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【神保哲生さんに聞く日本の政治とメディア】 「つぶす」発言の以前にある問題とは(上)

2015年08月04日 21時38分 JST | 更新 2015年08月04日 21時58分 JST

 インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」を主宰するビデオ・ジャーナリスト神保哲生氏に、最近の政治によるメディアへの圧力、日本の政治メディアの現状について聞いた(取材日は7月7日)。カッコ内は筆者による補足。

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 このところ、大きな話題を集めたのが、例の新聞を「つぶす」発言が出た自民党の会合だった。6月25日、安倍首相に近い若手議員による勉強会「文化芸術懇話会」の初会合が自民党本部で開催され、これまでにない強い口調のメディア批判があったという。朝日新聞、毎日新聞、沖縄タイムズなどの報道によると、「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番だ。文化人や民間人が不買運動などを経団連に働きかけて欲しい」と言った議員がいたほか、講師として呼ばれた作家百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞者は頭にくる。つぶさないとけない」と発言したという。同氏はその後のツイッターで、「本当につぶれてしまってほしい新聞」として朝日、毎日、東京新聞をあげた。まず、この問題から、神保氏に聞いてみた。

文化芸術懇話会の会合の本当の意味とは


――安倍政権や自民党のメディアへの圧力については近年も幾つか目立つものがあったが、まず、今回の「つぶす」発言をどう見ているか。

神保哲生氏:自民党の文化芸術懇話会の性格が、必ずしも正確に理解されていないと思う。

 一部では私的な会合でのオフレコ発言がメディアに報道され、それが問題になるのはおかしいとの主張があるようだが、あの会合を単なる私的な会合と考えるには無理がある。

 確かに、あれは自民党の当選1、2回の若手議員の会合であり、政府の正式な会合でもなかったし、党の正規の部会や委員会の会合でもなかった。あくまで若手議員たちの私的な勉強会という位置づけということになっているようだが、しかし、実際は安倍チルドレンと呼ばれる、首相を支える立場にある若手国会議員の集まりで、しかもそこに首相に非常に近い立場にある、党と政権の幹部の二人が参加していた。

 一人は安倍さんの特別顧問を務める萩生田光一さん。萩生田さんは特に自民党でメディア対応の窓口となっている人で、前回の総選挙の直前に、萩生田さんの名前で、報道機関に対して公立中性な報道を要請する書簡が届いたことは周知の事実。

 その書簡は、中立性を損なったとしてテレビ朝日の報道局長が国会に証人喚問された件((注:「椿事件」:1993年にテレビ朝日が放送法で禁止されている偏向報道を行ったと疑われる事件)を「以前にこういうことがあった」という形で仄めかすことで、放送局を威嚇する内容だった。

 会合に参加していたもう一人の首相側近は、加藤勝信官房副長官。官房副長官なので、日頃から総理官邸で首相を補佐する立場にある。いずれも首相と日常的に直接会っている人たちだ。

 萩生田さんは4回当選で、加藤さんは5回当選なので、本来は今回の若手の会合に顔を出すような立場の人ではない、言うなれば大物だ。他の参加者がいずれも1、2回生だったことから、安倍さんの若手応援団の会合に首相の代理としてその側近中の側近の2人が参加しているというのが、あの会合の位置づけだった。ちなみに自民党の1、2回生というのは、いずれも安倍政権になってから初めて当選した人たちだ。

あえて政権中枢の大物を招いた


 つまりその会合には、あえて官邸と党の首相側近の二人が招かれていた。もしあれが若手議員だけの集まりであれば、メディアも取材はしていないかもしれないし、その場での発言内容があそこまで大きく報じられることもなかっただろう。

 しかし、あえて政権中枢の大物を招いて、なおかつあえて、保守的な立場から物議を醸す問題発言を繰り返している著名なベストセラー作家の百田さんを呼んでいる。そうすることで、意図的に会合の注目度を高めている。つまり、そこでの発言をあえてニュースに取り上げられやすいように、しっかりと「メディア対策」を講じているということだ。

