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医療の受け皿が機能しきれていない! 八戸の家庭医が挑戦する多職種連携のあり方とは?

2017年04月06日 00時44分 JST

現場発、地域全体を巻き込む

青森県八戸市で家庭医としてクリニックを運営している小倉和也先生。在宅医療に取り組む中で、多職種の連携不足が浮き彫りになってきたそうです。そこで取り組み始めたことは......?

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青森県のモデル事業を離れ、自主的な多職種連携へ

―現在、どのような活動をされているのでしょうか?

私は現在、家庭医として内科・小児科の外来診療を行いながら、約70名の方の在宅診療を行っています。そして、2015年秋に立ち上げた在宅診療における多職種連携コミュニティチーム「connect8」の事務局として活動しています。

connect8とは、八戸市で在宅診療の患者さんに関わる診療所や訪問看護ステーション、入所施設、居宅介護施設、薬局、歯科、総合病院などが参加するコミュニティチームです。「Mell+community」という患者情報共有のためのクラウドシステムを導入し、メンバー誰もが同一の患者情報を見られることでスムーズな多職種連携を図っています。八戸地域の住民の方が安心してこの地で暮らせることが目的です。

そのため、医療機関の介入がなく現段階で介護サービスのみを受けている認知症の方や独居の方の情報も登録して、万が一医療的介入が必要になったときにすぐサポートできる仕組みにしています。

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資料「多職種連携事業の開始」

登録者数は現在約600名、関わっているスタッフ数は300名を超えています。医療機関・施設の内訳は、当院を含めた在宅診療所3施設、総合病院3施設、歯科診療所10施設、訪問看護ステーション12施設、薬局17施設、ホームホスピス2施設、居宅介護支援関連施設22施設、その他介護サービス事業所36施設、合計105施設です。患者さんの情報共有のみならず、地域で行われる研修会や事例検討会の案内や、「認知症」や「小児医療」「法律」などのテーマに関して専門職の方に相談できる掲示板も設けています。

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資料「『connect8』の参加事業所数」

―なぜconnect8を立ち上げたのでしょうか?

もともと青森県の在宅医療多職種連携のモデル事業として当院や数件の訪問看護ステーションが連携して、情報共有の仕組みづくりを目指していたのです。しかし当然、他の診療所が診ている患者さんを、モデル事業に参加している訪看さんが担当している場合もあります。そのような患者さんの情報をさまざまな理由からモデル事業に組み込むことができませんでした。これでは八戸市が、本当の意味において安心して暮らせる街にならないと考えていました。

そこで2015年秋にモデル事業という形から離れて、現場主導でネットワークづくりを始めたのです。それがconnect8です。

具体的な連携の事例としては、精神科疾患(アルコール依存症)を合併したがん末期患者さんを診ている診療所がconnect8を活用して精神科医と連携できたため、緩和医療と精神科的治療を並行して進めることができ、在宅でお看取りまでできた例がありました。あるいは、小児麻痺のほか高血圧、喘息、認知症の症状がある独居の79歳の方の時には、診療所と薬剤師、訪問看護師やケアマネージャーが同じ患者情報を見ることができていたので、スムーズに訪問薬剤管理指導を行い状態を改善することができました。

また私のクリニックでは、小児の在宅医療にも取り組んでいます。難治性てんかんによって人工呼吸、経鼻経管栄養が必要となった13歳のお子さんは、感染症により入退院を繰り返したり、胃瘻造設を目的とした入院をしたり、リハビリのため通院が続いたりしています。小児の在宅医療にはケアマネージャーがいませんし、小児の場合はこのお子さんのように、入院してまた在宅医療に戻ることを繰り返すことが多いです。このような場合でも、connect8でいくつかの病院や訪問看護師と連携が取れています。

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資料「実際の活用事例(掲示板、意見交換)」

医療の受け皿はあるけれども......

―自治体のモデル事業に参画することで多職種連携に取り組み始めたと思いますが、なぜ任意団体の事務局を務めるほど積極的に取り組まれているのですか?

