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ワシントンポスト紙、突然の売却発表 その時社内では何が起きていたのか

2013年08月06日 20時13分 JST | 更新 2013年08月10日 21時50分 JST
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WASHINGTON, DC - FEBRUARY 20: Exterior view of the Washington Post building on L street on February, 20, 2013 in Washington, DC. (Photo by Bill O'Leary/The Washington Post via Getty Images)

ニューヨーク-- 8月5日月曜日午後4時15分、ワシントンポスト紙の発行人キャサリン・ウェイマスは社員に、会社の一階のホールで15分後に「ある発表」をすると伝えた。一部の社員は、半年ほど前から売りに出ているダウンタウンにある歴史的な本社ビルをワシントンポストがついに売ったのではないかと推測した。

しかし不動産のニュースを発表する代わりに、ワシントンポストを80年に渡って所有してきた新聞王ファミリーの親しまれたメンバーであり、ウェイマスを母にもつ共同取締役会長であるドナルド・グラハムは、「びっくりさせる発表」があると切り出した。ワシントンポストは今しがた2億5千万ドルでアマゾンの創立者であるジェフ・ベゾスに売却された、と。

「部屋にいた全員が押し黙った」とワシントンポストの社員のひとりはハフィントンポストに話した。

ワシントンポスト売却のニュースはその場にいた多くの雄弁なリポーターや編集者たちを黙らせただけでなく、メディア界全体に衝撃を与えた

大都市の新聞社は、印刷媒体の広告が衰退する中、新たなビジネスモデルを見つけるのに苦労していて、ここ数年は会社のオーナーが変わることもめずらしくなかった。ボストングローブは土曜日、20年前の11億ドルの売却値と比べれば二束三文で売却され、ロスアンゼルスタイムズとシカゴトリビューンも現在売りに出されている。億万長者のハイテクの大御所が象徴的な印刷媒体の会社を拾い上げても驚きではない。実際フェイスブックの共同創立者であるクリス・ヒューズはニューリパブリックを買収している。

しかし、最近の新聞各社の売却とは異なり、マスコミの間でも、2007年にルパート・マードックがウォールストリートジャーナルの親会社ダウ ジョーンズを買収した時のように、どこかの金持ちが要求されてもいない高額のオファーをしたといううわさもなかった。ポストTVのインタビューでグラハムは、今年の春から秘密裏に事前の話をしてきたが、彼がベゾスに実際に会って話をしたのはつい先月のことだったと語った。

言うまでもなく、グラハム家は、今でもニューヨークタイムズをコントロールしているサルツバーガー家と同様、ワシントンポストを手放すことはないだろう、というおそらく根拠のない長い間の憶測があった。この憶測は、人員削減やいくつかの買収、新しいオーナーになるのは近い将来だといううわさが広まっても変わることはなかった。先週末のタイム誌のウェイマスに関する記事は、ワシントン市民は「何十年もの間、ちょうどイギリス人が王室にするように、グラハム家を詮索し、神格化してきた」のだろう、と分析している。ちょっとおおげさではあるが、ワシントンの市民にしても、より広くはジャーナリズムの世界でも、ワシントンポスト紙が近くグラハム家以外の誰かに所有されることを予想できた人はほとんどいなかったといっていいだろう。

月曜の午後、グラハムは一家が長い間守り続けたワシントンポストについて、感傷的に語り、時折ことばに詰まっていた。

「この部屋のグラハム家のメンバーは皆、幼少の時から自分たちがワシントンポストを所有する家族の一員であることを誇りに思ってきた」とグラハムは社員に語った。「われわれはこのワシントンポストを愛し、それが体現するものとそれを生み出す人たちを愛してきた」

グラハムはしかし、ウェイマスとともにここ7年間連続して歳入の減少を見ているワシントンポストのオーナーがわれわれのような小さな会社でいいのかを自問してきたという。

「われわれは改革を行ってきたし、私の厳しい目から見てもそれらの改革は顧客や品質の観点からも成功だった。しかしそれは歳入の減少を埋め合わせるには足りなかった」とグラハムは社員に話した。「解決策はコスト削減しかなかったが、これには自ずと限界があることはわかっていた。われわれが所有していても確かに新聞は生き残っただろうが、われわれはそれだけでは嫌だった。ワシントンポストには成功してほしかったのだ」