 しかも、聞いたところでは、あの会合はメディアに頭撮り(注:冒頭部分をメディアに公開し、映像や写真の撮影を認めること)をさせている。これもまた、メディアに取り上げてもらうことを意図した「メディア対応」をしているということだ。

 会合の参加者などからは、会合自体は非公開であったにもかかわらず、記者が壁耳(記者が壁に耳を当てて部屋の中の話を聞くこと)をして内容を盗み聞きしたことに対する批判も聞かれたようだが、それもおかしな話だ。

 あえて話題作りのための様々な設定を施し、メディアに頭撮りまでさせた上に、会合ではわざわざマイクを使って、外からでも声が聞こえるように大きな声で話していた。私的な会合で、外部に聞かれては困る話を、マイクを使って大声でやるだろうか。

 要するに、どう見ても「私的な会合」とはとても言えないような設定を、自ら率先して図っていたということだ。

 これは、頭撮りの段階で既に今日は徹底的にメディア対策を議論するぞ、というポーズとも脅しとも受け止められる発言をしてみせることで、「統治権力はメディアのことを厳しく監視しているし、その対策も色々考えているぞ」というメッセージを発するところにその目的があったと考えるのが普通だ。

 もしそれを意識せずにやっていたとすれば、あまりに素人すぎて、お話にならない。国会議員や政権というものが持っている権力の存在をおよそ認識できていないことになり、政治家失格と言わねばならない。

 もしそれを意図的にやっていたのであれば、発言が暴走気味になったことが批判されたくらいで、簡単に旗を降ろしてしまうとは、何とも情けない。

 首相に近い人たちが参加する政権与党の政治家の会合で、メディアへの圧力のかけ方がまことしやかに議論された。そして、そこでのやりとりが問題になると、あれは私的な会合だったと言い訳するのは、権力の座にある者としては、あまりにも見苦しい。

 最近は安保法制の国会審議で、憲法学者が口を揃えてこの法案を「違憲」と断じて以降、大手メディアも勇気づけられたとみえて、いつになく安倍政権に対して批判的な報道を続けている。

 それが政権を逆風に晒している一因となっていると考えた政権周辺の人たちが、メディアを牽制するための1つの手段として、あのような会合を企画したところ、逆に、やぶ蛇になってしまい、かえって批判に拍車が掛かってしまった。まあ、だいたいそんなところではないか。

 しかし、それにしても、言っていいことと言ってはいけないことの区別が付いていない人たちがあんなにいるということには、正直驚いた。

 あの会合での発言は問題外の発言なので、それを批判をすること自体は大切だが、それはあまりにもレベルの低いところの議論でしかない。

 この問題はもっとずっと根が深い。だから、問題発言をした政治家を批判するだけで終わってしまってはだめだ。

メディアが圧力に脆いことに気づいた政権


 安倍政権になってから、メディアに対する露骨な圧力が目立つようになった。これは安倍政権が、日本の大手メディアが意外と圧力に脆いことに気づいた結果だと思う。

 実際に経団連に頼んでメディアへの広告の出稿を減らしてもらうことなど、現実的ではないし、経団連に広告を減らすよう言ったところで、経団連の会員企業が実際に広告を減らすとはとても思えないし、沖縄の新聞を潰す話にしたって、彼らに認可業種でもない新聞を潰す手立てなど何もない。

 しかし、政権与党がそのようなメッセージを発すれば、メディアは厭が応にもそれを意識するようになる。

 いざ真正面から圧力がかかればメディアも抵抗するだろうから、実際に圧力をかけて報道内容を変えさせることは容易なことではないが、特に日本ではそうした発言でメディアを萎縮させ、自主規制を引き出すことがそれほど難しくないことに、権力が気づいてしまったような気がする。

 今回の若手の会合は批判を受け、それが安倍政権にとっても支持率の低下など、よりいっそうの悪影響を与える結果となった。しかし、長期的にそれがどのような波及効果を生むかは、現時点ではわからない。

 目先では百田氏に対する批判とか、参加していた議員の発言への批判とかが目立ち、結果的に政権与党にとっては誤算となっているが、「この政権は常にそういうことを考えながら、メディアを厳しくウォッチしているぞ」というメッセージだけは、確実にメディアに伝わっている。その意味では、長期的にはこの会合を開催した当初の目的は果たしていると見ることができるからだ。

メッセージ効果


――メディアを怖がらせてしまった?

