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今野晴貴さんインタビュー「諦めず、権利を行使する。それは社会人として当然のスキル」―いま、日本で働くということ(2)

2013年05月21日 00時01分 JST | 更新 2014年06月15日 22時11分 JST
Chika Nagase

ブラック企業、雇い止め、解雇ルールの検討――。いま日本では、働くことをめぐる問題が顕在化し、不穏な空気が漂っている。その反動か、会社に縛られない「ノマド」と呼ばれる働き方に活路を見出す人もいる。このような現状をどう捉えるか。日本人はどうすれば幸せに働けるようになるのか。本シリーズ「『いま、日本で働く』ということ」では、働き方をめぐって考え続けている4名の方にお話を伺っていく。

■今野晴貴さん(NPO法人POSSE代表)■

下北沢に「POSSE」という団体がある。若者が労働相談や政策研究・提言を行うNPO法人だ。設立は2006年6月。非正規雇用の若者が増加し、問題になっていた当時の状況を受け、中央大学法学部で労働法を学んでいた今野晴貴さんが「若者が相談できる場所を作りたい」と考えて開設した。現在は20代の若者40〜50名が中心となって運営し、年間およそ1000件の労働相談を受け付けている。彼らは「いま、日本で働く」ということをどう捉えているのか。代表の今野さんに話を聞く。

――今野さんは「いま、日本で働く」ということをどう捉えていますか?

今野:かつてなく厳しい時代だと思います。ただ非正規雇用が増えたり、賃金が下がっていたりするというだけではない。新卒の少なくない人たちが「ブラック企業」に入ってしまい、すぐに使いつぶされてしまう。若者の間での過労うつ、自殺の激増が、状況の深刻さを示しています。また、まともな企業に入っても、いつ経営方針が「ブラック化」して、クビにされるかもわかりません。

これらの結果、長時間労働やパワーハラスメントによって、結婚や出産、子育てができず、「生きる意味」すら奪われている若者は非常に多い。

そのうえ、労働規制改革で、解雇の自由化、残業代ゼロ円の合法化などが進められようとしています。少子化がこのまま進めば、日本全体も滅びてしまうでしょう。一言でいうと、「日本で働く」ことは、すでに極限状態にあるのです。

――働くことを取り巻く問題の中で、最も大きなものは何だと思いますか?

今野:上にあげたような問題を解決するためには、違法行為の取り締まりが必要です。ですが、ただ「規制を強めよ」というだけで物事が解決するわけでもありません。そこで誰もが同意するのは、「新産業を育成し、そこに人を移さないといけない」ということです。

雇用を増やしていくこと。同時に雇用の質を向上させるために、違法労働の取締りを強化することの両方が課題になるわけです。

新産業で雇用を増やすというところに関して言えば、経済界も含めた多くの人に共通する認識です。ただ、そこに向かうにあたって、みんな利害関係からいろんなことを言うわけです。中には、「むちゃくちゃだな」と感じる意見もありますね。

――その例を一つ挙げるとしたら?

今野:政府が成長戦略を作るため、民間企業の経営者たちを議員にして、産業競争力会議を開きましたよね。その中で「労働市場の流動化」が話題に上りました。

経済を成長させるには、衰退産業から成長産業に働く人を移さなければならない。しかしいまは正社員が手厚く保護されている。ならば、転職を促すために解雇ルールをゆるくしよう――そんな意図から「解雇ルールの緩和を」と主張する議員がいました。

しかし、単純に考えてわかるように、解雇できるようにしても、それらの労働者が優良な産業に移動するわけではない。むしろ、クビを切られるのは子育てなどで生活費が高い中高年です。彼らはつぶしも利きにくいので、労働市場にあふれかえって社会不安を巻き起こす恐れがあります。

本当に考えるべきことは、解雇規制を緩和することではなく、新産業に人を移動しやすいルールをどう立て直すかです。雇用が保障されていれば、企業は再訓練によって新産業に余剰人員を動かす努力をするでしょうし、社員はがんばってそれについていこうとします。逆に、いつクビになるかわからない状態だとしたら、「会社に貢献しよう」という意欲は減退してしまいます。

――今野さんが代表を務める「POSSE」には、年間1000件もの労働相談が寄せられるそうですね。たとえば、どんなケースがあるのでしょう?

今野:3か月働いたのに1円も支払われず「おまえは能力が低い、明日から会社に来るな」と言われる、上司に殴られている――。もちろん、ここまでひどいケースは、全体の中ではごく一部です。しかし、こういう状態を正すことすら難しいのが現実です。

――なぜおかしな現状が変えらないのでしょう?

今野:本来なら彼らのために闘うはずの労働組合が、その機能をほとんど果たしていないんです。会社の中でいじめやパワハラによる人権侵害がある場合、被害者を助ける勢力があってしかるべきですよね。でも、日本にはそれがほとんどないんですよ。「労働条件が低すぎるから改善しよう」と団結するんじゃなくて、「あいつは甘えてる」になってしまう。誰も若者や非正規労働者、あるいはブラック企業被害者の利益代表をしない。だったら自分がやるしかない。私がこの活動を始めた最大の理由はそれです。

――変化の兆しはないのでしょうか。

今野:少しずつ変わってきているとは感じます。違法な条件で若者を働かせるブラック企業の話をしても、以前は見向きもされませんでした。それがようやく聞き入れられるようになってきた。これは多くの人が苦しくなってきているがゆえに、私たちの言うことが真実味を帯びてきた、ということでもあるのでしょうけど。

――ブラック企業の実態とは、どんなものなのでしょう?

