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粉飾決算「東芝」が上場廃止にならない「奇妙な理屈」

2015年07月21日 15時45分 JST | 更新 2016年07月20日 18時12分 JST
YOSHIKAZU TSUNO via Getty Images
Japan's electronics giant Toshiba president Hisao Tanaka speaks to the press at the company's headquarters in Tokyo on May 29, 2015. Toshiba aims to report in mid-July findings of a third-party committee's ongoing investigations into the firm's accounting irregularities. The company will hold a shareholders meeting on June 25 to speak about the situation to shareholders directly. AFP PHOTO / Yoshikazu TSUNO (Photo credit should read YOSHIKAZU TSUNO/AFP/Getty Images)

東芝の「不適切会計」問題で、会社が設置した第三者委員会が近く報告書をまとめる。すでに、関係者の話として様々な先行報道がなされているが、経費を実際より小さく見積もるなど、損失を先送りすることで利益をかさ上げする不正行為が、長期にわたって行われていたことは間違いない。当初、社内調査で明らかになった原発部門などでの500億円の利益水増しでは収まらず、パソコン事業など幅広い分野で1500億円以上にのぼると見られている。報道の中には2000億円を突破するという指摘もある。組織ぐるみで粉飾決算に手を染めていたことが明らかになりそうだ。

問題矮小化の意図

今回の問題で、大手メディアはなぜか「不適切会計」という言葉を使っている。だが、利益のかさ上げが事実ならば、これは明らかな「粉飾決算」「不正会計」である。「不適切」という言葉を使うことで、あたかもケアレスミスで不法行為ではない、と言外に言っているように見える。

背景には、東芝自身が4月初めに「不適切な会計処理の疑いがある」と公表し、決算発表を延期したことがある。世間に問題が広く知られるきっかけが会社側の公表で、メディア自身が暴いた不正ではなかったのだ。会社が先に「不適切」という言葉を使うことで、それが定着したと見ることもできる。だが、どうも、「不適切」という言葉を使うことで問題を矮小化しようという意図が隠れているように感じてしまう。

長年にわたる巨額の粉飾決算が表面化したオリンパスは、東京証券取引所の資料によると、「判明した連結純資産の訂正は、最大で1235億円にのぼる」ものだった。世間を大きく騒がせ、東証はオリンパスを上場廃止にするかどうか、厳しい判断を迫られた。今回の東芝の不正会計では、すでに金額的にオリンパスを大きく上回ることが確実視されている。ところが東証は、東芝を上場廃止にすることを極力避けようとしているように見える。

東証は、上場している銘柄を上場廃止にする基準を定めている。1つが「規模」。流通株式が極端に少なくなった場合や、売買高の減少、時価総額が基準以下になった場合などだ。市場(マーケット)では、「規格外のりんご」は扱わないという意味である。もう1つが上場企業としての「質」。決算内容を報告する有価証券報告書が提出できなかった場合や、虚偽記載つまりウソの報告をした場合、あるいは第三者として決算書のチェックをする監査法人が「不適正意見」や「意見差し控え」を出した場合がこれに当たる。「腐ったりんご」を市場に流通させるわけにはいかない、という発想だ。いずれも、市場で売買する投資家を守るために作られているルールである。

「提出期限」と「虚偽記載」

東芝の場合、真っ先に直面したのが、有価証券報告書の提出期限の問題だった。上場廃止基準にはこうある。

「監査報告書を添付した有価証券報告書を法定提出期限の経過後1カ月以内に提出しない場合」

3月決算の東芝の場合、法定期限は6月末だった。通常ならば6月末で「監理銘柄」に指定され、それから1カ月以内に提出できない場合は上場廃止になるはずだった。監理銘柄への指定は、上場廃止の可能性があることを投資家に周知するためだ。実際、期限までに中間決算の報告書を出せなかったオリンパスも監理銘柄に指定された。

東芝は今回、「やむを得ない理由」がある場合、有価証券報告書等の提出期限の延長を申請できる、という規定を使って、関東財務局に延長を申請するという"裏ワザ"を使い、監理銘柄入りを避けた。「やむを得ない理由」というのは、巨大地震など外部要因が本来の趣旨で、粉飾決算が発覚したというのは「自己都合」だと思うのだが、なぜか金融庁は5月段階であっさり延長を認めている。期限は8月末だ。

ただし、東証の上場廃止ルールでは、「当該承認を得た期間の経過後8日目までに提出しない場合」としている。8月末までに決算が固まり、それに監査法人の「適正意見」が9月8日までに得られなければ、上場廃止になる可能性がルール上ありうるのだ。

