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「好きなことで生きていく」はこうして実現された-メイク動画で人気のYouTuberが一躍スターになるまで

2015年05月02日 16時43分 JST

michelle phan

YouTubeでのメイクアップマニュアル動画が多くの女性ファンの心を掴み、大人気となったMichelle Phan(ミシェル・ファン)さん。そのチャンネル登録者数は750万人以上、動画再生数は10億回超とYouTube上で、最も視聴されている人物の一人だ。最近では、ビジネスプロデューサーとしての手腕を発揮、フォーブス誌による「30歳以下の30人」にも選ばれるなど女性起業家としての活躍ぶりを見せている。

YouTuberを紹介するテレビCMでもお馴染みのキャッチコピーさながらに、「好きなことで、生きていく」を実現したファンさん。4月に来日した彼女に、パートタイムのウェイトレスから人気YouTuberとして成功するまでの道のりや、自身がプロデュースするビジネスの日本展開について聞いた。

動画編集はYouTubeで学んだ

ファンさんがYouTubeへの配信を始めたのは2007年のこと。当時19歳、学生だった彼女は、学校で支給されたノートPCを使って編集を行ったという。初めは動画編集について何もわからず、YouTubeに投稿されたハウツーを一生懸命見て、編集の仕方を学んだそうだ。

動画編集を覚えたファンさんが始めたのは、自らが素顔になり、メイクをほどこしながらその手法を伝えるというメイクアップのチュートリアルだった。

「その頃、メイクアップ法やキレイになる術を学ぶには、化粧品店のカウンターで店員から教わるか、お金を払ってセミナーに参加するか、あるいは本を買うくらいしかありませんでした。メイクの仕方を学ぶにも"資質"が必要だったんです。」

※以下はファンさんがブレイクするきっかけとなった、レディ・ガガのPV「Poker Face」のメイクチュートリアル動画。3000万再生を超える。

そこで、「これは一つのマーケットになるかもしれない。YouTubeを使って、マーケットをまったく違うものに生まれ変わらせることができるはず」と閃いたのだという。

「まさかビジネスになるとは考えていませんでしたが、時代の流れを見ていて、デジタルの影響力というのは理解していました。最初は、自分でもまだ半信半疑の気持ちが強かったんです。5年の間はパワフルなコンテンツを作り出していくことに、とにかく力を注ぎました。視聴者たちとの関わり合い、エンゲージメントを深くとれるもの、そして影響を与えることができるようなコンテンツを作ろうと。」

影響力があれば新しいビジネスを作れる

いつしかYouTubeのチャンネル登録者数は10万を超え、再生回数が100万回を突破。それでも収益を得られるまでには至らず、YouTubeのパートナープログラムが始まってようやく若干の収入が入ってくるようになったそうだ。配信開始から2年程のことだ。

「最初は1日25セント、それが2ドルになり、5ドルになり、1日25ドルの収入を得るようになって、そこで、それまで働いていたパートタイムのウェイトレスの仕事を辞めました。クリエイターとして専念することにしたんです。当時はまだそういうことをする人は全然いなくて、最初にやることができたのはラッキーでした。」

michelle phan

この後のYouTuberとしてのサクセスストーリーを背景にファンさんは次のように語る。

「これはある意味、"新しい経済"だと思います。YouTuberとして十分な収益が上げられるのかと疑問を持つ人はたくさんいると思いますが、YouTubeに限らず、オンラインでビジネスを行っていくことは可能です。ビューティ分野だけじゃなくて、他のカテゴリであってもパワフルなコンテンツを投稿することができれば、パワフルなブランドを作れると思います。」

「影響力というのはある意味、新しい通貨。影響力を使えば新しいビジネスを作ることも、これまでのビジネスを壊すこともできる。影響力なしではビジネスモデルは作れない」と、自身が積み重ねてきた経験から発せられるファンさんのメッセージには力強さがある。

今年3度目の来日、その理由は?

今年だけで3回目の来日になるというファンさん。「日本のデジタルマーケットについて学びたい」というのが、来日を頻繁にさせている理由だ。そして、その先にあるのが、ファンさんがプロデュースする「ICON」と「ipsy」の日本展開だという。

ファンさんがEndemol Shine Groupと協業で立ち上げたICONは、美容、ライフスタイル、健康、DIY、食、旅行に関するクリエイターが集まるオンラインネットワークで、現在、米、英でのみ展開している。

最近米国では、マルチチャンネルネットワーク(MCN)と呼ばれる、個人クリエイターや団体が運営する個々のYouTubeチャンネルを複数束ねたネットワークが増えているが、そこには"実質的なクリエイター支援がない"とファンさんは感じているそうだ。そこで、ファンさんが「ICON」で目指すのが、クリエイター支援に重きを置いた"マルチプラットフォームネットワーク(MPN)"型のビジネスモデルだという。

「ICONでは、無名だけれど才能のあるクリエイターを支援したいんです。YouTubeに載せることももちろんですが、プラットフォームを限定せず、テレビでもなんでもコンテンツが見られるものであれば全部に対して配信していきます。MCNのように100以上のチャンネルをまとめるのではなく、才能のあるクリエイターを20人程度に絞って、彼や彼女らのブランド立ち上げのためのリソースを提供していきたいですね。」

