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エジプト/スーダン:人身売買業者による拷問

2014年03月20日 15時22分 JST | 更新 2014年05月19日 18時12分 JST

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The sun sets near the Egypt-Israel border on April 30, 2013, sealed off since early 2013 by a five meter high Israeli fence. Trafficking victims told Human Rights Watch that throughout 2012, Egyptian border guards or unknown men fired at them as they approached the border. © 2013 Moises Saman/Magnum

エジプト政府当局者はシナイ半島で、難民への恐ろしい人権侵害が目の前で続いているのを、長年認めていない。エジプト、スーダン両国政府は、自国内で行われているエリトリア人への拷問や金銭の強要を止めさせ、人身売買業者およびかれらと共犯関係にあった治安当局者を訴追すべきだ。

ゲリー・シンプソン、難民問題上級調査員で本報告書著者

(ベルリン)スーダン東部とエジプトのシナイ半島では、人身売買業者による誘拐と拷問、殺害が、主にエリトリアからの難民に行われている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。エジプト政府スーダン政府は、人身売買業者、及びかれらと共犯の可能性がある政府治安部隊職員を特定して訴追する作業を行っていない。こうした不作為は、両国が負う拷問防止義務に違反している。

全79ページの報告書「そのまま死にたかった:スーダンとエジプトでのエリトリア人に対する人身売買と拷問」は、エジプトの人身売買業者が2010年以降、シナイ半島において、数百人、おそらくは数千人のエリトリア人に対し、身代金目的でレイプ、火傷、人体の一部切断などの拷問を加えてきた実態を記録している。また、スーダン東部での人身売買業者による拷問、およびスーダンとエジプトの政府治安部隊職員が、加害者逮捕と被害者救援を行わずに人身売買業者による人権侵害を助長した29件の事件も記載している。エジプト政府当局者は、シナイ半島で人身売買業者が人権侵害を行っていることを認めておらず、かれらを野放しにしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ難民問題上級調査員で本報告書著者のゲリー・シンプソンは「エジプト政府当局者はシナイ半島で、難民への恐ろしい人権侵害が目の前で続いているのを、長年認めていない」と指摘。「エジプト、スーダン両国政府は、自国内で行われているエリトリア人への拷問や金銭の強要を止めさせ、人身売買業者およびかれらと共犯関係にあった治安当局者を訴追すべきだ。」

シナイ半島を本拠地とするグループにより、警察や軍当局者への暗殺や襲撃が毎週のように行われたことを受けて、エジプト政府当局は2013年6月以降、この地域での治安活動を強化させた。治安当局者は、取締りの一環として人身売買業者の特定と訴追を行うべきである。

本報告書は、ヒューマン・ライツ・ウォッチがエリトリア人37人に対して、またエジプトのNGOが22人に対して行った聞き取り調査をもとに作成された。聞き取りを受けた人は、スーダン東部カッサラ市近郊か、エジプトのイスラエル国境に近いシナイ半島北東部アリシュ市近郊で、数週間、ときには数か月にわたって人権侵害の被害に遭った。ヒューマン・ライツ・ウォッチは人身売買業者2人にも聞き取りを行い、1人は数十人への拷問を認めた。

被害者らによれば、エジプト人の人身売買業者は、拷問によって被害者の親族から最高4万米ドル(約400万円)を脅し取っている。また女性と男性へのレイプ、電気ショック、被害者の性器など身体の一部に、熱した鉄や、沸騰したお湯、溶けたプラスチック、ゴム、タバコで火傷を負わせること、金属棒やムチでの殴打、天井からの吊下げ、殺害の脅迫、長期間の睡眠妨害を行った。拷問で亡くなった人を目撃したと話す人も多かった。

携帯電話で被害者の悲鳴を聞かされた親族は、人身売買業者が要求した大金をかき集めて、電信送金した。

2004年以降20万人以上のエリトリア人が、母国での弾圧や貧困を逃れ、スーダン・エチオピア国境の辺境地にある難民キャンプに逃れてきた。無許可出国者の射殺命令を受けたエリトリア国境警備隊の目を盗んで、命がけで脱出した人びとだ。難民キャンプ内や周囲で働ける見込みはないため、2010年までに数万人が、密入国業者に金銭を支払ってシナイ半島経由でイスラエルに渡った。

