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「成人の日」でAKB高橋みなみに現代の若者論を語らせた『NHKスペシャル』 キャスティングの絶妙さ

2014年01月14日 02時22分 JST | 更新 2014年03月14日 18時12分 JST

高橋みなみの「知性」に驚く

「成人の日」を含む三連休中の1月11日(土)。NHKが看板番組『NHKスペシャル』で有識者やいろいろな世代の男女が「若者と社会のあり方」を語り合う討論番組を放送した。この中でAKB48の高橋みなみが新しい才能を見せてくれた。

ふだんバラエティ番組などで「笑い」を取ったり、"AKB総監督"として「がんばり」を見せたりしている時の顔とは違って、社会学者や評論家、経営者などに混ざって、今の若者論を真面目に語った。そこで見えてきたのは、彼女が持つ「かしこさ」や「大人としての顔」だった。

この番組は、こんな内容だった。

NHKスペシャル『シリーズ日本新生 ニッポンの若者はどこへ? 徹底討論 大人の心配×若者の本音』

市民参加の討論番組、シリーズ日本新生。成人の日を前に、若者たちの未来を考える。 今、働く人の3人にひとりを占める非正規雇用。特に若者たちの間で「正社員になりたくてもなれない」人が増えている。年金や医療などの負担は増え続け、政府の調査では若者たちの半数近くが未来に不安を感じているという。 "さとり世代"。将来への不安を抱える一方で、今の生活には満足という日本の若者たちを表した言葉だ。高度経済成長もバブル経済も知らない世代。仕事・結婚・暮らし...。今、その価値観は大きく変わっている。大学の婚活授業などを紹介するとともに、アニメキャラのコスプレを仕事にした女性や、会社に属さず数々の小さな仕事を掛け持ちする"複業"で生計を立てる男性など、新たな働き方を模索する人々を取材。学生、フリーター、起業家など様々な立場の若者たちをスタジオに招き、未来に夢と希望を持ちながら生きるため、日本社会に何が求められているのか議論する。
出典:NHK公式サイト

討論に参加したのは社会学者の古市憲寿、評論家の宇野常寛、映画監督・井筒和幸、タレントで作家の遥洋子、それにAKB高橋みなみ、アイドルプロデューサーやコスプレ事業をしている若者、団塊の世代、ローソンCEOの新浪剛志ら企業経営者、フリーター、契約社員、大学生など、いろいろな世代の人たち。「さとり世代」と呼ばれ、高望みをしない現代の若者をどう評価するべきか、どうつき合っていけば良いのかなどを議論した。

結婚しない人の割合は増える一方で、「同性と一緒にいる方が楽しい」(女子大学生)や「(結婚の意思がない)19歳の息子に孫はあきらめてくれと宣言されました」(45歳の主婦)という若者たち。スタジオでは「夢が大きくない」などと批判の声が上がる。

そんななかでの高橋みなみの表現の的確さには驚いた。

高橋みなみが語る「若者の夢」

どれだけ良い大人とかかわるかが、先の人生がすごく変わるスタートボタンだと思うんですよ、私は。正直。AKBに入った当初も分かんなくて、どうしようという感じだったんです。でも秋元さんが『紅白に出よう』『武道館に出よう』とか、大きい夢を掲げてくれたことで、『ああ、じゃあ、それに向けてがんばってみよう』と。そこに行くまでに大人たちがかけてくれた言葉によって鼓舞されて、『あっ、なるほど!』って思えるので、やっぱり人によっては大人にダメだと言われた子もいましたけど、そういう人に出会っちゃうと折れちゃうし、『大丈夫。行けよ!』って言われた人は伸びると思う。

いまどき、「鼓舞される」という表現を自分で使えるのは、大学生でもしっかり本を読んでいる人間だけだが、大学教員をやっているとそういう若者に出会うことの方が珍しい。

「スタートボタン」という比喩を使う言語感覚も良いセンスだ。これも同様で大学生でもこんな比喩を使える若者は滅多にいない。この発言だけで、彼女がふだん物をよく考えている女性だということが分かる。バラエティ番組などで彼女が話している場面は時々見たことがあったが、こんなふうに的確な言葉を使えることは想定していなかった。

