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「与えたことは財産になる」 経営ストラテジスト・坂之上洋子さんに聞く仕事の楽しみかた

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2015年7月、東京・恵比寿で開かれた、アフリカでボランティア活動をしているプラ子ちゃんこと栗山さやかさんのためのチャリティイベントに、30代を中心とした一般女性が集まっていた。「よーこさんにゆるく相談する会」と題されたこのイベントには、京都や青森など地方から参加した女性もいた。

よーこさんとは、企業経営者や政治家、官公庁やNPOなどへの戦略的なアドバイスを行う、経営ストラテジストの坂之上洋子さん(写真)。『Newsweek』誌の「世界が認めた日本女性100人」にも選出されている。

こう書くと、グローバルに活躍するキャリア女性のようだが、坂之上さんの周りには「楽しく仕事をする」人で溢れている。また著書『結婚のずっと前』や『PRESENT』をはじめ、ブログTwitterなどで発せられる素朴なメッセージは多くの人々の間で反響を呼んでいる。

今回は、そんな坂之上さんに「仕事の楽しみかた」についてヒントを聞いた。

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■「好き」な仕事を貫く

坂之上さんは現在、中国・北京で家族と暮らし、中国と日本を往復しながら、フリーランスで仕事をしている。そして、小学5年生の娘をもつ母親でもある。そんな坂之上さんのモットーは、「仕事は楽しく」。実にシンプルだ。

「私が仕事を選ぶ基準は、『好きか嫌いか』だけなんです(笑)。そんな事を言うと、そんなに世の中簡単じゃないよ、と感じる方も多くいらっしゃると思うのですけど。簡単じゃないから、そう意識して少しずつでもいいから、『好き』を自分に引きつけていく選択を繰り返さなくちゃいけないと思っているのです」

その基準は徹底している。仕事と育児を両立していれば、大切な家族に留守番を頼まなくてはいけない場合もある。坂之上さんは、「仕事で外出した時に、震災などの万一のことがあったとしても、悔いがないことをする。そうちゃんと自分は選択して行動しているのか? といつも自分に問う」という。

「母や友人が若くして亡くなったことも影響しているかもしれません。もしも自分が、なんとなく流されるままに仕事をしていて、仮に明日突然死んでしまったら、後悔するだろうなと思ったんです」

「私は学歴もたいしたことありません。とくに技術があるわけでもない。最初の就職もなかなか決まらなかったです。当時はアメリカも不況で、就職試験も履歴書で全部落ちて、半年後にやっと決まった仕事の最初の手取りは10万円ありませんでした。仕事を選べる余裕はなかったんですよ」

■人への“ギブ”が、将来の“財産”に

そんな坂之上さんさんが若い頃から今にいたるまで、大事にしていることがある。それは、人間関係を豊かにする、ふたつの“ギブ(give)”だという。

「ひとつは、自分の努力を、それが自分の成功や評価につながるようなことでも、人に“ギブ”する、つまりあげるのです(笑)」

「例えば、アメリカで建築デザイナーとして働いていたとき、自分がひとりで、すべての準備をしたプレゼンがありました。慣例としては、準備した人がプレゼンし、仕事をとれたら、その人がプロジェクトマネージャーになれるんです。けれど私は、英語をきちんと話す同僚がプレゼンしたほうが成功率は高いだろうと思い、自分の準備したものを同僚にあげたことがあります。一生懸命考えたコンセプトも、全部です」

その結果、プレゼンをした同僚がコンペに勝って昇格した。自分はアシスタントのままで、ボーナスも、もらえなかった。しかし、坂之上さんは気にしなかったという。相手に見返りを期待することもしなかった。

「『どうぞ』と“ギブ”して、ニコッとした。それで終わり(笑)。でも、会社的にはコンペに勝って売り上げが上がった。それは、勝ったってことでしょう? それも自分がプレゼンをしない、という選択をして勝った。そう思うと、それ、自分はなかなかやるなぁ、と満足できたんですよね。アシスタントなのに経営目線で考えていたわけなんですけど(苦笑)」

当時は、そうした“ギブ”が、信頼関係をつくる大きな“貯金”になっていたことに気付いていなかったという。坂之上さんはその後、夫の転勤によりニューヨークで仕事を探さなくてはいけなくなった。しかし、坂之上さんの仕事ぶりを見続けていた社長は、アメリカでもトップの企業に「Yokoを採用するべきだ」という強い推薦状を、頼んでいないのに書いてくれたという。

