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黒岩揺光 Headshot

「陽光」がアフリカに恵みをもたらすと勘違いされている安倍首相へお伝えしたいこと

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安倍晋三様

初めまして。2010年から3年間、首相がこの度のアフリカ開発会議(TICAD)出席のために訪れたケニアに滞在した黒岩揺光と申します。会議の開会式での首相の基調講演について、いくつか気になった点がありましたので、共有させていただきます。

まず、首相は講演で「悲観主義くらい,アフリカの陽光と,大地に似合わない『主義』はない」と、「陽光」を悲観の対義語として使用されました。英訳文では「Africa blessed by the sunshine」(陽光の恵みを受けるアフリカ)となっていました。

しかし、私が見たアフリカは、恵みを受けるどころか、陽光が悲観主義を生む大きな一因となっていました。2011年、東アフリカを、激しい「陽光」がたくさんのアフリカ人の命を奪う干ばつが襲いました。私が働いていたケニアのダダーブ難民キャンプには、毎日1000人以上の難民が押し寄せました。彼らは、何百キロの距離を数週間かけて歩いてやってきました。「陽光」を避けるため、昼間は木陰で休み、夜間に歩きました。途中で何千人もの方が栄養失調で命を落とされました。

私の南アフリカ人の友人は、息子に「マル」と名付けました。日本語で「雨雲」という意味です。台風、津波、大雨など、水害で亡くなられる方が多い日本とは対照的に、アフリカでは雨は恵みで陽光は脅威なのです。東日本大震災の被災地に他国の首脳がやってきて、「日本は水で溢れている。悲観する必要はありません」と言ったら、被災者はどう感じるでしょうか?

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首相の講演は拍手喝采で受け入れられたようですね。それもそのはずです。大きな国際会議にやってくるアフリカの政府高官や援助機関幹部の方たちは、大きな家と車があるため、一般庶民と違って「陽光」から被害を受けないエリート層ばかりです。それに、多額の支援を約束してくれることはわかっていますから、拍手をしないわけがありません。私は彼らを「援助貴族」と呼んでいます。

アフリカは長い間、日本を含む先進国からの援助を受け続け、たくさんの「援助貴族」を輩出しました。私がいたダダーブ難民キャンプにも多くの援助貴族がいました。当時のキャンプの人口は40万人。ケニアでも大都市の一つです。1991年に設立され、主にソマリアからの難民が暮らしていました。20年以上、住民全員に一律の食料配給がなされていました。国連やNGOなど20以上の援助機関が入り、1000人以上のスタッフが食料、医療、教育など様々な支援をしていました。

そして、通訳などの下請け作業を担う「難民従業員」も約6000人おり、就労許可がないため、援助機関から毎月6000円から1万円を「手当」という名目で受け取っていました。つまり、毎月数千万円の現金がキャンプ住民に支給されていたわけです。

さらに、「第三国定住」というプログラムで、毎年数千人が欧米諸国へ渡り、親戚や友人からの送金もたくさんキャンプへ入りました。こういった資金で、キャンプ内にレストラン、スーパー、ネットカフェ、タクシー、DVD鑑賞室、塾など、5000軒以上のビジネスが立ち上がっていました。こういった富裕層難民の多くは、食料配給で受け取るものはすべて売りさばき、現金に代え、さらに金持ちになっていきました。

金持ちの家庭は、英語を教える塾に子どもを通わせることができます。一方、貧困家庭は、子どもに靴磨きや薪拾いなどでお金を稼いでもらわないと生きていけないため、学校に通わせることができません。英語ができれば、国連やNGOで働くことができ、安定した収入源を得ることができます。こうして、援助機関の存在自体が、キャンプ内の格差を生んでいく要因となるのです。

