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被災地「福島」で起きた「福祉法人背任疑惑」の呆れた顛末

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東日本大震災も然り、先の熊本地震でも、その後の復興過程で直面する深刻な問題の1つに高齢者のケア、居住問題がある。

被災直後は仮設住宅に身を寄せていたものの、身体的な不調から医療施設や養護施設への入所が求められるのに様々な事情で叶わない高齢者。あるいは震災前に入所していた施設が被災消失し、避難先でも施設が見つからない高齢者......。

福島県福島市で特別養護老人ホームや介護老人施設、短期入所施設などを運営する「社会福祉法人 とやの福祉会」は、そうした高齢者を積極的に受け入れてきた。

市内の複数の施設に200人以上の入所者がおり、福島県内では中堅以上の規模である。入所する高齢者に被災者が多いのは言うまでもないが、従業員にも被災者が少なくない。

が、復興のうえでも重要な働きをしなければならないこの法人が、目下、異常事態に陥っている。

前理事長時代の不可解な資金の流れが明るみになり、新旧経営陣の間で訴訟も起こされた。つい先日には2億円弱の手形決済で2度の不渡り事故を起こし、事実上の倒産状態となった。すでに従業員らも批判の声を挙げ、前理事長を特別背任で刑事告訴する事態にまで発展している。

不正な経理操作


騒動が表沙汰になる契機となったのは、従業員による「告発」だった。

昨年11月24日付で発信された「告発状」は、「社会福祉法人とやの福祉会従業員一同」なる発信者名で、福祉施設を所管する福島県庁や福島市役所、金融機関など関係各所に送付されている。

「当社会福祉法人は理事長を始めとする一部の役員、及び理事長と特殊関係にある経理事務の女性職員による私物化が続いており、理事長などの当福祉法人に対する背任及び業務上横領行為を、これ以上見過ごすことができず、私達はここに告発を決意しました」

こうした匿名の告発文書は、往々にして、利害関係者によって特定の思惑で作成されるケースが多い。いわゆる怪文書だが、今回の文書は、確かに現職の幹部職員らによって作成されていた。その代表者が言う。

「前理事長による不正な経理操作のおかげで資金繰りが悪化し、経営危機の風評も流れてしまい、金融機関の中には口座を凍結する動きまで出てきました。従業員の間にも先行きを不安視する声があがり、転職しようとする者まで出始めたのです」

社会福祉法人には国と自治体から各種の補助金が交付される。施設を新設する際の建設費は補助金で賄われるケースが多く、事業規模に合わせて毎年運営費も交付される。

「とやの福祉会」の場合、公表されている収支計算書によれば、年間10億円内外の事業収入を得ている。それとは別に、毎年平均10億円前後の補助金を受けているという。それほど潤沢な収入で経営危機とは尋常ではない。

市の特別監査で「使途不明金」指摘も


1984年に設立された「とやの福祉会」は、当初は保育園のみだったが、現在は高齢者総合休養村「あづまの郷」内で特別養護老人ホームやケアハウスなどを運営し、さらに高齢者ケアハウス「一風館」、サービス付き高齢者向け住宅「いいざか花桃館」なども加え、福島市内で5つの施設を運営している。

創立者である初代理事長・田畝(たせ)武司氏のあと、一時は知人弁護士が名義上の理事長に就任した時期もあったが、先の告発状で問題にされているのは、息子である田畝誠司氏(52)だ。

同氏は2011年、震災の年に実施された統一地方選の福島市議会選挙に無所属で初出馬し、当選。2015年7月には2期目を目指したものの、落選した。市議在職中の地元紙の報道などを見ても、特筆すべき実績は何もない。

「父親が理事長だった時代から事務長を務め、父親が土地問題で辞任して以後は常務理事として経営全般を差配していました。選挙に出馬する前に理事長に就任していましたが、補助金を受ける法人の代表者のままで市議選に出馬するのはまずいとの支持者の指摘でいったん顧問に退いたものの、実権は握ったまま。そして当選直後に、また平然と理事長に復帰しました」(先の幹部職員)

