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「共和党圧勝」で気になる「オバマケア」の行方

2014年11月18日 23時01分 JST | 更新 2015年01月17日 19時12分 JST
Chip Somodevilla via Getty Images
WASHINGTON, DC - APRIL 17: U.S. President Barack Obama delivers remarks about Obamacare and the ongoing tensions in Ukraine in the Brady Press Briefing Room at the White House April 17, 2014 in Washington, DC. Secretary of State John Kerry and his counterparts from Russia, Ukraine and the EU issued a joint statement today on the crisis in Ukraine calling for all illegal armed groups to be disarmed, all illegally seized buildings to be returned to their owners, and for all occupied public spaces to be vacated. (Photo by Chip Somodevilla/Getty Images)

 2014年11月4日に行われた連邦議会の上下両院議員と多くの州知事が対象となった米中間選挙の結果は、ご存じの通り共和党が圧勝、オバマ政権と民主党の大敗でした。

 私が暮らすマサチューセッツ州は、住民の多くが民主党の支持者です。ですので、4日の夜は、住民の怒りと悲しみのため、街はひっそりとしていました。そして数日後、ようやく人々は普段の落ち着きを取り戻し、選挙の結果を冷静に語り始めました。

州議会の仕組み

 マサチューセッツ州は、共和党のチャーリー・ベイカー氏が、民主党のマーサ・コークリー氏を1.9ポイントの差で破り、知事選に当選しました。

http://www.politico.com/2014-election/results/map/governor/#.VGTxN0uQnwI

 マサチューセッツ州は、有権者の35%が民主党支持で、11%が共和党、残りの53%が未登録、つまり無党派となっています。

http://www.sec.state.ma.us/ele/eleenr/enridx.htm

 今回の選挙の投票率は43.9%でしたが、コークリー氏の敗因は、無党派層からの支持を集められなかったことが考えられています。

http://www.nytimes.com/2014/11/12/opinion/the-worst-voter-turnout-in-72-years.html?_r=0

 ただし住民は、この結果で、日常生活に大きな影響があるとは思っていません。なぜなら、知事が新しい法案を成立させるためには、州上下両院議員の可決が必要だからです。現在、マサチューセッツ州の議員は、上院40議席(民主党35、共和党5)、下院160議席(民主党130、共和党30)で、両院とも圧倒的に民主党が議席を持っています。また、マサチューセッツ州の歴代の共和党知事は、住民や民主党議員と非常にうまく連携しています。

https://malegislature.gov

オバマケア成立の経緯

 では、共和党知事の誕生で、住民の生活に直結するオバマケア(Patient Protection and Affordable Care Act)はどうなるのでしょうか。

 まず、オバマケアとは何か、簡単におさらいしておきます。

 米国の保険制度は、1965年に、高齢者または障害者向けの「メディケア」と、民間の医療保険に加入できない低所得者向けの「メディケイド」が成立して以降、大きな変化はありませんでした。メディケアとメディケイドに加入できない人は、勤務先など雇用する側の補助で、民間の保険に加入しています。ただし、それら民間保険の保険料が払えない人は、保険を持てません。実際、医療技術の向上とともに医療費も高額になり、保険料も上昇したため、保険料を支払えない人々が増えました。その救済策として、より安価な医療保険(米国の公的な保険はメディケアとメディケイドだけです。ですので、安い民間の保険という意味になります)への加入を国民に義務付けることで国民皆保険を目指す医療保険制度改革、通称オバマケアが登場したのです。

 そして、これを公約に掲げていたオバマ大統領の就任後、2009年11月7日に下院議会で、2009年12月24日に上院議会でオバマケアの関連法案が通過。2010年3月23日にオバマ大統領の署名により成立し、2014年1月1日から、オバマケアでの保険適用が始まりました。

http://www.cnn.com/2012/06/28/politics/supreme-court-health-timeline/

http://obamacarefacts.com

 オバマケアの目標は、より多くのアメリカ人が入手可能な価格で質の高い健康保険へ加入できるようにすること、そして国の医療費を削減することです。オバマケアに未加入の場合、2014年は95ドル、2015年には325ドル、そして2016年になると695ドルの罰金が科されることになります。

