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「改憲カレンダー」に組み込まれた「同日選」「国民投票」「増税再延期」

2016年03月18日 16時14分 JST | 更新 2017年03月18日 18時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
Japan's Prime Minister Shinzo Abe speaks during a regular Diet session at the lower house of Parliament in Tokyo, Monday, Jan. 4, 2016. (AP Photo/Shizuo Kambayashi)

「今国会の会期末の6月1日に衆院を解散して7月10日に衆参同日選だ」

「いやいや、国会を小幅延長して6月中旬に解散。投票は7月24日になる」

日程は諸説あるが、永田町内では今夏に衆参同日選が行われることは織り込み済みのように語られている。野党・民主党幹部さえも「もはや同日選はサプライズではない」とつぶやく。同日選となれば1986年以来、30年ぶり3回目となる。

もちろん株価や世論調査の推移などで流動的な要素はある。しかし安倍晋三首相が、同日選を突破口に悲願の憲法改正へつなげられないか思案していることは間違いない。

新聞などでは「安倍首相は、衆参両院で改憲に必要な3分の2の議席を確保するために同日選を行おうとしている」と解説されることが多い。確かに安倍首相は、与党の公明党だけでなく、今は野党の範疇に入る、おおさか維新の会にもラブコールを送り「衆参で3分の2」を確保しようと考えている。

ただ安倍首相は、そのためだけに同日選を考えているのではない。そもそも衆院では改憲勢力が既に3分の2を持つ。同日選を行うことで野党共闘を分断する効果がある程度期待できるとはいえ、わざわざ衆院解散のリスクを取る必然性は乏しい。安倍首相は、むしろ「衆参で3分の2を確保した後」のことを考えて同日選を仕掛けようとしているのだ。

「国民投票」は発議から半年後

改憲の手続きを簡単に整理しておきたい。改憲するためには、まず法案にあたる改憲原案が国会に提出され、その原案が衆参両院でそれぞれ3分の2の賛成を得て可決される必要がある。そこで初めて、国民に改憲が提案される。これを発議という。

発議の後、60日から180日の間に国民投票が行われる。投票総数の過半数の賛成があれば、改憲が実現する。

「60日から180日」と書いたが、これまでの与野党の議論では、日本初となる国民投票は制度を周知徹底する意味も含めて、たっぷり時間をかけて行おうということになっている。つまり発議から180日、半年近くたったところで投票日が設定されるのが既定路線だ。

この手続きを実際の政治日程に落とし込んでみる。安倍首相は今月2日の国会審議で改憲を「私の在任中に成し遂げたい」と明言した。安倍首相の自民党総裁任期は2018年9月まで。党則の変更がない限り首相の任期もここで終わる。残された時間は2年半しかない。この間に憲法改正を行うことは可能なのだろうか。

最短シナリオ

7月に改憲勢力が衆参で3分の2を得たと仮定しよう。安倍首相は、急いで公明党や改憲勢力の野党と改憲原案の準備に入ろうとするだろう。原案づくりにどれぐらい時間がかかるかは不明だが、どんなに急いでも原案がまとまって国会提出されるのは来年の2017年になる。

17年の通常国会は、例年通り3月末までは予算審議に費やされる。改憲原案の国会審議が始まるのは順調にいって春以降だ。

審議時間は、昨年成立した安全保障法を参考にしたい。安保法制は法案提出が5月15日で成立は9月19日。4カ月余を要した。憲法改正の審議がこれより短いことはないだろうから原案が来年春に審議入りしても両院で可決されて発議されるのは同年秋から冬。18年にずれ込むことも十分にある。そうなれば、半年後に行われる国民投票は18年の春から夏にかけてとなる。

自民党の一部にはこんなスケジュールを念頭に「18年の憲法記念日、5月3日が日本初の国民投票の日」と気の早い計算もある。この日程だと安倍首相の任期中に収まるのだが、あくまでこれは「最短のシナリオ」だ。言い換えれば安倍首相は、全精力を傾注して、この日程での改憲を目指すことになる。17年は改憲原案の発議、18年は国民投票を経て改憲を実現する。「憲法の2年間」としてこれに専念し、他の政治課題はできるだけ回避したい。

その安倍首相にとって邪魔な政治日程がある。18年暮れで14年の前回衆院選から4年、任期満了となることだ。どんなに遅くても18年までに衆院選が行われる。つまり、ことし衆院選を行わなければ「憲法の2年」の間に行わなければならない。それでは改憲に専念できない。

だからこそ同日選なのだ。同日選を行っておけば、19年7月の参院選まで国政選挙を行わずに済む。同日選は、衆院選を「先行処理」することで17、18年の2年間を、憲法問題に専念できるようにする高等戦略でもあるのだ。

財政より憲法

一般の人には、奇をてらった議論に聞こえるかもしれないが、改憲に向けた政治日程は、消費税増税にも影響する。世界経済が不透明感を増し、株価が低迷する中、来年4月に予定される消費税の10%への増税は延期すべきだという意見が、日増しに高まっている。参院選もしくは同日選への影響を心配する政局的な思惑からの増税延期論もある。

安倍首相はもともと、財務省主導の増税論に批判的だし、14年に衆院解散した際に増税を延期した「実績」もある。側近は「最終的に首相が増税再延期を決める可能性は十分ある」と話す。ただし安倍首相は、経済論や政局判断とは別に「国民投票」も念頭に最終判断することになりそうだ。

消費税を10%に上げれば、少なからず政権の支持が下がるだろう。仮に今年の同日選で圧勝できたとしても、来年の増税で安倍内閣の支持が下がったら、18年に行おうとしている国民投票はどうなる。

言うまでもなく国民投票は、改憲を問うものであり、他の政策課題は関係ない。しかし現実問題としては、安倍政権の信任投票の色彩が強くなる。昨年5月に大阪市で行われた住民投票は、大阪都構想を問うものだったが、実質的には橋下徹市長(当時)を「好きか、嫌いか」が問われた選挙だった。

国民投票を可決させるためには、自分の政権の支持を高値で維持させたい。そのためには支持を下げる要因は避けようとするのは当然だ。消費税増税の延期は、改憲への有効打でもあるのだ。

消費税増税の延期だけは避けたい財務省のある幹部は「安倍首相は、財政再建と改憲とどちらを取るかという決断を求められれば、改憲を取るでしょうね」と、苦々しげにつぶやく。安倍首相の頭の中では、あらゆる政治判断が「改憲ありき」から始まっているのかもしれない。

野々山英一
ジャーナリスト

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(2016年3月18日フォーサイトより転載)

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