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世論調査やネットのアンケート調査をどう読む? 菅原琢准教授に聞く(前編)【読解:参院選2013】

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候補者の街頭演説に耳を傾ける人たち=2013年7月12日午後、東京都世田谷区 | 時事通信社
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参院選の投開票日をひかえて、テレビや新聞各社による「世論調査」やネット企業による「アンケート調査」が行われ、選挙情勢が盛んに報じられている。今回の参院選は、インターネットを選挙活動に活用できる「ネット選挙」が解禁されたこともあり、ネットを活用した調査も目立つ。一方、固定電話などを使った従来の手法によるマスメディアの世論調査が偏向しているという批判もネットで散見されるようになった。私たちは日々、ニュースとして流れてくるこれらの調査をどう受け止め、活用すればよいのか。政治学者、東京大学先端科学技術研究センターの菅原琢准教授に聞いた。


■ネットアンケート調査は“世論”を反映している?

――最近、ネットを利用した政治アンケートが盛んです。つい最近も、グリー、Twitter Japan、ドワンゴ、ヤフー、Ustream Asia、LINEのネット企業6社が、共同企画「政治意識に関するアンケート調査」を実施しました。結果を見ると、普段の支持政党、参院選で投票する予定の政党ともに自民党が最多でしたが、次点は共産党で、投票する予定の政党としては8.7%。普段の支持率5.2%(3位)から3%以上伸びています。これを受け、ある共産党関係者はツイッターで「ネット世論も激変がはじまりつつあります」と発言していました。こうした調査はネット、政治家や政党だけでなく、ユーザーである私たちも従来の世論調査と同じものとして受け止めてしまいがちなのですが、どこに違いがあるのでしょうか?
 

菅原准教授(以下、菅原):
まず、そのプレスリリースに示されているデータから考えてみましょう。すぐに気がつくのは、回答者の性別比は、女性25%に対して男性が75%と男性にひどく偏っている点です。この調査結果では、男性の意見が強く反映されているわけです。一方、普通の世論調査でも、選挙でも、そこに代表される性別の比は半々です。

さらに、「政治に非常に関心がある」48.7%、「政治にある程度関心がある」43.1%と、政治に関心を有している人が合計で92%近くになっています。一方、「どちらとも言えない」4.0%、「政治にあまり関心がない」3.3%、「政治にまったく関心がない」0.9%と、中関心、低関心の人々は1割を切る超少数派となっています。

ここで、周囲の人がどれくらい政治に関心を寄せているか、これを読んでいるみなさんにぜひ想像してみてください。おそらく半分もの人が「非常に関心ある」と自信満々に答えたりはしないでしょう。このプレスリリースから細かい調査手法はわかりませんが、政治に関心のある人が過剰に含まれてしまう方法で回答者を集めていることは明らかです。

回答者は、グリー、LINE、ツイッターなどさまざまなサービスの利用者から募っているようです。しかしそうであれば、これらのサービスを重複している人ほど回答者になりやすくなります。そうした人は高学歴で情報への感度が高いというネット利用者の特徴をさらに濃縮したようなユーザーが多いのではないでしょうか。共産党の数字が高くなるのはそのためかもしれません。

よく、「トレンドを追うのにネット調査は意味がある」という主張も聞きますが、この調査の場合は、こうしたネット上のサービスの流行り廃りに大きく依存するため、この主張も適用できません。モバイルゲームが当たる前のグリーがどうだったか想像してみてください。3年後のネットサービスがどうなっているかわかりませんから、3年後の選挙に際して同じやり方で調査しても、比較可能なデータになるかは怪しいです。

同じような観点から、ネットで参照されることの多いニコニコ動画のアンケートも真に受けることはできません。ニコ動アンケートは、そのときサービスを利用していた人に聞くため、そのときどのような動画が視聴されていたか、流行っていたかによって回答者の性質が変わるはずです。「重み付け」を行うなど一定の努力は行われているようですが、たまたまゲームプレイ動画を好む人の割合が多かったときと、排外主義的な動画視聴を目的とした人が多かったときとでは回答の傾向は異なるでしょう。こうしたバラツキを抑制する仕組みは採用されていないようですし、それ以前に、この調査単独でこうしたバラツキを抑制することは原理的に無理です。たとえば排外主義傾向の人の割合を同一に補正できたとしても、実際の世の中のほうで排外主義的な人が増えていた場合には、この傾向を過少に見積もることになってしまいます。