イスラエルは2011年に、シナイ半島のエジプト国境に沿って、総延長240kmの巨大なフェンスを完成させ、エリトリア人が入国できないようにした。それ以降、人身売買業者はスーダン東部で、おそらく数千人とみられるエリトリア人を誘拐し、シナイ半島のエジプト人の人身売買業者に売りとばしてきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じたエリトリア人のうち、2012年にシナイ半島に到着した人全員が、スーダンからエジプトに意に反して連れてこられたと話していた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スーダン東部からシナイ半島への人身売買が、ごく最近の2013年11月から2014年1月にかけても行われているという新たな情報も得ている。

エリトリア人たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、アフリカで最も古くからある難民キャンプに近いスーダン東部の辺境地カッサラ市の警察は、国境近くで自分たちを引き止め、恣意的に拘束した後、警察署などで人身売買業者に引き渡したと述べている。

被害者の一部は、エジプト政府治安当局者が人身売買業者と共謀している様子を目撃したと述べている。共謀の様子は、スーダン国境とエジプトのスエズ運河の間にある検問所、厳重な警備体制が敷かれている運河、車でしか渡れない運河上の橋に設置された検問所、人身売買業者の自宅、シナイ半島の街に設置された検問所、イスラエルとの国境近くで目撃されている。

シナイ半島で人身売買や重大な人権侵害が行われている事実は広く知られているが、エジプト政府高官は人身売買の存在を繰り返し否定してきた。人権侵害の可能性を認めるわずかな人びとも、捜査を行うだけの証拠がないと述べている。

2013年12月現在、エジプト検察庁が起訴したのは、カイロに在住する、シナイ半島の人身売買業者の共犯者1人だけだと、人身売買被害者の代理人の弁護士は述べている。スーダン国内の人身売買事件に詳しい国際組織によれば、スーダン政府当局は、同国東部でエリトリア人の人身売買業者が関与した14件を訴追している。2013年末までに、スーダンでは警察当局者4人が訴追されたが、エジプトでは人身売買と拷問に関連する訴追が一切ない。

両国が、被害者に激しい人権侵害を加えた人身売買業者と、その共犯となった治安当局者について調査と訴追を行わないことは、拷問等禁止条約、国際人権法に両国が違反していることを示すのみならず、エジプトの場合には人身売買(人身取引)を禁止する国内法と国際法に基づく義務にも背くものである。

エジプトは、シナイ半島の治安部隊を増員して、人身売買業者を、とくにアリシュ市近郊で逮捕するとともに、スエズ運河とシナイ半島で人身売買業者と共犯する治安当局者を捜査すべきである。スーダンは、カッサラ市内と周辺、また警察署において、警察高官が人身売買業者と共犯関係にある現状を捜査すべきだ。

「エジプトとスーダンは、汚職に手を染めた当局者が、人身売買業者に協力することを看過している」と、前出のシンプソン調査員は指摘。「両国政府はただちに、見て見ぬ振りを止め、こうした悲惨な人権侵害を終わらせるために有効な措置を講じるべきである。」

家族が身代金を支払い、人身売買業者がエリトリア人を解放しても、エジプト国境警察がその人物を捕らえて軍検察官に引き渡し、シナイ半島の警察署で、非人道的かつ劣悪な環境のもと、数か月身柄を拘束するケースが多い。エジプト当局は、2010年の人身売買取締法が保障する被害者の権利を認めていない。同法は被害者に支援と保護を与え、罪は問わないと定める。

それどころか、エジプト当局は、被害者を不法入国で起訴し、緊急性のある医療措置の利用だけでなく、エジプト国内で難民申請を審査する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との接触も許さない。エジプト当局は、シナイ半島で捕まったエリトリア人は全員が不法移民で難民ではないと繰り返し主張する。しかしこれは、2011年半ば以降、シナイ半島での人身売買被害者のほとんどが、自分の意思に反し、スーダンからエジプトに連れてこられたという事実を無視している。

エジプト政府当局は、拘束したエリトリア人について、エチオピア行きの航空券購入代金を集めることを条件に釈放している。こうして多くが振り出しに戻ることになる。元々の難民登録を行ったエリトリア国境の難民キャンプで、再び生活を送ることになるのだ。