高橋みなみは、どちらかというと「三の線」(三枚目)の役どころが多く、今回のように「かしこさ」「知性」をはっきり見せたことはなかった。しかも番組全体を通して、「二の線」(二枚目)としての役どころを立派にこなした。

あらためて高橋みなみの発言を文字に起してみると、とても分かりやすい表現で無駄がない。

スタジオでは、若者から「僕らは(プラスを作ろうというよりも)マイナスを作らないという発想」だという発言があり、新浪剛志の「僕らはプラス(を作ること)しかない」という発言とのギャップが生まれた。

『さとり世代 ~盗んだバイクで走り出さない若者たち』という本で、現代の若者について分析した原田曜平・博報堂ブランドデザイン若者研究所研究員も登場し、「経済が成熟ステージに入った後の若者たちはどうしても親からもらった生活環境が落ちないということに意識が注がれる」と発言。

「ブラック企業」や「非正規雇用」など<働き方>の問題もテーマになる。遥洋子が「十数人いる甥っ子は、ほとんどが非正規だ」と身内の実状を明らかにして、「一昔前、『自由な働き方』と言っていたフリーターが4、50代になった今の暮しぶりは貧困」だと指摘する。

このあたりは「夢を持とう」という新浪剛志や「石の上にも3年」と我慢を主張する経営者らと、それらの「おじさんの思考」を批判する宇野常寛が「世の中厳しいから我慢しろよって、ごく狭いものに一生懸命で、誰も信じないお題目を唱えて、おじさん、おばさん経営者に気に入られる若者を演じて、むりやり正社員にならないと人生、ゲームオーバー」などの意見を展開して激しく対立した。

新浪が「(社会を)変えようと思ったら投票に行かないと...」と<政治への参加>が争点になった後で高橋みなみが発言した。

高橋みなみが語る「若者の政治への意識」

それに私、(投票で)変わるとは思ってないけど、行ってるんですよ。世間一般の10代、20代で投票で何か変わるとは、正直、大人にまったく期待してないと思います。何をどうしたら良いのかというと、若物の力のぶつけどころ、というのもそうだし、大人も正直、変わらないといけないところもあるな、と私は思います。

グループでやっていると思うんですけど、若い人たちが入ってくるんですよ。(私は)22歳なんですけど、14歳くらいの子が入ってきて、いろんなことを教えなきゃいけないと思って...。私、1 期生なので、(向こうは)15期生とかなんで、『これこれこうで、こういう歴史があってね』『(AKBは)こういう軍団でね、こういうことやっていかないといけない』とか思っても、若い子たちって、『えっ?』って感じなんです。若い子たちもルールがあって、若い子たちとして生きてきているから。...となった時に私たちが若い子たちに合わせて、一緒に作っていかなきゃいけないんだということにすごい気づいたんですよね。

高橋みなみの立ち位置は、若者と大人の両方について長所と欠点を理解しているという異次元のポジションだ。対立する2つの立場を「つなぐ」役割と言っても良い。通常の討論番組ならば、バランス感覚に優れた評論家などが演じる役割だ。

番組は、飼い主から捨てられた犬の引き取り手を探し、犬のケアに引きこもりの若者を参加させて社会復帰に導く社会的起業を行った女性など、「低収入でも生きがい重視で働く若者たち」をVTRで紹介する。このVTRは今の若者にもしっかり目標を持って生きる人間たちが少なからずいると希望を与えるものだったが、就活に失敗して秋葉原でライブハウスを経営する仕事を始めたという30代の女性はスタジオで「起業の仕方を誰も教えてくれなかった」と体験を語り、社会学者の古市憲寿もそうした起業をする仕組みでは日本は北欧諸国と比べても未成熟だと指摘した。

