なぜ今「バブル文化」が流行るのか? Satellite Young草野絵美の音と言葉が示す、2017年のリアル

「80'sカルチャーへの憧憬」×「そこにあるインターネット」が生み出したもの。
宇佐巴史

2017年に「時代を表す音楽」はあるか?

小室哲哉によるTKサウンド。宇多田ヒカルや浜崎あゆみ、椎名林檎といった歌姫たち。ジャニーズ系ユニットや48グループなどのアイドルポップス......。それぞれの時代には、象徴となる音楽があった。では現在、2010年代後半を象徴する音楽はあるのか?

――ひょっとしたら、Satellite Young(サテライトヤング)の音楽がそれにあたるかもしれない。

音は昭和アイドル歌謡をベースにしたエレクトロミュージック。歌詞のテーマはインターネットや情報社会。ユニットを率いるボーカルの27歳・草野絵美さんが着こなすのは、自身が生まれる前に流行した80'sを意識したファッションだ。

この奇妙で懐かしい音とビジュアルはなぜ生まれ、いま愛され始めたのか? 草野さんへのインタビューで、理由を探った。すると浮かび上がったのは、強烈なほど「インターネット育ち」な感性だった。

――Satellite Youngのウェブサイトには、「日本の80'sアイドル歌謡サウンドを時空間を超えた普遍的な音楽へと進化させ」ることがコンセプトだと書かれています。草野さんは「80'sアイドル歌謡」のどこに魅力を感じるんですか?

草野:どこか上品さと、もの悲しさを感じるところです。その悲しさは、90年代以降の音楽にはあまり感じないかなと思っています。

ただ、音楽自体は他のジャンルもよく聴くんです。もちろん好きだけれど、特別にアイドル歌謡ばかり聴いているわけじゃない。じゃあ何故80'sを選んだかというと、自分の声質に合うんですね。

――自分で歌うことが前提になっている?

草野:何かに憧れると、それをただ消費するんじゃなくて、自分でやってみたい!と思うんです。

小さい頃、家にMacのパソコンがあって。その中に入っていた「キッドピクス」というソフトで絵を描いたり、ホームページを作ったりしていました。その前から歌を作ったり、詩を書いたりもしていましたし、作って発表することがすごく好きだったんです。あまりに小さい頃から自然にそうなので、原体験と言っていいかもわからないぐらい(笑)

だから、アイドル歌謡も、聴くだけではなくやってみたいって。

ただ、自分1人でつくるのではなく、コラボしたいという欲求がありました。

草野絵美さん提供

――自分だけで作品を完成させよう、みたいな発想はないと。

草野:1人だけでやるのにあまり興味はないですね。世の中には素晴らしいクリエイターが沢山いるんだし、そういう人たちと協力してつくりたい。その思いでいろいろな人に相談しているうちに(Satellite Youngの音作りを担っている)ベルメゾン関根さんにも出会ったし。

他にも、映像作家の人に頼んで音楽に合うミュージックビデオ(MV)をつくったり、イラストレーターの人とコラボしたりもしたくて、SNSで直接声をかけて誘うこともありました。

そうやってコラボレーションの輪を広げているうちに、スウェーデンのインディーズアニメ「せんぱいクラブ」とコラボしたり、soundcloudにアップしていた音源を見つけてもらい、「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」(アメリカ・テキサスで行われる、テクノロジーと音楽の祭典)に招待してもらってライブをしたり、と広がっていって。

特別なプロモーションをしたわけじゃなくて、色んな人に手伝ってもらったからちゃんと届けなきゃとか、もっといいものが作りたいというモチベーションでここまできた感じです。

スウェーデンのアニメ制作ユニット「makebabi.es」による作品「せんぱいクラブ」に、エンディングテーマ"卒業しないで、せんぱい"を提供した

――そもそも、ベタに80'sアイドルをなぞるのではなく、そこにエレクトロミュージックの要素を入れようと思ったのは?

