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脱原発「エネルギーシフト実現は『戦い』」 ドイツのエネルギー政策 シュタンツェル駐日大使に聞く

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VOLKER STANZEL
インタビューに答えるフォルカー・シュタンツェル氏 | Kaori Sasagawa
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「脱原発」へと舵を切り、再生可能エネルギーの普及を急速に進めるドイツ。「脱原発・先進国」の光が当たる一方、再生可能エネルギーが普及すればするほど、消費者の負担が増えるというジレンマも浮かび上がる。福島第一原発事故後、「原発再稼働」と「脱原発」で揺れる日本。日本がドイツから学ぶことは何か。4年間の任期を終え、まもなく日本を離れるフォルカー・シュタンツェル駐日ドイツ大使はドイツ外務省で原子力の平和利用を担当する課の課長を務め、日本では東日本大震災を経験した。大使にドイツのエネルギー政策や今後の日独関係などについて聞いた。

――ドイツのエネルギー政策は、日本でも関心が高まっています。「脱原発」を決断するに至った経緯を教えて下さい。
 
ドイツのエネルギーシフトは急なことではないのです。福島第一原発事故後、(SPDと緑の党のシュレーダー連立政権が実現させた)2002年の原子力エネルギー法改正ではじまった脱原発政策を早めることにしたのです。当初は2022年ごろまでに原発を全て停止する計画で、当時、産業界との妥協の上にできた法律で、その後稼動期間が2030年代頃まで延長されましたが、これを再び迅速化したものです。

福島の事故を受けてメルケル首相は倫理委員会を発足させ、そこで今後の方針を議論しました。3カ月の議論の結果、やはり出来るだけ早く完全に原発を全部停止すべきだという結論に至りました。ここでの議論をもとに、政府は2020年までに完全に原発を停止する新しい法律をつくったのです。

新しい「脱原発」政策によって、もちろんエネルギーシフトも早めなければいけません。2011年時点で、再生可能エネルギーがドイツ国内の一次エネルギー消費全体に占める割合は11%で、電力消費全体に占める割合は20%でした。それ以降も順調にのびており、電力のほうは2013年に25%まで増える見込みです。それはなぜか。政府がエネルギー企業を支援したからです。小さな新しいエネルギー企業が小さな町や村にもできて、新エネルギーの普及を進めたのです。

■グリーンテクノロジーで企業の競争力を高める

――2010 年のドイツの電源構成では、再生可能エネルギーが総発電量の16.6%を占めています。現状の課題は。
 
一つは蓄電技術の開発です。ドイツにおける再生可能エネルギーの中心は風力。再生可能エネルギーの総発電量の33%を占めます。日本と違って残念ながら地熱はほとんどありません。太陽光やバイオマスもありますが、多くはありません。ドイツは自国で使用する電力の120%を生産していますが、月によって電力量が随分違います。特に、風力発電は季節によって風の強さが違い、電力供給が安定しない。風があるときは電力を外国に売ることが出来ますが、ないときは外国から電力を買わなければならず、蓄電技術の開発が必要で、コストがかかります。
 
もう一つは電力網。海で作られた電力を全国に送るために、電力網を整備しなければいけません。これもまたコストかかります。そのため、今、ドイツでは電気料金が日本と同じように高くなっています。

――ドイツでは再生可能エネルギーの導入促進に向け、風力や太陽光などの電力を市価より割高な固定価格で買い取り、電気料金に上乗せする制度があります。この制度によって、家庭の電気料金が値上がりし、消費者の負担増が問題になっていると聞きます。「脱原発」により国際的な産業競争力が低下するといった声もあります。

エネルギーコストは政府にとって重要な課題です。今までは、再生可能エネルギーのコスト増は、それほど批判にならなかった。9月に行われた総選挙で「エネルギーシフトは高すぎるからやめよう」「やはり原子力使用に戻ろう」と訴えた政治家がいたが、支持を得られなかった。しかし、10年後は分かりません。そのため、エネルギーコストはやはり政府にとって重要な課題です。蓄電技術の開発は研究コストがかかる。しかし、成功したら蓄電した電力もノウハウも輸出できます。一時的にはコストがかかるが、将来的にコストが低くなるはずです。

