BLOG

ただ飯(めし)こそ我が命

2015年02月27日 18時17分 JST | 更新 2015年04月28日 18時12分 JST

ドイツの大手企業の株主総会では、たいてい企業がビュッフェ形式の昼食を株主たちに提供する。こうした株主総会には、お年寄りつまり年金生活者たちがどっと押し寄せる。彼らは、ビュッフェで先を争って食事をするだけではない。中には持参したタッパーウエアに食べ物を詰めて持ち帰る人もいる。見かねた主催者側が、「食事を持ち帰るのはやめて下さい」とよびかけることもある。景品のボールペンを10本近くわしづかみにする株主もいる。

首都ベルリンには、もっと凄い人々がいた。三度の食事をするためだけに、講演会などのイベントに参加している人たちがいるのだ。彼らはドイツ語で「イベンティスト」と呼ばれており、主に年金生活者や失業者である。

ベルリンには様々な財団、研究機関、ロビー団体がある。これらの団体や省庁、議会、企業などが開く講演会やシンポジウム、レセプション、会議の数は、毎月数100件にのぼる。こうした催しには、たいてい立食形式の食事がついている。

2015-02-27-Berlincafe.JPG
若者たちでにぎわうベルリン・クロイツベルクのカフェ。ベルリンは活気に溢れユニークな町だが、大企業の数が少ないので、貧困問題も抱えている。(筆者撮影)

イベンティストたちは前もってインターネットや新聞で催し物の日取りを調べ、参加を申し込む。一応講演や朗読会を聞くふりをしているが、彼らに関心のあるのは食事だけだ。このため、なるべく食事のビュッフェに近い後ろの方の席に座る。

ある女性は、原則として朝食、昼食、夕食をこうした催し物で済ませる。特に食事の質が高いのは、バイエルン州政府やバーデン・ヴュルテンベルク州政府が首都ベルリンに持っている代表部でのレセプションだという。

ベルリンのイベント担当者の間では、「ただ飯」を目当てにこうした催し物に参加する人々がいることは、よく知られている。しかし主催者としては、参加者の数が多いに越したことはない。毎月数百件も催し物があるため、イベント主催者間の競争も激しい。100人が座れる会場に20人しか聴衆が来ないのでは、講演をする側もがっかりする。このため、主催者もイベンティストの参加を完全に禁止せず、見て見ぬふりをしている。「枯れ木も山の賑わい」というわけだ。

ベルリンは、政治家、官僚、ジャーナリスト、外交官の町であり企業の数が少ない。2015年3月のベルリンの失業率は11.2%。大企業が多いバイエルン州の失業率(4.2%)を大幅に上回る。ある統計によると、自分の収入で生活している人は市民の60%にすぎない。残りは年金生活者、学生、失業者である。

連邦統計局は、市民の年収を多い順に並べた場合に、年収が中間値の60%未満である市民を貧困層と定義している。ベルリンでは、貧困層に属する市民の比率が21.4%とドイツの州の中で3番目に高い。ちなみにバイエルン州は貧困率が最も低く、11.3%だ。

イベンティストたちは、今日もベルリンのどこかで、せっせとレセプションに参加しているに違いない。

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載

(文と写真・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de