草野:80年代の単純なモノマネをしたいわけではなかったんです。あの雰囲気を再現はしたかったけれど、アイドルそのものになりたかったわけでもないし、今やるんだから、「この感覚は昭和のあのころになかっただろうな」みたいな感覚を、昭和のやり方で表現したかった。

80年代アイドル歌謡の哀愁で、ソーシャルメディアがあることで生まれる人間関係の悩みとかも表現できるんじゃないか? と思って。インターネット哀歌を歌いたかったんです。

2017年のサウス・バイ・サウスウエストでライブも行った
2017年のサウス・バイ・サウスウエストでライブも行った
Lorne Thomson via Getty Images

――インターネットに対する思い入れが深いのはなぜ?

草野:どうしてだろうな...自分自身が、中毒みたいなところがあるからかもしれません。

大学在学中にウェブサービスで起業していたし、インターネットやテクノロジーで世界をよく変えられる、という思いはある。でも同時に、あまりにSNSとかにハマりすぎちゃって、大事なものを見失ってしまっているんじゃないかという恐さも感じていて。その愛と恐怖の入り混じった強い感情は、自分のテーマだなと思います。

――歌詞のテーマにもインターネットにまつわるものが多い。

草野:一番新しい楽曲の"Modern Romance"は、『Modern Romance(邦題「当世出会い事情――スマホ時代の 恋愛社会学」)』という、インターネットの普及やスマホの登場が恋愛と結婚をどう変えたかについてのノンフィクション本にインスパイアされて歌詞を書きました。

マッチングアプリを使うと、アルゴリズムで気が合うひとにすぐに出会えてしまったり、だからこそ「もっといい人いるかもしれない症候群」になってしまったり...。そんな煮え切らなさを書いて、歌っています。

――ネットがある生活の矛盾とか怖さ、悲しさを扱っているのがユニークだな、と思うんですが、何か理由はあるんですか?

草野:「テクノロジーで世界を変えよう!」「インターネットで世の中は便利になるよ!」とか言う人を、なんとなく怖いと感じているのはあるかも(笑)。別にネットで炎上したこととかはないんですが。

インターネット中毒になってるうちに気づいたらリアルで人に会わなくなったり、SNS上の人格がその人の全てに思えてしまったり、目の前に素晴らしい風景があるのに、みんながみんなスマートフォンで写真を撮影するのに集中していたり...そういうのは現代の病だな、と思ったりもします。だから、最近はあまりスマホを見ないようにしているかも。エゴサーチはきっちりしているけれど。

さっきも言ったとおり、コラボしたい人と気軽に繋がれるツールとしては素晴らしいと思うんですけどね。

宇佐巴史

――古いものをそのままマネするわけじゃない。テクノロジーを100%肯定するわけでもない。それがSatellite Youngのバランス感覚なんでしょうか。

草野:でも私、80年代を過去だとあんまり思っていないかも。

検索していても、意外と80年代のものが一番見つけづらかったりするんです、テレビ番組とか、当時の「普通の生活」を想起させるものが。もう少し昔になると、むしろ歴史資料みたいな感じでいろいろ出てくるんだけれど。

私は1990年代生まれなので、80年代はまったく知らない。80年代のものは、新しくてカッコいいものなんです、私の中で。

――最近では、大阪の高校生が80年代のファッションに身を包んで荻野目洋子さんの"ダンシング・ヒーロー"を踊る「バブリー・ダンス」の動画が話題になりました。

彼女たちとか平野ノラさんとかも、似たような感覚なんじゃないかと思います。

大阪府立登美丘高校ダンス部の動画は、ウェブ上で大きな話題を呼んだ。テレビ番組の企画では「バブル芸人」平野ノラとのコラボレーションも実現している

――古くてダサいものとしてネタにするんじゃなくて、新しいものとして捉えている。

私が大人になった2000年代後半から2010年代には、もう「時代に共通するスタイル」みたいなものはあまりなかった。80年代にはそれがあるように感じます。新しい古いじゃなくて、1つのジャンルになっている。

いろんなジャンルを、自由に引用しながら楽しめるのがいまの時代なんだと思います。私がやっていることも、1つのジャンルとして確立できればいいなと思っています。フォロワー、現れないかな(笑)

宇佐巴史

東京都出身。"90年代生まれ80年代育ち"。音楽ユニット「Satellite Young」の主宰 / ボーカル。作詞作曲やアートディレクションなども手がける。フォトグラファー・ラジオDJ・構成作家などマルチな経歴を持つ。

写真:宇佐巴史

ヘアメイク:KATO

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