国と福島市から補助金を受けている「とやの福祉会」は、当然ながら福島市から監査を受ける立場にある。本来ならば、市行政にかかわる市議会議員に当選したあとも、市議在職中は理事長職を控えるべきだろう。つまるところ、顧問に退いたのは一時的な選挙向けのポーズでしかなかったわけだ。

では、告発状で指摘する「不正な経理処理」とはどういうものだったのか。

実は、同福祉会は昨年8月から9月にかけて福島市による「特別監査」を受けており、その結果、12月1日付で小林香市長より、

「平成26年度決算書において、過去の法人外の債務を法人の債務として計上しているが、(中略)一部使途不明金である借入金や、権利関係において法人の債務として認められない債務が確認された」(原文ママ)

との通告書を送達されている。加えて、外部有識者による調査委員会を設置し、決算を検証させて報告せよ、とも命じられているのである。

福島県警に刑事告発


福祉会ではさっそく弁護士や公認会計士らによる「第三者委員会」を設置し、調査を委嘱した。その結果は、年が明けた今年1月28日、「調査報告書」にまとめられた。

それによると、6件の借入金合計約2億8000万円について、帳簿上は福祉会の借り入れとなっているが、実際には福祉会の預金口座に入金の形跡がなく、福祉会の設備資金や運転資金として使われた痕跡もないため、事実上、理事長であった田畝氏の個人的な借入金であると断じている。

さらに、これとは別に、施設の改修費として2社から合計5億7000万円の借り入れとリース契約をしていることになっているが、実際の改修費は2億円前後であり、3億7000万円ほどが使途不明金になっていることも指摘されている。

加えて、それら借入金の返済は毎月、福祉会からなされており、報告書では結論として「前理事長(筆者注:田畝氏)への返還請求等を検討すべき」とも記している。

その第三者委員会の委員の1人が言う。

「委員会は福祉会の帳簿書類や複数ある銀行口座の出入金の記録なども綿密に調べ、職員らにも聞き取り調査を行いました。問題となる借り入れは金銭消費貸借契約書も確認しましたが、契約書上も債務者は福祉会ではなく田畝氏個人になっていたのです。しかも、決算書の関連資料としてあった金融機関の残高証明書や預金台帳も、実際の口座の残高より多い額のものが作られていた。つまり、何者かが虚偽の内容の残高証明書も偽造していた疑いがある」

繰り返すが、福祉会は国と福島市から補助金を受けている。交付の根拠となるのは決算書であるから、その内容に意図的な虚偽があれば公金の不正受給となり、詐欺や背任・横領などの刑事犯罪も疑われる。

ただし、実際に福祉会の帳簿を操作し、不正に決算書を作成した"実行犯"の特定には至らなかったため、

「偽造が疑える銀行の残高証明書が県や市にも提出されていますので、とりあえずは"被疑者不詳"ということで有印私文書偽造、同行使の疑いで福島県警に刑事告発をしています」(同)

元職とは言え市議会議員をつとめた人物の関与が疑われるだけに、県警も捜査に本腰を入れる様子だという。

「議事録偽造」と「不正」認める


一連の不正を田畝氏自身が行った疑いが濃厚なのは、実は本人がほぼ認めているためである。それは、冒頭で触れた「新旧経営陣の間で訴訟も起こされた」という過程で明らかになった。

理事長であった田畝氏は個人的な事業の関係からか多額の負債を抱えており、一連の不正はその個人的な返済に充てられていたのではないかと見られている。さらにそれでも足りず、個人的な負債の返済まで福祉会に付け回していた形跡もあった。

そうしたことから福祉会の経営維持に行き詰まり、市の特別監査が入っていた昨年9月、都内に本社を置く福祉事業コンサルタント会社「SANTOMI(株)」に資金援助と債務整理を依頼していた。

「支援するためには福祉会の資産を精査する必要があり、そのためにうちの関係者を理事に就任させる必要もあったのでその旨を田畝氏に伝えると、すぐに了承したのです」

と、同社の原定雄会長が説明する。

「理事の選任には評議員会の承認が必要なので田畝氏に伝えると、11月9日付で評議員会を開催して議事録も整え、評議員に署名押印もしてもらったという書類をもらい、それでうちが派遣した理事を登記したのです」