米国とEU、そして各EU加盟国などエジプト政府を支援する国際ドナーは、エジプトとスーダンの両政府に対し、人身売買業者の捜査と訴追を行うと共に、人身売買業者と共犯関係にある治安当局者の捜査を行うよう、強く働きかけるべきだ。

「シナイ半島で地獄を見た、おそらく数千人規模の人身売買と拷問の被害者にとっては、確かにもう手遅れだ」とシンプソン調査員は述べた。「しかし国際社会は、過去の犯罪を処罰するよう主張することで、これから何百人ものエリトリア人が人身売買業者の新たな被害者となるのを防ぐことができる。」

報告書のために聞取り調査に応じたエリトリア人による証言の抜粋

「腕を縛って吊るされたり、足首を縛って吊るされたりしました。ゴムのムチで背中や頭を殴られました。ゴムのチューブで足の裏も殴られました。傷の上に水をかけ、そこを殴るんです。時々電気ショックや熱した鉄を押し付けられ、溶けたゴムやプラスチックを背中や腕に垂らされました。鋏を使って指を切るって脅されたこともありました。時々部屋に入ってきて、女の人を引っ張り出すと、その後に悲鳴が聞こえるんです。帰って来てから泣いてましたね。8ヶ月の間で、拷問で死んだ人を8人見ました。」

-ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査したエリトリア人の少年(17歳)。彼は2011年8月にスーダン東部で拉致され、シナイ半島人身売買業者に引き渡され、親族が13,000ドル支払うまで8ヶ月間人権侵害された。

「鉄パイプで殴るんです。溶けたプラスチックを背中に垂らすんです。足の裏を殴ってから、長い間立たせるんです、何日間もということもありました。殺すって脅すこともあり、銃を頭に押し付けるんです。天井から足が着かないよう吊り下げ、感電させることもありました。1人天井から24時間吊るされて死にましたよ。その人が死ぬのを見ました。」

―ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査したエリトリア人の男性(23歳)。彼は2012年3月にスーダン東部シャガラブ難民キャンプ付近で、人身売買業者に拉致され、エジプト南部で同国の人身売買業者に引き渡された。その人身売買業者にシナイ半島に連れて来られ、男性24人女性8人と共に6週にわたり拘留された。

「カッサラ(スーダン東部)に着きました。警察が職務質問して、警察署に連れて行ったんです。外国に親戚がいるかって訊いたので、いないって答えました。翌朝、警察官がドアを開けると、入口に並んで2人の男が立って、私を見ていました。少しアラビア語を喋れるので、彼らが何を言ってるのか、少し分かったんです。1人の男は、警官の1人に、『ここにいる連中は、俺たちに金を払える家族があるのか?』って訊き、警官は『イエス』って答えたんです。その次の日、警官は警察署の外に停めてあった車の所に私を連れて行き、車に乗るように言い、車に乗せられて1時間くらい砂漠に向かって走りました。」

―ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査したエリトリア人の男性(28歳)。彼は2011年11月に、スーダン警察から人身売買業者に引き渡された後、エジプト国内の人身売買業者に再度引き渡され、そこで激しい人権侵害に遭った。

「スエズ運河で、運転手はバスから降りるよう言いました、水際から150m位のところにある家の中にいるよう言われたんです。暗くなってすぐに、青い制服を着たエジプトの警察官が到着して、そのちょっと後に小舟が着きました。密入国業者は、私たちのうち25人を小舟に乗せ、警察はそこから50m位のところで見ていました。運河を渡ったんです。向こう岸には、ベージュの斑点が付いた制服を着て、小さな拳銃を持った兵隊が3人、ベドウィン族のように見える何人かの男の隣に立っていました。兵士が監視する中で、ベドウィン族の男たちは私たちを、2台の民間用ピックアップトラックの荷台に乗せ、横になるように言うとその上からビニールシートをかけたんです」

―ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査したスーダン人の男性(32歳)。彼は2011年4月にシナイ半島で拘留され、そこで激しい人権侵害に遭ったが、スエズ運河でエジプト警察と軍が人身売買業者と共犯関係にあった事実について証言した。

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(2014年02月11日の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)