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アフリカで日本独自の外交をしたいのなら、欧米の報道をそのまま垂れ流すのはやめましょう

日本のメディアは欧米の報道を垂れ流すのではなく、アフリカに潜む根深い問題に焦点を当てた報道をしてほしい。

2017年11月28日 12時01分 JST | 更新 2017年11月28日 12時01分 JST

アフリカに滞在していたころ、「日本は欧米諸国と違ってアフリカのような植民地支配の暗い歴史もなく、独自外交を発揮できる土壌がある」という言葉を何人もの日本人から聞いた。確かに、私が会ったアフリカの人の多くは親日的で、日本人の勤勉性や和を重んじる姿に共感する人が多い。しかし、日本のアフリカ報道を見ていると、完全に欧米メディアの垂れ流しになっていて、これでは独自外交も難しいのではないかと思ってしまう。

ジンバブエのムガベ氏の大統領辞任についての報道なんてその典型だった。「37年に及ぶ独裁政権の終焉」などと報じ、経済を破綻させ、市民の人権を抑圧してきた大統領の失脚を喜ぶ市民の姿を繰り返し報じた。しかし、どのメディアも、「なぜ、そんな大統領が40年近くも君臨することができたのか?」を報じようとしない。

アフリカにおける日本のメディアのプレゼンスを考えたら深い報道ができないのは無理もない。サブサハラアフリカには48か国あり、人口約8億人、面積は米国と中国を足したよりも広いのだが、この地域に日本の主要メディアはたった1人の記者しか派遣していない。

駐在期間は3年前後で、同じ場所に2度駐在することは滅多にないため、その記者が入社前にアフリカ滞在したことがないと仮定した場合、日本に届くアフリカの情報というのは、滞在歴3年以内の人が広大な地域を掛け持ちしながら取材した物が大半ということになる。ケニアのナイロビに駐在しながら、6000キロ離れた西アフリカのセネガルについて報道するということは、東京にいながらパキスタンについて報道するようなものだ。

では、なぜ、ムガベ氏はそんなに長い間大統領に居続けることができたのか?日本ではあまり報道されなかったが、一か月程前、ジュネーブに本部を置く国連機関、世界保健機関(WHO)がムガベ氏を親善大使に任命した。しかし、それに欧米諸国が「人権侵害を繰り返した人に国連の親善大使が務まるのか」と反発。供出金を多く出す欧米からの声をWHOは無視することができず、結局、ムガベ大統領の任命は取り消されたのだ

WHOのトップはエチオピア人で今年就任したばかり。10年ほど前まで国連事務総長をガーナ人が勤めていたから、意外に思われるかもしれないが、主要国連機関のトップがアフリカ出身者というのはとても珍しいことで、WHOでは初めてだ。私が勤めていた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を含め、ほとんどの場合、先進国の人がトップに就く。

そのため、エチオピア人の事務局長就任は、国連内でのアフリカ人の存在感が上がっていることを対外的に示した形になった。UNHCRでも、アフリカ局の局長は必ずアフリカ人が就き、一定の存在感がある。一方、UNHCRにアジア人や日本人専用の幹部ポストはない。アジア局の局長は欧米人が就くことが多い。お金をたくさん出している日本がWHOの様な主要国連機関のトップに就くことも、UNHCRの幹部ポストももらえないのに、お金をあまり出さないアフリカがなぜもらえるのか?

理由は一つ。日本は韓国や中国、他のアジア諸国と連携できないのに対し、アフリカは一つにまとまることができるからだ。一国に一票が割りてられる国連で、50票あるアフリカ票は大きな影響力を持つ。日本では信じられないかもしれないが、私がケニアに滞在していたころ、サッカーのワールドカップで、ケニア人が数千キロ離れたガーナをまるで自分の国の様に応援していた。私たち日本人が隣の韓国や中国を応援するのさえ珍しいのに、数千キロ離れたネパールやスリランカを応援できるだろうか。首都ナイロビには、他のアフリカ諸国の独立の父の名前が道の名前に使用されていたりする。

