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原爆投下、日本映画はどう伝えてきたか。「はだしのゲン」から「父と暮せば」まで

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広島・長崎への原爆投下から、もうすぐ71年。

アメリカのオバマ大統領の広島訪問を契機に、核の時代と核廃絶を巡る議論がわき起こるなど、原爆はまだ終わらないテーマでもある。

終戦直後から2000年代まで、原爆をテーマにした映画22本が、この夏、東京・渋谷の映画館「ユーロスペース」で連続上映される。そこからは、時代と共に移り変わる歴史認識の中で、あの出来事をどう伝えていくのかという、表現者の挑戦が浮かび上がる。

支配人の北條誠人さん(54)に聞いた。

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――なぜ原爆を?

原爆は、時代の変わり目だったと思うんです。広島と長崎以降、核を握った者が世界を支配した。「逆らったら、広島や長崎のようになるんだぞ」という力の見せ方を為政者が手にした原点でした。

表現者にとっては、実際に見ていない被爆直後の惨状、そして被爆者のその後を、どう描いていくのかという挑戦でもありました。その表現手法は、時代と共に変化しています。

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1957年「純愛物語」(C)東映

「5社」(松竹・東宝・大映・新東宝・東映)と呼ばれた戦後の初期は、若者が被爆して、本来持っているはずの幸せな未来がつぶされていく、というストーリーが主流です。

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1953年「ひろしま」(C)独立プロ名画保存会

「ひろしま」は大勢のキャストを起用して、ひたすら状況を再現しようと試みます。惨状を知らない人たちに理解してもらうためには、とにかく直接的でストレートな表現がいちばんだという考えが表れている世代です。

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1989年「黒い雨」(C)今村プロダクション/林原グループ

80年代以降、井伏鱒二の「黒い雨」や井上ひさし「父と暮せば」といった文学作品を題材にして、個々人の不幸から、幸せな家族が失われていくというストーリーに主軸が移っていきます。

――80年代は原爆をテーマにした映画の中興期でもあったようですね。

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1983年「はだしのゲン」(C)ゲンプロダクション

冷戦への不安と反核運動が盛り上がってきた時代でした。1980年代はソ連のアフガン侵攻、そしてモスクワオリンピックを日本やアメリカがボイコットした頃です。米ソ対立が再び激しくなって「このままいくとどうなるんだろう」という不安が募った時代を反映しているのでしょう。

それが2000年代に入ると、ストレートに惨禍を描く作品は姿を消していきます。「はだしのゲン」の描写が「トラウマになる」と苦情が申し立てられる時代、世間の歴史認識の変わり目に直面した監督たちが「どう描くべきか」を巡って悩む姿が透けて見えます。

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2003年「父と暮せば」(C)2003「父と暮せば」パートナーズ

「父と暮せば」は原爆の惨禍をストレートに描くのではなく、娘が原爆で死んだ父に「生き残って申し訳ない」と負い目を感じる心の内を描いています。黒木和雄監督が、同じ原爆を描いた「TOMORROW 明日」から15年の変化を見ると、心境の変化もあったのかもしれませんが、直喩から暗喩、個人の不幸から家族の不幸といった表現手法の変化、そして日本社会や家族のあり方の変化がにじみ出ているのではないでしょうか。

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2001年の諏訪敦彦監督の「H Story」は、ストレートな映画表現が難しくなる時代の葛藤が垣間見えます。1959年の「二十四時間の情事」を再映画化しようとしたのに出演者が意図を理解せずに頓挫し、別の物語になります。

――日本社会の政治的な傾向も影響しているのでしょうか。

それもあるでしょうが、世界的に表現方法が変わってきたと感じることがあります。一つは日本の植民地時代に起きた台湾人の蜂起事件「霧社事件」を描いた「セディック・バレ」(2013年、台湾)。エンタメ性が強いけど、霧社の村が当時の写真とそっくりに描かれるなど、史実を丁寧になぞっています。

塚本晋也監督の「野火 Fires on the Plain」(2014年)も、徹底的に真実にこだわって作るという監督の思いが演出に表れています。「サウルの息子」(ハンガリー)は、アウシュビッツ強制収容所に送り込まれた主人公が目にしたものだけを描いていく。こうしたこだわりが、表現としての力強さを与えています。

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1970年「ヒロシマ・原爆の記録」(C)日映映像

秋に公開されるアニメ映画「この世界の片隅に」は、徹底的にディテールにこだわって広島と呉を再現しています。これは「ヒロシマ・原爆の記録」が取り組んだ、爆心地で消えた街、住んでいた人を再現していく作業に通じています。考えている人たちは、きちんと取り組んでいる。こうやって次の世代にもつながっていくんだと分かる。通して見ることで、原爆を伝えるということの表現のステップになるかもしれない、と思っています。

7月30日から8月12日まで。上映作品の詳細やスケジュールはこちら

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