幸か不幸か、65歳定年時代がやってきた! 企業の課題は現役世代との賃金バランス

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JAPAN ELDER WORK
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2017-03-21-1490084511-1369241-tklogo1000320.jpg本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

生命保険各社の間で定年を引き上げる動きが少しずつ広がっている。中堅生保の太陽生命保険は今年4月以降、従来60歳だった定年を65歳に延長し、65歳の定年退職後も最長70歳まで嘱託社員として働くことができる継続雇用制度を設ける。大手生保の明治安田生命保険も2019年4月から60歳定年を65歳へ引き上げるべく、労働組合との話し合いに入った。

ほかの大手生保は「どういうあり方がよいのか、引き続き検討していく」(日本生命保険)、「人員構成を考えつつ、選択肢として検討していく」(第一生命保険)などとしている。大学卒業後40年を超えても職業人として暮らす時代が、本格的に到来しようとしている。

太陽生命、明治安田生命とも定年引き上げの対象は基本的に全職員。太陽生命では約2200人、明治安田生命では約9000人と規模が大きい。

増える賃金総額、現役世代とのバランスが課題


太陽生命の田村泰朗取締役は、定年引き上げの狙いについて「昔と比べて今の60歳はまだまだ元気。定年後の嘱託制度は当社にもあるが、給与水準がガクンと落ちる。定年後に別の仕事を探すとなると、一からのスタートで十分力を発揮できないかもしれないが、当社で働き続けてもらえれば、これまでどおりに力を発揮でき、後輩に知識、能力を伝承できる」と話す。

課題は人件費のコントロールや年金制度の設計だった。同社の場合、年齢とともに上昇する賃金カーブは役職定年である57歳でいったん落ち、60歳以降は1年ごとの嘱託契約となり、賃金水準も大きく下がっていた。しかし、今年4月の定年引き上げ後は、機械的に役職定年を適用することはやめて、60歳を過ぎても給与水準を変えない。退職金制度や福利厚生制度にも変更が生じない。

1人当たりの賃金総額は定年引き上げに伴って「そうとう多くなるが、トータルの人数をコントロールしていく」(田村氏)ことで対応する。同規模の保険会社と比べても総合職の人数が少ないので、コントロールは十分可能だという。

明治安田生命は、現在「エルダースタッフ」という名称で60歳以上の社員を再雇用している制度を改め、定年を65歳まで引き上げる方針だ。同社の平均年齢は2015年度末で約43歳。バブル経済の空気を引きずった1991~94年に入社した社員の割合が大きく、試算すると、20年後の2037年には総合職の社員数は今の約75%にまで極端に減少するという。

同社の永島英器執行役員人事部長は「うちの会社でいちばん人口ピラミッドの山が大きいのは40代。会社の成長力としては今は脂が乗っているといえるが、10年後は平均年齢が50歳以上の会社になってしまう。そうなってからでは、技術もさびつき、なかなか成長ステージに復帰できない。次の成長への準備に向けて今から手を打つべく、数年かけて検討してきた」と話す。

他社と同様、60歳以降に再雇用されて嘱託として働く場合、賃金は大幅に下がっていた。しかし、定年引き上げ後は60歳以降の処遇を大幅に改善する。「定年を引き上げると、現役世代が不利益を被るという意見が出るが、それほど会社の負担を増やさず、かつ現役職員の処遇も下げないように、工夫しながらやっていく」(永島氏)。現在、約7割の人がエルダースタッフとして再雇用で働いているが、2019年4月以降は退職金をもらわずに65歳まで働く人が約9割に増えると想定している。

高年齢者の役割や業務の幅を広げる


エルダースタッフの職務範囲は限定的で、営業そのものではなく、高齢顧客の自宅を訪問して確認活動を行うなど、顧客サービスの分野で働くことが比較的多い。2019年4月の定年引き上げ後は、「現場の第一線の支社長や営業所長などにもなれる。定年引き上げを機に制度を設計し直す」(永島氏)。

さらに、定年引き上げに合わせ、「もう一段ギアチェンジできるように、中高齢者向けの教育研修に力を入れていく」と永島氏は強調する。研修内容はこれまで、マインドセット(意識形成)を促すものが多かったが、スキル(技術)のブラッシュアップもありうるという。

50歳代半ばで部長職や支社長職を降りると、関連会社に出るケースが多く、かつ片道切符(転籍)が中心だった。定年引き上げ後は、関連会社への出向、人事交流策など、人事制度を幅広く見直す必要が出てきそうだ。

報道ベースで見ても、定年を引き上げる企業は少しずつ増えている。ホンダや日本ガイシがそれぞれ今年4月から65歳に定年を引き上げるほか、北海道ガスなど地方企業にも広がっているようだ。

では、日本全体で65歳定年制がどれほど浸透しているのだろうか。

60歳以上の高年齢者の雇用については、2013年度から改正高年齢者雇用安定法が施行され、希望者全員を65歳まで雇用することが企業に義務づけられた。しかし、定年引き上げではなく給与水準を半分程度に引き下げる嘱託の雇用契約が大半であり、再雇用後に仕事の責任の重さが変わる人も3割強に達する。

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働く側にも意識改革が必要


厚生労働省や同省所管の独立行政法人である労働政策研究・研修機構などの調査を基により詳しく見ると、まず高年齢者の雇用について継続雇用制度を選ぶ企業は徐々に減少し、定年引き上げを選択する企業が相対的に増えている。

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また、継続雇用された人の8割の人が「賃金が減少した」と答えている。また、「賃金が減少した」人の約24%が41~50%の減少率だった。21~60%の減少率が全体の7割弱を占める。

同機構が2016年に出した報告書「労働力不足時代における高年齢者雇用」では、高年齢者雇用の課題として、高年齢者と企業とのマッチングやキャリアチェンジ、能力開発などを指摘している。

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具体的には、高年齢者は「短時間、近場で働きたい」という就業ニーズを持っているが、就業を希望していながら「適当な仕事が見つからなかった」という理由で就業していない高年齢者が約36%に上る。

また、高度成長期以降に就職した人の多くはホワイトカラーの仕事をしてきたため、ブルーカラー的な仕事をやりたがらない傾向があるという。定年時を意識して職業能力向上や転職準備をしているかという問いに対しては、「特に取り組んだことはない」と答える人が7割を占め、定年を意識した職業能力開発の取り組みは低調だ。

60歳を超えても働くことが普通になっている時代には、企業だけでなく、働く側にも意識改革が必要になりそうだ。

(山田徹也:東洋経済記者)


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