バラエティの「この後スタッフが美味しく頂きました」 予防線を張るテロップどこまで必要?

バラエティの「この後スタッフが美味しく頂きました」 予防線を張るテロップどこまで必要?
浅尾美和
浅尾美和
時事通信

バラエティ番組などで"食べ物"を扱う企画の際、必ずといっていいほど目にする「この後スタッフが美味しく頂きました」というテロップ。事情は理解できるものの、あのテロップを見ると、どこかもやっとするものが残るのも事実。果たして、予防線を必要以上に貼るテロップは、本当に必要なものなのだろうか?

"スタッフがおいしくいただいている様子"を実際にアップすることの根底にあるものとは

先ごろ、元プロビーチバレー選手でタレントの浅尾美和が、福岡ローカルの情報番組『土曜の夜は!おとななテレビ』(九州放送)のロケを行なったことを自身のブログで報告。MCのパパイヤ鈴木と九州のローカルタレント・藤本一精との写真のほか、7人ほどのスタッフが立ちながら食べ物を頬張っている写真が紹介された。「これはロケの時の写真です」、「出してもらったお料理はスタッフの皆さんで美味しくいただきます」と文言を添え、視聴者からは見えていないところで"本当に"「スタッフがおいしくいただきました」を実行している舞台裏を披露したわけだ。

たしかにスタッフはもぐもぐと楽しそうに食べており、浅尾自身もその様子を単にブログにアップしただけで、別に深い意味はなさそうだが、そうした写真を無意識にでもアップしてしまうところに、何かしら"根深いもの"が見え隠れしないだろうか。

食物飽和状態の日本でも、小道具としての食べ物は認められない

日本人の多くは、"食べ物を粗末にするとバチが当たる"という意識を共有している。テレビの大食い番組だったり、食べ物を笑いの道具に使ったり、大量に食べ物を残すような場面があると、テレビ局にはクレームの電話が殺到する。

ダウンタウン松本人志は以前『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、バラエティで食品を扱う話題が出た際、「食べ物は食べる以外の使用方法もボクはあるんじゃないかと思っていて......」と切り出し、「たとえば飴細工は飴ですけど、ひとつのアートになってるじゃないですか。だから、食べ物もときには笑いの小道具として認めてもらえたら、こんなにありがたいことはないなと思うんですが、なかなかこの主張は通らないですよね」と本音を語ったことがある。

松本は過去に『ダウンタウンのごっつええ感じ』(同)で「キャシィ塚本」という料理番組のコントを披露していた。松本扮する料理講師のキャシィ塚本が突然おかしな言動を取りはじめ、「ドーン!」と奇声をあげながら何度も食べ物を投げつけ、大暴れしたあげく最後に「二度と来ないわよ!」と激怒して立ち去る...という内容だったのだが、当時の視聴者から「食べ物を粗末にするな!」などの苦情が殺到したという。また同番組では、「東野(幸治)さんの頭、かた焼きそばみたいですね」と言いながら、東野の頭にありとあらゆる場面で熱々の餡をかけるというドッキリ企画もあったが、今なら絶対に許されないネタであろう。

いずれにしても、"笑いの求道者"たる松本だけに、食べ物にまつわるネタの"規制"には頭を悩ませている様子であり、もちろんむやみに食べ物を粗末に扱ってはいけないだろうが、あまりにも行き過ぎた規制は、テレビで表現できる笑いの可能性の幅を極端に狭めてはいないだろうかという葛藤があるようにも見えるのである。

"定番の文句"を表示は、テレビ側にとっては最大の免罪符

こうした食べ物絡みの批判をかわすべく、もしくは和らげるために表示されるようになったのが、「この後スタッフが美味しく頂きました」なのだ。大量の食材を使用する企画があったとしても、このテロップを流しておけば、視聴する側も「あんなにたくさんの食べ物、残ったらどうするんだろう」という心配をしないですむし、制作側もすでに"説明済み"なので視聴者からのクレームに応える必要がなくなる。

しかし、本当にスタッフが食べたかどうかは視聴者にはわからない。ただの予防線・免罪符である可能性もあるのだ。視聴者がうるさいから、とりあえず"出しておけばいい"ものになっているかもしれないのである。

たけし過剰なテロップ表示に「しらける」 "予防線"が笑いを奪っている可能性も

一方、芸人側からのある種の問題提起ともとれる企画もあった。2015年9月13日放送の『オモクリ監督』(フジテレビ系)では、よゐこ濱口優が監督・制作した「注釈が多すぎるテレビ番組」というVTRを発表。サービスエリアの絶品グルメや注目スポットを紹介するという、よくありがちな番組なのだが、わずか5分弱の間に30回以上のテロップが入る。「特別に許可を得て撮影しています」、「個人の意見です」というおなじみのものから、コント中に相方の頭を叩こうものなら「本気で叩いているわけではありません」、「音は大きいですが見た目ほど痛くありません」などなど、過剰なまでの注釈が表示される。

見終わった千原ジュニアが、「(こういう未来が)来るかもわからないですね」と苦笑して見せると、濱口も「来るでしょう。テレビがこんだけ弱くなってたら。ずっとお詫びばっかり入れて番組が進まなあかんくなるんじゃないかな」と憂慮した。VTRを見ていたビートたけしさえも、「"食べ物はスタッフで食べた"とか、出たらシラケるよね。お笑い、本当にやんなっちゃうよね。誰がこんなこと言うようになったんだろう」と嘆いたのだ。

ほかにも、通販番組などでよくみる「これは個人の感想です」、「効果には個人差があります」等々、ありとあらゆる注釈テロップの洪水で、商品のポイントすら何だかわからなくなっている。

過激な食べ物企画もYouTubeなどのWEB動画に移行、しかし歴史は繰り返す

かつては一時代を築いたフードファイト系の番組や、『リンカーン』(TBS系)の「巨大ペヤングを作る」といったような企画は、あまり最近は見かけなくなった。昔のバラエティ番組では超定番だった"パイ投げ"企画にしても、一時期は「クリームは食用ではありません」などのテロップが付けられたこともあったが、今やパイ投げ自体がほとんど絶滅状態。

代わりにそうした企画はYouTuberに引き継がれ、YouTube内の番組で見られるようになったが、それも結局「サイゼリアで全品注文する」動画でYouTuberが大量の食べ残しをしたりすると、これまた大炎上。テレビでは許されなくなった"食べ物ネタ"はWEB動画に逃げてきた形だが、こちらにも今後さらなる規制が入っていきそうだ。

こうした「スタッフが美味しく頂きました」問題の根底には、「食べ物を粗末にするな」と言われながら育った中高年のルサンチマンもあるかもしれない。中には、小学生のときに先生に「好き嫌いをするな」と怒られ、給食を食べ終わるまで居残りさせられた...なんて経験がある人もいるかもしれない。しかし今では、小学生が普通に嫌いな食べ物を残しても先生も何も言わず、むしろ無理やり食べさせたりした先生には親からのクレームが来て、先生が処分させられる、そして親は給食費すら払わない...などの問題すらある世の中なのだ。

果たして、この「スタッフが美味しく頂きました」系のテロップは必要なのだろうか? たしかにもったいないことはわかるが、撮影後にすぐ食べられる状況や環境にあるならともかく、ときには衛生面に問題がある場合もあるだろう。テロップが過剰だと視聴者をシラケさせるし、テロップを入れないとクレームが怖くて放送できない...。テレビ局側のジレンマも理解できるが、とは言え事実、「そんなこと、いちいちテロップ入れなくてもわかってるから大丈夫だよ」と笑って言える大人は、今の日本にいったいどれくらいいるのだろうか。

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