続いて、ワシントンポストの伝説的人物、キャサリン・グラハムの孫娘で、ドナルド・グラハムの母であるウェイマスが社員に語った。

「今日という日が来ることは私の家族も私自身も想像もしなかった」

発行人としてとどまることになっているウェイマスは、ベゾスの下でのワシントンポストの機会について話を続けた。

「アメリカのもっとも偉大なイノベーターであり、もっとも尊敬されているビジネス リーダーだ」(ベゾスはワシントンポスト紙をアマゾンとしてではなく、個人で買収した。)

ウェイマスは「このような話は当然不安と困惑を招く」と認めながら、社員に対して、ワシントンポストのジャーナリズムとしての使命は変わらないことを強調した。

ホールでのグラハムとウェイマスの発表の後、社員のひとりは「みんなショックを受けて呆然としている」と言った。その社員は、ワシントンポストの社員がどれだけグラハム家や、特にドナルド・グラハムを慕っていたかは「言葉に言い尽くせない」と語る。ホールを立ち去った社員たちも戻って来て、彼は総立ちの喝采を受けた。

その後、報道部では、昨今の他の経営難の新聞社の時と同様、いくつかのブラックユーモアが飛び交った。一部の社員は、売却によって社員はアマゾンの送料無料サービスみたいな特典をもらえるのか、と冗談を言った。

もちろん社員は、教育関係の会社カプランや、スレイト、ザ ルート アンド フォーリンポリシーといったウェブサイトをそのまま引き継ぐグラハムのことだけを考えているわけではない。いったいこの売却で何が変わるのか?

シアトルに住み、そこでアマゾンを経営しつづけることを表明しているベゾスの下になっても希望的だと思う理由を社員が話してくれた。マードックやマイケル・ブルームバーグとは違い、メディア関連商品をあれこれいじくったりはしないのではないか。そして、フォーブスによれば250億ドルの資産を持つベゾスにとって、ワシントンポストがすぐに利益を上げる必要はないだろう。

他のワシントンポスト社員も、「ビリオネアの傘の下に入ることはそんなに悪いことではなさそう」とハフィントンポストに話した。

それにベゾスは出版界の技術革新を成し遂げた人物としての名声も高い。ワシントンポストの古株のひとりは、彼がそれを新聞にも応用してくれるのではないか、と期待する。

ウォーターゲート事件をスクープしたことで名声を博したワシントンポストのチームの一人であるカール・バーンスタインは月曜夕方、ポリティコに対し、次のように語った。

「今日の発表は偉大な新聞社の偉大な歴史的瞬間だと、高い期待を持って受け止めた。新たなテクノロジーの時代に生まれた新たな企業家精神とリーダーシップは、ワシントンポストのみならず、おそらく報道ビジネス自体にとって必要とされているものだ。衰えることのないジャーナリズムの役割の一番いい部分とデジタル時代の可能性を融合と、新たな報道のルネッサンスを支える収益創出モデルを含め、これはワシントンポストにとって、アメリカのジャーナリズムにとって、そして世界にとっても必要なことだ」

今日の新聞業界では、財政的な安定は希少だ。ビリオネアの救世主が現れるのは悪いことではなかろう。社内でも、ベゾスがワシントンポストにとって最良のことをしてくれるとグラハムが信頼しているのであれば、社員もそうするべきだ、との空気が漂う。

それでも、ベゾスは新聞社を経営した経験は持っておらず、ワシントンポストの一社員は月曜の午後、ツイッターで、アマゾンのベゾス社長が20年後には印刷媒体がなくなっていると話していることを再度伝えた。

ワシントンポストの社員に宛てた手紙で、ベゾスは、「あなた方の多くはいくらかの不安を持って受け止めていると思う」と認めている。

「何十年もの間、ひとつのファミリーが会社を所有し、その間、良い時も悪い時も誠実に、理にかなったやり方で大切な価値を守り、それに成功してきたわけですから、それが変わることに不安感を持つのはまったく自然なことだ」と彼は続けた。

ベゾスは社員に対し、「ワシントンポストの価値は変わる必要がないものだ。そしてその責務は読者のためにあり、オーナーの私的な利益のためにあるのではない」と話した。

「新たなものを作り出す機会に喜び、楽観視している」とベゾスは書いている。「ジャーナリズムは自由な社会のために決定的な役割を果たす。ワシントンポストは、アメリカの首都のホームタウン紙としてとりわけ重要だ」

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[(English)  Translated by Gengo]

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