「当時の私の実力では入れる会社じゃなかったのに、その推薦のおかげで中途入社できたんですよ。でも、“ギブ”を続けていたときには別に評価されていなかったと感じていたので、推薦状の内容には驚きました」

「でもコツは、見返りを考えてはいけない、というところ。だから、必ず自分にちゃんと腹落ちするまで、“ギブ”してはいけない。あげたものを取り返そうとしたり、もったいなかったなぁ、と思っては絶対ダメなんです」

「“ギブ”は、自分の一生の貯金、財産になるんです。“ギブ”し続けると自分が磨かれます。ときには、悔しいときもありますし、矛盾だと思うこともある。でも5年や10年スパンぐらいで気軽に考えていると、なんとなくいつのまにか、自分には目にみえない財産がある、と感じるというか、わかるようになります」

■「エクストラの“ギブ”を惜しまない」が、良好な人間関係に

もうひとつの“ギブ”は、求められた仕事以上のことを“ギブ”すること。「ひとつの仕事を、完璧にこなすことがキャリアではない」と坂之上さんは話す。

「例えば、1万円のギャランティの仕事があるとします。私は、それをキッチリやること=仕事、ではないと思うんです。それに何をプラスできるか? と考えること、それが仕事の醍醐味だと思っています」

プラスの仕事を目の当たりにした相手は「あの人の態度はいつも前向きで、気持ちよかったし、エクストラ(余分、特別、追加)をここまでやってくれた」と好印象を持つだろう。

「でもね、ここまでやる人は一杯いるんですよ」と坂之上さんはいう。最近は、仕事をした後に「ここまでやったのに、認めてもらえない」といって、相手に詰め寄ってしまう人が多いように感じるという。それでは、「良好な関係」を築くことにはならない。

「仕事や人生に満足するのには、人間関係のバランスが大切。仕事が終わっても、笑顔で話ができる良好な関係がたくさん残ることこそ、本当のキャリア構築なんじゃないかなと思うんです。だから最後にそれを壊しちゃうのはあまりにも、もったいない」と坂之上さんは話す。

「どうやるかは、いたって単純なんです。明るく“ギブ“をやり続けることが大事だと思います。たとえ先方が冷たくあしらっても、平気でいることが肝心ですね。そう決めているから、心に余裕がでるんですよ」

「同時に、相手のメリットは何なのか、をいつも考えること。なんだか与えるばかりで不公平に聞こえるかもしれないけれど、それは戦略とかじゃないんです。こちらがやることが、相手のメリットでないとただの迷惑になるでしょう(笑)? だからちゃんと気をつけます」

■仕事は、トラブルが起きるのが当たり前

NPOなどへのアドバイスのほか、医療領域の政策シンクタンク「JIGH」におけるゲイツ財団との共同プロジェクトや、アジア太平洋領域で大災害の際の効果的な支援を目指す「アジアパシフィック アライアンス」など、多くの人と協働しながら進めるプロジェクトも多い坂之上さん。

トラブルが生じ予期せぬ事態になったときも、動じることはないという。それは、坂之上さんにとって「トラブルがあることのほうが自然であり、スタンダード」だから。

「家でも、学校も、親戚も友達関係も、何かしらいつもトラブルって起こるじゃないですか? だから、仕事もスムーズにいくことなんて100%ないと思っているんですよ。トラブルになると『あ、やっと来た!』って思うほどです(笑)」

「トラブルは、まあ、起きるよね、くらいの精神的な余裕を持っていて、ちょうどいいんじゃないかな、と思います。そういう意味で、私のモットーは『仕事は一生懸命になりすぎてはいけない』。血相変えてまで真剣にやってはいけない。大変だからこそ、冗談で皆を笑わせるぐらいでいようって。そう、たぶん恋愛と同じですよ。大変なのはわかるんだけど、必死になりすぎている人を横でみると、怖いでしょ(笑)?」

「いろんな経験をして、今でこそある程度わかってきたからいえるのですが、世の中には『自分で変えられること』と『自分では変えられないこと』があるんです。それを見極めて、変えられることだけを粛々とやる。無理をして『自分では変えられないこと』に時間をなるべく使わないことです」

