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「我慢は限界に近づいている」難民危機と緊縮財政、ギリシャはどうなってしまうのか

2016年02月08日 18時06分 JST
ASSOCIATED PRESS
Migrants and refugees disembark from a ferry after their arrival at the port of Piraeus near Athens, Sunday, Jan. 31, 2016. Europe has endured a huge influx of migrants, most of whom undertake a dangerous journey in search of a better life. On Saturday, at least 37 people drowned, including children and babies, when their boat capsized during the short trip from Turkey to Greece. (AP Photo/Yorgos Karahalis)

難民危機はギリシャの低迷する経済をさらなる窮地に追い込み、難民への対処能力を奪っている。

ギリシャでは、これまでの緊縮財政に加え、難民危機で経済的な重圧が強まっている。そんな中、ギリシャ政府内には、ヨーロッパ連合(EU)とトルコが難民危機で難民支援に大きく動いてくれなければ、反難民を掲げる外国人排斥の新たな動きが生まれるという不安が高まっている。

ギリシャ中央銀行のヤニス・ ストゥルナラス総裁による報告が、そのことを裏付けている。2015年12月17日に開催されたヨーロッパ中央銀行の一般理事会での同総裁の報告によると、押し寄せる難民の流れが経済に悪影響を与え、ギリシャに負担を強いているという。

ストゥルナラス総裁は「悪化の一途を辿り続ける難民危機によって、ギリシャ経済の先行きには負のリスク要因がもたらされている」と指摘した。ストゥルナラス総裁は2012年から2014年まで中道右派の前政権の財務大臣を務めていただけに、この報告には重みがある。

ギリシャ沿岸に連日押し寄せる数千人という難民受け入れのために財政支出は増え、その合計は政府の試算で2016年の国内総生産(GDP)の0.3パーセント、つまり6億ユーロ(783億円)に上るだろうと、ストゥルナラス総裁は報告した。

これらの財政支出が「厳しい財政削減の時期」と重なることで、厳しい代償を強いられることになるとストゥルナラス総裁は報告した。

また、シリア人が大半を占める亡命者の大量流入によって、ギリシャの島々の観光産業と、航行の自由に依存しているギリシャの国際貿易が打撃を受けていると報告書は指摘した。

greece refugee

2016年1月31日、ギリシャの沿岸警備艇に乗ってレスボス島の港に到着する亡命希望者たち。ⓒAP

ギリシャに到着した難民たちの大多数は、より裕福なヨーロッパ諸国へ向かう。特に、最近まで受け入れに前向きだったドイツとスウェーデンを目指す人が多い。

しかし、ギリシャ経由での亡命希望者に対して国境を封鎖する近隣諸国が増えるなか、より多くの難民が同国に留まることになる可能性が高くなっている。そうなれば政府は難民の半永久的な住居や食事、保健医療費を確保するための支出を強いられることになる。ストゥルナラス総裁はそう報告した。

皮肉なことに、難民の受け入れによって経済的利益を得られる可能性が最も高いのはドイツのような裕福な国だと同報告は指摘した。その理由としては、高い技能が必要とされる分野での労働力の不足を難民が埋めてくれる可能性があるからだ。

ヨーロッパ沿岸を目指す難民の主要な乗り継ぎ地点となっているギリシャは、難民の流入に対処できない、経済力が最も弱い国の1つだ(国連によると、2015年は海路でヨーロッパに渡った亡命希望者の84パーセント、2016年は92パーセントがそれぞれギリシャ経由だという)。

ギリシャは経済危機からいまだに立ち直っておらず、2010年から国際的な財政支援を3回受け、大幅な緊縮財政を求められている。約25パーセントの失業率はEU圏内で最も高く、経済規模は2009年に比べて25パーセント縮小しており、ギリシャの歳入を大きく減少させている。

難民危機でヨーロッパ各国が様々な経済的影響を受けていることが、ユーロ圏での格差を示していると、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでヨーロッパ政治を専門とするアンジェロス・クリスソロジェロス氏は述べた。

 

「これは、ユーロ圏における純輸出の増加について語るのと似ている。その増加は、ヨーロッパ各国での平等な伸びを反映したものではない」。同氏はこう述べ、ドイツが輸出の伸びの割合で最も大きいシェアを占めている点を指摘した。