今野:ブラック企業の多くはIT、飲食、小売、介護といった業種の急成長企業です。こうした企業は新卒社員を大量に雇います。つまり、社員をふるいにかけ、選別したいわけです。「半年で店長になれなければおまえは必用ない」「おまえはまだ『予選』段階だからな」―—こうした言葉で追いつめ、サービス残業を強要します。生き残りのために、若者は必死になります。

しかし、「選別」などという「不合理な理由」による解雇は、契約法のレベルですら認められません。では、どうするか。辞めさせる段階になると、社員を自主的に退職させるため、さらなる長時間労働を課し、時に巧妙なハラスメントを仕掛けて「もう辞めたい」というところまで、精神的に追いつめるわけです。ほとんどの人がうつ病にかかって辞めてしまい、その後の再就職にも支障をきたしています。

このように、最初から相手が使い潰すつもりできていたら、こっちはどんなにがんばって働いても報われない、っていう話なんですよ。

――事前にブラック企業を見分ける方法は?

今野:ブラック企業の見分け方を論じることには、意味がありません。ふつうの人が生活するには、ブラックだろうがなんだろうが、どこかの会社で働いて、お金を稼ぐしかないわけですから。問題は、入社した会社がいわゆるブラック企業だった場合の構えが働く人たちにないことです。そこはぜひ、戦略的になってほしい。「会社に入っていれば安泰だ」と思考停止したまま、理不尽なことに耐えてうつになる前に、外部に相談してほしい。場合によっては、労働組合に入って会社と交渉したり、争ったりもできますから。

――何らかの仕組みによって、ブラック企業を規制することはできないのでしょうか。

今野:もちろん可能です。まずはすでに触れたように、現在は守られていない雇用のルールを現場に遵守させること。これに加え、労働時間の規制も有効です。うつ病になってしまう原因として一番大きいのは、結局のところ長時間・過酷労働なのです。だから、労働時間に歯止めをかけるだけで、かなり状況は改善するはずです。

けれど安倍政権は現在、それに真っ向から対立する「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれる制度を導入しようとしているんです。これが導入されれば、会社は社員を固定給で使い放題にできる。19世紀のイギリスと同じなんですね。当時のイギリスでは、それが問題になったから、労働法が作られたというのに。

――でも、現在だって労働時間は労働基準法で週40時間と決められていますよね?

今野:労使で協定を結べば、いくらでも例外が設けられます。月に45時間、年間で360時間という時間外労働の上限も、単なる行政指針であって、法律ではないために拘束力はなく、破ったとしても罰則はありません。24時間、7日連続で働かせてもOKなんです。だからブラック企業は長時間残業させてもしょっぴかれない。

――中には労働時間なんて気に留めず、みずから進んでクリエイティブに仕事をしている人たちもいます。

今野:それは大企業にいるごく一部の超エリートですよね。「全員がそういうふうにならなきゃダメだ」っていうのはおかしい。

ユニクロの「世界同一賃金」にも似たようなことを感じます。ユニクロの柳井正社長は4月23日、朝日新聞のインタビューで、世界中で同一の賃金を導入すると発表し、世界の競争にさらされているんだから、日本人はもっとがんばれ、という趣旨のことを言いました。

でも「ユニクロの店長」という職種は、そもそも各国国内で行うサービス業にすぎません。何の国際競争にもさらされていないわけです。

たとえば、車を買う場合には、日本車と韓国車を、私たちは同じように比較できます。(もちろん「関税がまったくない」というのが前提です)。しかし、ミャンマーのユニクロに行くか、日本のユニクロに行くか、消費者は選びようがない。日本のサービス業は、日本のサービス業としか、競争できません。つまり、本当は日本人同士が競争し、うつ病になるまで働いている。それは、小売りだろうとITだろうと介護だろうと、まったく同じです。

もちろん、グローバルに店舗展開をするハイレベルのマネージャークラスであれば、話は別です。彼らは世界戦略の中で国際的な競争にさらされます。しかし、現実にサービスを提供する現場の従業員には、国際競争など関係ない。そんなところで、なぜ死ぬほど働かなきゃいけないのか。そうやって、本当は虚構のはずの競争を煽られたごくふつうの人たちが、長時間労働によってうつ病になってしまうんです。

――やはり労働時間の規制が必要であると。

今野:もちろん、本当の意味で国際競争にさらされている分野は別ですよ。新産業のイノベーションや研究開発に携わる人たちが労働時間を厳格に管理されるのは、合理的でない場合もあり得るでしょう(よくよく審査が必要ですが)。

でも、そうでない人たちの労働時間は、規制して現実的な範囲にしないと、経済発展にも負の影響を及ぼします。うつ病を治療する医療費の大部分は社会保険料と税金です。だから長時間労働によってうつ病患者が増えれば、そのコストが社会全体に跳ね返ってくる。働く人の健康を守れるよう、労働時間を適正に規制するほうが、結果的に全体にとって利益になるはずなんです。

――最後に一つお聞きします。日本人が幸せに働けるようになるには、何がどう変わればよいと思いますか?

今野:労働ルールの無視や不合理ないじめが社内で横行している状態は、社会全体として見たとき、絶対にマイナスなんですね。効率のよいルールを作り、日本経済を再生していくためには、不当な長時間労働や残業不払いなどの違法行為を、積極的に告発していくことです。まずは、自分たちが諦めないこと、権利を行使すること。こうした意識を持つ必要がある。いってしまえば、それは社会人としてのスキル、当然のモラルなのです。

▼今野晴貴(こんの・はるき)

1983年、宮城県生まれ。NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍。著作に『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)。『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書)など多数。2006年、中央大学法学部在籍中に、都内の大学生・若手社会人を中心にNPO法人POSSEを設立。

[インタビュー・構成:長瀬千雅]

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