首相は講演で、たくさんの人材育成プログラム実施を約束されました。ダダーブでも、援助機関によって、同様のプログラムが実施され続けました。しかし、私がダダーブの国連勤務時代に実施した若者の実態調査によると、高校卒業者の9割がそういったプログラムを受けたことがあるのに対し、学校に行けない貧困家庭の子たちは1割だけでした。こういった人材育成プログラムの多くは、英語で実施され、広報も援助機関で働くエリート難民を通して行われるため、貧困層はプログラムの存在自体を知らない場合が多いです。

エリート難民は、それなりの資金が溜まると、数十万円で「ケニア人国籍」をお金で買い、就労許可を得ます。そうすると、国連や援助機関で現地採用の正規職員として働くことができ、給料は5倍から10倍に跳ね上がります。ダダーブの国連の運転手の給料は月10万円で、ナイロビの1年目の医者が5万円です。現地採用として出世すれば、「本部採用」になる可能性も出てきます。そうなれば、給料は月50万円以上になり、難民従業員の時と比べたら100倍の出世になるのです。
 
格差の拡大は治安を悪くさせます。都市化したキャンプ内は、テレビやパソコンがある富裕層が暮らす地区と貧困層が暮らす地区に分かれていきます。私の滞在時、拉致事件が2回起き、私の欧米の友人ら計8人がさらわれましたが、2回とも貧困地区で起きました。私たち外国人を拉致すれば、身代金で莫大のお金が入るだけでなく、格差を生んだ張本人である援助機関に対する報復にもなります。
 
援助する側に「エゴ」があるのは仕方ありません。首相が演説の最初に国連安保理の改革に言及したのは、長年の日本の悲願である、安保理の常任理事国になることを念頭に置いたからですね。アフリカ大陸から常任理事国が出ることは、会議に出席しているエリートたちにとっては魅力的かもしれませんが、格差の底辺で暮らす人にとっては優先順位が低いと思われます。

ソマリアの独立記念日に、私が「おめでとう!」と言っても、その日が独立記念日だということさえ知らない難民がいました。文字の読み書きができず学校にも行けないと、そういう情報さえ入らないのです。この人に「アフリカのどこかの国の一つが安保理の常任理事国になるかもしれないぞ」と言って、果たして喜んでくれるでしょうか。ちなみに、ソマリアでは国連機関をターゲットにしたテロが頻繁に勃発しております。

首相は「量より質」を重視すると言いつつ、演説の大部分は支援額、投資額、そして援助対象者数などの「量」に割かれました。今、アフリカに必要なのは「どれだけ支援するか」ではなく、「どういう方法で支援が必要としている人に支援を届けるのか」です。アフリカで影響力を拡大する中国を念頭に、「民主主義」や「法の支配」など、中国と差別化をはかる言葉も見受けられました。

しかし、支援を受け取る側からしたら、二つの大国が別々に支援して同じ人が支援を二重に受け取るより、協力した支援体制を構築してもらったほうが好都合ではないでしょうか。

新しいフォーラムを作ったり、人材育成プログラムをするのは、成果を簡単に見せたい援助機関の得意技であり、援助貴族のお気に入りでもあります。私も、ジュネーブの国連で働いていた時、アフリカで人材育成ワークショップを4回やりました。

参加者は高級ホテルに泊まり、食事が提供され、さらに日当として1日6000円支給されました。大卒の平均月収が2万円の国で、4日間の研修に参加すれば一ヶ月の給料がもらえるのなら、訓練の中身など関係なく、どんなことをしてでも参加したいでしょう。ワークショップでは、途中でいなくなる参加者もいれば、遅刻してくる参加者もいます。そして、ワークショップで決められた行動計画通りに物事が実施されることは稀でした。

私は、ケニアでの3年間、自分のエゴが先走りして、現地住民と信頼関係構築に苦労し、実りある援助ができず、何度も挫折しました。(詳しくはこちらをクリックしてください)現役の日本の首相がケニアを訪れるのが、今回15年ぶりだったそうですね。エゴが先走りする原因の一つに、現地の人々とのコミュニケーション不足があると思います。どうか私の犯した失敗を繰り返さぬよう、首相が目指される「質の高い支援」の実現を願っております。