ギリシャの我慢は限界に近づいている

EUから包括的な解決策が示されなければ、難民の流入とそれが経済に与える影響によって、ギリシャ国内で外国人排斥の動きが強まる。政府はそれは恐れている。同国の政府高官はこう語った。

ギリシャ政府は、他のヨーロッパ諸国のように強硬策を採ってこなかった。例えば、ハンガリーといったヨーロッパの一部の国々では、難民たちをキャンプに収容して、デンマークやスイスといった他国への移動を制限している。両国は、難民への支出を賄うため、難民の資産を没収している。また、フランスやデンマークフィンランドスウェーデンといった国で起きたような、大量の難民流入によって国民の間で外国人排斥の政治的動きが活発化するという事態もギリシャでは起きていない。

しかし、EUが難民問題での効果的な解決策を示せていないこと、そして、各国によるギリシャ批判によって国民の寛容さにも陰りが見え始めている、とギリシャの高官は警告した。もし状況に改善の兆しが見えなければ、ギリシャのネオナチ政党である「黄金の夜明け」のような外国人排斥を掲げる勢力を勢いづけることになるだろうと同高官は断言した。

この高官は「難民の流入と同盟国からの厳しい対応にさらされ続けているような状況では、極右が台頭する危険は常にある」と指摘し、「ギリシャは多くの困難にさらされ、それが今でも続いているということを私たちは理解しなければならない」と述べた。

亡命希望者が多く到着するレスボス島で活動する人道支援従事者も、同じような懸念を抱いている。この人道支援従事者は、地元住民が難民を温かく受け入れていると述べた。しかし、国際社会が難民支援には大きく力を入れる一方で、難民危機で影響を受けているギリシャの経済的苦境に目を向けないことに、地元住民らは不満を持ち始めている。

「ギリシャの人々は難民やこの島で働く人道支援者たちにとても温かく接してくれている。しかし、彼らはヨーロッパから見放され、自分たちの行っていることに対して罰を受けているように感じている」。この支援者は雇用者から発言を禁止されているため、匿名でこう語った。

難民支援に尽力したレスボス島の住民2人が、アメリカの俳優のスーザン・サランドンとともに、ノーベル平和賞の候補に選ばれた。サランドンは、この冬行った支援活動の手記を公表していた。推薦したギリシャの学会とオリンピック委員会のメンバーは、このギリシャの候補者2人が「大きな難民危機に立ち向かうギリシャや各団体、ボランティアの人々の心構えと品格を体現している」と述べた。

EU諸国によるギリシャへの容赦のない批判と罰則を課すという脅迫によって、ギリシャ国民の善意が失われるという不安が募っている。

EU加盟28カ国の運営母体である欧州委員会(EC)は2月2日、ギリシャ国内での亡命希望者の登録と、国境沿岸の警備強化についての一連の勧告に従うよう、ギリシャに最後通牒を突きつけた。ABCニュースによれば、ギリシャが3カ月以内にこの勧告に従わなかった場合、EU諸国が最大2年間の国境管理を実施することになるという。

このようになった場合、ギリシャは、26の加盟国間であればパスポート無しで自由に移動できることを定めたシェンゲン協定から事実上除外されることになる。こうなれば、ギリシャを離れて他国への移住を求めている亡命希望者に対し、近隣諸国が国境封鎖の流れを強めるだろう。そして、ギリシャは、同国沿岸に押し寄せる何千人という難民とともに、苦境に立たされることになるだろう。

ギリシャに対する欧州委員会の最後通牒が出る前から、加盟国の政府関係者は何週間にも渡って、ヨーロッパへ向かう難民を阻止するための国境沿岸の警備をギリシャが十分に実施していないという厳しい批判を浴びせていた。また、同じくヨーロッパの政府関係者は、ギリシャが難民問題で、EUからの支援金を適切に使ってこなかった、と主張した。

1月後半に発表された同委員会の報告によれば、ギリシャに対しては2780万ユーロ(36億円)を緊急援助し、2014年から2020年にかけては「ギリシャ国内での受け入れ、返還、移住を支援する」ために、4億7400万ユーロ(620億円)の追加支援をしているという。