それだけ、植民地支配から脱却したという共通の歴史認識がいまでもアフリカ人に連帯意識を持たせ、それこそが、ジンバブエの独立の英雄、ムガベ大統領を長らくトップの地位にとどめた要因ではないだろうか。トランプがアメリカファーストなら、ムガベはアフリカファーストをずっと宣言してきた。WHOのトップに初めてアフリカ人が就いたのもムガベ氏たちの功績とされ、そのお返しとして、親善大使任命の話が浮上したという。

私はケニアのUNHCRNGOで計3年働き、さらに、多くのアフリカ人が働くUNHCR本部(ジュネーブ)で2年働き、黒人職員と非黒人職員との間にある溝を垣間見た。アフリカにとっての国連は二つの顔を持つ。一つは、平和や発展に寄与する組織。二つめは、最高峰の収入が得られる就職口だ。ケニアの国家公務員の給料が月2万円で、医師が5万円で、私が働いた難民キャンプの国連の運転手が10万円稼ぐ。現地採用の他のスタッフが1220万円稼ぎ、現地採用から本部採用に昇進でもしたら、40万円から100万円稼ぐことになる。

しかし、現実は本部採用の多くは欧米人で、白人の上司が多くの黒人の部下を抱えるという植民地時代を連想させる構図になっている所が多い。ケニア人にとって、現地採用から本部採用へ昇進するのはかなりハードルが高いが、日本を含む先進国の人にとっては、国連への拠出金を多く出している分、「JPO制度」という特別な派遣制度があるため、本部採用へのハードルは一気に下がる。

欧米諸国からすれば「お金を出しているのだから当然の権利」とか「そもそも先進国の人の方が大学院を卒業した率が高いのだから公平な採用をした結果」となるだろう。しかし、アフリカ人からしたら「私たちの方が現地のことを知っている」とか「政府がお金を出しているからという理由だけで最高の就職口が奪われるのは新植民地主義だ」となる。

そして、日本人職員に「国連で新しいポストを獲得できた決め手は何か?」とアンケートすると、大半が「上司の引き」と答えているように、国連は縁故採用が蔓延している。インターンや非正規のコンサルタント職の採用は、ほぼ100パーセント上司の裁量で決められ、そういった枠で組織内に入って人的コネを作り、正規ポストにつなげるケースが多く、アフリカ人職員の多くは、アフリカ人の上司に採用してもらったため、その恩を返すために、多くのアフリカ人を採用させようとする。私のアフリカ人の元上司は、コンサルタントを採用する際、70人ほどあった応募者の中から10人をショートリストし、その10人の中に3人も同じ国の出身者を入れていた。

これにより、人種間で派閥ができ、国連内ではよく人間関係のトラブルが絶えなかったが、なぜか、多くの場合、白人職員と黒人職員の間だった。白人の人たちは「アフリカ人の上司で有能な人を見たことあるか?」と言い、アフリカ人の人たちからは「ムズング(白人)と一緒に仕事はできない」と言った。黒人の上司は別の黒人の上司に情報伝達し、白人の上司は別の白人の上司に情報伝達し、同じ部署内に二つの情報伝達ラインができ、仕事が全く進まないことが多々あった。

そういうわけで、アフリカでは今でも植民地時代の白人と黒人との溝が深く残り、平和と国際協調のシンボルである国連組織がその溝をさらに深めている可能性もある。ジンバブエ独立の英雄であり、アフリカファーストを掲げてきたムガベ氏のおかげで、国連内でのアフリカ人職員の地位が上がり、多くのアフリカ人が最高峰の就職口に就くことができたことも、ムガベ氏が長い間トップに君臨できた理由の一つではないか。

黒人と白人、双方の胸の内を私が聞くことができたのは、私が日本人だということが大きいと思っている。だからこそ、日本のメディアは欧米の報道を垂れ流すのではなく、双方の胸の内に入り込み、アフリカに潜む根深い問題に焦点を当てた報道をしてほしい。アフリカがいつまでも親日でいてくれるとは限らないのだから。