またコスト低減の努力に関して言えば、ドイツの一般家庭で使用するエネルギーの四分の三は暖房と給湯だと言われています。それゆえドイツ政府は、住宅建物の省エネ性能の向上を推し進めています。新築する場合、補助金や政府系金融機関KfWの低利貸付が受けられます。集合住宅の場合、エネルギーパスと呼ばれる建物のエネルギー消費を数値化した証明書を取得しなければなりません。たとえば集合住宅のオーナーは、契約署名前に賃借人に対しこの証明書を提示し暖房代がどのくらいになりそうかを明らかにしなければならないのです。

他方、産業競争力についてですが、エネルギーシフトは、ドイツ企業の競争力を高めることにつながると思います。クリーンなエネルギーのために、現在、大規模な投資を奨励しているところなのです。これは、人類と地球全体のためになる方向をめざすものであり、同時に、グリーンテクノロジーという将来有望な分野でドイツ企業の競争力を高めるものでもあります。

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ドイツのエネルギーシフト
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■「日本で、安全な原発をつくることができないなら、他の国もできない」

――日本でも原発問題は賛否両論、盛んに議論されています。ドイツが最終的に脱原発を決断した最大の理由は何ですか。

先端技術が進んだ国の一つである日本で、安全な原発をつくることができないと、他の国もできません。日本で危険があれば、ドイツ、フランスでもより大きな危険であるはず。だから、100%安全でなければ原子力使用を続けることはできません。それが倫理委員会の結論でした。2002年の脱原発法は産業サイドの妥協をとりつけなければなりませんでしたが、今回は違いました。産業界は「10年以内に停止するのは難しい、2002年の法律通り、あと20年間続けてほしい」という反応でしたが、結局「脱原発」を認めざるをえなかった。なぜか。新エネルギーに投資したエネルギー企業に利益が出てきたからです。

■「脱原発、180度転換は、あり得ない」

――ドイツが脱原発を見直す可能性はありますか。原発を利用しながら、再生可能エネルギーも使用するといった方法を採ることもありますか。

私は1999年~2001年までドイツ外務省で原子力の平和利用を担当する課の課長を務めていました。2002年の脱原発法が成立する際、その過程を他の国の政府に説明する担当でした。そのときは、廃棄物の最終処分の問題を解決できさえすれば原子力は実は完璧で、処分問題を解決できたら、脱原発政策は必要ないのではと思っていました。そんな私にとって、倫理委員会の人たちが受けた衝撃と同様、福島事故の危険はショックでした。日本人でも安全な原発を作ることができないならば、誰が作れるでしょう。福島事故のようなことが起こると、考えなければならない。ドイツ人も、一般国民も含め同様に考えていると思います。脱原発の見直し、180度転換することは、あり得ないと思います。

■エネルギーシフト実現は「戦いだ」

――日本でエネルギーシフトを進める上で重要なことは何でしょうか。日本がドイツから得られる教訓はありますか。
 
最初に、エネルギーシフトに対する社会的コンセンサスを形成することが重要です。ドイツの場合、そのコンセンサスが出来るまで何十年もかかりました。ドイツ人も、将来のエネルギーを支えるのは原発だとかつては信じていました。私も、若い時代そう考えていました。研究者も政治家も企業家もそうだった。日本と変わりません。しかし、ドイツでは環境意識が強くなり、使用済み核燃料の最終処分の問題が起こり、段々と批判の声が出きた。チェルノブイリ事故後の1990年代初めには、原発反対派が5割に達した。その結果、2002年に法律ができた。長い長い過程の結果です。日本でもそうなるはずだと思います。日本でも2011年3月10日まで、原発推進派が8割だった。現在は3分の2が反対です。

ドイツ人として日本の現状を見ると、日本はドイツよりエネルギーシフトがしやすいと思います。なぜなら、地熱発電しやすい。そして、日照時間がドイツより長い。島国なので、風力発電も可能です。ドイツより自然エネルギーをつくる可能性がずっとあると思います。

