オリジナル動画教材で生徒全員がプログラミングを学ぶ。メディア業界出身の情熱教師が仕掛ける新しい授業のカタチとは?

2017年04月24日 00時02分 JST | 更新 2017年04月24日 00時02分 JST
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生徒全員がプログラミング学習。ビジネスプランを考え、アイデアを実行する。それは、教科書をなぞるだけの受身の授業とは全く異なる、新しい授業のカタチ。仕掛け人は、メディア業界出身の先生。型破りな教育手法の裏には、「生徒たちが生きていく未来」に向けたまなざしがあった。


会社員から教員に転身。異色のキャリアで挑む、攻めのICT教育


品川女子学院に、型破りな教育手法を実践している先生がいる。

情報科教員、竹内啓悟先生だ。彼の授業では教科書をほとんど使わない。教室の前に立って講義もしない。竹内先生はオリジナルの動画教材を準備し、生徒たちは自発的に学習を進め、不明点があれば自ら手を上げて先生を呼ぶ。

プログラミング学習だけでなく、生徒たちは1人1つのビジネスプランの作成に取り組み、プロのクリエイターなどを招いた特別講座も用意されている。一風変わった授業を仕掛ける、竹内先生の想いとは…。

「生徒たちが卒業して社会人になる5年後、本校が目標として意識している10年後に、どういう世の中になってるか。僕らは過去に受けた教育に意識を向けてしまいがちだけど、本当は彼女たちの未来に意識を向けるべきだと思うんです。」

子どもたちの生きていく未来を見据えて…こういった教育への情熱を持つ竹内先生。じつは、ちょっと変わったキャリアの持ち主だ。大学卒業後すぐに教員の道に進まず、ファーストキャリアにメディア業界を選んだ。イベント事業や新規事業の立ち上げを経験したのちに、教育出版社の新規事業を担当。

これまでの経験を活かして、学校現場に新しい風を吹かせる竹内先生の姿を追った。


オリジナルの動画教材で、生徒の進度・理解度をフォローアップ


― 取材前に授業の見学をさせていただいて、生徒たちがMacを使いこなし、プログラミング学習に自主的に取り組む姿に驚きました。教科書を読む、講義中心の授業とは全く異なりますね。

できるだけ実技を多くして、子どもたちに自分で考え、実際に指先を動かしてもらってます。メールの仕組みとか、スライドのつくり方とか、教科書を読み上げて、講義で一方的に聴くだけだと、絶対つまんないですよね。眠くなるし、全然頭に入ってこない。なので講義においても、ゲーム要素を取り入れたり、生徒たちに自分で調べさせ要点をプレゼンさせるなど、できるだけアクティブな状況になるよう心がけています。

教科書はほとんど使ってません。1年ごとに改訂する教科書だと、時代の変化のスピードに追いつけない部分があるんです。たとえば、いま、「情報」の教科書を開くと、マイナンバー制度のことが「住民基本台帳ネットワーク」と記載されていたり、逆に「IoT」という言葉さえ載ってなかったりする。いま社会でどんな新しい動きが生まれていて、何が時代の中心になっているのかを見極めて、子どもたちに伝えていく必要があると思っています。

いま授業では動画を活用していて。事前に表計算やプログラミング等の実技用の動画を作成しておき、生徒たちに自分のペースで学習を進めてもらっています。1本の動画が1〜2分程度で、それを1つのサイトにまとめて、年間で200本ほど作成しています。分らないところがあれば、自発的に手を上げることをルールにして、私が生徒のフォローに入ったり、生徒同士で教え合うようにしています。

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高校1年生のSwift学習で使用している授業ページ

― どのようにしていまのカタチになっていったのでしょうか?

たくさん失敗がありましたね。以前は、私が教壇に立って教材をスクリーンに映しながら、「はい、ここクリックして」と説明していました。でも、それだと全然上手く進まなかったんです。

PC画面を見ている子と、スクリーンを見ている子で、生徒たちの視線がバラバラになってしまって、いまどこの話をしているのか混乱が起きやすくなっていました。また、生徒によっては理解度は異なるため、進度が早い子は退屈してしまって、逆に遅い子は全然ついてこれない。さらに、質問の対応を1人の生徒にしていると、なかなか授業が進めることができませんでした。

最近のプログラミングや英会話などの学習では、オンラインで自分のペースで進めるのが主流です。教材の内容は都度アップデートされていく。それによって生徒の進度や理解度に合わせたアダプティブな授業ができています。

また動画教材にすることで、文字を読むだけよりも、飽きずに進めることができるのもメリットのひとつです。

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― 日々、授業のなかでさまざまなチャレンジをしているんですね。新しいツールもどんどん出てくるなかで、生徒たちに必要なものを見極めるのって至難の業なのでは...

そうですね。単に最先端を追い求めても、生徒にとってはレベルが高すぎてしまったりしますし...私自身もいろいろ試行錯誤しながら模索している途中です。

新しい学習支援ツールも出てきているので、まずは自分自身がユーザーになってみて、生徒たちが使うイメージをしてみるといいかもしれません。今年は高校1年生にProgateを活用しているのですが、その導入も、もともと僕自身がユーザーで、さらにご縁のあった方から紹介いただき導入に繋がりました。

実際に使ってみると、オールブラウザで学習環境を整えなくていいし、デザインがとても分りやすい。スムーズに導入できるだろうなと思って、3学期の授業7回を使って、高校1年生全員がSwiftを勉強しました。


アイデアで終わらせない。プログラミングは課題に立ち向かう武器になりうる


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― 普通科では、プログラミング学習は必須ではないですよね。それでも、力を入れて取り組んでいるのはなぜですか?