同委員会の広報担当者であるトーヴ・アーンスト氏は、同委員会がギリシャ国民と政府による難民危機への対応努力を評価していると述べた。同時にアーンスト氏は、ギリシャがこの難民問題で改善策を講じなければならない、と同委員会が考えていることも示した。

「私たちはギリシャを孤立させたり汚名を着せようとしたりしているのではなく、彼らの欠点を正すことでしっかり義務を果たせるように支援している」。アーンスト氏はこう述べた。

この財政破綻した国が、過去数十年で最大の難民危機に対処するための仕組みを作ろうとしている。
アテネ大学、コスタス・エレフテリオ教授

難民危機についてヨーロッパの政府関係者と議論を進めるギリシャの外交官は、ギリシャが過去に犯した過ちを認めながらも、同委員会の行動が「非常に偏った現実」を浮き彫りにしていると述べた。

「今では委員会の勧告は、難民と移民政策をめぐり、ギリシャをスケープゴートにするために使われている」。ギリシャの外交官はこう述べた。「勧告の中には妥当なものもあれば、すでに実現されたものもある。そして、その中には、国境の規制を強化してギリシャをスケープゴートにしようとする勧告も含まれている」。

ギリシャ政府は2月初め、ホットスポット(人気の場所)、つまり、受け入れセンターでの難民の受け入れと手続きの迅速化するため、軍へ協力を要請したと発表した。

その一方で、ギリシャ政府は、亡命希望者の移住支援の取り組みをヨーロッパ各国が尊重し、トルコからの難民流出を制限するようEUから強く働きかけるよう求めた。EUは2015年11月、シリアからの難民220万人を受け入れたトルコに対し、32億ドルを支援することに同意した。交換条件として、EUはトルコに対して海からヨーロッパに渡ろうとする難民をより積極的に阻止するよう要求した。

しかし、その協定が結ばれたにもかかわらず、大半がシリア人である何千という難民が、トルコを経由して連日ギリシャ沿岸に流入し、同国の経済を圧迫している。

ギリシャの外交官によれば、ヨーロッパの関係者はギリシャの難民の移住申請手続きへの対応が遅いとよく不満を述べるが、受け入れ手続きが済んだ後の難民の他国への移住も同じように遅れていると指摘する。9月以来、ギリシャ当局が手続きを行った700件のうち、移住したのは200件のみだとこの外交官は述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはギリシャ政府による難民受け入れが十分ではないことを批判しており、特に公式の登録手続きがしっかりと行われていないことを指摘する。しかし同団体はギリシャの経済的な困窮が難民受け入れを難しくする一因になっていることを認める。そして、ギリシャを亡命希望者の「倉庫」として扱ったり、完全に受け入れを拒否したりするヨーロッパ政府をより厳しく批判している。

「亡命希望者を不十分な環境下でギリシャに閉じ込めることは、その女性たち、男性たち、子どもたちにとって悲惨な状況を招くことになり、私たちが求める責任の共有とは真逆の姿勢となっている」。ヒューマン・ライツ・ウォッチ・ギリシャのエヴァ・コッセ氏は1月28日の声明でこう述べた。「それは、国際的な難民危機の中で、EUのリーダーシップが欠けていることの表れでもある」。

また、コッセ氏は、EUのギリシャに対する確実な援助と国境警備人員増の支援の欠如、さらに前例のない難民流入に対処するためのヨーロッパ全体としての新たなシステム作りができていないことを指摘した。

「この財政破綻した国が、過去数十年で最大の難民危機に対処する仕組みを作ろうとしている。こんなことは馬鹿げている」。

アテネ大学でギリシャ政治を専門とするコスタス・エレフテリオ教授は「彼らはギリシャのホットスポットや危機への対応が正しくないと言っている」と言い、「ギリシャの対応は同国の絶望的な財政状況も含めて考えなければならない」と述べた。


これがギリシャの債務削減交渉にどう影響するのか?

ギリシャ政府は、債権団体との債務削減交渉に難民危機を持ち出すことはしていないと発表している。

しかし、アテネ大学のエレフテリオ教授によれば、ツィプラス首相は債務削減交渉にこの問題を持ち出すのが賢明だと述べた。とはいうものの、同教授は、それが何らかの影響を与えられるかどうかについては懐疑的だ。

エレフテリオ教授は「ヨーロッパの同盟国は難民危機と緊縮プログラムの問題?