これに対して既存の世論調査は、「母集団」というものを想定し、その縮図を作るように回答者を抽出しています。政治に関する世論調査の場合、母集団は日本の有権者全員です。母集団からの偏りをなるべく小さくするために、日本のメディア世論調査では基本的に無作為抽出を行っています。層化二段階無作為抽出法やRDD法がそれです。説明が長くなるので、関心のある方はネットで調べてください。

さきほどの調査では、一応、これらのサービス利用者が母集団と言えそうですが、利用者に重複があり抽出も明らかに歪んでいることから、回答者をこれらサービス利用者の縮図とみなすことも難しいのではないでしょうか。

ここではご提示いただいた「調査」について述べましたが、実際にはネットによって行われる調査にもさまざまあります。この調査が無意味だからといって他の調査が全部無意味であるわけではなく、実際、マーケティングなどの現場ではネット調査が活用されています。メディアの世論調査でも、ネット調査でも、それぞれの調査の目的をまず確認し、そのうえで適切な調査や分析を行っているか考えていく必要があるでしょう。

■マスメディアの世論調査は偏っている?

――一方で、マスメディアによる出口調査や世論調査、あるいはその手法に対して懐疑的な声がネット上では散見されます。現在、マスメディアが行っている世論調査は「偏っている」のでしょうか?

菅原:「偏っている」という主張は、その人は「偏っていない数字」を知っていて成り立つものだと思います。しかし、こうした主張をしている人の中で、どなたか偏っていない「真の数字」を示した人がいたでしょうか? せいぜい、ネットで拾ってきた結果を持ち出してくるくらいでしょう。それが「真の数字」とはとても言えなそうなことはすでに述べたことから明らかです。

世論調査が「標的」となるのは、それが大手マスメディアを象徴するものだからでしょう。マスメディア批判をしたいがために世論調査を攻撃しているわけで、世論調査の方法や結果の誤差や偏りについて真剣に考え批判しているわけではありません。形の上で批判でき、無知な読者を惹きつければよいので、この手の批判の内容は間違ったものばかりになっています。

たとえば「RDD法は平日昼間に電話をかけるので主婦ばかりになる」、「携帯電話が対象とならないため、若者の意見が含まれず調査結果は年寄りの意見を示すに過ぎない」などが代表例でしょう。平日昼間だけで行うような調査は大手メディアでは見たことがないですし、RDD法では電話口に出た人に聞いたりはしません。こうした調査手法の段取りはネットでも公開されているので確認してみてください。たとえば日経リサーチのこのページや朝日新聞のこのページが手軽で参考になるでしょう。

また携帯限定層の問題も、現在のところ大きな影響はないということはデータにより示されています。携帯限定層と固定電話所有層とで大きな意識格差がないためです。前者に若者が多く含まれることによる偏りを修正する必要があるのであれば、重み付けを行えばよいだけです。

こうした「批判」を真に受けて、「朝日新聞社の誘導質問が~」等々ブログで発信しているような一般の方がいますが、その前にまずそうした「批判」やその「批判」主の誘導に気をつけて欲しいものです。

ここで言いたいのは、世論調査とその手法に全く問題がない、ということではありません。しかし、批判したいがためになされているような批判の類は、まともに調べもしていないため、本来指摘されるべき問題に対して「着弾」していません。その意味で、無意味な批判となっているわけです。

何が問題かは世論調査関係者の間で絶えず議論されていますから、本当にダメージを与えたいなら、そうした議論を参照するのが早いでしょうね。たとえばRDD法の限界についてはネット上で公開されている『政策と調査―世論・選挙調査研究大会記念号』などを読んでみることから始めるとよいのではと思います。