自分で考えたアイデアを実行するチカラを養う上で、プログラミング学習が最適だと考えているからです。単に「スキル習得」に主眼を置いているわけではありません。

毎年、情報の授業のなかで、生徒たちは自分自身でアプローチしたい課題を設定し、ビジネスプランの作成に取り組んでいます。みんなで発表し合って、最終的には外部のビジネスコンテストにも出したりしているのですが、非常に面白いアイデアなのに、そのほとんどが発表した後にカタチにならないまま終わってしまっていて。非常にもったいないと感じています。

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一般のビジネスプランコンテストで、社会人に混ざってプレゼンをする生徒

考えたアプリやサービスは作ろうと思えば作れますし、アイデアを考えるだけでなくて実行するところまで取り組んでほしくて。この授業をきっかけに「自分にもできるんだ」って思えたら、いまカタチにできなかったとしても、この先大学に入ったタイミングで、また勉強してみようかなとか、作ってみようかなって思えるかもしれない。

― アイデアを考えるだけで終わらず、実行までが重要、ということですね。

時代的にも、まずは小さくてもアウトプットを出さないとなにも始まらないと思うんです。facebookとかもそうですけど、最初に作ってリリースして、後からどんどん改善していく。

多様で変化の激しい時代のなかで、彼女たちが社会に出たときに、きっと日々向き合うべき課題は変わっていくし、それこそ正解はどこにもない。組織の上から仕事を与えられるのを待つのではなく、自分自身で課題を見つけて、アクションを起こしていくことが求められてくると思うんです。年齢や性別に関係なくアウトプットを出すことができるプログラミングスキルは、彼女たちの未来の可能性を大きく広げてくれると信じています。


「教員は過去ではなく、本当は未来を見なければいけない」


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― 竹内さんご自身のキャリアについても伺っていきたいのですが、大学を卒業してそのまま教員にならずに、企業に就職されたのはどうしてだったんですか?

もともと両親が教師だったこともあって、いつかは教員になりたいと思っていました。でも、大学で教員免許を取って、そのまま教師になるのは違和感があって。当時はなににモヤモヤしているのか曖昧だったんですけど、この学校に来てから、ある先生の言葉を聞いてとても腑に落ちました。

「教員は過去ではなく、本当は未来を見なければいけない」と。

かつての僕が教員になる決断をしなかったのは、過去に受けた教育に理想を抱いて、その価値観に縛られてしまうことに違和感があったからなんだなと思いました。生徒たちが卒業して、社会人になる5年後・10年後にどういう世の中になってるか。彼女たちが生きていく未来と向き合うために、まずは自分の身をもって社会を知りたかったのかもしれません。大学卒業後はとにかくビジネスマンとして知見とスキルを身につけようと、テレビ局・教育出版社と渡り歩きました。

― 企業で働いていたときの経験で、いま学校現場で活かされているものってありますか?

テレビ局でも教育出版社でもともに「事業」担当だったので、様々な規模の事業を0から10まで自分の手で進めてきました。事業のバリューチェーンのあらゆる部分(企画、仕入れ、プロモーション、販売、運営、会計)を経験できたことで、世の中に対する「価値」の出し方を身をもって学びました。

テレビ局のときは、プロと言うほどでもないですがカメラを回したり、編集作業やイラストレーターなどデザイン系のツールも一通りさわれるので、生徒の指導や教材作りにもそのまま活かされていますね。

そのあとに働いた教育出版社では、新規事業を担当していて。今まさに生徒たちに教えている問題解決思考が求められる現場で、実践しながら思考のプロセスやマーケティングをとことん叩き込まれました。

高校1年生に行っているビジネスプラン作成の授業では、これらの経験をすべて活かして教材を作り、生徒の指導にあたっています。

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ビジネスプラン作成のオリジナル教科書

― これまでの経験が全ていまの糧になっているんですね。プログラミングのスキルはもともと持っていたんですか?

いえいえ、私自身はそれほどプログラミングに関する専門知識がなくて。生徒に教えるために、昨年全力で勉強したんです...(笑)。仕事が終わった夜8時頃から終電まで、プログラミングスクールに通ったり、もくもく会に参加したり…月200時間を2ヶ月間。そこで学んだことを、生徒たちに還元しています。

― 教育への情熱が、先生自身のスキル習得にもつながっていったんですね。学校ってもっと閉鎖的なイメージがあったのですが、新しい取り組みに積極的にチャレンジしていることにとても驚きました。

今までの教育現場では、まずは既存のルールに従うことを良しとする向きが少なからずあると思うんです。確かにそれは大事な部分ではあるけれど、いまの時代をみたときにルールが後からついてくるケースもたくさんあって。それこそプロダクトやサービスが作られ、世の中の変化に伴って後から法律とかルールが追いついて新しいスタンダードが生まれたりする。

学校現場と社会の間に起きているギャップを埋めていくために、型を破れるような先生がもっとたくさん増えるといいなって思ってます。きっと、一回型から出てしまえば、本当に子どもたちにとって必要なものはなんだろうって考えるはずです。

そして教員だけでなく、もっといろんな人が教育の場に入ってほしいなと思っていて。テレビ局時代に出会った先輩や映像作家さんに協力をしてもらいCMコンテストを企画したり、ご縁のあった企業の方々にビジネスプランのメンターをしてもらったり。学校外の人たちに協力をしてもらい、一緒に授業をつくっています。直接教育と関わる領域ではない方でも、ご自身の専門領域と教育をかけ合わせることでできることってたくさんあると思うんです。

― さまざまな領域で活躍している人たちと交流できたり、課外授業で社会とのつながりを持てるのは、きっと生徒たちの視野を広げるきっかけになりますね。生徒たちが卒業した数年後に、先生と一緒に授業ができる日が楽しみです。本日はありがとうございました!


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