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将棋ソフト不正騒動、谷川前会長の兄が将棋界の未来を憂う「ファンが支えないと...」

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将棋界を揺さぶった「将棋ソフト不正疑惑」をめぐる混乱が、いまだに尾を引いている。

対局中に将棋ソフトを不正使用したと疑われた三浦弘行九段について、日本将棋連盟は2016年10月に出場停止処分としたが、その後に第三者調査委員会が同年12月に「不正の証拠はない」と認定。対応の不手際を受けて、当時の谷川浩司会長と島朗常務理事が辞任。当時の理事3人も棋士総会で解任されるという前代未聞の事態となった。

この問題をめぐっては、谷川前会長の実兄・谷川俊昭氏が「谷川俊昭と将棋を愛する仲間たち」を1月に結成。三浦九段の名誉回復や、不正疑惑を訴えた渡辺明竜王らの処分などを求め、インターネット上で署名活動を展開した。署名には「将棋連盟には失望した」「渡辺明竜王や久保利明九段らに厳しい処分を」など、ファンからの厳しい言葉が並んだ。2月17日、俊昭氏は集まった2000以上の署名を将棋連盟に提出した。

俊昭氏は実弟・谷川前会長とメールでやり取りをしたほか、2月に渡辺竜王とも面会したという。谷川前会長とはどのようなやりとりをしたのか。渡辺竜王とはどんな話をしたのか。ハフィントンポストでは俊昭氏に、今回の騒動に関する見解を聞いた。

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「谷川俊昭と将棋を愛する仲間たち」のメンバー。左から安田光一郎氏、谷川俊昭氏、田尻隆司氏

■不正疑惑問題を知って、「弟(谷川前会長)とメールでやりとりした」

――そもそも、署名活動を始めようと思ったきっかけは。

発起人は数人いますが、言い出しっぺは私です。私は今年で還暦ですが、将棋にかけてきた部分がすごく長かった。小学生の頃から弟(谷川前会長)と切磋琢磨して、中学生のころには、名人戦の中学生の部でも優勝しました。大学時代には団体戦で4連覇もしました。卒業後の就職も、将棋がきっかけでした。アマ日本一にもなりましたし、アマプロの混合戦で羽生善治三冠や佐藤康光会長にも勝ったことがあります。将棋にかける愛というか、そういうものは強い人間です。

2016年10月、今回の「将棋不正ソフト使用疑惑」の騒動が起こりました。報道で知って、まず私から弟(谷川前会長)に「なんか大変なことがおこっているらしいね」とメールをしました。弟からも「これから大変なことになりそうだけど、兄貴よろしくな」という趣旨の返信がありました。私も「お前の決めたことやから、支持するわ」と返したら、弟からは「兄貴にそう言ってもらって気が楽になった」と。

――そのメールのやり取りは、具体的にいつ頃の話でしょうか。

三浦九段の公式戦出場停止が決まり、竜王戦の挑戦者が変わった10月中旬ごろです。報道を見る限り「なんかよくわからない話だなぁ」と思った。私も当初は「弟もああ言ってるし、三浦さんが悪いことしたのかなぁ。ちょっと酷い話だなぁ」という感じでした。

――谷川前会長とは、よく連絡をとるのですか。

私と弟との関係ですが、別に仲が悪いわけではありません。兄弟でも、頻繁に連絡を取り合う兄弟とあまり連絡を取らない兄弟があると思います。弟は家庭を持ってますし。ただ、あまり普段から連絡を取るわけではありませんが、メールでたまに連絡を取る関係でした。

最初は全く情報がなくて、「週刊文春」の報道や、それを追っかけて報じた朝日新聞、他には渡辺竜王のブログなどでしか情報が出てこなかった。だから、「将棋連盟が何らかの公式発表をすべきだろう」と思っていましたが、よくわからなかった。とりあえずはそういった報道を信じていました。

■「連盟側に謝る気があるのかわからず、怒りが募った」

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――その後、第三者調査委員会は、三浦九段が「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はない」と結論を出しました