なお、ここでは詳しく述べませんが、選挙期間中に行われている各選挙区などの情勢報道のために行われる世論調査と、普段内閣支持率などを報じるために行われている定期的な世論調査は、目的や方法などさまざまな点で異なります。以上述べたのは主に定期的な世論調査に関するものです。

以前ある元新聞記者が、ある雑誌の記事で、選挙の際に記者が数字を調整していると述べて世論調査の数字が疑わしいと述べていました。しかしこれは、情勢予測のために用いる世論調査と、定期的に発表される世論調査の区別がついていないことからなされた発言であることは、知っている人から見れば明らかでした。

新聞の選挙情勢報道では、誰が当選する確率が高そうかという予測を提供しますが、調査結果の数字そのものは発表しません。投票日にどうなるか予測する必要もあるため、数字を予測式で返還したり、世論調査結果以外の情報を加味するとされています。元記者であっても世論調査について知らないことは知らないですし、あるいは自らの主張のために嘘や誇張を含めてしまうという、そういう例でしょう。

もっとも、そうした個別の情勢の加味はあるにせよ、大手メディアの選挙情勢報道で基本となるのは世論調査の数字です。これらのメディアの選挙結果予測は特殊事情がない限りかなり当たっています。このことから、世論調査結果と「真の数字」とは、今のところ大きな乖離は生じていないと考えられています。


■ツイッターのビッグデータ分析は世論とは違う?

――また、マスメディアとネット企業に共通する試みですが、ツイッター上の発言をビッグデータとして分析して、何が有権者の関心事なのかを知ろうとする取り組みもありますが、これも世論調査とは違うものととらえた方が良いのでしょうか?

菅原:何も共通項はないものと理解したほうが早いでしょう。ネット上で何らかの発言を行い、テキストとして流通するのは、その発言をしたい人の発言です。逆に、特に発言したいと思わない人の意見はネットに表出されません。ネットで政治について発言している人はほんの一部ですし、その中でもアクティヴな人は一部です。ツイッターなどで集められる政治に関する発言は、そういった濃縮された一部の声なわけです。

ネットでなく現実の日常でも、政治的な発言をしたい人の意見はいやと言うほど聞くことができるかもしれませんが、それ以外の普段政治的発言をしない人の政治的傾向はわかりませんよね。ご近所や職場の人の顔を思い浮かべてください。その全員の意見を等しく聞き出そうとするのが世論調査だとすれば、そのうち政治的発言を執拗に繰り返し、ときに周りをウンザリさせているような人の意見ばかりを過大に取り出すのが、ツイッター発言調査です。

世論調査がわざわざ無作為抽出という方法を採用するのは、そういう一部の主張の強い人だけに偏らないようにするためです。言い換えれば、政治関心の低い人も集めたいわけです。選挙ではそういう人も投票に行きます。現代日本では、以前に比較して政治への関心の低い人がかなり多くなっていますから、政治関心の高い人の声ばかりを集めたって、有権者全体の「世論」になるわけがないでしょう。こうした声は有権者とは大きく乖離しているだけでなく、ネット上に存在する人々の中でも異端です。「ネット世論」と呼ぶのも躊躇われます。

ただし、こうした調査に全く意味がないとは思いません。たとえば、政治家や政治評論家、新聞の編集委員のような人々が、こういったものを「ネット上の世論」、あるいは単に「世論」として見ているんだなと想像をめぐらすには良い資料になるでしょう。「ああ、この○○論説委員が言っている『ネットでは』は、こういう人たちの意見なんだな」と想像できれば、こうした人々の議論を真に受ける必要がなくなるでしょう。

後編に続く)

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◆菅原琢(すがわら・たく)

1976年生まれ。東京大学法学部卒。同大学院法学政治学研究科修士課程、博士課程修了、博士(法学)。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授を経て現職。専門は政治過程論、日本政治。著書に『世論の曲解』(2009年、光文社新書)、『「政治主導」の教訓』(共著、2012年、勁草書房)、『日本の難題をかたづけよう』(共著、2012年、光文社新書)、『平成史』(共著、2012年、河出ブックス)などがある。2013年5月現在、朝日新聞論壇委員(政治担当)、PHP研究所『Voice』政治時評担当。

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