「それでも気になるのは、もちろんわかるけどね。前は、私もそうだったから」と坂之上さんは笑う。

■休日に、自分に合った仕事や趣味を探す

今の会社に不満があったり、仕事にやりがいが持てなかったりして、自分に合う仕事への転職を考えている人もいるだろう。そんな人に坂之上さんがすすめるのが、休日の活用だ。

「休みの日を使って、興味のある職種で無給で仕事をさせてもらう、自分が好きかな、と思うことを色々試してみるのがいいと思うんです。そうすると自分に合うかどうかわかるでしょう? 相性が合うところで働くと、楽しくなってきて、自分の一番いいところが輝き始める可能性が高いと思います」

「別に仕事じゃなくても、自分が何が好きなのか、どんな友人と一緒にいたいのかを探す旅は、人生ずっと続けないといけないですよね。人は変わるんです。そして自分も変わる。その時の状態によって心地よい人間関係をつくる努力を怠ってはいけないと思うのです」

「最初のトライはなんでもいいと思うのです。ランニングや山登りなどの趣味のサークルでもいいし、私がはまっている社会貢献活動やNPOなどの団体も超おすすめです(笑)。でも、ここで大事なのは、仕事も趣味も恋愛も、自分にピッタリ合うところに出会えるまで探しつづけることなんじゃないかと思うんです」

自分が楽しいと思える場所や人に出会うため、探しつづけること。それは、どんな努力を指すのだろうか。

「自分で、自分が好きなことって案外知らないと思うんですよ。やってみて、出会ってみてわかることもある。だから行動して失敗したり、違うな〜と思ったり。そのくり返しです」

「よく試しにひとつサークルに入って『ダメでした、私には合いませんでした』っていう方がいるんです。でも似たようなサークルは、きっとあと1000個くらいありますよね(笑)。だから、ひとつふたつ試したぐらいでは見つからないのが当然。合わないと落ち込むかもしれない。でも探すのをやめないこと。実は、それがコツなんですよ」

「学生のとき、クラスに約30〜40人いるなかで本当に気が合う友だちって、せいぜいひとりかふたりだったでしょう? つまり30回、40回トライしても見つからないのが当然。あきらめないってことが一番大事です」

「自分に合う人、合う仕事を見つけたら、楽しい時間が過ごせる。そうなると、時間を忘れて没頭できるから、自然に成長する。そうすると、その人自身がキラキラと輝き、それを見た人も気持ちよくなる。現状に文句をいっている人よりも、ポジティブな人の傍にいたいなぁ、と思うのが人間の性ですよね。そういう人のまわりに、良い人間関係や人生が創り出される好循環が生まれます」

■「悩む時間をもつのをやめる」と意識する

Twitterやイベントを通じて、女性から人生や恋愛の相談をされることも多い坂之上さん。最近は、日本の女性が「もう◯歳だから」「こうしなくちゃいけない」「 自分のバックグランドがやりたいことと違う」などと悩んだり、「◯◯女子」などとカテゴリーに自分を入れて、窮屈になっているように感じているという。

「恋愛の相談も、話を聞いていると『私なんかダメ』とか『私と付き合うメリットがない』って、自分がそう信じてしまっていることが多いんですね。その自分に対するネガティブな思いは、周囲にも伝わってしまうと思うんです」

「悩んでいる時間はもったいない」と考える坂之上さん。「その時間を何かしらポジティブに使う、と決めると楽になれるかもしれません」と話す。

「実は、私も悩むタイプなので、あまり偉そうにいえないのですけど(笑)。私は悩み始めると『あ、始まった』と自分のなかで意識して、悩む時間を勉強や運動に置き換えるんです」

「悩む時間を持つのを止める、という『選択』を自分でするんです。これも選択のひとつですよね? それも自分ひとりでできる(笑)。それで、もちろん悩みはなくならないんだけれど、ある程度スルーすることで、自然に解決してしまうこともあるんですよね」

“ギブ”をすること、トラブルに驚かないこと、相性の合うところを探し続けること、悩むのをやめる選択をすること。ポジティブに人生を楽しむ坂之上さんのスタイルは、多くの人のヒントになりそうだ。

「人生は、自分ではどうにも変えられないことが多いです。だから、(自分で選択)できるものは(自分が選択)する、っていつも意識するのっていいと思いません? そう考えるだけで、自分がとても自由でパワーをもっている気分になれるんです」

小久保よしの

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