「生物多様性国家戦略2012−2020」では、下の表のような項目の中で、危機の構造とそれに対する施策を記載している。

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市民の関わりやトラスト活動を

穂谷の隣にある枚方市尊延寺地区で知人の田畑の保全に関わってきたこともあり、今回の件で、農空間の生物多様性保全について覚醒させられた。今さらだが、自然保護団体はこの問題を避けては通れないと強く再認識した。田んぼなどの保全は、取り組みを展開すべき喫緊の課題となっている。

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●援農地の見学会。関心を寄せる市民は増えてきた=大阪府能勢町

そこで2016年から、ささやかながら「里山農空間保全・仕組みづくり」という取り組みをスタートした。この活動の目的の要点は、生物多様性の宝庫である田んぼを中心とした農空間を、少面積のスポット的でも、より早く、市民団体や市民の側から関わって支援・保全をする仕組みをつくり、普及していくことだ。

この取り組みでは、市民が農に関わる制度などのリサーチ、ヒアリング、講習、現場見学、農活動支援、学習会を行い、次のような5項目の活動を進めていく。

Ⅰ  グループづくり......農保全・農支援を主体的に行うグループをつくる。十数名程度が

集まったが、より多くの人が関われるようグループを拡大していく。

Ⅱ  農・就農等の情報......必要な情報の収集、参考になるウェブサイト等のリスト作成。

Ⅲ  農地の確保......活動場所として3カ所を見つけ、すでに2カ所で現地活動を始めた。

2017年度から、耕作できる田んぼを追加する計画。

Ⅳ  農にふれ合う機会......農従事者と市民の橋渡しをすることで、農にふれ合う機会を設

ける(未展開)。

Ⅴ  企業・団体とのコラボ......近くに関係ができる見込み(未展開)。

先述のように、放置された里山や農地は、高齢になった所有者からの相続や宅地化などの開発圧力に伴って売却され、開発される。相続税や固定資産税などの制度も、自然破壊を招く一因になっている。

大阪自然環境保全協会では山林などの寄付を募るトラスト活動も行っている。所有しているのはまだ2件(3カ所)だが、土地寄付の依頼は4件、問い合わせなども数件あり、なかには田畑や古民家についての相談もある。相続や税負担という問題がトラスト活動を推しているという状況であり、こちらも全国的な問題の縮図だ。

しかし、土地や森の管理といったリスクなどの課題があるため、私たちのような小さな団体が手放しで受け入れることはできない。今後、大きな仕組みをつくる必要があると認識している。