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〝明るい北朝鮮〟で、これからの叡智を探ってみた

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シンガポールを、現地のある人が「明るい北朝鮮」と表現していました。それは生活満足に裏打ちされた知的ジョークなのか、本音をオブラートに包んだメタファなのか。ま、立場によって、どちらにも転び得るのでしょうね。いずれにせよファクトは、実質上の独裁体制を敷いている国である、ということです。

そんなシンガポールで、『これからの叡智』という漠然としたテーマの国際会議に出席してきました。正式なタイトルは『Wisdom2.0asia ~Leadership in Business and Society~』。やっぱり漠然としていますね。

この会議、米国サンフランシスコでは毎年2,000名を世界から集める文字通りの国際会議で、シリコンバレーのトップ企業経営者やエリートビジネスマン、当代を代表する科学者やコンサルタント、名だたる宗教指導者、慈善事業家などが広く介するビッグイベントです。

デジタル世代がより良い世界を築くために、革新的でマインドフルで刺激的なリーダーシップを探ろうという、やっぱり漠然としたテーマに、これだけの人々が集います。

私のフィルターを通して意訳すると、

・もう今までの利益至上主義のビジネスや、それを前提とする社会は終わりでしょ。
・もっと違う生き方、働き方を発見しようぜ。
・そのほうが面白いし、それをやらないと世界がヤバイぜ。
・ほら、実際こうやればいいんだ。ちゃんと結果も出ているんだぜ。
・このほうが、人も組織もハッピーだ。
・どうやるかって? まあまあ、先を急がずに坐ってみよう(瞑想!)

こう書くとヒッピームーブメントのリバイバルに思えるかもしれませんが、中核にいるのは実社会を引っ張るビジネスリーダーたちです。実際、2014年のサンフランシスコでは、登壇したグーグル幹部のところに社会運動家のグループが詰め寄り、セッションが一時ストップするという事件もあったほど。

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さて、話をシンガポールにもどしましょう。規模は3分の1程度でしたが、〝自由の国〟アメリカで生まれた会議のコンセプトは、この〝明るい北朝鮮〟にも踏襲されました。

いま社会にどのような苦難があろうとも、人のなかにある善性を呼び覚まし、それでビジネスという日常を包むことによって、この世界を変えていくことができるのだという、シンプルで一貫した思い。それが、バックグラウンドの異なる登壇者たちに貫かれているような気がしました。
 
では一体、誰が世界を変えるのか。今年亡くなったシンガポール建国の父、リー・クアンユーは、自分と一部のエリートが国の発展、民の幸福を担うのだと信じて、それを実現してきました。彼の考える発展や幸福にそぐわない政治思想や危険人物は容赦なく抑え込み、経済的繁栄に直接寄与しない文化・芸術的な側面は軽視してきました。同様、メディアも規制されています。

しかし結果をもとに評価するならば、多くの人々が言うように、リー・クアンユーは現代史において優れたリーダーシップを発揮した類まれな政治家だと、私も思います。

では、『これからの叡智』は、どんなリーダーシップを志向するのでしょう。会議に参加したからといって、答えをもらって戻ってきたわけではありません。むしろ答えなどない、ただひたすら探求する場がそこにあったこと。それ自体が、叡智なのかもしれません。

リー・クアンユーの独裁的リーダーシップは、アメリカ的、西洋的な自由主義の否定ではありませんでした。アジア人は一部の優れた権力者のもとで、従順に集団のために貢献する。歴史的にそうした土壌があり価値観が根づいているのだから、それに合ったやり方をするべきだというのが、彼の考えでした。

個人主義の象徴である大国アメリカと、集団主義で成功している小さな都市国家シンガポール。その意味では対照的な両国で、同じ文脈に沿って『これからの叡智』が議論されたことを不思議に思いつつ、実際その場ではなんの違和感もなかった自分がいます。
 
リー・クアンユーの偉大さを別の観点から挙げるなら、自分の価値観とはまったく異なる外部の価値観を否定せず、それを受け入れ、世界との関係性を築いたことではないでしょうか。たとえ国内における強固な統制と一対のものであったにせよ。

そして、この「違う価値観に対してオープンである」という在り方が、叡智という漠然としたテーマに意味をもたらすのではないかと思います。
なぜなら世界の目まぐるしい変化に対して、なかなか個人では追いつくことができないからです。

世界的に有名な精神科医のダニエル・エイメン博士によると、人間が日々考えることの95%は同じことの繰り返しだとされます。世界の変化に対して、アップデートされない脳と心。私やあなたは、ネットにつながったPCのように勝手に更新されることはありません。

だからこそ他者に対してオープンになり、摩擦をおそれず建設的に対処する習慣が求められます。そこで生まれる化学反応こそが、『これからの叡智』の発信源になるのではないでしょうか。

今、ここで起こっていることに完全に注力する――マインドフルネスが叡智の会議の重要なトピックであるのも、慣れ親しんだ安直な反応的感情、思考にふりまわされない心の大切さを見据えているからです。また最新の研究では、マインドフルネスを通して無意識下の偏見が減少することも報告されています。

地味なマーライオンから派手なマリーナベイサンズを臨む河辺の公園で、友人と「この国には、ホームレスや危なげな人間が見当たらないようなあ」という話をした後で、彼がこんな物語を教えてくれました。

「あるとても繁栄している国があり、国民はみんな豊かで幸せだった。ただし、その繁栄と幸せは、一人の罪もない少年が囚われ幽閉されていることによって実現していた。国民はみなそのことを知っていたが、あえて口にするものはいなかった」

その話を聞いて、私の心は一瞬シンガポールの超高層ビル群をさまよった後、日本へと向かいました。

シンガポールとは比較にならない大国で複雑な利害関係が交錯し、数々のしがらみを背負いながら変革を迫られている社会。

リー・クアンユーはそれが日本であったとしても、あのようなリーダーシップを選んだだろうか。

彼が亡くなった今、それは誰にもわかりません。おそらくそれはなかっただろうし、もし同じ選択をしても成功はしなかっただろうと私は思います。

賢人の叡智に頼れない複雑な社会における叡智の出現に、いま私たち一人ひとりが当事者であろうとするのか否か。アジアで初めて開催された『これからの叡智』の会議をふりかえりながら、そんな問いが自分のなかをかけめぐっています。

(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート理事 吉田典生)

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