僕は白黒はっきりつけたい性格なので、弟には「(三浦九段が)不正をしているとするのであれば裏をとるべき」と伝えていました。また、当時の対応が将棋連盟のことやマスコミのほうばかり向いている感じがしたので、(将棋連盟の)原田泰夫元会長の言葉を引用して「界・道・盟(将棋界・将棋道・将棋連盟)の順番で考えて」と。ファンのことや将棋界全体のことを考えて欲しいと伝えました。

結果的には第三者調査委員会は2016年12月26日、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と結論づけた。その一方で、連盟側の対応については「処分当時、疑惑が強く存在し、三浦棋士がそのまま竜王戦七番勝負に出場していた場合、大きな混乱が生じていたことは必至」「やむを得なかった」という結論も出した。

三浦さんも翌日、記者会見をしましたね。同じ日、将棋連盟も記者会見をしました。ただ、会見の模様は映像では放送されなかった。代わりにニコニコ生放送で、元NHKアナウンサーの吉川精一さんが記者会見の内容の読み上げる「読み上げ放送」が流れた。これには、私も怒ってしまいました。

(※編集部注:三浦九段の代理人・横張清威弁護士は同年12月27日、休場の申し出や出場停止処分が下された経緯などについて、第三者調査委員会の報告内容と三浦九段側の見解の相違を説明。「処分の妥当性が『やむを得なかった』というのは、将棋連盟に寄り添った意見できわめて不当」と、異議を述べている。)

――「怒ってしまった」というのは、どの点についてでしょうか。

はっきりした確証もなしに疑われた三浦さんは、3カ月も公式戦に出場できなかった。もしかしたら、ずっと対局に出れない可能性もあった。将棋連盟はちゃんとした説明もなしに三浦さんという人を貶めました。にもかかわらず、記者会見は生中継されず「読み上げ放送」だけだった。きちんとした説明もせず、卑怯な態度だと思いました。

連盟側は謝る気があるのかがよくわからず、怒りが募りました。ただ、弟(谷川前会長)は1月18日に体調不良で会長職の辞任を表明した。そこで、将棋ファンの気持ちを、新しい会長にぶつけた方が良いと思い始めました。

何ができるのかと考えたところ、署名活動が良いなと思いました。1月30日から「三浦九段の名誉回復を求める」としてインターネット署名サイト「Change.org」で署名活動を始めました。

私たちが掲げたのは「将棋界を正常な状態に戻す」「真実を明らかにする」「渡辺竜王らに適正な処分」「三浦九段の名誉回復を」の4つの柱です。最初の2日間で署名は1000件を超えました。現在では2390件ほどになっています。注目度も高かったということだと思います。

2月17日には、それまでに寄せられた署名を将棋連盟へ持って行き、将棋連盟の職員に手渡しました。先日の会見の中で佐藤会長が署名を読んでいると話されて、非常に嬉しく思いました。これが今後の運営にどう活かしてもらえるか…。

■「弟は、将棋を指しているほうが向いていると思う」

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辞任表明会見での谷川浩司前会長(1月18日)

――谷川前会長の辞任会見は、どうご覧になりましたか。

辞任会見はニコニコ生放送で見ましたが、「体調が悪いからやめる」というのは筋が違うと思いました。渡辺竜王の就位式が終わったタイミングというのも。ただ、弟本人は「10月ごろから体調が悪い」と話していたし、実際入院もしていたので…。

――谷川前会長の現在の体調はいかがでしょうか。

退院したと聞いています。順位戦にも出場していましたので。やはり弟は、将棋を指しているほうが向いていると思います。

――佐藤会長は、2月27日の記者会見の中で、「(署名は)読んでいます」と明言されましたね。

会見の発言からは、非常に誠実な印象を受けました。署名も、私から直接手渡すことはできませんでしたが、連盟の職員を通じて佐藤会長にも届いた。佐藤会長も署名を読んでいただけているということがわかった。非常に良かったです。

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記者会見する佐藤康光会長(2月27日)