日本では今秋から冬にかけての展開を計画し、その環境づくりを整えていくとのこと。

美容サイトの売り上げが1億2000万ドルに急成長

一方、2011年にシリコンバレーで立ち上げた美容サイト「ipsy.com」では、美容意識の高い人を対象にしたサブスクリプションサービスで利益を上げている。同サイトで、月額10ドルもしくは年会費110ドルを払って会員になると、化粧品や美容コスメが入った「グラムバック(GLAM BAG)」が送られてくる。提携メーカーからの試供品など40~50ドル相当のアイテムが入っていて、送料は無料となっている。

ipsy

ipsy.com

「創業当時の資金調達は300万ドル。それが3年で1億2000万ドルの売り上げを得るまでに急成長しました。現在はカナダとアメリカで展開し、月100万バックを送付しています。商品を提供してくれるメーカーやブランドは200社以上、そのリピート率も90%と高く満足をいただいています。成功の要因は、YouTubeへのコンテンツ投稿、中身に非常にこだわり、コミュニティの人々との関係を重要視していること、体験をいいものにしていくということに焦点を当ててビジネス展開した結果だと思っています。」

すでに成功を収めているipsyだが、日本での展開には慎重な姿勢を見せる。

「ただコンテンツを作るのではなく、日本に新しいハブを設けたいと思っています。エンジニアをはじめ、かなりの大所帯になると思うので、インフラを含めきちんと構築したい。今は、そのためのパートナーを探しているところです。日本に北米のビジネスモデルをそのまま持ってきてもうまくいくとは思っていません。例えば、私自身が半年ほど東京に住んでみて、ここでの経済やビシネスモデルを確認したいと思っています。」

ipsy

化粧品や美容コスメが入った「グラムバック(GLAM BAG)」

ざわちんのことは「もちろん知ってます。すごい!」

日本のデジタルマーケットに興味を持ち、クリエイター支援に強い意力を見せるファンさんだが、その思いは、どこから来ているのだろうか。

「日本には、アメリカとはまったく違ったアイディアを持つクリエイターがあふれています。日本の文化は世界中で非常に関心が高く、好きな人も多いと思います。アニメもそうですし、ゲームもそうですよね。私自身も大好きです」

ファンさんは、動画でセーラームーンや初音ミクなどのコスプレも披露している。日本のものまねメイクでおなじみのタレント、"ざわちん"についても「もちろん知ってます。ざわちんはすごい!」とコメントしていた。

実は、ファンさんは昨年8月、動画内で使用したBGMの著作権侵害を理由にUltra Musicによって訴訟を起こされている。現在、訴訟は進行中だが、この経験もまたクリエイター支援の動機に繋がっているようだ。

「自分は間違ったことはやっていないとわかっているので、それほど心配していません。こういう形になってしまったのはとても悲しいですが、さかのぼれば、まだお金を儲けてなかった時期からのこと。音楽を勝手に使っている、盗んでいるというわけではなく、シェアをしてクロスプロモーションをする意図で使っていました。この件についてはちゃんと決着がつくと考えています。ただ、このような経験があったからこそ、新しいクリエイターたちを守れるとも思っています。コンテンツに対する法的な問題や著作権を明確にして、安心してコンテンツ作りができるインフラを用意してあげたいですね。」

ビジネスウーマンと呼ばれる人になるとは想像していなかった

最後にデジタルマーケットの今をどう見ているのか、そして、日本のファン、クリエイターに向けてメッセージを語ってくれた。

「"デジタルマーケット"というのは一つの国に限らず、グローバルなものなので、誰でも自分のマーケットを持てる時代です。ニッチマーケットという言葉がありますが、その意味合いも、この10年で大きく変わってきたと感じています。ニッチというと小さな隙間という意味があり、私もそこから始めたわけですが、今では数百万というフォロワーがいます。ロシアのど田舎に住んでいる人が、世界中の人が見るビデオを作るかもしれませんし、日本人が大規模なブランドを作るかもしれません。世界はつながる絆を重要視していくことになると思います。自分の文化、メッセージ、ビジョンを共有したいという思い、それがYouTubeやオンラインで実現できる、非常にエキサイティングな時代に生きているなと感じているんです。I love it!!!」

michelle phan

「アートスクールに通っていた頃には、将来ビジネスウーマンと呼ばれるような人間になるとは想像すらしていませんでした」と、クリエイターとして駆け出しだった時代を振り返るファンさん。

「今日の私の話を聞いて、多くの人が元気になって、気づき、閃きを持ってもらえればと思います。世界中で閃きをビジネスにできる時代なのだから、自分のやりたいことをとことん追求すべきです。そして、サポートしてくれる適切な人を見つけることも大事なこと。『自分は絶対これをやるんだ』という強い気持ちで目標に向かって突き進んで欲しいですね。」

とてもワクワクした様子でデジタルマーケットの今を語ってくれたファンさん。トークの間、始終笑顔を絶やさず、エネルギッシュで、とてもキュートで魅力的な女性であった。今後の日本での彼女の活躍が楽しみである。

(2015年5月1日「HRナビ」より転載)