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Googleの宇宙レースで世界初の民間月面探査に──「HAKUTO」の成功を支えたのは「宇宙好きのゆるいつながり」?

2015年02月20日 23時08分 JST | 更新 2015年04月21日 18時12分 JST

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Googleがスポンサーとなって開催する、民間初の国際宇宙開発レース「Google Lunar XPRIZE」(以下、GLXP)。その内容は月面にローバー(探査車)を送り込み、500m以上移動させて動画を撮影し、地球に送信できたチームに、優勝賞金として20億円が贈られるというもの。

このレースに挑戦する日本唯一のチームが「HAKUTO(ハクト)」(運営:株式会社ispace)です。昨年12月、挑戦するチームの開発を支援するために設けられた、総額6億円の中間賞獲得に必要な耐振動試験や耐熱真空試験、走行試験などを無事に完了したことが話題になりました。

そのHAKUTOはちょっと変わったチームです。メンバーの多くが"本業"を持つ傍ら、宇宙開発に興味や憧れを持ち、集まって活動を行っているのです。

「宇宙開発の専門家」ではなく「宇宙好きな人たち」で構成されるユニークなチーム――彼らを率いる株式会社ispace 代表取締役 袴田 武史さんにGLXPの概要やHAKUTOの活動について話を伺いました。

獲得賞金で開発費用はペイできない。賞金は産業化につなげる一要素

― 初期の頃から現在まで、袴田さんはどのような形でHAKUTOに関わっていますか。

袴田:昔はコンサルティング会社でサラリーマンとして働いていました。2009年に話をいただいてから、2010年に正式にispaceを立ち上げ、会社の許可を得て、週2日HAKUTOのプロジェクトに関わるという「二足のわらじ」状態でした。2年ほど前からは完全にispaceに所属する形で、資金を集めてプロジェクトを先導する役割を担っています。

― 今回、宇宙開発レースに参加されたきっかけというのは?

袴田:ヨーロッパで宇宙開発を行うチーム「White Label Space」から東北大学の吉田和哉教授のもとに、ロケットの調達と、着陸船の開発を自分たちが担当するので、ローバー(探査車)の開発をしてもらえないかと協力依頼が来たのです。

吉田教授は今回のレースを運営するXプライズ財団の会長が設立した国際宇宙大学で講義をしていたり、White Label Spaceのメンバーも同大学の卒業生だったりと、つながりがあったようですね。

同時期に僕のもとにも、日本で資金調達を中心に担当してくれないかと、お話をいただきました。それが2009年の夏頃だったと思います。ここまでが直接的な経緯ですが、僕自身の経験を遡ると、当時から僕は民間の宇宙開発を何とかしたいと思っていて、アメリカの大学院に留学していました。そんななか、今回のレースの前身のコンテストである「Ansari X Prize」の優勝者が学内にやってきて、彼の講演会を聴くことができたのです。そのときに、民間による宇宙開発は今後広がり続けるだろう、と衝撃を受けたのを今でも覚えています。

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リーダーの袴田さん

― 現在、どのようなスケジュールで活動していますか。

袴田:昨年の12月にローバーの試作機が宇宙で動作するかどうか機能試験を行い、100%とは言えませんが、ほぼ飛ばせるだろうと確認できた状況です。これから本番機の開発・試験に着手しますが、早くて今年の10月中に打ち上げられたら......というスケジュールで動いていました。

しかし、2015年12月31日までだったコンテスト期間が、期限が1年延長されることになり、2016年12月31日までとなったのです。ステートメントを読んだところ、期限を延長することで、ミッションを実現できるチームの数を増やしたい、との旨が書かれていました。

そのため今では、私たちとしては2015年中に飛ばせるものの、スケジュールに余裕を持って活動するか、当初のスケジュール通り年内に飛ばすか検討している段階です。

― ちなみにミッションを成功させ、今回のレースで見事1位を獲得した場合、開発費用は賄えますか。

袴田:いや、賄えないですね(笑)。GLXPは1位が20億円、2位が5億円、このほかに昼と夜の温度差が激しい月で夜を越す方法を実現したら追加で賞金が出たり......と総額30億円のコンテストです。チームのやり方によってコストは変わってきますが、国が取り組もうとすると1000億円ほどかかります。

