鈴木敏夫氏、ジブリのキャラに例えて人生観を語る「人間には2つの生き方がある」

「キキが好きか、雫が好きかで人間は分かれる」
Kei Yoshikawa

スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが12月6日、元ジブリ社員でアニメ映画プロデューサーの石井朋彦氏とともに、石井氏の著作『自分を捨てる仕事術』のイベントに出演。鈴木氏ならではの、独特の人生観や仕事術などを紹介した。

左から、イベントに登壇した藤巻直哉氏、鈴木敏夫氏、石井朋彦氏

鈴木氏にとって、石井氏は「弟子」にあたる人物。かつてジブリに制作進行として入社した石井氏は、入社後すぐに「クビ寸前」に陥ったことから、配置換えで鈴木氏のアシスタントを務めることになったという。

■「机に向かって難しい顔をしている奴は、仕事はできない」

石井氏はスタジオジブリ時代、鈴木氏から「仕事は公私混同しろ」と教えられたという。ただそれは、「労働時間をのばせ」ということではなかったという。

石井朋彦氏

鈴木さんには「先のことを考えるな」と言われました。「将来の目標とか未来の夢とか、お前は目標とか夢とか考えすぎて目の前のことがおろそかになっている」と。

「朝起きたら、今日やることを一生懸命やれ。そのためには飯食っている時も、寝ている時も、友達と遊んでいる時も、すべて仕事と結びつくと思えば、日々の仕事も楽しくなるから、全部ひっくるめて日々を仕事と分け隔てするな」と。今でいう、労働時間が長いとか、ずっと働けということではないんです。

ある日、机でPCに向かっていたら、鈴木さんに怒られました。「机に向かってウンウン難しい顔をしている奴は仕事はできない」と。メールとか文章は、移動している時や歩いている時に頭の中に書いておいて、いわゆる「仕事」という時間はそれを書けば、仕事はすぐにおわるということ。それを仕事とプライベートを一生懸命分けてようとすると、仕事は終わらない。

鈴木氏も、こう語る。

鈴木敏夫氏

最近の言葉で言うとON、OFFという言葉がありますが、僕はあれは間違いだと思う。ここまでがONでここまでがOFFっていう考え方って、疲れちゃうと思うんです。そんな区分けはないと考えたほうが楽しいと思いますよ。そのほうが疲れない。

人間の生き方っていうのは2つ。目標を決めてそれに到達すべく努力するという考え方。一方で、目標を定めないで、目の前のことをコツコツやる。それによって開ける未来もある。

ある年齢になった時、ぼくだって若い時は目標を持たなきゃいけないと思っていた。思っていたけど、色々考えても目標なんかもてなかった。忙しかったもんだから、結局目の前のことをコツコツやらないとしょうがない。それによって自分はどこに行くかはわからないけど、開ける未来はある…ということを身体で学んだのです。

この「2つの生き方」を、鈴木氏はかつて石井氏に「魔女の宅急便」の主人公キキと「耳をすませば」の主人公・月島雫を例えて説いたという。その頃を懐かしみながら、石井氏はこう述べた。

「魔女の宅急便」(左)と「耳をすませば」のポスター

キキが好きか、雫が好きかで人間は分かれる。キキは、自分の持ち物である魔法をつかって仕事をしようとする。雫は「小説になろう」と思って、行動する。

「僕はどちらかというと後者で「何者かになろう」と思ってたが、本当にそれでいいのか。「むしろキキの生き方のほうがいいんじゃない?」と言われた。何かやっても、目標に足しないことがほとんど。鈴木さんは「とにかく一歩一歩だぞ」って言い続けた。それはすごく励みになりました。


■目標を設定することの怖さ

アニメーション業界で輝かしい実績を残してきたスタジオジブリだが、現場で働く人の中には、突然「辞めたい」と思いつめてしまう人もいるという。

鈴木氏はこう語る。

鈴木敏夫プロデューサー(左)と石井朋彦氏

ジブリで働く現場の人たちは、頑張っている人に限って突然「辞めたい」って言ってくる人が多かった。その人たちには共通したことがあって、「このままでは自分を見失いそう。だからやめたい」と。そういう人たちに対して僕は「理想が高すぎるんじゃない?」って言い続けた。ようするに、自分が理想とする目標値があって、そこから現在の自分をみたらすべてみずぼらしく見える。だから「とりあえず目標とか、理想の自分を置くのをやめてみたら?」って。

映画「男はつらいよ」のフーテンの寅次郎、あの人には「自分がこういう人物になりたい」というのはないでしょ。そうすると、目標設定をしないことで毎日明るく元気に暮らせたわけ。寅さんの最大の特徴は、自分のことを何も考えていない。人のこと考えていると、深刻の問題が起こってもあまり疲れないんですよ。自分ことばっかり考えていると多分疲れる。


押井守さんも、元はラジオのディレクターをやっていたけど、ひょんなことでタツノコプロの募集を知って入った。でも、その時にはアニメの「ア」の字も知らなかった。でも映画が好きだし、同じじゃないかって。

高畑勲も、親友が東映動画(現アニメーション)を受けるというから、くっついていった。ただ待っているのもつまんないから自分も応募した。皮肉にも、夢を抱いていた友人が落とされて自分が受かってしまった。あとで聞いたら、アニメーションの演出なんて一度もやろうと思ってなかった。二人とも迂闊に決めているんです。でも、人生ってそういうもんでしょ。

その上で鈴木氏は、自らの就活経験と、宮崎駿監督がなぜアニメーションの道に入ったかについて語った。

僕だっても就職試験があったけど、自分が何に向いているかなんていくら考えたってわからなかった。やりたいことなんて全くなかったもの。人に言われるがままですよ。

それでいったら宮さん(宮崎監督)なんて…。宮さんが東映動画に入った理由、知ってる?実にバカバカしい理由なんだけど…。彼は漫画を描いていたんだけど、この世を儚んだ暗い漫画を描いていたらしいの。もともと根暗だから(笑)。

書いていて、いろいろなところ応募するんだけど、なかなか採用してくれなかった。そういう一番苦しい時にふと映画館に行って、そこでみたのが日本初の長編アニメーション映画「白蛇伝 」(1958年公開)。彼は、そこでみたアニメーション映画に登場したヒロイン・白娘(ばいにゃん)に一目惚れした。これだけですよ。

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