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猪野元健 Headshot

動物園から姿を消すゾウ、未来の子どもたちは国内で見られない可能性も

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国内最高齢のアジアゾウ「はな子」さんが5月26日に死にました。10年で7つの動物園からゾウが姿を消したことになります。50年後には現在の115頭から20頭に減る予測もあります。

東京都武蔵野市の井の頭自然文化園で飼育されていた「はな子」は69歳で、国内最高齢でした。1949年にタイから戦後初めて来日したゾウで、上野動物園を経て、54年から井の頭自然文化園で飼育されてきました。

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親子3世代から愛されたアジアゾウ「はな子」=2016年3月、東京都武蔵野市、写真はすべて猪野元健撮影

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歯が1本しかないはな子のために、飼育係は毎日、麦ご飯のおにぎりなど3キロの手作りのえさを用意した

動物園のスター、ゾウが各地でいなくなっています。寿命が長く、動物園のシンボルであり、地域の人々は大きなショックを受けています。

今年2月にアジアゾウ「メリー」が死に、ゾウがいなくなった岡山市の池田動物園を今月10日に取材しました。遠足で訪れていた市立芳明小2年生は、からっぽのゾウ舎をながめ、残念そうに別の動物を見に行きました。

「メリーちゃんがいないのに、どうして動物園に行くの?」。担任の先生は出発前に子どもからこんな質問をされたそうです。「ゾウは子どもたちにとってとても大きな存在だったと、いなくなって気づきました」と先生は話しました。

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池田動物園のゾウがいないゾウ舎の前を通る地元の小学生たち=5月、岡山市

1967年にタイから2歳で来園したメリー。池田動物園のアイドルとして、もっとも目立つ場所に展示されました。8年ほど前に前脚の裏にけがをして、今年2月に立ち上がれなくなりました。動物園が3月に開いた「お別れ会」には約700人がかけつけました。副園長の忠政智登士さんには、いまもメリーの死を惜しむ人たちの声が届きますが、「岡山では、もうゾウさんが見られないかもしれない」と悲しそうでした。

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メリーの写真を持つ副園長の忠政智登士さん(81歳)は、メリーが2歳で来園したときから成長を見守ってきた

日本動物園水族館協会によると、アジアゾウは1987年には45園に83頭いましたが、はな子が死んだのを含めて34園79頭に減少。アフリカゾウは1984年の22園84頭が、2016年には17園36頭に減りました。

この10年間では、北海道の札幌市円山動物園、旭川市旭山動物園、釧路市動物園、神奈川県の小田原動物園、福岡県の大牟田市動物園、池田動物園、井の頭自然文化園の計7園からゾウがいなくなりました。

国内で唯一、アフリカゾウが家族でくらしていた愛媛県のとべ動物園では、4月に父親の「アフ」が死にました。推定29歳で、アフリカゾウの繁殖に貢献してきた個体でした。

国内のゾウ管理のまとめ役である上野動物園の乙津和歌さんによると、将来頭数予測ソフトによる解析では、アフリカゾウは30年以内にゼロに、アジアゾウは50年以内に20頭になるとされます。

ゾウが減っている原因は、動物園での繁殖と海外からの輸入がむずかしいことです。アジアゾウ、アフリカゾウともに野生では絶滅の危機にあり、野生動植物の国際取引に関する条約「ワシントン条約」で取引の規制が厳しくなっています。生息地でもゾウを大切にする意識が高まっています。

ゾウをただ展示するだけではなく、繁殖のために研究する目的の場合は、輸入が認められることがあります。ただし、ゾウの本来の姿である「群れ」で飼育し、広い敷地を用意する必要があります。

2007年にゾウがいなくなった円山動物園。札幌市では、市民の要望を受けてミャンマー政府と交渉し、18年度にアジアゾウ4頭がやってくることになりました。市は約20億円かけて、もとのゾウ舎の20倍近い5千平方メートル(バスケットボールコート12個分)の飼育施設を整備する計画です。

童謡「ぞうさん」を作詞した詩人まど・みちおさんの出身地、山口県周南市の徳山動物園では12年にゾウがいなくなりましたが、スリランカから「友好の架け橋」としてゾウ2頭が寄贈されました。やはりゾウ舎を大きく改修し、13年9月から一般公開が始まりました。

一方で、池田動物園のような小さい動物園には、スペースもお金も余裕がなく、動物園だけの力で再びゾウを飼育することはきびしいです。ゾウの再導入には、地域の支援や生息地の国とのつながりも必要です。

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徳山動物園で開かれたゾウの寄贈式。スリランカから経済開発大臣が出席するなど、盛大な式だった=2013年9月、山口県周南市

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徳山動物園で飼育されているゾウ2頭=2013年9月

上野動物園の乙津さんは、「海外からのゾウの輸入を模索するとともに、国内での繁殖に力を入れている」と話します。上野動物園では、めすの「アーシャー」と相性の良いおすを探すため、09年に愛知県の豊橋総合動植物公園に「嫁入り」させました。繁殖に成功し、いまは出産経験が豊富な千葉県の市原ぞうの国でくらしています。「人気のゾウを他の動物園に移すことには反対意見がありますが、ゾウの未来のために理解してほしい」と乙津さん。

欧米では、動物園で飼育されるゾウの福祉を重視しようという声が高まっています。専門家によると、ゾウをより広い敷地の動物園に移して飼育する取り組みもあります。井の頭自然文化園のはな子は1980年代から歯が1本しかなく、飼育係が特別のえさを用意するなどして大切に育てられてきました。一方で、1頭のみでの飼育や展示場の地面がコンクリートということに、海外のゾウの専門家から飼育環境の改善を求める声もありました。

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5月22日付の朝日小学生新聞に掲載した連載「動物園のいま」に大幅に加筆し、写真を追加しました。