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なぜ三木谷社長は怒っているのか

2013年11月11日 23時09分 JST | 更新 2014年01月11日 19時12分 JST

別に三木谷社長に肩入れをしようとか、代弁しようということではないので最初に断っておきます。

さて、官僚の人たちが仕組みマスコミを通じてまた情報操作しようと感じるのが一部の医薬品販売のネット販売規制に関してです。劇薬などの医薬品と書けば、あるいはそう誤解する伝え方をすれば、消費者保護の観点、副作用のリスクを避けるためには規制も当然だろうと感じてしまう人もなかにはでてきます。お見事の一言につきます。

農水省のカロリーベースの「食料自給率」もそうでしたし、厚労省が一般医薬品の販売をコンビニにも解禁すると薬事法を改正したときもそうでした。実際には登録販売員制度を導入して、コンビニでは簡単には売れなくするように仕掛けたのですが、マスコミも騙されたのか、「コンビニでも売れる」と騒いだものです。

厚生労働省に乗せられたマスコミ? :

今回、規制されるのは劇薬5品目と、医療用から切り替わったばかりの市販薬、スイッチOTCといわれる医薬品23品目です。劇薬は販売禁止、またスイッチOTCは最長三年は売れないことになります。とくに問題になってくるのは後者です。

自民党の元通産相深谷さんは、約1万1千品目ある市販薬のほとんどをネット販売で認めていて、薬のネット販売を99.8%も解禁しようとしているのに、なにが文句あるのか、という感じで個人攻撃されていますが、三木谷社長の怒っておられることとは、なにかすれ違いを感じます。

深谷隆司の言いたい放題 :

まずはスイッチOTCについてご存じない方もいらっしゃると思いますが、長年お医者さんが処方箋をだして入手できるお薬のなかで、長年の実績があり、副作用も少ないものは、どんどんお店でも買えるようにしようと厚労省が進めてきているお薬です。

なぜそうするのかですが、主にはふたつの理由が考えられます。

ひとつは、開発されて長年経った薬は、薬価を下げる動きにありますが、それでは医薬品メーカーが困ります。売上が下がってしまいます。だから、それと引き換えに店頭販売で頑張ってくださいと規制を解いたのです。

もうひとつは「セルフメディケーション」という考え方です。慢性病などで医者にかからなくとも自らお店で薬を買ってください、自分で治療してくださいというものです。高齢化にむかっていくと、どんどん政府の医療費負担が増えますし、健康保険ももたなくなります。お医者さんにかかるまでもないものは、できるだけ店頭で買ってもらえれば負担が減るだろうというものです。消費者にとっても、診察料などの負担がなくなるので、そちらのほうが安く買えるようになる場合もでてきます。

スイッチOTCのお薬は、一般で売っても副作用の問題がないかどうかをチェックしようということで3年間は、薬剤師の対面販売を義務付ける仕組みになっています。お店側とすれば、そういった制約があるので、値崩れがなく、付加価値の高いお薬としてうれるメリットもあります。

さて問題は、ほんとうに薬剤師が販売時点でチェックすることが安全につながっているのかということと、実際に薬剤師による対面販売を守っているのかです。後者は怪しいですね。しかも副作用があった場合にその責任を取るのは薬剤師ではなく、医薬品メーカーです。

事前チェックは、ほんとうにネットではできないのかです。しかも、そのお薬を使った人をフォローして問題がなかったかをチェックするには、ネット販売のほうがはるかに優れているはずです。店頭販売では購入者を追跡することは難しくとも、ネットでは購入者が特定されているので追跡調査が可能になってきます。

「消費者保護=ネット規制」という発想は、その瞬間に思考停止になってしまいます。新しいチャレンジを切ってしまう典型です。

消費者保護のためにネット販売規正法は必要 :

しかし、なぜか薬剤師の対面販売を残すのです。田村厚労相は「薬局での対面販売によって薬剤師の五感で安全性を確認する必要がある」とされていますが、あくまで薬剤師制度を死守しようという苦しい言い訳だと感じます。あまり科学的ではなりません。

たとえば水虫薬で、いちいち買いに来た人の靴下を脱いでもらって、臭いまで嗅がないと売ってはいけないということですが、それでは医療行為と紛らわしくなってまた問題です。

つまり、一部の医薬品販売規制については、ネット側からの販売に関するチェックは端から駄目だとしてしまったのです。かつて、薬剤師不在のお店については、対面販売にかえて、お客さまとのテレビ会議などでやろうという業界からの動きもありましたが、それがまったく許可されなかったのと同じです。厚労省はなにがなんでも薬剤師の仕事を守りたいのでしょう。その薬剤師の背後にひかえているのが医師会です。

自民党の元通産相深谷さんは、数としてしれている、その他はネット解禁したのだから文句を言うなということですが、数やスイッチOTCから得られる売上の問題ではなく、筋が通っているのかどうか、将来をどう考えているのかの問題です。

もし将来、アメリカのように処方薬まで「ネットの薬局」で売れる時代を見据えて、医薬品のネット解禁を想定していれば、この薬事法改正で、さらに道筋が遠くなってきまします。

処方箋のお薬も、ネットで販売されれば、価格競争も起こってくるかもしれません。それでは、これまで税金をばらまいて整備してきた処方箋薬局のネットワークを脅かしかねません。既存の業界や団体を保護するために新規参入の壁をつくるだけだ、規制緩和の趣旨からはずれていると考えても当然でしょう。

もうひとつは、よほど成長戦略に手詰まりだったのか、安倍総理は医薬品のネット解禁を目玉政策のように強調されてきました。その目玉の規制緩和が骨抜きだという印象にになってしまいます。

医薬品のネット販売の全面解禁による経済効果がどれほどのものかは疑わしいと考えているので、三木谷社長とは考え方が少し違うかもしれませんし、ネットでスイッチOTC薬は3年間は売れないとした場合のネット販売の金額的な打撃もさほど大きくはないと思いますが、競争がフェアでないということにはなってきます。

すくなくとも成長戦略を提言する委員としては、そういった規制をあえて官僚が仕組んだとすれば怒るのももっともでしょう。

しかしより高度な医薬品や医療機器、あるいは医療システムは、世界が高齢化に向かっているなかでは、成長分野であることは間違いありません。それを考えると、むしろこの分野での成長戦略は、規制緩和だけで達成できるというよりも、むしろ、こういった開発を支える審査体制の貧弱さのほうが問題ではないかと感じます。

アゴラに投稿した「ネット販売規制が象徴するアベノミクス成長戦略の危うさ」 という記事で、日米の審査体制の比較をご紹介しています。官僚主導の成長戦略はまず成功しません。それよりも役割分担が大切で、行政は民間企業の開発を支える、それで民間の活力を引き出すというのがほんとうの姿ではないでしょうか。

アベノミクス成長戦略の危うさ : アゴラ - ライブドアブログ :

(この記事は2013年11月11日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」からの転載です)

新経連と産業競争力会議、一般医薬品のインターネットネット販売に関するニュース画像集