最初のきっかけは私が八戸市で開業した6年前にまでさかのぼります。八戸市には中核病院が3つあり救急医療の体制は整っていましたし、在宅診療を行っている診療所も複数ありました。そして人口当たりの訪問看護ステーション数は全国平均の1.7倍なので充実していると言えます。それなりに医療の受け皿は整っていたということです。

ところが病院から在宅診療への連携など、他のサービスへの移行がうまくいってなかったのです。開業後、外来に経管栄養の方を車いすに乗せたご家族がやって来て紹介状を手渡され、翌日からの訪問診療を依頼されたことがありました。または、退院後に在宅診療へうまく移行できていなかった患者さんをずっとご家族が介護していて、お看取り直前で呼ばれて往診したこともありました。これまで勤務してきた地域では経験がなかったので、正直驚きました。

私は琉球大学医学部卒業後、家庭医を目指して当時国内で唯一家庭医を育成していた北海道家庭医療学センターで研修を受け、北海道室蘭市の日鋼記念病院や滋賀県竜王町にある弓削メディカルクリニックに勤務していました。

室蘭市では日鋼記念病院を基幹病院として、関連施設のサテライトクリニックやホスピスがありました。病院から退院して在宅診療に移行する患者さんのお宅にはサテライトクリニックから医師が向かうようになり、ホスピスを希望すればホスピスへ、入院治療が必要であれば日鋼記念病院へ入院するというように、円滑な医療サポートが受けられる体制ができていました。

3年務めた弓削メディカルクリニックのある地域は、歴史ある小さな町で、いまだに3世代、4世代が同一地域内に住んでいるため、家族で看取る環境が残っていました。

それらの地域に比べると、八戸市は人口23万人で規模が大きいという違いはありますが、高齢者が自宅でも安心して最期を迎えられる環境が整っていないことに大きな課題を感じたのです。そこから、多職種連携の重要性を感じるようになりました。

―その他に課題に感じていることはありますか?

これは八戸市に限ったことではありませんが、在宅医療が必要な子どもたちや、いわゆる医療ケア児へのサポートが不十分だということです。小児在宅医療は、成人よりも各機関の連携が重要です。

成人の場合は病院から在宅医療に移行した後、再び病院に戻ることはあまり多くありません。しかし小児の在宅患者は、一時的に発熱した場合に入院してまた在宅医療に戻るなど、病院と在宅医療を行き来することが多々あります。それに加えて、医療ケア児にはケアマネージャーがいませんから医療機関同士や訪問看護師、さらには学校の先生など教育関係者も含めた多職種で連携しながらサポートしていくことが不可欠です。

八戸市内で小児在宅医療を行っている診療所は、はちのへファミリークリニックのみです。地域包括ケアシステムにおいて小児在宅医療も含めた在宅医療と捉えなければ、本当の意味での地域包括ケアにはならないと、私は考えています。

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自治体・医師会・現場が同じ方向性を持つために

―今後の目標を教えていただけますか?

現在、現場のスタッフが主体となって運営しているconnect8をNPO法人化し、2018年までに八戸市や医師会と協力して地域の医療介護連携をサポートする形に持っていきたいと考えています。

国が進める在宅医療介護連携推進事業や地域包括ケアの構想は、自治体・医師会・現場の意志が一致した上で推し進めていく必要があります。どこか1つが頑張っても上手くいきません。connect8に関わる医療・介護のスタッフから上がってくる声を自治体や医師会と擦り合わせて、三位一体の構造に昇格させたいのです。それこそが地域包括ケアの形だと考えています。

2017年1月に中核市なった八戸市は、より一層地域包括ケアの体制づくりに注力していく必要があります。国が提唱するような連携を実現するために、今後も各所に精力的な働きかけを続けていくことがわたしの第一の目標ですね。

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■プロフィール 小倉 和也

はちのへファミリークリニック 院長

国際基督教大学在学中、短期留学先のカナダで家庭医の存在を知り目指すことを決意。同大学を卒業後、琉球大学医学部に入学。医学部卒業後は、北海道家庭医療学センターにて研修。弓削メディカルクリニックを経て、2010年にはちのへファミリークリニックを開業、現在に至る。

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