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「アメリカの悲劇となる恐れ」日本在住の米国弁護士ライアン・ゴールドスティンさんが語る大統領選

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間近に迫ったアメリカ大統領選。民主党候補ヒラリー・クリントン氏と共和党候補ドナルド・トランプ氏が、お互いに中傷合戦を繰り広げている。両者とも大きなスキャンダルを抱えている今回の選挙は大きな関心を呼ぶ一方、「嫌われ者同士による史上最悪の大統領選」とも評されている。

日本在住の米国弁護士ライアン・ゴールドスティンさんは、この異例づくしの大統領選を不安がる。特に、トランプ氏の差別的な言動はアメリカに大きな傷跡を残すと考えている。日本との関係がどのように変化するのかを含め、ゴールドスティンさんに今の心境を聞いた。

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ライアン・ゴールドスティン

1971年シカゴ生まれ。 2010年よりクイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所東京オフィス代表。主要取り扱い業務はホワイトカラー犯罪/FCPA、特許や知的財産訴訟、反トラスト、クラスアクション、製造物責任、犯罪捜査、名誉毀損、契約/詐欺紛争などの複雑なビジネス訴訟など多岐に渡る。また、訴訟業務に基づいた最新情報やアドバイスを、日本経済新聞、産経新聞、弁護士誌、日経ビジネス誌、およびビジネス・ロー・ジャーナルの特集記事を含めラジオ番組等、50超の媒体に提供している。
2016年からはCNNサタデーナイトのレギュラーコメンテーターを務めている。

——有権者として、今回のアメリカ大統領選をどう思いますか。

とても異常です。こんなにスキャンダルが飛び交い、物議を醸す選挙は見たことがありません。これまでも共和党と民主党の両候補がテレビCMなどで中傷合戦をすることはありましたし、激しい政策論争がありました。それでも基本的に相手を尊重していますから、討論会が終わったら握手するし、選挙結果が出て落選が決まったら勝者を称えるものです。

しかし今回は違います。共和党候補のドナルド・トランプ氏は偏見や差別的な攻撃をしていますし、民主党候補ヒラリー・クリントン氏を尊敬する姿勢を見せていません。2回目、3回目のテレビ討論会では2人とも握手しませんでした。おまけにトランプ氏は「選挙結果を受け入れるか」と聞かれてもはっきり返事しませんでしたし、「不正投票がある」と言って結果を受け入れないことを示唆しました。「もし自分が勝ったら結果を受け入れる」とまで言ったのです。

トランプ氏は自分の感情をコントロールできないのでしょう。少しでも非難されたと思ったら、Twitterで朝の3時から罵詈雑言のツイートを連投する。最初から最後まですべて異常な選挙だったと言えますね。

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中でも一番異常だと思えるのは、トランプ氏の「メキシコの不法移民は犯罪者でレイプ犯だ」「イスラム教徒の入国を禁止しろ」といった発言です。この発言で差別に対する考え方のハードルが低くなってしまったと思います。たった1年前でも、こうした発言はタブーだったんです。そういったことを考えてもいけないくらいでした。でも、今はそんなことを言っても大統領になれるかもしれない状況です。だからアメリカ全土で、差別や偏見に歯止めがかからなくなり、口に出してもいいんじゃないかと思う人が増えてきてしまっているように思います。

――「トランプ氏の差別的な発言は、実はアメリカ人の潜在意識にある本音ではないか」という分析もあります。

確かにある部分ではそういう本音を抱えている人もいるかもしれません。人間は完璧ではありませんから、差別する人もいます。それはアメリカに限らず、日本でもどこでもそう。 だから、不満のはけ口をどこか特定の対象に持っていこうとする。トランプ氏はそうしたアメリカ人の不満を煽ったんです。自分たちに仕事がないのは移民のせい、テロが起きるのはイスラム教徒のせい、と決めつけることが許されるような雰囲気になっていることにとても不安を覚えています。

――パンドラの箱を開けてしまったということですね。

もちろん差別してはいけないと言っている人も大多数います。でも、トランプ氏とクリントン氏の支持率が拮抗している現状を見ると、アメリカ人の中にはトランプ氏のような思いを根底に持っている人がいて、自分では言えなくてもトランプ氏が代弁してくれた、という背景もあると思います。トランプ氏が言葉にすることで、今まで差別意識や偏見を持っていなかった人も影響されます。

―それでもトランプ氏支持が半数いるということは、トランプ氏を嫌う以上に、クリントン氏を嫌う人がいるからでしょうか。クリントン氏に入れたくないからトランプ氏に投票するという。

トランプ氏支持層は主に2つあると思います。1つは保守的な白人層で、トランプ氏が差別的な公約を掲げても自分には関係ない、自分が被害を被るわけではないからそれほど気にしない人たち。もう1つは、トランプ氏をいいとは思わないが、クリントン氏がどうしても嫌いで、共和党員としての忠誠心があるからクリントン氏にどうしても入れたくない層です。

