子どもの体力は親の収入で決まる? 23区で最も低いのは〇〇区だった

先日スポーツ庁から発表された「2016年度体力・運動能力調査」の結果によると…

子どもの体力は親の収入で決まる?

先日スポーツ庁から発表された「2016年度体力・運動能力調査」の結果によると、幼児期の外遊びの頻度が多いほど、小学生の体力評価は高くなるという。

トップアスリートの中には、ある時急に才能が開花したという人もいるようだが、小さいころから活発に外遊びをしていた子どもほど体力が養われるという事実は容易に想像できる。

では、次の因果関係はどうだろうか。「東京23区では、親の収入が多いほど子どもの体力水準も高くなる」。親の収入が子どもの学力に影響を与えるということはよく言われるが、体力までが左右されるという。何となく頷けそうな気もするが、こう露骨に言われると身も蓋もないという思いも禁じ得ない。しかし、それが事実なのだ。

千代田区、港区の子どもは体力評価1位、2位

図表1は、東京23区の各区について、タテ軸に小学校5年生の体力総合評価(A~Eの5段階の「体力総合評価」のうち、A+Bの割合の男女加重平均値)を、ヨコ軸に平均所得水準(納税義務者1人あたりの課税対象所得額)を取り、その分布を示したものである。

図表1 子ども(小学校5年生)と親の所得(東京23区)

出所:体力総合評価は、「東京都児童・生徒体力・運動能力、生活・運動習慣等調査報告書」(東京都教育委員会)による2016年度値 平均所得水準は「統計でみる市区町村のすがた」(総務省)による2015年値
出所:体力総合評価は、「東京都児童・生徒体力・運動能力、生活・運動習慣等調査報告書」(東京都教育委員会)による2016年度値 平均所得水準は「統計でみる市区町村のすがた」(総務省)による2015年値
池田利道

一見して、両者が相関していることがお分かりいただけるだろう。体力評価1位の千代田区は所得水準2位、体力評価2位の港区は所得水準1位。逆に体力評価最下位の荒川区は所得水準19位、体力評価22位の足立区は所得水準最下位。「所得水準が高いほど体力も高くなる」という傾向がハッキリと現れている。

ちなみに両者の相関係数は0.67。一般に相関係数が0.7を超えると強い相関があるとされることと照らすと、親の所得と子どもの体力は「かなりよく相関している」と言うことができる。

ただし、ここには注釈を必要とする。先に「東京23区では」と断ったように、同じ東京都内でも多摩地域ではまったく様相が異なってくるからだ。図表2は多摩地域の26市について、図表1と同様に小学5年生の体力総合評価と平均所得水準の関係を見たものである。

体力1位の小平市が所得10位であることは誤差範囲内としても、体力2位の羽村市は所得22位、体力3位の福生市は所得25位。一方、所得1位の武蔵野市は体力24位。両者の相関係数は0.07で、まったく相関関係が認められない。

図表2 子ども(小学校5年生)と親の所得(東京都多摩地域26市)

出所:図表1と同じ
出所:図表1と同じ
池田利道

外遊びを奪われた子どもたち

スポーツ庁の言うとおり、子どもたちは戸外で思い切り自由に体を動かすことで体力が養われていく。それは間違いがない。おそらく多摩地域でも、そんな外遊びがもたらす効用のメカニズムが働いているから、親の所得水準が子どもの体力を説明する直接の因子とならないのだろう。

だが、23区で暮らす子どもたちに「外遊びが大事だ」と諭したら、彼らはこう反論するだろう。「でも、外で遊ぶところがない」と。南米をはじめ、世界のどこの国でもサッカーの原点は「ストリートサッカー」だ。ボールとちょっとした空間があればできるストリートサッカーは、スポーツではなく遊びの範疇に属する。マラドーナもメッシも、そんな環境の中から育ってきた。

しかし今の東京23区では、道路で遊ぶことはもとより、公園でのボール遊びも「危ない」「うるさい」と禁じられる。かつて子どもたちが思い切り羽を伸ばせる場所だった校庭も、放課後に遊んでいたら「早く帰れ」と追い出されてしまう。その結果、子どもたちは家に帰ってPCやスマホにかじりつき、ゲームをするしか遊ぶ場所がない。

これでは子どもの体力が養われないと不安になる親は、子どもをスポーツクラブやスイミングスクールに通わせる。当然、それには金がかかる。こうして「金をかけて子どもの体力を買う」社会が生まれ、親の所得と子どもの体力が比例する結果を生むことになる。

現時点では、この動きを東京23区での特異な事態に過ぎないということも可能だろう。しかし「東京で始まった動きが、やがて全国に波及していく」という、私たちが経験し続けてきた事実を忘れてはならない。

幼児の保育・教育の課題は「無償化」だけでは解決できない

スポーツ庁が指摘する幼児の外遊びに関しても、暢気に評論してはいられない実態がある。自宅で子育てをするお母さんにとって、いざ公園デビューとなっても、近所の子どもたちはみな保育園に通っており、公園に行っても誰もいなかったということが現実に生じ始めている。

その結果、ネットを通じた旧来の友人以上の新たな「ママ友」交流の広がりが生まれず、自宅に引きこもりがちになってしまう。ネットで繋がっているママはまだいい。しかし子どもにとっては、外遊びの機会そのものが阻害されてしまう。

昨今、幼児の保育・教育の無償化を巡る議論が大きな政策的課題となっている。財源の議論をさておくとしても、「有償か無償か」と問われれば、多くの人が無償に魅力を感じるのは当然だろう。しかし、子育てに関する親の願いを究極的に突きつめれば、「成績は多少悪くても、健康に育ってほしい」という一点に尽きる。本当の意味で求められているのは、人気取りのバラマキに過ぎない目先の支援ではなく、子どもの立場とそれを何よりも望む親の視点に立った社会構造の再編なのだ。

東京23区では上述した諸課題が全国に先行して深刻化しているがゆえに、学齢児の遊びの機会確保や保育園に通わない未就学児のセーフティネットの確立に向けて、それぞれの地域特性を活かした取組みを進めている。詳細は、拙著『23区大逆転』に記した。興味のある方は、併せて参照していただければ幸いある。

池田利道

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