僕たちは民間なので、できるだけコストを抑えようとしています。開発をロボットだけに集中したり、ロボットの機能を最低限に絞ったり、部品には既成品を用いたりすることで、余分な開発コストを削減しているのです。一から開発するとコストが膨らんでしまうので。それでも50〜100億はかかります。

賞金レースなので賞金金額に目が行きがちですが、その裏には産業・ビジネスが存在しています。ビジネスを始める上で何もなければ誰も挑戦しようとはしません。僕たち挑戦者にとって、賞金はあくまで「ニンジン」的なものなのです。

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こちらが月で動く「探査機(ローバー)」。これを着陸船に入れてロケットに入れて飛ばし、月に着陸させて500m以上移動させながら動画を撮影すると賞金がもらえる。実際の大きさは50cmないくらいで非常に軽い。

本職を持つメンバーが自然発生的に集まったチーム

― チーム全体では何名くらいの方がどのような形態で関わっていますか。また、メンバーはどう集まってきたのでしょうか。

袴田:現在HAKUTOチームとして関わっているのは30〜40人。30代前後の人が中心ですが、稀に40〜50代の人もいます。男女比は8:2くらい。より多くの人に宇宙開発に興味を持ってもらいたいので、個人的にはもっと女性比率が上がるといいなと思っています。

開発は東北大所属のメンバーが行い、メインで担当しているのは、吉田教授を除いて3名。残りのメンバーはHAKUTOの活動とは別の"本業"を持つ、東京在住者が大半です。累計だとこれまで100人くらいの人が関わってきました。

3年ほど前に一度ネット上で募集をかけたこともありますが、基本的には「人が自然に集まってくる」ケースが多かったと思います。メンバーが知り合いを連れてくることもあります。

彼らはボランティアとして活動に参加しているので、継続的に活動する人もいれば、出産などのタイミングでやめる人もいます。"場"を作るのが僕の役割なので、楽しんで参加してもらえたらと思っています。

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― ある意味で、そういった「ゆるいチーム」像がいいなと感じたのはいつ頃ですか。

袴田:ネットで人を募集していた頃です。2025年の働き方を提示した本『ワーク・シフト』を読んで「これが新しい働き方なのだろう」(注1)と考えたのです。メンバーに対して給料は払えないので、書かれてある方法を参考にしてやるしかないなと。

注1:本書では「これからの働き方」として3つのシフトが提示されている。そのうち1つのシフトでは、未来ではイノベーションが重要になるため、多くの人と結びつくことの必要性が説かれている。創造性を発揮するには、世界規模のオンラインコミュニティ「ビッグアイデア・クラウド」、同じ志を持つ仲間「ポッセ」、精神面での安らぎを得る「自己再生のコミュニティ」といった3つの人的ネットワークが欠かせないという。

「明確で大きな目標」があるから異業種同士が集まっても上手くいく

― 実際、メンバーにはどのような仕事をどういう形で割り振るのでしょうか。

袴田:東京のメンバーには情報発信やSNS更新、イベント開催など、プロモーションに関わる仕事をしてもらうことが多いです。ただ、必ずしもその人の専門性にマッチしたタスクがあるとは限りません。

本業でシミュレーション解析をしている人がTwitter運用を担当する場合もあります。各自が得意とすることを、活動の中で最大限に活かす方法を模索しているのです。

仕事の振り方としては良し悪しがあるかと思いますが、タスクを分割してその人に課す、という方法ではなく「こういう仕事があるんだけど、誰かできる人はいない?」と聞いて、自発的に動いてもらう形です。

― 本業を持つ方が大半とのことですが、全体での情報共有はどのように行っていますか。

袴田:毎週土曜に4時間程度のミーティングを行っています。HAKUTOメンバーは原則参加必須。全体ミーティングを1〜2時間ほどした後、各チームに分かれて仕事を進める形です。