私もこの2人のどちらかを大統領にしないといけないのか、と不思議に思っています。「アメリカ人は3億人いるのに、なんでこの2人なの?」って。

私は民主党を支持していますが、ヒラリーが好き、というわけではありません。彼女は典型的なエスタブリッシュメント(既得権益層)の政治家と思われていますし、こうした印象は私も持っています。5年前には同性婚に反対していたのに、今では賛成している。雰囲気を読んで政治信条を変える政治家とも思われていますよね。

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いわゆる一般的な政治家のイメージを嫌う人は、クリントン氏を嫌います。トランプ氏はそうした「政治家は信用できない」という怒りを上手にすくい上げたんです。

――そうした反エスタブリッシュメントの有権者層に支持されていたのが、クリントン氏と民主党の指名候補を争っていたバーニー・サンダース氏でした。しかし予備選で敗北したサンダース氏がクリントン氏への支持を表明しても、サンダース支持層はクリントン氏に動きませんでした。クリントン氏支持が伸び悩んだのは根強い反エスタブリッシュメント感情があるのでしょうか。

そうですね。サンダース支持層がクリントン氏に流れず、トランプ氏支持に回った人がいたのは驚くべきことですが、現実にいます。私はサンダース氏を人間として素晴らしいと思います。彼は信念の人で、主張が一貫しているからです。ただ、彼の政策は革新的すぎると感じていました。サンダース支持者がクリントン嫌いなのは分かっていました。でも、トランプ支持に回ることが理解できない。

――クリントン氏が大統領になっても変わらない。トランプ氏はめちゃくちゃだけど何か変わるんじゃないかという期待がある。一度既存の体制を壊したいという衝動がアメリカ人にはあるのでしょうか。

アメリカ人の意識の中には、「政府は何も進められない」という無力感があると思います。共和党と民主党は、それぞれの主張がはっきりしていて自分たちを最優先することしか考えていません。オバマ大統領は「オバマケア」という医療保険制度改革を実現しましたが、共和党の政権になったらなくなってしまうかもしれません。政権交代する度にプラスマイナスゼロになってしまえば、あまり前進は感じられない。だから有権者たちの不満が高まってきます。

――何も動かせない政治に対する怒りが、政治経験ゼロのトランプ氏を大統領候補までに押し上げた原動力になったわけですね。

不思議なのは、トランプ氏は大金持ちで、親の財産を受け継いで、何の苦労もしていない、典型的なエスタブリッシュメントなのに反エスタブリッシュメント層の支持を獲得したことです。これは政治家としてうまかったと思います。

――大統領選の結果次第では、日本にも影響があるのではないかと考えられています。例えば、安全保障面ではトランプ氏は日本に強硬で、アメリカ軍の駐留経費の負担を増やせと主張しています。

日本人の中には脅威に感じる人もいるかもしれませんが、だからと言って日米関係が険悪になることはないでしょう。トランプ氏にもアドバイザーがいますから、仮に大統領になっても日米関係を悪化させないような政策をとると私は望んでいます。

トランプ氏はビジネス的な交渉術を用いた戦略で選挙戦に臨んでいます。私も弁護士としてさまざまな交渉に関わってきたので分かるのですが、彼の戦略は、実現不可能なことでもまず相手に要求し、いずれは妥協して合意する交渉術ですね。できるだけアメリカが優位になるための交渉術だといえます。トランプ氏と言えどもアジアは重視しなければいけませんから、日本を捨てるような政策はとらないでしょう。貿易交渉では強い態度に出るかもしれませんが、安全保障面ではどこかで妥協することになると思います。

——大統領選の投票日をどんな気持ちで迎えようとしていますか。

生まれて初めて不安になっています。これまでの大統領にも同意できない政策はありましたが、存在そのものに不安を覚えたことはありません。これほど心配になったことはありませんね。個人的に思うことは、トランプ氏が大統領になって、特定の宗教を排除するような世の中になってはならないと思っています。これが一番心配です。

特定の宗教をやり玉にして差別することはあってはならないんです。私はユダヤ系アメリカ人として、ユダヤ教徒が差別されてきたことを歴史から学んできています。アメリカでは宗教差別をしないと憲法に定められており、信教の自由が認められています。平気で差別できるような国になるのはアメリカ人として心配ですし、恥ずかしいことなのです。

オバマ大統領が初めてのアフリカ系アメリカ人の大統領になり、今度は女性大統領が生まれるかもしれない。そして、同性婚も認められました。差別を解消しようという動きが進んでいる今のアメリカで、差別を扇動するトランプ氏が大統領になったら、これは、「Huge Step Back」(大きな揺り戻し)になります。

――仮にトランプ氏が大統領にならなくても、大きな傷痕が残るかもしれません。

トランプ支持者は怒りを抱えたままでしょうし、国として進むべき道が険しいものになるかもしれません。今回の大統領選は、アメリカにとっての悲劇になる恐れもあります。

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アメリカ大統領選2016
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