――今後はどのような活動をしていきますか。

署名を佐藤会長の元へ届けることができたということで、一応私たちの目的の一つは果たされたと思っています。

ただ、三浦九段の名誉回復というのはなかなか進みません。ただこれに関しては、僕らがあがいても、なかなかできることではないので、どうしたものかなと…。

今回のことに関しては、わからないことが多すぎます。誰が一番悪いのかということもよくわからない。三浦九段の不正を主張した渡辺竜王や久保九段に何らかの処分が下されるのかという点も気になります。

■渡辺竜王は「棋譜の観点」から訴えていた
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渡辺明竜王

――今回の一連の騒動で、俊昭さんは自身のFacebookページでも渡辺竜王を厳しく批判されていました。

実は、2月19日に渡辺竜王とお会いしたんです。棋王戦第2局の翌日でした。2016年10月10日、島九段の自宅で開かれたトップ棋士たちの会合で渡辺竜王が話した内容などについて聞きました。堂々としている印象でした。会う前は批判するつもりで行ったのですが、聞いた話に納得する部分があったことも確かです。

――具体的にはどのようなお話をされましたか。

詳細についてはお話できませんが、当時の渡辺竜王は三浦九段の対局について「棋譜の観点」から疑いを持ったそうです。三浦九段の指し手が「技巧」と一致する時は、離席があったなど「いくつもの偶然が積み重なっていた」ため、当時としては疑うに足る要素があったと。そんな中、「週刊文春」から三浦九段の記事が出ると知り、島常務理事(当時)に相談したそうです。

三浦九段をめぐる不正の噂は2016年の夏ごろからあり、複数の将棋関係者が知っていた。週刊文春の記事が先行して出ると知った渡辺竜王は、「記事を出さないで欲しい」と記者に伝えたようですが、止めることはできなかった。取材に応じたのは10月12日に三浦九段への処分が決まった後で、「週刊文春と一緒に悪巧みをしたということはない」と強調していました。一方で「白黒の観点はもっと慎重に話すべきだった。話したのは自分の落ち度だった」と述べていました。

渡辺竜王は「第三者委員会の見解は堅持すべき。検証がおかしいと言うつもりはない」とした上で、あくまで「棋譜の観点」からの訴えで、三浦九段であろうと誰であろうと「あれだけ材料が揃ったら言わざるをえなかった」「個人的な悪意とか恨みからではない」ことも強調していました。

――署名を見る限り、いまなお将棋ファンからは、渡辺竜王に対する厳しい批判の声が出ています。

渡辺竜王も、我々の集めた署名をネット上で読まれているようです。ただ現在、連盟側と三浦九段の間で補償に関する話し合いなどに折り合いがついていない。ある程度の折り合いがついたら、何らかの話をする用意はあるようでした。

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署名のコメント欄には、日本将棋連盟の執行部や渡辺竜王、久保九段への厳しい言葉が並ぶ。

■「まだわからないことが沢山ある。佐藤新会長の下、将棋界が良くなってほしい」

――今後、将棋界が正常化するためには、何が必要だと思いますか。

報道されていることって、まだ一部だと思います。まだわからないことが沢山ある。それがわからない限りは根本的には解決にはならない。いま三浦九段側と連盟側の間で、補償について話し合いがなされているとは思います。そちらの兼ね合いがあって出せる情報も出せないということもあるので難しい部分はあると思います。

ただ、ファンが連盟をバックアップしていかないと未来がない。真実をちゃんと明らかにして、正しいことをして欲しいと思います。

今回の活動を通して色々な方とお会いしましたが、大事なのは、三浦九段の意向だと思います。私も最初は疑ってしまったので、三浦九段には謝罪の言葉と「(私たちの署名活動をパワーに変えてください)としたためた手紙を、復帰戦の前にお送りしました。

いま、将棋界はぐちゃぐちゃになっていて、2000以上の署名が集まるほどファンも怒っている。まだまだわからないことが多すぎます。ただ、その一方で、連盟の理事が3人退任しました。私としては佐藤新会長の下、将棋界が良くなってほしい。それに尽きます。