事実上、福祉会の経営を移譲したわけである。ところが、その直後に前述の通り福島市からの特別監査結果が通知され、SANTOMIによる新経営陣は決算書の不正操作を知ることになる。

「田畝氏を問い詰めてもラチがあかないため、理事会で田畝氏を理事長から解任したのです。そのうえで市の命令通り第三者委員会を設置し、徹底調査してもらいました」(同)

すると驚いたことに、田畝氏は12月21日付で、新理事長の職務執行停止を求める仮処分命令の申し立てを福島地裁に起こしたのである。

「何より驚いたのは、申し立ての根拠として、新理事選任のために開いたと私たちに説明した評議員会は実際には開催されておらず、議事録も偽造したものだという趣旨の主張をしていることでした。つまり、偽造した議事録だから効力はなく、従って新理事の選任は無効なので新理事長の職務を停止しろという主張なのです。自らの偽造行為を根拠にする申し立てなど、驚くと言うより呆れてしまいました」(同)

そして数回に及ぶ互いの主張を盛り込んだ準備書面のやり取りの中で、田畝氏側の書面にはこんな記述もあった。

「過去の経緯の中で不正に債権者(筆者注:田畝氏)自身関与し、ときには法人のトップとして不正を行う判断をしたことは事実である」(2月12日付「準備書面第4」より)

ちなみに、この申し立ては第三者委員会の調査報告書が市に提出されたあと、田畝氏の代理人弁護士が辞任し、申し立てそのものも取り下げられた。

手形が不渡りに......


一連の騒動の過程で取引先金融機関らにも福祉会の信用不安が広がり、中には口座を凍結させる金融機関も出た。新経営陣らはそうした金融機関や取引先を回り、事情説明と信用の回復を訴えている。

そんな最中の5月11日、取引先である福島県商工信用組合南福島支店において、福祉会名義の額面約1億7600万円の約束手形が交換に回されたが、結局、不渡りとなった。

さらにその直後にも、額面約2700万円の別の手形も交換に回され、不渡りとなった。これで福祉会は銀行取引停止となり、事実上の倒産扱いとなった。

「手形の振出日は昨年の6月9日となっていたようで、田畝理事長時代のもの。手形を決済に回してきたのは『学校法人仙台北学園』というところですが、福祉会はこの法人に何の債務もないことは確認済。つまり、これも田畝氏が個人的債務の肩代わりに手形を差し入れていた疑いが濃厚なのです」(前出の原会長)

ちなみに、この学校法人は一連の疑惑の借入先の1つ。そして田畝氏はそもそも同法人の設立そのものにも深く関与しており、一時は代表者も務めていた。つまり、福祉会との関係で言えば完全な「利益相反行為」である。

「この件で、今度は改めて田畝氏本人を背任容疑で告訴します」(同)

当の田畝氏は、一連の疑惑に関連した質問に文書で回答してきたが、福島市の特別監査での指摘については、「過去の債務は、確実な根拠のある債務を記載しています」と強弁するだけで、肝心の根拠については何も示さない。

一方の第三者委員会の指摘についても、委員会の構成が「第三者としての構成になっていない」と非難しているが、福島市が認めているのだから反論にもなっていない。

そして、議事録の偽造については認めるものの、その他もろもろの指摘、疑惑については、反論めいたものは書かれているが、理路が整然としておらず趣意が不明である。

「話をそらしている感が否めません。問題の本質は、田畝氏が現役理事長の時に仕上げて福島市に提出した決算書について、その中に裏付けの取れない債務が3億円弱あったという事実なのですから」(前出の第三者委員会委員)

事実上の倒産で金融機関の取引も停止され、福祉会はまさに存亡の危機を迎えている。何より、200人を超える高齢の被災入所者の行く末が案じられる。

内木場重人
フォーサイト副編集長

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(2016年5月29日フォーサイトより転載)