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北朝鮮:誕生記念日の暗い影 祝賀で想起されるは故 金日成主席による人権侵害

2015年04月16日 16時00分 JST
PEDRO UGARTE via Getty Images
North Koreans performers sing in front of portraits of founding president Kim Il-Sung (L) and his son Kim Jong-Il during celebrations to mark the 100th birth anniversary of the country's founding leader Kim Il-Sung, in Pyongyang on April 16, 2012. The commemorations came just three days after a satellite launch timed to mark the centenary fizzled out embarrassingly when the rocket apparently exploded within minutes of blastoff and plunged into the sea. AFP PHOTO / PEDRO UGARTE (Photo credit should read PEDRO UGARTE/AFP/Getty Images)

故 金日成主席の支配は、非情な人権侵害や反対意見の弾圧、そして最終的には大規模な飢餓を招いた経済的・社会的統制を土台にしていた。彼の孫にあたり、今にちの北朝鮮を率いる金正恩第一書記は故 金主席の侵害的政策を継承している。ゆえに、国際刑事裁判所(以下ICC)でこうした人権侵害について裁きを受けなければならない。
フィル・ロバートソン、アジア局 局長代理

(ソウル)― 北朝鮮は4月15日、故 金日成主席の誕生記念日(太陽節)の祝賀ムードに包まれる。しかし金日成主席は、人権侵害と人道に対する罪に満ちた国とした人物として思い起こされるべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。故 金主席はその46年間に及ぶ統治期間に、市民的・政治的権利を消滅させ、批判者を粛清・迫害し、絶対服従を強いる個人崇拝を確立して、独裁政治を行った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「故 金日成主席の支配は、非情な人権侵害や反対意見の弾圧、そして最終的には大規模な飢餓を招いた経済的・社会的統制を土台にしていた」と指摘する。「彼の孫にあたり、今にちの北朝鮮を率いる金正恩第一書記は故 金主席の侵害的政策を継承している。ゆえに、国際刑事裁判所(以下ICC)でこうした人権侵害について裁きを受けなければならない。」

故 金主席は1948年の建国以来、1994年に死を迎えるまで北朝鮮を支配。彼が確立した一党独裁支配は、情報提供者の大規模なネットワークに支えられた残虐な治安体制を可能にし、政府批判者やそうみなされた個人に制裁を加えた。主席は1960年代初めまでに与党・朝鮮労働党内の対立分子を次々と粛清。絶対的な権力を手中に収めた。粛清には、忠実ではない反体制分子とみなされた個人の公開処刑や強制失踪、そして一族全員の秘密政治犯収容所送りなどがある。

故 金主席は、残忍な処罰のかたちとして、巨大な強制収容所や強制労働機関を設置。強制労働機関には、長期の懲役労働型キャンプ(英語でkwanlisoまたはkyohwaso、いわゆる「管理所」)や、短期の拘禁施設(英語でjipkyulso)などがある。山岳地帯でフェンスに囲まれ、厳重な警備の敷かれた「管理所」に収容された人びとは、林業や鉱業、農業などの重労働への従事を強制された。その大半は生涯にわたり収容され、飢餓に近い状態や事実上の医療の欠如、適切な住居および衣服の欠乏、看守による日常的な虐待や拷問、そして処刑など、組織的な人権侵害および致命的な状況に多々直面した。「教化所」(英語でKyohwaso)は、政治的、刑事的、または経済的な犯罪を問われた個人を収容するために設置されたもの。こうしたセンターも、強制労働や食糧・医薬品不足、看守による日常的な虐待行為が報告されている。集結所(英語でJipkyulso)は、軽犯罪で短期刑を下された個人の集団収容施設で、強制労働隊のための施設だ。

政治的・市民的権利の閉塞状況も故 金主席の負の遺産といえる。表現や意見の自由を抑圧し、非政府系マスメディアや自由労働組合、独立系団体を禁じた。北朝鮮市民に国家と自身への絶対的忠誠を求めることで個人崇拝の心理を植えつけ、市民の統制を維持するメカニズムを生み出して、自主独立と超国家主義のイデオロギー「主体思想」を促進した。主体思想は北朝鮮市民を、「偉大な指導者」であり、つまり「脳」である故 金主席の指示で動く「人体」にたとえる。主席の決定・命令は「神経系」である朝鮮労働党経由で伝達されたのである。

2014年2月、国連人権理事会が任命した北朝鮮の人権に関する調査委員会が報告書を発表。「小集団による専制政体の確保のみには満足せず、市民生活のあらゆる側面の支配と恐怖政治を追求している」と北朝鮮政府について表した。そのうえで、「その政治体制を支える要は、すべての反対意見を抑え込む監視・圧力・恐怖・懲罰を戦略的に駆使する、巨大な政治および治安組織にある。公開処刑や、政治犯収容所への強制失踪は市民を恐怖に陥れ、服従させるための絶対的な方策として機能している」とした。調査委は、北朝鮮における人権違反行為がその衝撃、規模、性質すべてにおいて「現代の国際社会でほかに類がない」と結論づけ、人道に対する罪の捜査とその後の訴追の可能性に向けて、同国の事態をICCに付託するよう勧告した。

また、故 金主席の負の遺産のひとつに、北朝鮮市民を3階層に分けた「出身成分」と呼ばれる身分制度がある。家族・親族の政治的・社会的・経済的背景を踏まえ、個々人が「核心」「動揺分子」「敵対分子」の各階層に分類された。この出身階層により、北朝鮮社会におけるあり方のありとあらゆる側面が決定づけられた。具体的には教育・居住・雇用をめぐる機会や食糧配給、与党への参加資格、あるいは居住許可地域などが左右された。いわゆる「敵対階層」に位置づけられた多数の市民が、北朝鮮北部の隔離された貧しい山岳地帯へ強制移住させられた。1990年代に国が飢饉で荒廃したときにもっともひどい打撃を受けたのは、政治的な理由で差別された人びとだった。

前出のロバートソン局長代理は、「平壌が祝賀ムードに包まれるなか、世界は故 金日成主席とその政府が残した、あまりにひどい人権侵害の遺産を思い起こすべきだろう。国連はそれを、世界でも比類なき最悪の侵害だと認めている」と指摘する。「生誕記念日には、各国政府が北朝鮮における人権侵害の廃絶を求めるべきであるし、また今現在これら人道に対する罪を犯し続けている者たちが、その責任を確実に問われるよう、心新たにすべきだ。」

(2015年4月15日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)