日本政府や国民が教訓にできることは、「エネルギーシフトは実現できる」ということです。長い長い過程だと私はいいましたが、その間もちろん戦いが繰り広げられてきました。内政の戦いです。企業はもちろん、これまで政策を続けたい。メディアも原子力利用に慣れてしまっていて、これを守ろうとする。研究者もこれまで研究し続けているので、当然自分が正しいと信じている。エネルギーシフトを実現することは、そうした色々な利害をもって対立するグループ間の戦いを進めるということだと思います。日本の場合は、対立において勝利を収めるといっても、ドイツとはまた戦略が異なるでしょう。エネルギーシフトという影響の大きい決定を行うにあたり、ドイツでは最終的に国民的合意が必要でした。しかしこの合意に先立って、実に長い激しい対立と議論があったのです。何十年にもにわたって、新聞紙面や、デモや抗議行動、議会、倫理委員会、各種審議会などを通じ、原子力についての議論を続けてきたのです。

■日独が抱える「少子高齢化問題」

――少子高齢化問題も日本とドイツが共通に抱える問題です。
 
ドイツの出生率は1.36。日本(1.39)とそう変わらない。問題は両国同じだが、今までのアプローチは違う。日本では仕事する女性は48%ですが、ドイツは78%。それでも少子高齢化の事実は同じ。同じように、日本で実際に退職する年齢は69.5歳。ドイツは62.5歳で、日本人はドイツ人より7年間長く働いています。でも、少子高齢化の問題は変わりません。日本では移民をほとんど受け入れていませんが、ドイツは歴史的に移民を多く受け入れている。移民の子孫であるドイツ人の人口の1割いますが、移民が多くいても、少子高齢化は同じです。以前から両国の専門家が共同で研究をしているが効果的な政策が果たせておらず、両国にとっての課題です。互いに交流を続ければいつか互いにいい方策が見いだせるかもしれません。

volker stanzel

■日本とドイツ、果たすべき役割とは

――日本とドイツが国際社会で果たすべき役割についてお考えを教えて下さい。
 
我々ドイツにとって一番重要な課題はEUです。ユーロ危機だけではなく、EUの将来の形をつくることが第一です。第二は中東地域の問題です。情勢が不安定なトルコ、シリアの内戦、エジプトの国内紛争、イランの核兵器問題など様々な課題があり、これらを注視していかなくてはいけません。一方、日本にとって重要課題は中国との関係でしょう。第二は隣国との関係です。まず韓国、そして東南アジアやロシアとの関係、また何よりももちろんアメリカとの同盟を活発に発展させていくべきだと思います。

色々な課題がありますが、日本もドイツも成熟した産業国家であり、グローバル的な価値観、利害意識は非常に似ています。両国とも輸出に依存し、資源輸入に依存している国として、グローバルな課題に取り組まなければ、豊かさを維持することはできないかもしれません。両国のみ二国間で進めたくてもこれは難しい。一緒にグローバルなリスクを乗り越えるのでしたら、他の同じような中規模国(ミドルパワー)とも協力する必要があると思います。アメリカや中国のような超大国ではなく、かと言って小さな国でもない。しかし、輸出依存について同じ価値観、利害意識を持つミドルパワーの国々、例えば韓国やインドネシア、オーストラリア、カナダ、メキシコなどと、一緒に問題を分析し戦略をつくっていけば、そこにおいて日独関係はみんなの利益になると思います。

――大使は自ら日本語でブログを書き、情報発信をしてこられました。今後の日独関係について、どうお考えですか。
 
日独関係の基礎は文化交流だと思います。普段は政治や経済に目がいきますが、根本は文化交流や学術交流です。一つの例をあげますと、京都精華大学にはドイツ人の教授がマンガ学を教えています。これは文化面のつながりの強さのあらわれだと思います。こうした文化的な基礎の上に交流を続けたらいい。日独関係を考えると、注目すべき面は文化交流、学術交流だと思います。

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◆Dr. Volker Stanzel フォルカー・シュタンツェル

ドイツ・クロンベルク生まれ。フランクフルト大学にて日本学、中国学、政治学を専攻。1972~75年、京都大学留学。1979年からドイツ外務省。1982~1985年在日本大使館勤務、ドイツ外務省原子力平和利用・不拡散政策担当課長、政務局長(アジア・アフリカ・中南米担当)などを経て、2004~2007年駐中国大使。2009年12月から駐日大使。ブログ「大使日記」をほぼ毎日更新。日々の出来事を日本語で発信してきた。

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