 あれしきの発言で萎縮する記者はいないだろうが、メディア企業の経営陣に対する一定のメッセージ効果はあったのではないか。

 テレビ朝日の「報道ステーション」とか、TBSの「報道特集」のように、大手メディアの中にも現時点では安倍政権に対して厳しいスタンスの報道を続けている番組がいくつかはある。

 同じ放送局の他の番組では必ずしも同様の政権批判スタンスを取っていないことを見ると、これらの社内にも色々な考えがあることが窺える。例えば、社内で政権批判路線を快く思っていない人が、今回の一件でスポンサーがびびりだしているなどと言って、政権批判を控えるべきだと主張し始める可能性は十分にある。

 今回の会議自体はやり方も稚拙だったし、内容がひどすぎた。しかし、これを安倍政権になってから続いている、ある種の「メディア・コントロール」の一環として理解することは重要だ。

 文字通り、飴と鞭を使ってメディアをしっかり押さえることが、政権を安定させ、政権が持つ政治的なアジェンダ(達成目標)を実現する上では不可欠であることを、安倍政権は前回の政権時に痛いほど思い知ったのだろう。今回、安倍政権が戦略的にメディア対策を行っていることは間違いない。

 統治権力がメディアに手を突っ込むことには警戒が必要だが、どこの国でも政権はメディア対策に力を入れるものだ。安倍政権のメディア対策は、決してそれほど高度なものとは思わない。しかし、特に長年政治とメディアの蜜月が当然視されてきた日本では、メディアの側がそれしきのメディア対策にも太刀打ちできていないところが、とても心配だ。

日本における、報道の「中立性」とは何か


――政治家が特定の報道メディアの取材を拒否する、あるいは政党が報道番組への出演を「公平さを欠いている」という理由で出演を事実上拒否するという例も近年、あった。そのほかにも似た様な事例があるが、今回の例も含め、政治が戦略的にメディア対策を進めているということか。

 安倍さんあたりは戦略的に動いているというよりも、心底、日本のメディア報道が偏向していると思って怒っている可能性はあるが、そもそも首相のそうしたキャラクターも含めてメディア対策を考えるべきだ。

 安倍さんは「ニュース23」という番組に出た時に、街頭インタビューを聞いて、自分の政策を批判する人が多く出ていたことに怒りを露わにした。政策を支持する人もいるはずなのに、報道が偏向していると言うのだ。

 実際のオンエアでは政策を支持する人も何人かは紹介されていたようだが、人数的には批判の方が多かったそうだ。しかし、そもそも街頭インタビューというのは世論調査ではないので、そこでの賛成・反対の比率に何か重要な意味があるわけではない。

 「賛成の人はどういう理由で賛成なのか聞いてみました」と言って、賛成の意見だけを集める企画があってもいいし、その逆があってもいい。そんなところにメディアの「中立性」を求めるのは間違いだし、編集権の侵害だ。それは中立性の問題ではなく、単に「平板」な報道をしろと言っているに過ぎない。

――その安倍さんの発言自体も批判されたが。

 若干裏話になるが、例えば安保法制について、今、実際に街頭でインタビューをすると、圧倒的多数が安保法制には反対だと言う。そこには、あえてマスコミの取材に応じようという人の中には、何かに反対していたり怒っていたりする人が多い傾向があることからくる、メディア特有のバイアスの部分もある。しかし、仮に実際の街頭インタビューをした結果、9割が反対意見だったとしても、放送局としては9人の反対意見と1人の賛成意見を紹介することは憚られるだろう。局としては、あえてバランスをとって、実際の比率以上に賛成意見を多く紹介している。

 安倍さんの主張が正当だとすれば、局はむしろ取材結果を曲げて、政権への賛成意見を水増しして報道したことになる。政権にとって都合のいい偏りは許さ?