もう1つが虚偽記載である。利益のかさ上げは粉飾、つまり虚偽記載に当たるのは明らかだ。東証の上場廃止基準にはこうある。

「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」

実は、この規定はオリンパスが上場廃止問題で揺れた時とは変わっている。当時の規定は以下のようになっていた。

「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合で、その影響が重大であると当取引所が認めたとき」

オリンパスの上場廃止問題が世間を騒がせた時、東証には政権幹部を含む政治家や財界から、様々な圧力が加わった。

「オリンパスを上場廃止にすれば、中国企業に買われて、日本の医療機器技術が中国に流出しかねない」

そんな外野の声が東証の判断を揺るがしたのである。最終的に2012年1月に東証はオリンパスの上場維持を決めるが、その際、「影響が重大」でない事を説明するのに四苦八苦した。それで基準を厳しくしたのだろう。「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難」という状況に合致するには、よほどの大企業が、よほど大規模な粉飾決算をしない限り、該当するとは思えない。

「個人の不正」だから

ちなみに、オリンパスの際に、東証はどんな理屈で上場維持をしたか。長いが、当時の公表文書から抜き出してみよう。

「(損失の)隠蔽行為は、一部の関与者のみによってなされたものでした。また、これらは同社本来の主たる事業部門とは直接的に関係せずに、その事業の経営状況には影響が及ばない形で進められたものであり、不適切な会計処理は、売上高や営業利益には概ね影響していませんでした」

つまり、組織ぐるみの不正ではなく、一部の幹部が関与した「個人の不正」だったこと。投資家に「利益水準や業績トレンドを継続的に大きく見誤らせるものであったとまではいえない」としているのだ。影響が重大ではなかった、と言うために、かなり無理のある論理展開をしているのだ。

結論は、「上場廃止が相当であるとする程度まで投資者の投資判断が著しく歪められていたとは認められませんでした」だった。

東証がオリンパスを上場廃止にしなかった理屈は、「組織ぐるみではなく個人の犯罪」だったということ、そして「本業の業績を粉飾しようとしたわけではない」ということだった。

「市場の秩序」より「国益」優先

では、東芝はどうか。

これまでの報道では「組織ぐるみ」の可能性が強い。歴代の社長が利益操作を指示していたと疑われる行動をとっていたことも明らかになりつつある。社長の指示で組織をあげて利益操作をしていれば、オリンパスの時のような逃げ口上は通用しない。

もう1つの粉飾決算の目的でも、東芝はまさに本業の利益かさ上げを目的にしている。2000億円の利益をかさ上げしておいて、投資家に「業績トレンドを誤らせない」という理屈は通らない。ここまでの段階では東芝は明らかにアウト、上場廃止基準に合致するとみていい。

問題は、オリンパス後に東証が書き換えた部分、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らか」であるかどうか、だ。

東芝株は日本の資本市場を代表する銘柄の1つである。その企業が虚偽の業績を作成して株主を騙していたこと自体、市場の秩序を大きく乱していることは間違いない。東芝のような大企業が2000億円以上ともされる粉飾を行っても秩序は維持できる、と言い切れば、もはや、ほとんどの粉飾決算のケースで上場廃止にすることはできなくなるのは間違いない。

だが、東証が、その秩序維持のために東芝をただちに上場廃止するかどうかと言えば、まず、無理だろう。オリンパスですら「国益」という"お化け"が顔を出し、市場の秩序よりも優先された。まして、東芝は防衛産業の一翼を担う。東芝が上場廃止になったからといって中国企業に買われることになるとは思わないが、そうした「理屈」が台頭してくるのは火を見るより明らかだろう。

資本市場全体の問題

もともと、東証や金融庁の中には、粉飾決算のペナルティとして上場廃止にすること自体に異論がある。経営者が株主を騙しているのに、上場廃止で最も被害を被るのが株主というのはおかしい、という論理だ。粉飾を見過ごすと上場廃止で株式が紙くずになるリスクがあるからこそ、株主の経営に対する監視が働くという本来の考え方と真っ向から対立しているのだ。

だが、どんなに巨額の粉飾決算をしても「最後の懲罰」といえる上場廃止にはならないのだとすれば、東証のマーケットとしての「質」の劣化は避けられない。東証という市場では下手をすると腐ったりんごをつかまされる、ということになれば、東証自体の信頼が失われていくことになるのだ。

東証では、上場前に公表していた業績見通しが、上場後の決算でいきなり大幅下方修正されるケースが相次いだ。ていのよい見通しの粉飾である。そんな事がまかり通るのも、東証の規制が経営者に舐められているからに他ならない。

果たして東証は、投資家を守る市場としての信頼維持を優先するのか。あるいは、日本を代表する企業の利益を優先するのか。東芝だけでなく、日本の資本市場全体の問題である。

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磯山友幸


1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。

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(2015年7月14日フォーサイトより転載)