NHKネット配信課金ありきに「?」

何故、そんなに前のめりなのか。
NHK放送センター(東京都渋谷区) Photo by Rs1421
NHK放送センター(東京都渋谷区) Photo by Rs1421
Rs1421

【まとめ】

・NHKは2019年度には「ネット同時配信」を開始したい意向。

・その際、「ネット課金」をどうするかの議論はまだ進んでいない。

・まずは視聴者の理解が必要であり、NHKは丁寧な説明が求められる。

【注:この記事には・複数の写真・図が含まれています。サイトによっては全部表示されず、キャプションや出典のみが記事中に残る場合があります。全て見るにはJapan In-depthのサイトで記事をお読みください。】

何故、そんなに前のめりなのか?そんな疑問を抱くのは筆者だけではあるまい。

NHKは9月20日総務省開催の「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、テレビ放送のインターネット「常時同時配信」を受信契約していれば無料で視聴できるようにする方針を明らかにしたそうだ。

オリンピック前の2019年度にはこのサービスを開始したいらしいが、「ネット課金」について結論は出していない。

実は「ネット同時配信」はとっくに始まっている。

特に災害時にNHK・民放の地上波の放送がネットでも同時に配信されていることに気付いた方も多かろう。

特にNHKは2015年度にNHK杯フィギュアなど3つのスポーツイベントで、2016年度はリオデジャネイロオリンピックで、1日最大4時間程度の内容をインターネットで同時に配信した。

また2015年度に総合テレビの番組を対象に4週間、また2016年度に総合テレビとEテレの番組を対象に3週間、試験的に実施している。実に意欲的なのだ。

これに対し、高市早苗前総務省は今年7月NHKに対し、「ネット常時同時配信」を開始するにあたり、3つの条件を提示した。

1つは「放送の補完として視聴者から十分な支持を得て実施する」こと。

2つ目が「既存業務が適正か検討する」こと。

3つ目が「関連団体への業務委託の透明性を高める」ことである。

重要なのは「視聴者の理解」であることは言うまでもないが、2つ目、3つ目で総務省にくぎを刺されたように、NHKは過去不祥事のオンパレードで信頼性を大きく毀損してきた歴史がある。

また関連団体を多数抱え、経理処理の不正は言うまでもないが、公共放送たるNHKが収益第一の子会社を乱造する必然性があるのか、との疑問も根強くある。

2017年度の子会社からの配当総額は実に88億円(過去最高)に上るというのだから恐れ入る。

また、これらの子会社の利益剰余金は2016年3月末時点で948億円である。

受信料引き下げの原資になりうるのではないか?会計検査院に指摘されるまでもなく、検討し、視聴者に説明すべきだろう。

籾井勝人前NHK会長が提起した「受信料の値下げ議論」はどこに行ってしまったのか?

籾井勝人前NHK会長 Photo by L-Crt.Rocks are Trad.Jap.Terr.
籾井勝人前NHK会長 Photo by L-Crt.Rocks are Trad.Jap.Terr.
L-Crt.Rocks are Trad.Jap.Terr.

こうした諸問題に何の解決の糸口も示さず、視聴者に丁寧な説明をしてもいない。それで「ネット課金」といわれてもすんなりと「はい、そうですか」という人はいないだろう。

元民放の人間として民業圧迫の見地から反対しているのではない。

年間予算7000億円(2019年度予算)を超す巨大公共放送事業者として、なぜ「ネット同時配信」と「ネット課金」が必要なのか、現時点で納得のいく説明がないことを指摘しているのだ。

NHKの受信料推計世帯支払率は78.2%(2016年度末:対前年度比プラス1.3%)である。微増傾向であることは同慶の至りだが、それでも5人に1人は払っていないというのはいかにも不公平感がある。

そもそもテレビが自宅にない家庭も多い中、受像機がある家庭は受信料を払わなければならない、という古色蒼然たる放送法はこのネット時代に全くそぐわない。(注1:放送法64条)

その改正論議が盛り上がらないのも不可思議な話だ。

NHKには予算が潤沢にあるがゆえに優れた番組がたくさんある。それは自他ともに認めるところだろう。先進技術の開発力もある。

これからも良質の番組を作り続けるためにはどうしたらいいか、原点に返って考えるべきだろう。

賛否両論あろうが、民放の真似をしてド派手なスタジオセットを設え、民放のバラエティかとみまがう番組の量産を視聴者は望んではいないのではないか?

NHKの経営陣にはよくそこのところを考えてもらいたい。

また、総務省も「ネット同時配信」の議論を深めるために、国民の意見を吸い上げてもらいたい。

さもなくば、これまで築いてきた民放・NHKのすみ分けや、広告収入がメインの民放のビジネスモデル、さらには地方局の存在意義、経営基盤そのものが揺らぎかねない。

とはいえ、ネット時代にいつまでも過去のシステムにしがみついていては進歩はない。国民の知る権利が毀損されないよう幅広い議論を「迅速に」進めるべきだろう。

注1)【放送法第64条(受信契約及び受信料) 】

第1項 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第126条第1項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

参考)

NHK「インターネットのサービス よくある質問集」

NHK「インターネット実施基準」

注目記事