皆が集まらない日は、メーリングリストを使ってやりとりしています。1日平均20〜30通のメールが飛んでいます。チーム単位ではLINEやFacebookを使っているところもあるようです。ただ、情報ツールの使い方は僕たちにとって課題かもしれません。

メンバーそれぞれで慣れているツールが違うので、結局共通で使えるのはメールくらいなのでしょう。ただ、GLXPのスポンサーがGoogleということもあり、最近はGoogle docsも使うようにしています。

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― メンバーの士気を上手く高めるために、日頃から意識していることはありますか。

袴田:僕はリーダーシップをぐいぐい発揮するタイプの人間ではありません。いわゆる古典的なリーダーシップではなく、協調的なリーダーシップのスタイルを取っています。ただ、この活動に対して「人生をかけて取り組んでいる」と常に伝えているので、賛同してついてきてくれるメンバーは多いのでしょう。

それだけではなく、僕たちにとって何よりもラッキーなのは、方向性がはっきりした明確で大きな目標があることです。だからこそ、全員がアメーバ的に自身の役割を見つけて、チームに貢献する形ができていると思っています。

― 一方、チームを運営していて難しいと感じることはありますか。

袴田:良くも悪くも異なるバックグラウンドや働き方を持った人が集まって、組織を作っていることでしょうか。最初は非効率的になってしまうと考えていましたが、最近では効率性を突き詰めなくてもいいかなと思うようになりました。

これから先、自分と同質な人だけと働く機会は少なくなると思います。異質な人と上手く働くことが重要になってくるはずです。そういったところで活躍できる人材を育成していくにはいい場だと思うのです。

GLXPはきっかけのひとつ。目指すは民間の宇宙開発を先導していく存在

― チームHAKUTOとしてミッションを達成した後は、どう展開していくつもりですか。

袴田:HAKUTOはGLXPのプロジェクトを実現するために作ったチームです。そのためプロジェクト終了後は解散を前提としていましたが、希望者が活動を続けていくのもありです。運営母体となるispaceとしては、宇宙ロボット開発の事業化を進めるつもりです。

最終的なビジョンは「人が宇宙で生活できること」で、宇宙・惑星探査、資源開発の順に取り組んでいきたいですね。10〜20年前は「火星に人が住めるようになるには50年かかるかな」と考えられていましたが、10年でその様相はがらりと変わりました。

今では「2020〜2030年代には火星に人がいるだろう」と言われています。民間で宇宙開発に携わる人の中で、現在トップにいるのは40代の事業家イーロン・マスク氏ですが、彼は「火星でリタイアしたい」と宣言しているほどです。

日本では宇宙開発に携わる民間組織はまだまだ少ないと思います。いくつか理由はありますが、まず「宇宙開発は国が行うもの」というイメージが先行していること。開発を行うのは民間企業であっても、宇宙産業の市場の99%は国主体のものです。

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袴田:また、宇宙開発と聞くと「限られた優秀な人にしか成し得ない最先端の難しい研究開発」と思われがちなこと。確かに難度の高い開発だとは思いますが、今は小さな人工衛星であればキット化されて売られています。5〜10人集まって小さな人工衛星の開発に挑戦する学生もいるほどで、宇宙開発に挑戦しやすくなった時代なのです。

そういったことが障壁となって、投資家の目が宇宙開発に向かなかったり、そもそも日本の土壌としてベンチャーの育つ環境が厳しかったり......とさまざまな原因があるのでしょう。とはいえ「できない理由」を探すことは簡単。僕たちは「できる方法」を考えながら、GLXPのプロジェクトをひとつのきっかけとして、民間の宇宙開発を進めていけたらと思っています。

(取材:2015年1月/執筆:池田園子/撮影:橋本直己/編集:小沼悟)

この記事は2015年2月17日のベストチーム・オブ・ザ・イヤーの記事より転載しました。