「失敗してもリスクを社会が負う仕組み」の必要ではないかと、スタジオの討論は収れんされていく。

最後に司会の三宅民夫アナは高橋みなみに全体の議論を締めくくる感想を振った。

アイドルなのに討論番組で「まとめ」の発言

今回、若者の側にいるんですけど、私は大人と話すのがすごく好きなんですよ。けっきょく私たちって、私、今、22歳ですけど、(大人の)みなさんの方が絶対人生を生きていて、たくさん、いろんなことを経験しているわけだから、いろんなことを吸収するには、やっぱりコミュニケーションというか、話を聞いた方が絶対、私たちのためになると思うので、やっぱり若者で固まった方が良いという話もありましたけど、結果、全員でやった方が大きい力になるのではないかなとは思います。

番組の流れをまとめたのは、高橋みなみ。

世代を超えて、これからの日本社会を若者も大人も一緒に作っていこうという発言、しかも、単なる優等生的な発言でなく、彼女なりの経験に裏打ちされた、確信を持った発言で、見事に番組を締めくくった。

よく考えてみれば、アイドルがNHKの討論番組で「まとめ」の役をこなすなど、聞いたことがない。

インターネットでも彼女の「大人」の発言は話題になった

「高橋みなみ、NHK討論番組内での発言が『大人過ぎる』と話題に~仕事観、世代間問題...」

雇用や社会保障など日本のさまざまな問題について討論するテレビ番組『NHKスペシャル シリーズ日本新生 ニッポンの若者はどこへ?』が1月11日19時30分~放送され、同番組内でパネリストとして出演したアイドルグループ・AKB48総監督の高橋みなみの発言が、「大人過ぎる」「アイドルの発言とは思えない」などと一部ネット上などで早くも話題を呼んでいる。 本番組は、ローソン代表取締役CEO・新浪剛史や映画監督・井筒和幸、評論家・宇野常寛などの論客と一般の人々が、広い世代・ジャンルから集まり、経済や社会の問題などについて討論し、「大人の心配と若者の本音」をぶつけ合うという企画。その中で高橋は「若者世代」「アイドル」代表として出演した。 (中略)  こうした一連の高橋の発言を聞きながら、企業経営者である新浪をはじめ、スタジオの"大人世代"は一様に大きくうなずきながら納得する様子を見せていたが、日頃から大所帯の人気グループを束ねる中で高橋が培ってきた「大人の思考」が垣間見えた格好となった。
出典:Business Journal

討論番組の「価値」を決めるキャスティング

私自身、高橋みなみの「知性派ぶり」はこの番組で初めて見たが、彼女を別にして、討論番組として見ても興味深い内容だった。

討論番組では、出来の良し悪しを決める最大のポイントは<誰を出すか>というキャスティングだ。

宇野常寛、古市憲寿、遥洋子らの論客に加えて、AKB高橋みなみと来れば、普通は「色物」(華やかさ、親しみやすさを求めるキャスティング)として「視聴率」を獲得するために登場させたと考えるのが普通だろう。少なくとも民放のテレビ番組だったら、硬い議論でもタレントを加えて、話の流れに茶々を入れさせて和ませる。そんな感じだ。それが「色物」にとどまることなく、堂々と自分の意見を披露し、「知性派」としての顔を見せた。これは視聴する者にとっても予想外の出来事だった。高橋みなみは今後、「知性を求められる番組」でも活躍する機会が増えることだろう。

『紅白歌合戦』での大島優子のAKB脱退宣言で第一世代からの世代交代が一気に進むAKBだが、高橋みなみは「トークもうまい」「バラエティだけでなく、硬いテーマもこなせる」という評価で、一本立ちすることも可能かもしれない。しばらくは「AKB総監督」という役割での「大人」の立ち位置は生命線だろうけれども。

