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室橋祐貴 Headshot

<マスメディア>発言切り取りによる印象操作は誰も得しない

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17日の参院憲法審査会で自民党の丸山和也参院議員が「米国は黒人が大統領になっている。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。まさか米国の建国の時代に、黒人奴隷が大統領になると考えもしなかった」と述べ、「人種差別」だとして炎上している。

 

しかし、答弁を見ると、発言の一部が省略され、「人種差別」の面が強化されている。

そもそもこの参議院憲法審査会は「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての広範かつ総合的な調査」を行う勉強会のようなもので、この日は2人の憲法学者を参考人に呼び、丸山議員の前には「一院制」について議論するなどあくまで勉強という面が強い。

丸山議員は参考人である憲法学者に対して、「日本がアメリカの51番目の州になることに憲法上どんな問題があるのか」と質問を行い、その中で今回問題となっている発言が飛び出した。

少し長いが、実際の発言はこうだ。

丸山議員:これは憲法上の問題でもありますけれども、ややユートピア的かもしれませんですけれど、たとえば、日本がですよ、アメリカの第51番目の州になるということについてですね、例えばですよ、憲法上どのような問題があるのか、ないのか。そうするとですね、例えば集団的自衛権、安保条約ってまったく問題になりませんね。たとえば、今拉致問題ってありますけど、おそらく起こっていないでしょう。それから、いわゆる国の借金問題についても、こういう国の行政監視が効かないようなズタズタの状態には絶対になっていないと思うんですね。

これはですね、例えば日本がなくなることじゃなくて、例えば、アメリカの制度によれば、人口比において下院議員の数が決まるんですね。比例して。それとですね、おそらく日本州というような、最大の下院議員選出州を持つと思うんです。上院も州1個とすれば2人。日本をいくつかの州に分けるとすると、十数人の上院議員もできるとなると、これはですね、世界の中の日本というけれども、日本州の出身が、アメリカの大統領になる可能性が出てくるようになるんですよ。ということは、世界の中心で行動できる日本という、まあその時は日本とはそのとき言わないんですけれども、あり得るということなんですね。馬鹿みたいな話だと思われるかもしれませんが、例えばいま、アメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引く、ね。これは奴隷ですよ、はっきり言って。で、リンカーンが奴隷解放をやったと。でも公民権もない、なにもないと。ルーサー・キングが出てですね、公民権運動のなかで公民権が与えられた。でもですね、まさかアメリカの建国、当初の時代に、黒人、奴隷がですね、アメリカの大統領になるようなことは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックな変革をしていく国なんですよね。

そういう観点からですね、たとえば、日本がそういうことについて憲法上の問題があるのかないのか。どういうことかということについて、お聞きしたい。それから、政党所属を忌避するということについての憲法上の問題があるのかないのか。これについて、まず荒井議員からお聞きしたい。これはですね、十数年前から日米問題研究会ということがありまして、それで本まで発表されてるんですね。だからそういうことについてですね、日本の憲法的な観点から、どのように思われますか? お聞きしたいと思います。

委員長: 荒井参考人。

荒井達夫参考人: 今の丸山議員の話というのは、私は一度も考えたことがありません。話を聞いていて、自分のなかに答えられるものがほとんどなにもないなというのが正直なところです。ただ、今の日本国憲法を、それで今、議院内閣制、任意性になっているのを、今の現状のなかでどういうふうに動かせば、公共の利益のためになるんだろうか、国益のためになるんだろうかという発想がまず必要だということと。それでも、ダメな場合には憲法改正をどういうふうにすべきなのかな、という、そういう議論しかしてまいりませんでした。それで、正直なところいいんじゃないかなと今でも思っております。ですので、ちょっと私にはお答えしかねるご質問だったなと思います。

(太字・下線は筆者)
 

解釈を含まない時事通信の記事でさえ、上記の下線部分を省略し、あたかもオバマ大統領が黒人奴隷かのような言い方をした印象を与えている。もちろん、「いま、アメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引く、ね。これは奴隷ですよ」の部分あたりは適切な表現ではないし、丸山議員も軽率だったであろう。黒人というバックグラウンドは合っているが、ケニアから米国に留学した黒人の父と白人の母との間に生まれたオバマ大統領は高等教育を受けてきたエリートで、例としても適切ではない(オバマ大統領の先祖は奴隷だったという調査結果もあるが)。「アメリカの第51番目の州になる」という発想もさすがに非現実的すぎる。しかし、各紙の報道は「黒人奴隷が大統領に」の側面ばかりを強調し、わざと問題化しようとしている印象を受ける。

 

主要各紙のタイトルはこうなっている。

時事通信ー「黒人奴隷が米大統領に」=自民・丸山氏が発言、陳謝

日経新聞ー自民・丸山氏「黒人、奴隷が米大統領に」 発言後陳謝

ロイター ー丸山氏「黒人奴隷が米大統領に」

朝日新聞ー「黒人・奴隷が米大統領に」 自民・丸山氏が発言し陳謝

読売新聞ー自民・丸山議員「黒人奴隷、米大統領に」...謝罪

産経新聞ー「米国は黒人、奴隷が大統領」自民・丸山法務部会長 参院憲法審査会で発言

 

こうした例は今回に限らない。

高市総務大臣の件も、全文を見れば、民主党の奥野議員が高市総務大臣に「電波停止になる可能性がある」という発言をするように促しているのは明確だ。奥野議員が「第四条の違反に関しては使わないという回答を求め、それを否定した形になっている。

 

また、「年金支給額の減額もあり得る」という安倍首相の発言も、民主党の玉木議員が「このGPIFで想定された運用益が出ない場合、年金が減額されることは法的に否定されませんね?」という質問を行い、安倍首相の「想定の利益が出ないということになってくればですね、それはまあ当然支払いに影響してくるわけであります。」という発言を引き出した。

だが、運用益が平成27年度Q4時点で38.8兆円出ていることを伝えず、また年金制度が賦課方式になっており、少子高齢化によって不足する可能性が高いから、一部の積立金を運用して、賦課方式で賄いきれない分の補填に回している(修正賦課方式)ことも伝えていない(株価を上げたい要素もあるだろうが、それだけ現役世代が減っており保険料が足りない、つまり運用しなければ保険料を上げる必要がある)。

 

結果的に、これらの発言は炎上し、翌日の予算委員会で繰り返しこの発言を問い質している。

しかし、本当に予算委員会で議論すべきは、高齢者への給付金の是非や先日民主党の長島議員が行った民間船員の徴用可能性、先日ネット上で話題になっていた待機児童問題、社会保障問題など政策面ではないだろうか。高市総務大臣の件も発言の是非ではなく、総務大臣が政治的公平性を判断する放送法の是非を問うべきだ。

これは政治家に限らず、メディアの問題も大きい。メディアが騒げば、政治家は露出するために言及する。通常国会というのは時間が限られており、日本には早急に解決すべき課題が多くある。そうした問題意識があれば、揚げ足取りに時間を割くのではなく、もっと貧困や世代間格差など大きな問題に目が向けられるよう報道していくべきではないだろうか。

 
(2016年2月19日「Platnews」より転載)