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パナソニック、新型テレビ「スマートビエラ」が問いかけたのは「ネット時代の公共放送のあり方」

2013年07月14日 14時50分 JST | 更新 2013年09月12日 18時12分 JST

前回の記事、ネット排除に狂奔するテレビ局に未来はあるのか? に対し、三名の方から直接質問を戴いた。民放が「スマートビエラ」CMの放映を拒否するに至った経緯、真相はある程度理解出来た。それでは、CM収入に依存しないNHKについてはどう考えれば良いのか? という趣旨のものである。成程、今回の一件、確かに形而下的には「テレビ受信機がネットに繋がったディスプレイになるので、CM収入の減少を心配した民放が暴走した、という事で一旦は落ち着くであろう。

しかしながら、本質の部分は、ネットに飲み込まれようとしているテレビ局が、ネットを排除して問題が解決するのか? という所にある。従って、本来「民放」、「公共放送」の垣根を越えた、今少し普遍的な問題の筈である。かかる経緯から、「ネット時代の公共放送のあり方」の検討を思い立ったものである。

「スマートビエラ」購入者に取っての不都合な現実

独身の方であれば、スマホとPCで充分事足りている。従って、自宅にテレビ受信機は置いていないというケースは何も珍しい話ではないだろう。今までであれば、NHKの集金人がやって来ても、「テレビはないですよ!」と説明すれば黙って引き下がってくれた訳である。しかしながら、仮にテレビ放送には興味はなく、NHKの番組を見る可能性が皆無で、ネットコンテンツ視聴の為に「スマートビエラ」を購入したのであったとしても、NHKの集金人が大人しく引き下がるとは思えない。

間違いなく、放送法第64条(受信契約及び受信料)第一項、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」、を根拠にしつこく受信料の支払いを迫るに違いない。何故、観る事のないNHKに対し受信料を支払わなければならないのか? 若者が疑問に思うのは誠に以て当然の話である。一方、NHK受信料の負担が嫌で「スマートビエラ」購入を断念する若者の数も決して少なくないかも知れない。仮にそうであれば、図らずもNHKは家電製造業と家電量販店の「邪魔者」という事になってしまう。

BBCとNHKの比較対象

BBCとNHKは共に英国と日本の公共放送局である。従って、類似する所は多い。一方、明らかに異なる点もある。先ず、類似する点から始める。何と言っても、収益の大半を「受信料」に依存している点であろう。BBCの受信料徴収については、このNewsweekの記事がユーモアを交え、明瞭に説明してくれている。NHKに比べての特徴は、少なくとも6カ月前に支払うことを義務付けられている前払い制、「家宅捜査権」を持った捜査官が立ち入り調査(自宅にテレビ受信機があるか否かの確認)可能な事、BBCの無料視聴が発覚した場合の最大1,000ポンドの罰金刑であろう。NHKの場合は国民感情に配慮してここまでは厳しく徴収していない。専ら、従順な国民、露骨に言えば金の取れる所から取っている。しかしながら、これはこれで「公平性」の点では問題である。

さて、それではBBCとNHKの顕著な違いとは何であろうか? ずばり、インターネットへの取り組みと収益の中核である「受信料」をどうするか? といった将来構想だと理解している。BBCのネット取り組みについては前回の記事で説明した通りだが、具体例として今回iTunesアンドロイド対応について付け加えておく。インターネットをBBCサービスの中核に位置付けている事は明らかである。インターネットにサービスの軸足を移しつつ、テレビ受信機ありきの「受信料」徴収というのでは話の辻褄が合わない。従って、前BBC会長の「受信料」から「税」に移行という将来構想になっている訳である。

一方、NHKについて言えば、インターネットをサービスの中核にするという話は聞いた事がない。BBCのiPlayerに比較される事の多いNHKオンディマンドは2008年にサービスを開始したものの、どうも鳴かず飛ばずの様である。私の回りで実際に使っているという話を聞いた事がない。NHKの話題と言えば、相変わらず大河ドラマや年末大晦日に放送される紅白歌合戦司会者のキャステイングといった所ではないのか? 三十年前の私の高校生時代とちっとも変っていない気がする。

一方、「受信料」の徴収については現在のBBCを倣い、裁判所を積極的に活用するなどして取り立てを厳しくしている。インターネットサービス活用のために「スマートビエラ」を購入したのだから、NHK「受信料」は支払不要と思っていたら、ある日突然裁判所から支払い命令を受ける事になるのである。飽く迄、私個人の印象であるが、こういう状況が日本国民を幸せにするとはとても思えない。そして、当然の結果として、これから先それ程長く続くとはとても思えない。

岐路に立つNHK

インターネットが放送を飲み込もうというこの時代に、テレビ受信機が家にあるからという理由で「受信料」を一方的に徴収するのは制度として無理がある。理由は既に説明した様に、これからはテレビ受信機の機能の中核が「ネットに繋がったディスプレイ」に移行するからである。従って、NHKとして今後「どちらの方向に向かい?」、「何をするのか?」決断せねばならない。この結果、により「受信料」をどうするか? も自動的に決まる訳である。

第一の可能性は、BBCを追随し「番組の質」を向上させ、且つ、インターネットを取り込む事で視聴者の利便性を飛躍的に高める事である。その上で、従来の「受信料」から「税」への転換を図る事である。当然の結果として、「番組の質」と「利便性追求」両面について国民の厳しい審査、評価の矢面に立たされる事となる。確かに、細くて棘の道かも知れないがその先にはNHKの新たな繁栄が待っている気がする。

今一つの可能性は、スカパーやWOWOW同様の「有料放送」に事業モデルを転換する事である。放送契約を締結した視聴者にのみスクランブルを解除し、課金を行う訳である。「受信料」という従来の曖昧なものから「視聴料」という、提供するサービスと、それに伴う対価が明瞭に紐つけされた料金形態に移行する訳である。この場合、ネットに氾濫するコンテンツに埋没する事なく、一方、多チャンネルサービスの雄スカパーと競合し、WOWOWとも対抗せねばならない。こういう状況となれば、NHKやNHKの職員は如何にこれまで自分達が恵まれた環境にいたのか? もっと露骨に言えば、ぬるま湯に浸かっていたのか? を身を以て知る事になる。パナソニック、「スマートビエラ」はNHKに取ってのバンドラの箱を開けてしまったのかも知れないのである。