それにしても、こうしたキャスティングをしたNHKの制作スタッフのセンスは脱帽ものだ。

「ブラック企業」や「非正規雇用」などは、経営者側、労働者側で主張が明確に異なり、ともすれば政策論争、場合によっては政治的な論争になりがちだ。

この番組でも、そうした<政策>の議論や投票などの<政治参加>をめぐる議論にもなったが、高橋みなみという「中立点」あるいは「触媒」が存在することで、立場の違いを超えた妥協点や議論の集約点に向けた「何やら楽しげな、建設的な議論」に変化した。

一例を挙げれば、番組内で「夢」に向かうことの大事さを強調する大企業CEOの新浪剛志に対して、先鋭的に批判する遥洋子や宇野常寛が、高橋みなみが混ざったことで、攻撃性を全面に出せずにユーモラスでなごやかな口調になる、という「たかみな効果」が見てとれた。

進化しているNHKの討論番組

今回の『NHKスペシャル シリーズ日本新生』は以前放送されていた討論番組『日本の、これから』(2005年~2011年)の後継番組だ。『日本の、これから』は、「格差社会」「未婚社会」「無縁社会」など、その時々に話題になった「社会のありよう」をいち早くテーマにしてVTRで取材しては材料にして討論した。

なかでも2010年に「日韓の未来」問題を扱った時には2つの国の若者同士が本音でぶつけあった。隣のスタジオに集められた若者たちが携帯に似た端末で「つぶやき」を書き込む一種の疑似のツィッターが用いられ、日韓の若者の「つぶやき」が画面に表示された。展開される議論やVTRに合わせて、「若者の本音」が疑似ツィッター上に表れ演出だった。「経済的に韓国の会社に抜かれているとは知らなかった」「(同じパフェを)みんなで食べる習慣があるって面白い」「相手のことを知ればもっと仲良くなれるのでは?」(正確な表現までは覚えていないが)などの、番組の展開の見ながらの感想を同時並行で知ることができた。

取材部分(お互いに知らない日韓の習慣や経済など)と議論の部分が融合し、疑似ツィッターともミックスされていた。

疑似ツィッターによる「つぶやき」が画面下に出てくることで、視聴者も参加しているような臨場感はとてもリアルで、「日韓の未来」は、それまでのテレビにおける討論番組の歴史に新たな方法論を打ち出す画期的なものだった。

『日本の、これから』などで蓄積されたNHK制作陣の「討論番組づくり」のノウハウが今回の番組にもつながったのだろう。

議論が下手で、熟議ができないと言われる日本人。

そんな日本人に向けて、NHKの制作スタッフが魅力的な討論番組を作るために研究を重ねていることが見てとれる。 

簡単なようで実は難しい討論番組

「討論番組」は、スタジオで出演者が話すのがメインなので、視聴者もテレビ制作者も「簡単に作れる」と思いがちだ。

だが、実際にはそれぞれの出演者がどんな話をするかまでの細かい台本はないため、実はとても難しいジャンルだ。

政治的なテーマを含むことが多く、「公立中性」「不偏不党」を求められるNHKにとっては、毎回、どう裁くかで議論を費やすことだろう。

司会者の進行での「機転」も問われ、議論を盛り上げたり、偏りがないように多角的な論点を出す必要がある。そのための取材VTRやデータのフリップなどの「議論の材料」も用意しなければならない。

そして、それらの材料を使って、議論が建設的なものにするためには、誰がどこで話すかという「想像上の台本」を想定しつつ、議論同士が白熱して、互いが触発されてそれぞれの論者にも新しい視点が見えてくる瞬間が訪れるようになると、「討論番組の成功」ということになる。

今回の『NHKスペシャル 日本再生』は、高橋みなみが入ったことで討論がぐっと身近になった。

彼女のキャスティングで番組そのものが成功したといえるだろう。

景気回復、TPP、集団的自衛権、教育改革、憲法改正など、他にも日本人が論じるべき<テーマ>は目白押しだ。

この番組の今後の健闘を期待したい。

それとともに、いちやく知性派アイドルになった高橋みなみの今後のウィングの広げ方も楽しみだ。

(1月13日の「Yahoo!ニュース個人」より転載)