すでに存在する「ロムニーケア」

 実は、オバマケアが成立する前から、マサチューセッツ州には「マサチューセッツ・ヘルスケア改革法(Massachusetts Health Care Reform Law)」という皆保険制度がすでに存在していました。これは、ミット・ロムニー前州知事が、2006年に全米で初めて州住民の皆保険制度を導入したため、「ロムニーケア」とも呼ばれていました。この制度が、オバマケアのモデルになりました。

http://obamacarefacts.com/romneycare-romneyhealthcare/

 後に、2012年の大統領選で、ロムニー氏はオバマケア反対の立場をとる共和党候補者としてオバマ大統領と争いましたが、このときのオバマケアをめぐる論戦は非常に有名です。

「私はあなたのモデルを国家レベルで始めたのです」と言うオバマ大統領に対して、ロムニー氏は、「マサチューセッツ州では、オバマケアと似たような法律を制定しましたが、全米には適さず、廃止したい」と苦しい反論をしたのです。ちなみに、ロムニーケアは成功し、今では、ほとんどのマサチューセッツ州の住民が保険に加入しています。

 このような経緯を考えると、マサチューセッツ州においては、現行の保険制度が今回の中間選挙の結果で変わるとは思えません。

 では、連邦レベルでは、上下両院ともに共和党が圧勝した影響はオバマケアに対してどう出るでしょうか。もともとオバマケアには共和党の反対が強く、両院で制度の廃止を訴えることが予想されています。

 ただし、大統領には、連邦議会に対して拒否権(VETO)があります。ですので、仮に連邦議会でオバマケアの廃止が可決されても、オバマ大統領が拒否をすれば、廃止法案は連邦議会に戻されることになります。その後、両院で3分の2以上の多数で再度可決されれば、大統領の拒否権を超えて、オバマケアが廃止されます。しかし、両院で3分の2以上となると、今回の選挙結果による勢力図で見ても、共和党議員すべてに加えて民主党議員の一部の議員数が必要なので、現実的には厳しいと思います。

"一党独占状態"への懸念

 医療関連のニュースメディア『カイザー』の健康追跡世論調査によると、オバマケアに反対する人たちの主張の多くは、「そもそも保険の費用が高い、未加入者に罰金を科す、個人的な意思決定に政府が強制関与をすることが気に入らない」といったものです。しかし、民間の米世論調査会社『ギャロップ』による世論調査の結果では、保険未加入率は2013年第4四半期から1.5ポイント下がり、2014年第1四半期は15.6%になりました。この保険未加入率は、2008年後半以降で見ると最少レベルとなりました。ですので、一部の国民の批判や共和党の反対はあるものの、現実には、より多くの人が保険に加入できているのです。

http://kff.org/health-reform/poll-finding/kaiser-health-tracking-poll-march-2014/

http://www.gallup.com/poll/168248/uninsured-rate-lowest-2008.aspx

 2015年の1月から、上院、下院ともに共和党が多数派になります。それでも彼らは、民主党の大統領と一緒に働かなければなりません。もし共和党がオバマ大統領の意向をことごとく否定し、大統領と敵対する行動ばかり取るようになった場合は、議会は国内の政治的な争いに汲々とするばかりの場となり、経済、移民、外交など様々な問題で米国の発展の妨げになります。そうした状況になれば、米国民全体が怒り始めるでしょう。

 そうなると、2016年は、共和党にとって最悪の年になる可能性があります。なぜなら、チェックとバランスを重視する米国において、多くの米国人は、上下両議会が共和党の多数派で、その上大統領も共和党という"一党独占状態"を懸念するようになるからです。

 そうした点から、この状況が続く限り、2016年の大統領選は逆に非常に面白くなってきたというのが、中間選挙を終えたボストンでのもっぱらの声です。

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大西睦子
内科医師、米国ボストン在住、医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、2008年4月からハーバード大学にて食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。

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(2014年11月15日フォーサイトより転載)